割り勘におけるモラル・ハザード

「領収書を切る」ことと、割り勘がどういう関連性があるのかについて解説します。

領収書を切る人がオーナー経営者や個人事業主だったら、「税効果分」を考慮した割り勘を求めるべきです。

「ゴチになる」場合

それがいいとかよくないとかいう価値判断は別として、明らかにプライベートな飲み食いで「今日はオゴリだから」と言いながら「領収書お願いします」と店員に言う人がいます。あるいは、気に入った異性(通常は女性)と飲み食いしをして、その異性の目の前で勤務先あての領収書を求める男性もいます。

領収書を切ったということは、勤務先に取引先を接待(あるいは取材など)したということにしてその領収書で経費精算すれば領収書に書いてある金額を会社からもらえることになります。「オゴる」どころか、まったくフトコロは痛みません。

「なにがオゴリだよ、どうせ会社にチャージするんだろ」あるいは「セコいオトコ自腹切らないんならもっといい店連れていきなさいよ!」と思われるのがイヤな人は、こっそり領収書を切ったりします。

逆に、領収書もレシートももらわないと本当に自腹を切ったということで、一定の尊敬のようなものを集めるかもしれません(もっとも、カード会社によっては事前にそういう風に手配してくれるサービスもあります)。

さて、ゴチになっている側としては、「なにがオゴリだよ、どうせ会社にチャージするんだろ」あるいは「セコいオトコ自腹切らないんならもっといい店連れていきなさいよ!」と内心は思っていたとしても、そこは黙っておいて、領収書を切っているのを見なかったことにするために、お会計の現場を見ないように店の外で待ったりすることがエチケットとされています。

領収書、その顛末

本来、勤務先の業務とまったく関係ないのに経理部関係者を欺罔して経費精算することは、社内ルールに反するどころか刑法犯の可能性があります。

いっぽう、法人税のルールでは、接待の飲食費については、その1/2が損金になりません。つまり経理上は交際費として費用としても、法人税の計算をするときはその1/2相当額はなかったもの(損金不算入)として所得金額を計算します。

ただし、1人あたり5,000以下の接待飲食費は全額が損金になります(「落ち」ます)。より正確には法人税法上の交際費等から除かれます。

キケンなのは、身内だけの社内交際費の場合には、1/2ルールも5,000円ルールも適用されず全額が損金にならないことです。

ちなみに、資本金1億円以下の法人では、他の交際費等(贈答など)も含めた800万円の定額控除限度額があります。

割り勘の場合

ところが割り勘となると話が変わってきます。

完全にプライベートな飲食で、幹事役が参加者に実際の飲食代を知らせずに割り勘を求めて自分の負担を減らす、あるいは負担しない、さらには利益を得ることがあります。

「幹事なんだから負担は少なくてもいい」という主張も一定の説得力を持ちますが、「それなら飲食代いくらだったのか言えよ」「それほど幹事は大変だったのか」という正論のほうが優勢と思われます。

ところが、幹事役が領収書を切ったとしたら、幹事役が利益を得る可能性が極めて高くなります。

領収書を切った幹事役が、会社員か、オーナー経営者あるいは個人事業主かによって異なります。

会社員の場合

勤務先で経費精算できるのなら、そもそも割り勘分をもらうこと自体がモラルに反します。みんなで飲食代を負担しようというのが割り勘なのに、割り勘という名目でおカネを集め、さらに自分は勤務先から全額を精算できるとすると、焼け太りというか、極めて悪質ということになります。

ですから、領収書を頼んだ人から割り勘を求められたら、もろもろのリスクを考慮したうえで、異議を申し立てるべきかどうか判断することになるでしょう。

オーナー経営者または個人事業主の場合

会社経営者だったら自分の会社の経費、個人事業主だったら必要経費にして節税するということです。大きなくくりで見れば自腹を切ってはいますが・・

もちろん、完全プライベートな飲み食いで業務と関係なければ、法人も個人事業主でもそもそも損金(必要経費)にならないことが言うまでもありません。 もちろん、それを業務上ということにしたいから領収書を求めているわけですが・・・

経費となった場合には、その支出額を経費にすることによって、税率を乗じた額だけ税金を支払わなくて済むわけです。

法人で領収書を切ったときは、「業務上のもの」「社内交際費でない」と仮定が加わったとして、1人あたり5000円か1/2か、さらには当事業年度で法人税額が発生するのかによって異なりますが、いずれにしても完全に人数割りの割り勘はオカシイということになります。

個人で領収書を切ったときは、同じく「業務上のもの」と仮定が加わったとして、その人のその年分の所得に課される税率(最高で住民税と合わせて55.945%)分だけ税金を支払わなくて済むことになります。 ですから、羽振りのよさをアピールしている人は、高額所得者として55.945%の税率が課されるとしたら、完全に人数割りをするのであれば、支払額に55.945%を乗じた額を除いた金額を割り勘するのが妥当ということになります。

( おわり )