現在「消費税はサービス」している免税事業者でも従前通りでは支払事業者の負担は増えてしまうしくみ

現在免税事業者に対して支払いを行っていて、免税事業者が適格請求書発行事業者の申請をして納税義務者になることを選択しなかった場合、これまで消費税を上乗せしているしていないにかかわらず、従前どおりの支払いでは支払事業者の負担額が増加することになってしまいます。

たとえ現在「消費税はサービスしている」事業者であっても、現行の請求額から消費税相当額を減額した額、すなわち「1/(1+消費税率)」を乗じた分減額してもらわないと負担額は増加してしまいます。

それは販売事業者側にとっては収入減を意味するため、適格請求書発行事業者になるべきかどうか重要な選択となります。

免税事業者なのに消費税上乗せはアンフェア?

モノやサービスを提供する事業者のうち、消費税の申告をしなくてよい事業者(消費税の免税事業者)が、販売する対価に消費税相当額を上乗せして相手方に請求することが広く行われています。

消費税の申告をしていないのに、たとえば10,000円の販売価格に消費税相当額(10%)の1,000円を加算して11,000円で請求をしているのです。

この場合、消費税の申告をしていない、つまり、消費税の納税をしていないのに消費税相当額1,000円を余分に受け取ったわけですから、考えようによってはアンフェアだよねということになります。

そして、後述しますが、現行制度では、販売者が免税事業者であっても、支払った事業者は消費税の申告において支払った消費税相当額を差し引くことができるので、それほどカリカリすることでもなかったと思われます。

支払う側は消費税をどう処理しているのか

事業者はモノやサービスの販売によって消費税を預かりつつ、そのモノやサービスを生み出すために仕入などで消費税を支払っています。 そして消費税の申告では、預かった消費税から支払った消費税を差し引いた差額を納税したり還付を受けたりします。

個々の取引について支払った消費税を計算し集計するためには、日常の取引の会計ソフトへの入力が極めて重要です。

ところで、消費税法では、消費税が課される取引(課税取引)と課されない取引(非課税取引、免税取引、非課税取引(課税対象外)が定めています。このときに、日々発生する取引について、消費税法上どんな取引に当たるのかを判断しながら会計処理を行います。

実務上は、取引の種類に応じた勘定科目(仕入高、消耗品費など)で会計処理を行う際に、会計ソフト側で標準的な消費税処理の設定がされています。たとえば、仕入高や消耗品費は課税取引、給料や賞与や租税公課は不課税取引などです。そして、事業者の取引の実情に応じて設定を変えます。 そして、課税取引と設定されている勘定科目に入力するときは、税込金額(11,000)を入力すれば、本体価格相当額(10,000)と消費税相当額(1,000)が自動的に分離され集計されるのが一般的です。もちろん、自動的な計算ではなく、本体価格と消費税額を個別に入力する設定にすることもできます。

とはいえ、例えば交際費という勘定科目に入力する場合、通常は消費税が課される取引ですが、香典の支払は消費税はかからないため気をつけないと消費税を支払ったものとして経理処理してしまいます。

さらに、現在は消費税の税率は10%のほかに軽減税率8%の2本立てとなっているため、食品等の贈答で8%の消費税を支払ったのに、経理上10%として処理してしまうと、消費税の申告において、実際よりも多く消費税を仕入れ税額控除してしまいます。

現行制度のしくみ

免税事業者が消費税を上乗せして請求した場合の処理

話を戻しましょう。

販売者が消費税の免税事業者なのに10,000円の販売価格に消費税相当額(10%)の1,000円を加算して11,000円で請求をしていたということは、支払者は1,000円余計に支払わされたということになります。

もっとも、支払者である事業者は、消費税の申告において販売等によって預かった消費税から1,000円を差し引けます。1,000円余計に支払ったものの、消費税の申告で1,000円の納税を減らせることから一見「実害はない」ということになります。

すなわち、「税込み11,000円」の支払いでは、消費税の申告では1,000円を販売で預かった消費税から差し引くことができるため、消費税の納税額が1,000円減少し、プラスマイナスゼロとなります。そして、本体価格10,000円が法人税の損金や所得税の必要経費となります。法人税などの税率を30%と仮定すると、法人税等や所得税等の節約額は3,000円(=10,000×30%)となり、実質的に支払った額は7,000円(=10,000-3,000)となります。

免税事業者が「消費税をサービスして」請求した場合の処理

では、本体価格10,000円に「消費税額10%1,000円」を加えた11,000円の支払いではなく、「消費税がサービスされた10,000円」を支払った場合はどうなるでしょうか。

消費税の申告を行う支払者にとっては、消費税(相当額)を支払ったかどうかの判定基準は、個々の取引について消費税が課税される取引にあたるかどうかであって、販売者が免税事業者かどうかとか、販売者から明示的に消費税相当額を請求されたかどうかではありません。

つまり、現行制度では、たとえ販売者が免税事業者であっても、課税取引に該当する取引の支払いがあったら消費税の支払いがあったことになるのです。

「消費税がサービスされた」という10,000円を支払った場合でも、それが消費税が課される取引であれば、税込み10,000円の支払い、つまり、9,091円(=10,000÷1.1)の本体価格と909円(=10,000×0.1/1.1)の消費税を支払ったことになります。

すなわち、「税込み10,000円」の支払いでは、消費税の申告では909円を販売で預かった消費税から差し引くことができるため、消費税の納税額が909円減少し、プラスマイナスゼロとなります(なお実際の消費税の申告は端数切り捨てがあります)。そして、本体価格9,091円が法人税の損金や所得税の必要経費となります。同様に税率を30%と仮定すると、法人税等や所得税等の節約額は2,727円(=9,091×30%)となり、実質的に支払った額は6,364円(=9,091-2,727)となります。

インボイス制度の施行でどうなるのか

インボイス制度が施行されると、適格請求書発行事業者でない者に対する支払いは、たとえ消費税の課される取引であったとしても、これまでのように消費税額を計算し、消費税の申告で販売で預かった消費税の額から差し引くことができません。

このため、適格請求書発行事業者でない事業者が消費税相当額を上乗せして請求してきた場合には「適格請求書発行事業者でないのだから消費税を上乗せできないですよね」とクレームを付けることができます。

従前消費税相当額を上乗せしており、その後も同額の支払いを続ける場合

では、適格請求書発行事業者を選択しなかった免税事業者に対して、これまで本体価格10,000円で消費税1,000円の税込み11,000円の支払いをしていた場合で、もろもろの事情からインボイス制度施行後も11,000円の支払いを継続する場合はどうなるでしょうか。

その免税事業者が適格請求書発行事業者にならなかった場合は、11,000円には消費税は含まれていないことになり、消費税の申告において1,000円を差し引くことができなくなります。

この場合、法人税の損金や所得税の必要経費となるのは11,000円全額となります。税率を30%と仮定すると、法人税等や所得税等の節約額は3,300円となり、実質的な負担額は7,700円となります。

現行制度で11,000円を支払った場合は実質負担額は7,000円ですから、700円の負担増ということになります。

消費税相当額の上乗せをなしにした場合

10,000円の支払いをした場合でも、これまでのように消費税の申告では909円消費税を支払ったとして販売で預かった消費税から差し引くことができません。そのため、法人税の損金や所得税の必要経費となるのは10,000円全額となります。税率を30%と仮定すると、法人税等や所得税等の節約額は3,000円となり、実質的に負担した額は7,000円となります。

現行で11,000円の場合の実質負担額が7,000円ですから、まったく同じということになります。

負担額を従前と同じにする場合には、やはり消費税相当額の請求はやめてもらいたいということになります。

ただ難しいのは、販売者側からすると従前よりも収入が減ることになります。

従前消費税相当額を上乗せしておらず(消費税サービス)、その後も同額の支払いを続ける場合

ところで、現時点で消費税相当額を上乗せせずに「税込み10,000円」の支払いだった場合はどうなるでしょうか。

現行制度では、上記のように「税込み10,000円」として処理をすることができるので、実質負担額は6,364円でした。インボイス制度施行後は「消費税は含まれない10,000円」として処理しなければならないため実質負担額は7,000円となり、負担増となります。

このため、販売事業者が免税事業者のままで適格請求書発行事業者を選択しない場合には、支払事業者側のほうは現状の消費税込みとして処理できなくなるため負担が増すことになります。

結論

以上から、現在免税事業者に対して支払いを行っていて、免税事業者が適格請求書発行事業者の申請をして納税義務者になることを選択しなかった場合、これまで消費税を上乗せしているしていないにかかわらず、従前どおりの支払いでは支払事業者の負担額が増加することになってしまいます。

従前から「1/(1+消費税率)」を乗じた分減額してもらわないと負担額は増加してしまいます。

もっとも、それは販売事業者側にとっては収入減を意味しますが、インボイス制度の前は、免税事業者は益税の恩恵を受けていたため、何ともいえない部分もあります。

(おわり)