計算書を作らなくてもキャッシュ・フロー経営

キャッシュ・フローは非常に重要な概念ですが、上場会社が作るような肩ひじ張った「キャッシュ・フロー計算書」を作らないと何もできないというわけではありません。

もっとお手軽にキャッシュ・フローを利用する方法をご紹介します。

キャッシュ・フロー計算書の位置づけ

わが国の会計基準における財務諸表の「諸」とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書にキャッシュ・フロー計算書を加えた4表とされています。

なお、いわゆる国際会計基準(IFRS)での財務諸表は、主として、財政状態計算書、包括利益計算書、持分変動計算書およびキャッシュ・フロー計算書から構成されています。

現在、キャッシュ・フロー計算書を「作成しなければならない」のは、上場会社など、主として金融商品取引法の適用を受ける会社です。

なお、法人税申告書に添付が要求されている書類にも、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、勘定科目内訳書などがありますが、キャッシュ・フロー計算書は含まれていません。

ひな型どおりに計算書を作らなければダメ?

キャッシュ・フロー計算書とは、つまるところ、会計期間の期首日と期末日のキャッシュ(主として現金や預金)の差額の内訳を、「営業活動」「投資活動」「財務活動」に分けて表示する財務表です。

キャッシュ・フロー計算書というと「精算表!」という条件反射になる方は多々いらっしゃると思います。 説明は割愛しますが、キャッシュフロー計算書には、直接法や間接法といったひな型があります。 「制度上作らなければならない」だけに、それぞれ勝手に作るのではなく、一定の定形化したひな型で外部の利害関係者に情報開示しなければならないのはむしろ当然のことでしょう。

そして、キャッシュ・フロー計算書を作成するための精算表があります。貸借対照表を2つ、損益計算書1つ並べて、「差額がゼロになるように」シコシコ作成するという営みです。 常に真剣に作業するのは当然ですが、より真剣に作ろうとすればするほど、単純な2期間の残高の差額でななく、非資金取引の部分を抜こうとしたりして、ますますつらい作業になります。

そして、計算書を作ってそれで精一杯で、それを利用するまではおぼつないこともありえます。

もし、「制度上作る必要がない」とすれば、制度上のひな型の形式にとらわれることはなく、もっとラフにとらえてよいのではないでしょうか。

自動生成されるキャッシュ・フロー計算書

いっぽうで、会計ソフトから、ダイレクトにキャッシュ・フロー計算書を出力できるものがあります。

これは、勘定科目、あるいは、特定の取引についてあらかじめキャッシュ・フロー計算書用の属性をつけておくことで、ソフトのほうで自動的に集計するというものです。

ここでのフォーマットは、いわゆる「制度上のひな型」を基本にしてあります。

多くの会計ソフトメーカーは、「キャッシュ・フロー計算書も自動的に生成されます!」と高らかに主張します。

しかし、このキャッシュ・フロー計算書は、まさに日々の会計伝票のキャッシュ・フローの属性から集計されたものです。このため、どんな仕訳を作成し入力したかよって大きく差が出ると思います。

たとえば、「制度上のひな型」どおりに正確なキャッシュ・フロー計算書がシステムから自動生成されるように仕訳を切ろうとすれば、「売掛金が振込手数料相当額を控除されて入金した」というのを、 1 本の複合仕訳にはせずに、「売掛金総額の入金」と「支払手数料の支出」のふたつに分ける必要がありえます。

しかし、会計帳簿というのは「検証可能性」というのがもっとも大事な要素の一つであり、たかだかキャッシュ・フロー計算書の自動生成のために、複合仕訳を避けて、テクニカルな仕訳を作成するとしたら、本末転倒のような気がします。

まして、その自動生成されたキャッシュ・フロー計算書が、制度上も要求されていないのに加えて、社内的にも十分に利用されていないとすればなおさらです。

お手軽なキャッシュ・フロー区分

キャッシュ・フロー計算書とは、つまるところ、会計期間の期首日と期末日のキャッシュ(主として現金や預金)の差額の内訳を、「営業活動」「投資活動」および「財務活動」の 3 つに分けて表示する財務表です。

これを制度上のキャッシュ・フロー計算書のひな型に準拠して作ろうとすると、とくに間接法の場合には、(税金等調整前)当期純利益から出発するため、会計に慣れていないと息苦しくなります。

ところが、別に制度上作る必要がないとすれば、「営業活動」「投資活動」「財務活動」の区分さえ付ければある意味で十分ということになります。

しかも、「投資活動」や「財務活動」というのは、「固定資産の取得や売却」「(投資目的の)金融商品の取得や売却」「借入やその返済」「増資や減資」など、とらえやすいものです。

期首と期末のキャッシュ残高の差額から、「投資活動(のキャッシュ・フロー)と「財務活動(のキャッシュ・フロー)」を差し引いた額が「営業活動(によるキャッシュ・フロー」、つまり「営業キャッシュ・フロー」ということになります。

つまり、ひな型のように細かくなくても、「営業キャッシュ・フロー」「投資キャッシュ・フロー」「財務キャッシュ・フロー」の3つに区分できれば、最低限は足りることになろうかと思われます。

このように、キャッシュ・フローを区分することができれば、有用とはいえない月次決算、たとえば、「償却費がない」「引当金が計上不足」「製造業なのに月次で棚卸高を反映させない」場合でも、キャッシュ・フローの分析では関係なくなります。

少なくとも、帳簿と通帳等が合っていればですが・・・

営業キャッシュ・フローの分析

一般に、健全な経営活動とは、株主から出資を受け(財務キャッシュ・フローがプラス)、金融機関からおカネを借り(財務キャッシュ・フローがプラス)、設備に投資し(投資キャッシュ・フローがマイナス)、そこから営業活動によって利益を得て(営業キャッシュ・フローがプラス)、金融機関におカネを返済し(財務キャッシュ・フローがマイナス)、株主に配当する(財務キャッシュ・フローがマイナス)こととされています。

とすると、営業キャッシュ・フローの推移がもっとも重要ということになります。

キャッシュの残高が増加しているのは、一見悪いことではありませんが、それは例えば新規の借入金があったからで、営業キャッシュ・フローはマイナスとなっているかもしれません。

営業キャッシュ・フローがマイナス、あるいは比較対象期間より減少していた場合、その原因を調べる必要があります。「仕入業者への支払いが先行したため」とか、「賞与の支払いがあったため」とか、「単純に前期末が金融機関が休日で期首にどっと支払いがあったため」とかなど、マイナスの原因をチェックするのです。

たとえば、仕入業者への支払いが先行したといっても、それにかかわる売上はすでに計上され、数ヵ月後に入金は見込まれるのであれば、そのあいだの資金が問題なければよいことになります。逆に、それでは資金が不足しかねないとしたら、何らかの資金調達を考えなければなりません。

営業キャッシュ・フローの悪化が経営不振に基づくものと分析されれば、将来の予測を行い、必要に応じて経営上なんらかのアクションが求められます。

よく、将来の資金繰り予測で、営業キャッシュ・フローを見積もる際に、予測の損益計算書をベースに「これだけの売上を確保していかないと資金が持たない」というものがありますが、厳密には損益とキャッシュの動きは異なります。 より正確には、「これだけの売上を確保して、この時期までに入金しないと資金が持たない」「ここへの売上だと回収サイトが長いので、別のところへの売上を増やさないといけない」などの考慮が必要になるでしょう。

いっぽう、その期間の営業キャッシュ・フローがプラスであっても、たとえば得意先から前受金が入金したにすぎず、そのおカネの大半は期をまたいだ直後に仕入業者等に支払われてしまう場合や、たまたまずっと以前の手形が期日決済されて入金したにすぎなかったり、たまたま金融機関が休日で支払いが繰り越された場合もあります。

経営幹部に対して、現状と将来の資金の状況について正確な情報を報告する必要があります。長期的には「売りまくればいい」「いいモノつくればいい」わけですが、新規の資金調達が困難な現状では、資金に関する情報を適時かつ適切にアナウンスすることが重要と思われます。

しかし、棚卸高は、(年次、月次などの)決算日における目に見えるリアルな現物という意味だけではありません。

理論的には、「費用は発生しているが、これに対応する売上を当期計上できないため、この部分を費用とせずに、売上が計上できるときに費用とする(売上が計上できるまで費用としない)」というニュアンスなのです。

キャッシュ・フロー予測

将来の借入金の返済や支払利息(財務キャッシュ・フローのマイナス)はほぼ確定しており、通常の人件費などの固定費の支出も毎月ほぼ確定していることになります。そして、すでに受取りあるいは渡した手形の決済時期も確定しています。

それを月次ベース、あるいは月次10日や15日や20日や25日に区切って、ほぼ確定している収支予測を埋めていきます。

これをクリアするためには、「いつのタイミングでいくらの入金がなければならないか」が明らかになっている必要があります。 資金は最終的にプラスになっていればよいというものではなく、必要なその時々で存在しなければなりません。

そのためには、遡って「いつまでに得意先などに請求できていなければならないか」ということになります。得意先ごとに入金サイトや入金手法(手形or現金)が異なるため、これを考慮します。

さらに遡れば、請求が可能な前提として財貨の引き渡しや役務の提供が必要なため、先方との約定も踏まえていつまでに納品や提供を行っていないといけないかということになります。そして、引き渡しや役務の提供のために発生するコストの支払いはどういうタイミングなのかも織り込んでいくことになります。

そして、入金と支払とのタイミングにギャップがあるときに資金調達が必要かどうか、必要だとして、その額はどの程度かが決まってきます。

これにより、将来のほぼ確実なキャッシュ・フローをベースにした、「足が地についた」損益計画ができることになります。

( おわり )