役員退職金を決めるのは税理士か

法人税の計算上、役員退職給与のうち一般に相当と認められる額を超える不相当に高額な部分は損金に算入されません。しかも、一般に相当と認められる額は税務当局でないと知る由もありません。

損金不算入になるリスクがあるからといって、役員退職金そのものをただ減額するというというのはいかがなものかと思われます。減額したから否認されない保証はありませんし、そもそも法人税法は不相当に高額な役員退職給与を支給してはいけないと規定していません。

役員退職金を決めるのは株主総会です。損金不算入になるリスクを把握し、場合によっては一定の額を自己否認してその後更正の請求を行うという考え方もあります。

税理士に相談する理由・・・過大役員退職給与の損金不算入

役員退職金をいくらにするかについて、税理士に相談することが一般的のようです。

その理由は、法人税法のルールである「過大役員退職給与の損金不算入」にあります。

会計上の利益は、収益から費用を差し引いて計算されますが、法人税の計算の基礎となる所得は、益金から損金を差し引いて計算されます。収益と益金、費用と損金はおおむね一致しますが、会計の主な目的が個々の企業の適正な期間損益計算であるのに対して、法人税法は画一的なルールによって課税所得を算出し、課税の公平を図る点が異なります。

このため、会計上は費用であっても法人税法上は損金にならない(不算入)ものがあります。多額の費用を計上することで利益(所得)の減少を通じて法人税が減少させることで課税上の弊害が生じないための制度のひとつが「過大役員退職給与の損金不算入」です。

つまり、法人が退職した役員に支給する退職金(役員退職給与)の額のうち不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません(法人税法34条2項)。

たとえば、役員退職金1億円を支給した場合、このうち3,000万円が不相当に高額な部分とすると、会計上は1億円が費用になっていても、3,000万円は損金の額に算入されない、つまり、役員退職金は7,000万円だったとして法人税額を計算しなければならないということです。

不相当に高額でない「一般に相当と認められる額」はわかるのか

役員退職金の額は、最終の役員報酬の額に勤続年数、そして功績倍率を乗じて算定されるのが一般的です。そもそも最終の役員報酬の額それ自体も不相当に高額な部分も損金に算入されませんが、基本的には功績倍率をどうするかの話になります。

さて、そもそも不相当に高額でない部分、つまり、役員退職給与の額のうち損金の額に算入される額とはなんでしょう。

その額は、退職した役員の業務に従事した期間、その退職の事情、当該法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額をいいます(法人税法施行令70条2項)。

この点、多くの専門家は「裁判や裁決では功績倍率3倍で認められた」など、結果からの数値のみで云々してしまいがちですが、そもそもその認められた法人と事業規模等が類似していないかぎり、確実なものとはいえません。

実務上は、本店の所在する国税局管内での事業規模が類似する法人の平均値となりますが、類似法人の抽出などは国税当局が行うものであり、法人サイドとしては決して知りえない情報です。

このため、支給する前に税理士に相談したところで、税理士だってわかるはずがありません。

そこで、税理士としては、「役員退職金が高額だと不相当に高額な部分があるとして否認されるからもっと役員退職金を減らすべき」と指導するのが一般的です。

役員退職金を決めるのは誰か

しかし、役員退職金の額を決めるのは税理士ではなく株主総会です(会社法361条)。しかも、所有と経営が一致している圧倒的多数の法人では、自分で自分の退職金を決められるのです。

法人税法上も、高額な役員退職給与を支払ってはならないとは規定していません。一般に相当と認められる額を超える「不相当に高額な部分」について損金として認めないと規定しているにすぎません。

不相当に高額だと損金不算入になるリスクがあるからといって、役員退職金の額そのものをはじめから減額するのはいかがなものかという気がします。

受け取る(元)役員からすると、とくに役員勤続年数が長い場合には、退職金に課される額(課税退職所得金額)は支給額から退職所得控除額を差し引いた額の1/2であり、所得税の負担が著しく少ないのです。

たしかに、減額した額でさえ不相当に高額な部分があるとして否認される可能性がゼロではありませんが、逆に減額しなくても全額が損金として認められる可能性もゼロではないのです。

自己否認そして更正の請求

見えないモノに萎縮して、最初から役員退職金そのものを減額させるのではなく、過大役員退職給与の損金不算入制度を説いてそのリスクを伝え、リスクが高いと判断されたら法人税の申告で自主的に加算する(自己否認)するかどうか、するとしたらいくら加算するかをすり合わせるというのもひとつの方法と思います。

そして、多めに自己否認して申告し、その後全額損金に算入できるものとして更正の請求をするという考え方もできるかもしれません。

ただ、更正の請求によって、本格的な税務調査を誘引してしまう「やぶへび」リスクもあります。しかも、不相当に高額な部分は、実は自己否認した額では足りないかもしれません。

ただ、「功績倍率○倍だから絶対に全額損金算入されるはずです」というイージーなアドバイスのほうがよっぽど根拠レスなように思われます。

税務当局に対しても、過大役員退職給与として自己否認した額があれば、少なくとも過大役員退職給与について一定の配慮はしたとのアピールになります。

制度の流用(役員報酬減額の方便)

法人税法上の規定で、役員退職給与のうち不相当に高額な部分は損金不算入になるリスクがあるからといって、役員退職金の額そのもの減額するのはいかがなものかという気がします。

しかし、逆に、役員退職金の支給をなんとか減額させたいと考える場合、この過大役員退職給与の損金不算入制度を説得のための方便として利用することができます。

( おわり )