( 2 )買主にとってのポイント

土地の取得に要した額は将来にわたって不動産所得の必要経費となりません。土地の対価に関連する仲介手数料等も同じです

建物の取得に要した額は減価償却によって耐用年数にわたり不動産所得の必要経費になります。

建物の取得に要した消費税等の額をどう回収するかは、当年分の消費税の申告がどのようなものか、不動産所得の計算にあたり消費税等の経理処理をどうするのかによって大きく異なります。

建物の取得に要した消費税等の額を早期に回収するには、当年分の消費税の申告について、免税事業者や簡易課税制度の適用を受けないようにすることが重要です。

消費税の申告が簡易課税制度である場合、みなし仕入率によって算定された額と実際の仮払消費税等の差額によっては、当年分の不動産所得が赤字になることがあります。

必要経費になるかならないか

不動産所得は、不動産に係る収入金額からこれに係る必要経費を控除して算定されます。

土地や家屋の取得にあたっては多額の支出を要しますが、不動産所得の計算上、この支出額は全額が必要経費になりません。

土地や家屋の取得に要した額は、必要経費(費用)でなく固定資産として処理しなければなりません。

このうち、家屋(建物)については、定められた年数(耐用年数)にわたって減価償却費として各年分の不動産所得の計算上必要経費となります。必要経費として各年分の所得税等が減少することで、家屋(建物)に支出した額を回収できます。

なお、転売目的等で取得した場合には、固定資産ではなく棚卸資産として取り扱われるため減価償却はできません。

いっぽう、土地は減価償却ができない資産(非減価償却資産)です。このため、将来にわたって必要経費となることはありません。

取得価額に含める費用

土地や家屋を取得するにあたっては、単に売買契約書に記載された金額のほかにさまざまな出費がかかります。

売買に係る仲介手数料、所有権移転のための登記費用、借入金をした場合の手数料や抵当権設定登記費用、取得後の不動産取得税などです。 その他、固定資産税の精算、日割りベースでの賃貸料収入の精算、水道料金や電気料金の精算、敷金や保証金の受け入れがあります。

このうち、確実に固定資産の取得価額に含めなければならないものが、売買の際の仲介手数料と固定資産税等の精算金です。

そして、取得価額に含めるか含めないか、状況によっては極めて戦略的な判断を要するのが家屋の取得に際し支払った消費税等の額です(詳しくは後ほど)。

売買手数料(仲介手数料)

まず、不動産を取得した場合には売買手数料(仲介手数料)を支払うことが通常ですが、この売買手数料は不動産取得に係る付随費用として固定資産の取得価額に含まれます(購入代価に加算します。)。

土地と家屋を同時に取得した場合には、売買手数料を土地と家屋に按分することになりますが、基本的にその比率は購入代価の比率によるのが理論的と考えられます。

よって、全体の購入代価のうち土地の対価の比率が大きくなると、売買手数料の額も土地により多く配賦されて土地の取得価額を構成し、家屋の対価の比率が大きくなると、売買手数料の額も家屋により多く配賦されて建物(家屋)の取得価額を構成することになります。

つまり、建物の取得価額を構成する売買手数料は減価償却を通じて各年分の不動産所得の必要経費となりますが、土地の取得価額を構成する売買手数料は減価償却されないために必要経費となりません。

この点で、土地と家屋の対価の比率が重要になってきます。

固定資産税の精算

土地や家屋が年の途中で売買された場合、売主と買主との間で所有期間に応じて固定資産税等の精算が行われます。

固定資産税等の納税義務者は、1月1日現在の(少なくとも登記上の)所有者です。課税者(市区町村)との関係では、1月1日現在の所有者(通常は売主)が全額を納税します。しかし、年の途中で譲渡した場合には、期間に応じて買主に負担させるのが合理的といえます。

この精算金の性質は、売買代金の修正としてとらえられます。つまり、売主にとっては譲渡所得の収入金額となり、買主にとっては固定資産の取得価額となります。

この固定資産税等は土地分と家屋分とで別途で計算されるため、上記の仲介手数料の場合とは異なり土地の取得価額と建物の取得価額にそれぞれ直接加算するのが妥当です。

なお、家屋分の固定資産税等の精算金については、消費税の課税取引となります。税金に消費税等がかかるのはおかしな気もしますが、これは売買代金だと考えればすっきりします。非課税取引となる土地の売買取引とは異なり、家屋の売買取引は課税取引だからです。

このとき、当事者間では家屋分の固定資産税等の精算にあたって特段の消費税等の受け払いを行わないこともあります。この場合には、厳密には金額が不正確になりますが、精算金は税込金額すなわち消費税等が含まれていると考えざるをえないものと思われます。

建物の取得に要した消費税等の回収の概要

経済合理性からすると、土地や家屋の取得にあたって投じた資金は、早めに回収できることがリスク回避の点で重要です。

この点で重要なのが、建物の取得に際して支払った消費税等です。

消費税法上、土地の譲渡は非課税取引となるため、取引において消費税等の受け払いはありませんが、家屋(建物)の譲渡は課税取引となるため、取引において消費税等の受け払いがあります。当事者間で特段の消費税等の受け払いをしていなくとも、家屋(建物)の対価に相当する額には消費税等の額が含まれている(内税)ということになります。

消費税等の回収の二面性

この支払った消費税等の回収については、二面性があります。

まずは、買主の当年分の消費税の申告で直接回収する方法です。つまり、当年分の消費税の申告で仮受消費税等から差し引くことで納税する消費税額が減少したり消費税額の還付を受けるというものです。

そして、買主の不動産所得の必要経費として所得税等の額が減少することで間接的に回収する方法です。つまり、建物の減価償却費の一部として必要経費となったり、仮受消費税等と仮払消費税等との精算額と実際の申告額との差額、消費税の申告で仮受消費税等から差し引くことができないために必要経費となるものです。

いずれにせよ、この消費税等の額をどう処理するかについては、買主の消費税の申告がどのようなものか、そして、不動産所得の計算にあたり消費税等の額をどう処理しているかによって異なります。

買主の消費税の申告がどのようなものか

支払った消費税等をもっとも効果的に回収する方法は、当年分の消費税の申告で仮受消費税等から差し引くことです。

そのためには、当年分の消費税の申告について納税義務が免除されていない、すなわち、免税事業者に該当しないことが重要となります。

さらに、免税事業者に該当しなくても、簡易課税制度による申告にならないことが必要です。

不動産所得の計算にあたり消費税等の額をどう経理処理しているか

消費税等の経理処理には、税込経理方式と税抜経理方式があります。どちらを選択することもできますが、当年分の消費税の納税義務が免除されている場合(免税事業者)には、税込経理方式しかできません。税込経理方式と税抜経理方式の併用もできますが、一定の制限があります。

税込経理方式によって建物の取得に要した消費税等の額を建物の取得価額に加えると、当該金額は減価償却費として耐用年数にわたって不動産所得の必要経費となります。各年分の所得税等の額を減少させることで一定額を回収することになります。

税抜経理方式によって建物の取得に要した消費税等の額を建物の取得価額に加えない場合、当該金額は原則として不動産所得の必要経費とはなりません。そもそも税抜経理方式は消費税等を不動産所得の計算にかかわらせないためです。ただし、一般課税による消費税の申告では、控除対象外消費税等(後述)について当年分または当年から5年にわたって不動産所得の必要経費となります。また、簡易課税制度による消費税の申告では、みなし仕入率によって算出した額と実際の仮払消費税等との差額が当年分の不動産所得の必要経費となります。

買主の当年分の消費税の申告がどのようなものか

消費税法上、個人事業者(個人事業主)はすべて消費税の納税義務があります。そこで、消費税の申告を行って納税しなければなりません。

基本的な消費税の申告は、当年(課税期間)中に売上等によって相手方から預かった消費税等の額(仮受消費税等)と仕入等により相手方に支払った消費税等の額(仮払消費税等)とを相殺した額を納付または還付を受けることになります(一般課税)。

通常は、必要経費の額より収入金額が大きいため、仮払消費税等よりも仮受消費税等が大きく、相殺した差額が納付税額になります。しかし、固定資産等を取得すると、これに係る仮払消費税等が大きくなることから、相殺した差額(納付税額)が少なくなります。さらに、場合によっては、仮受消費税等よりも仮払消費税等が大きくなり、相殺した差額が還付税額になります。

このため、買主としては、建物の取得に要した消費税等の額を早く回収するためには、一般課税による消費税の申告をすることがもっとも得策ということになります。

しかし、必ずしもそのようになるかどうかは、買主が建物を取得した年分の消費税の申告がどのようなものなのかによることになります。

具体的には、当該年分の消費税の納税義務がない(免税事業者)場合には、建物の取得に要した消費税等の額を消費税の申告によって回収することができません。当該年分の消費税の申告に簡易課税制度が適用される場合には、建物の取得に要した消費税等の相当額が回収できません。

そこで、多額の仮払消費税等がある年分の消費税の申告が免税事業者や簡易課税制度とならないために、届出書の提出によって変更することができます。ただし、当年分の消費税の申告に効力を及ぼすには、前年中に提出していなければなりません。

この点で、とくに買主にとって、多額の仮払消費税等が発生する年分の消費税の申告がどうなるのかを事前に確認することは極めて重要です。

免税事業者になるのを避ける

消費税法上、個人事業者(個人事業主)はすべて消費税の納税義務があります。

しかし、2年前(基準期間)の消費税が課税される売上高(課税売上高)が1,000万円以下で、かつ、前年の1月1日から6月30日まで(特定期間)の課税売上高と給与等支払額がともに1,000万円以下の場合は、当年分の消費税の納税義務は免除されます(免税事業者)。

なお、前年の7月以降に事業を開始したか、または、当年に事業を開始した場合には、基準期間も特定期間が存在しないことから、当年分は免税事業者となります。

消費税の申告をすると通常は納税となるため、免税事業者であることは基本的にはメリットとなります。

しかし、さきほど申し上げたとおり、固定資産の取得などで多額の消費税等を支払った場合、当該消費税等を早めに回収するためには、通常の消費税の申告(一般課税)をすることがもっとも得策です。

だとすると、当年分の消費税の申告が免税事業者に該当することは避けるべきということになります。

そのためには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、上記の要件を満たして免税事業者に該当する場合でも消費税の納税義務者となることができます。

ただし、当年分の消費税の申告で免税事業者になるのを回避するためには、「消費税課税事業者選択届出書」を遅くとも前年の末日までに提出していなければなりません(ただし、当年から事業を開始した場合には当年末までの提出となります。)。

ただし、過去に「消費税課税事業者選択届出書」を提出していても、その後に「消費税課税事業者選択不適用届出書」が提出されその効力が生じていると、原則通り基準期間や特定期間の課税売上高によって当年は免税事業者となってしまいます。

届出書の効力関係を慎重に確認する必要があります。

簡易課税制度が適用されるのを避ける

遅くとも前年の末日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出していていれば、当年の消費税の申告で免税事業者になることを避けることができます。ところが、前年の末日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」も提出していて、2年前(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下である場合には、免税事業者とはなりませんが、当年分消費税の申告が簡易課税制度によることになるため、家屋(建物)の取得に係る消費税等の回収の点で不利になります(詳しくは後ほど)。

2年前(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下である場合、簡易課税制度が適用されるのを回避するためには、前年の末日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出していなければなりません。ただし、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」は「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出から2年間を経過しないと提出が有効となりません。

なお、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えていれば、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出の効力とは関係なく通常の一般課税による申告となり、簡易課税制度による申告とはなりません。

また、「消費税簡易課税制度選択届出書」のみの提出で、「消費税課税事業者選択届出書」の提出がない場合には、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、免税事業者となります。

消費税の申告の態様と建物の取得に要した消費税等の回収

一般課税による消費税の申告と支払った消費税等の額の回収

一般課税による消費税の申告は、当年中に取引によって預かった消費税等から支払った消費税等を差し引いて納付(還付)する税額を算定します。

この場合、当年中に預かった仮受消費税等から控除する仮払消費税等の額については、その全額を差し引くことができそうです。

これが可能な場合、建物の取得に要した消費税等の額は、当年分の消費税の申告で、納付額の減少または税額の還付として全額回収できることになります。キャッシュフロー的には理想の展開です。

ところが、当年分の課税売上高が5億円を超える場合や、当年分の課税売上高が5億円以下でも当年分の課税売上割合(総売上高に占める課税売上高の割合)が95%以下の場合には、当年中の仮払消費税等の額を全額を当年中の仮受消費税等から差し引くことができません。一般課税による消費税の申告で仮受消費税等から差し引くことができない仮払消費税等の額を控除対象外消費税等といいます。

控除対象外消費税等を発生あるいは増加させる要因が課税売上割合です。課税売上割合を低下させるのは非課税売上高です。その典型が土地の取引です。当年中に土地の売却を行った場合には非課税売上が増加して課税売上割合が低下します。課税売上割合が低下すると、控除対象外消費税等が増えることになります。

控除対象外消費税等は、消費税の申告で仮受消費税等から差し引くことができないため、結局は不動産所得の必要経費となります。つまり、不動産所得の必要経費として所得税等の減少額だけしか回収できないことになります。しかも、通常は支払った年分の不動産所得の必要経費となりますが、一定の固定資産等に係る控除対象外消費税等については、5年にわたって必要経費となります。

つまり、買主にとって、建物を取得した年分の消費税の申告が通常の一般課税である場合は、建物の取得に要した消費税等の額は当年中の仮受消費税等から控除することができるため、納付額の減少や税額の還付という形で早期に回収することができます。この点で、キャッシュフロー的には有利となります。

ただし、課税売上割合が低い場合などは、その一部が控除対象外消費税等となります。控除対象外消費税等は、最長5年にわたって不動産所得の必要経費となり所得税等を減少させます。つまり、各年分の必要経費となる額に所得税等の税率を乗じた額だけ回収ができることになります。

このため、控除対象外消費税等の発生は避けられないながらも、非課税売上高をある程度コントロールできる状況である場合には、なるべく控除対象外消費税等の額を減らすようにすることが重要です。

消費税の申告が免除されている場合と支払った消費税等の額の回収

当該年分の消費税の納税義務が免除されている場合(免税事業者)は、消費税の納税が免除されるわけですから、基本的にはメリットとなります。しかし、建物の取得に要した消費税等の額は消費税の申告によって仮受消費税等から控除することはできず、仮払消費税等の額が仮受消費税等の額を上回る場合でも、消費税の還付を受けることができません。

よって、免税事業者に該当すると、消費税の申告によって建物の取得に係る分を含めた仮払消費税等の額を直接回収することができず、その全額は不動産所得の必要経費(耐用年数にわたる減価償却費)となり、各年分の所得税等の税率を乗じた額しか回収できません。

この点で、キャッシュフロー的には極めて不利ということになります。

簡易課税制度による消費税の申告と支払った消費税等の額の回収

買主にとって、当年分の消費税の申告が免税事業者でない場合でも、建物の取得に要した消費税等の額が全額回収できないことがあります。それは、当年分の消費税の申告で簡易課税制度が適用されてしまう場合です。

簡易課税制度は、仮受消費税等から差し引く仮払消費税等について、実際に支払った仮払消費税等の額ではなく、課税売上高を5つの事業に分け、事業ごとに定められた一定割合(みなし仕入率)によって算出された額を差し引く制度です。

一般的には、みなし仕入率で算定した額が実際に支払った仮払消費税等よりも大きいことから簡易課税制度のほうが有利となりますが、建物などを取得して多額の仮払消費税等がある場合には、通常の消費税の申告ならば還付となるときでも納付となってしまいます。

簡易課税制度によったために、仮受消費税等からより控除することのできなかった(実際に支払った)仮払消費税等の額は、当年分の不動産所得の必要経費となります。よって、この額に所得税等の税率を乗じた額が回収できることになります。

この点で、簡易課税制度による申告は、キャッシュフロー的には、免税事業者ほどではないにしても非常に不利となります。

不動産所得の消費税等の経理処理の態様と建物の取得に要した消費税等の回収

建物の取得に要した消費税等の額の回収方法としては、消費税の申告によって納税額を減額または税額の還付による直接的なもののほかに、不動産所得の必要経費として所得税等の額を減少させることによる間接的な回収があります。

キャッシュフロー的には、建物の減価償却費や消費税勘定の精算による差額として必要経費となり、これにより所得税等の税率を乗じた額が回収できることになります。

さて、不動産所得の消費税等の経理処理には税込経理方式と税抜経理方式があります。

税込経理方式とは、不動産所得の計算上、記帳する取引金額を消費税込みの金額で経理することをいいます。税込経理方式では、消費税の受け払いを伴う取引について、消費税等の額がそれぞれ収入金額または必要経費となります。そして、消費税の納付額や還付額もそれぞれ必要経費や収入金額となります。

税抜経理方式とは、不動産所得の計算上、記帳する取引金額を消費税を除いた本体価格で経理することをいいます。税抜経理方式では、消費税の受け払いを伴う取引について、消費税等の額は収入金額や必要経費とならず、仮受消費税等(負債)または仮払消費税等(資産)として経理されます。消費税の申告にあたってはこの仮受消費税等(負債)と仮払消費税等(資産)とを相殺した額を納付(負債)または還付(資産)を受けることになります。この納付額や還付額も負債または資産の消滅のため必要経費や収入金額とはなりません。

よって、税込経理方式では、建物の取得に要した消費税等の額は建物の取得価額に含まれ、減価償却によって耐用年数にわたり不動産所得の必要経費として所得税等を減少させます。

いっぽう、税抜経理方式では、建物の取得に要した消費税等の額は建物の取得価額に含まれません。

この面だけでは、減価償却費として必要経費となる税込経理方式のほうが所得税を減少させるために有利と考えられなくもないですが、税込経理方式では、収入金額も税込で行います。また、消費税額も必要経費となりますが、一般的には収入金額が必要経費を上回るため、消費税が不動産所得を構成し、消費税額に対して所得税が課されることになります。

税抜経理方式では、建物の取得に要した消費税等の額は建物の取得価額には含まれませんが、当年分の消費税の申告において、仮受消費税等と仮払消費税等との精算額と、実際の納付額または還付額との間に差額が生じた場合には、当年分(または最長5年分)の不動産所得の収入金額または必要経費となります。この点で、減価償却として長期にわたって必要経費となる税込経理方式よりも、消費税等の回収が早まることになります。

消費税の申告の態様と不動産所得による消費税等の額の回収

消費税の納税義務が免除されている場合(免税事業者)

免税事業者は、不動産所得の計算で税込経理方式が強制されるため、建物の取得に要した消費税等の額は建物の取得価額に含めることになります。

この結果、耐用年数にわたり減価償却費として不動産所得の必要経費となり各年分の所得税等を減少させることになります。結果として、建物の取得に要した消費税等は、各年分の(不動産所得を含む合計所得金額に係る)所得税等の税率を乗じた額が回収できるにとどまります。

消費税の申告が一般課税ならば、翌年の申告によって消費税の納付額を減少させたり税額還付という形で回収できるところが、長期にわたってその一部しか回収できない点で、極めて不利といえます。

消費税の申告が一般課税による場合

消費税の申告が一般課税による場合、建物の取得に要した消費税等の額は、消費税の申告で直接的に回収していますが、これとは別に、不動産所得の計算で間接的に回収することになります。

税込経理方式による場合は、建物の取得に要した消費税等の額は建物の取得価額に含めることになります。そして、減価償却によって耐用年数にわたり不動産所得の必要経費として所得税等を減少させます。

税抜経理方式による場合は、建物の取得に要した消費税等の額は建物の取得価額に含めません。消費税等の額は仮払消費税等(資産)として経理されます。消費税の申告にあたってはこの仮受消費税等(負債)と仮払消費税等(資産)とを相殺した額を納付(負債)または還付(資産)を受けることになります。この納付額や還付額も負債または資産の消滅のため必要経費や収入金額とはなりません。

ところで、消費税の申告上、仮受消費税等から控除できない仮払消費税等(控除対象外消費税等)は、消費税の申告で仮受消費税等から差し引くことができないため、不動産所得の必要経費となります。しかも、通常は支払った年分の不動産所得の必要経費となりますが、一定の固定資産等に係る控除対象外消費税等については、5年にわたって必要経費となります。

税込経理方式の場合、取引で発生した消費税等は収入金額や必要経費に含まれており、控除対象外消費税等も自動的に必要経費に算入されています。ただし、当年分の必要経費とはならない部分については、「繰延消費税額等」として資産に計上し、5年にわたって必要経費として処理します。

税抜経理方式での控除対象外消費税等は、仮受消費税等と仮払消費税等との相殺した額との差額となってあらわれます。このうち、当年分の必要経費とならない部分については、あらためて「繰延消費税額等」として資産に計上し5年にわたって必要経費として処理します。

消費税の申告が簡易課税制度による場合

消費税の申告が簡易課税制度による場合、建物の取得に要した消費税等の額は、消費税の申告である程度は直接的に回収していますが、これとは別に、不動産所得の計算で間接的に回収することになります。

税込経理方式による場合は、建物の取得に要した消費税等の額は建物の取得価額に含めることになります。そして、減価償却によって耐用年数にわたり不動産所得の必要経費として所得税等を減少させます。

税抜経理方式による場合は、建物の取得に要した消費税等の額は建物の取得価額に含めません。消費税等の額は仮払消費税等(資産)として経理されます。消費税の申告にあたってはこの仮受消費税等(負債)と仮払消費税等(資産)とを相殺した額を納付(負債)または還付(資産)を受けることになります。この納付額や還付額も負債または資産の消滅のため必要経費や収入金額とはなりません。

ところで、消費税の申告が簡易課税制度によった場合で、みなし仕入率で算定した額が実際に支払った仮払消費税等よりも大きい場合、不動産所得にどのような影響を与えるでしょうか。一般課税ならば還付申告となるとします。

たとえば、一般課税ならば還付額が1,000だったのに、簡易課税のために500の納税だったとします。

税込経理方式の場合には、もし一般課税ならば還付額1,000は不動産所得の計算上収入金額となります。しかし、実際は簡易課税制度のために逆に納付額500となり、不動産所得の必要経費となります。この還付1,000と納付500との開差1,500だけ、一般課税の場合よりも不動産所得が減少することになります。

税抜経理方式の場合には、還付額や納付額は不動産所得の計算上収入金額にも必要経費にもなりません。ただし、仮受消費税等(負債)と仮払消費税等(資産)の精算額が1,000の還付(資産)であるところ、逆に500の納付(負債)であることから、この開差1,500は不動産所得の必要経費となります。よって、この開差だけ、一般課税の場合よりも不動産所得が減少することになります。

さらに重要なのは、この開差によって、不動産所得が赤字になってしまう可能性があります。不動産所得が赤字の場合には、土地等に係る借入金利子は必要経費に算入されないために、さらにロスが膨らむことになります。

そこで、税抜経理方式を基本としつつ、固定資産の取得は税込経理方式としたり(併用方式)、中古資産の耐用年数の設定などを検討したりするなどして、不動産所得の赤字を回避することが重要です。

( つづく )