( 1 )一般的な会計処理の検討

社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料など)は、会社が負担する部分と従業員等が負担する部分があります。会社が負担する部分は法定福利費として処理されます。

社会保険料の支払いは、当月分を翌月末までに支払うことから、当月分の給料で前月分の社会保険料の従業員等負担分を預かるのが一般的とされています。

いっぽう、社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料など)については、当月分に係る納入告知書の到達が一般的に翌月後半です。このため、通常は月次決算に取り込むことが困難です。

これらのことから、会社負担分の社会保険料(法定福利費)の発生のタイミングがひと月遅れとなってしまいます。

社会保険料の一般的な会計処理

社会保険料の社会保険料の従業員等負担分の処理として、「法定福利費のマイナスとして処理する方法」と「預り金として処理する方法」があります。

( 1 )従業員等負担分を法定福利費のマイナスとして処理する方法

従業員等負担分は法定福利費a/c のマイナスとして、保険料の支払いも全額法定福利費とする処理です。

給料発生時

(借) 給料 XXX (貸) 預金等 XX
法定福利費 X

社会保険料納付時

(借) 法定福利費 XX (貸) 預金等 XX

社会保険料には会社負担分と従業員等負担分があります。このうち、会社負担分は費用(法定福利費)となりますが、従業員負担分は費用とはなりません。

そこで、社会保険料の(未払)計上については、従業員等負担分も含めた全額を法定福利費として処理し、従業員等負担分を預かったときの処理を法定福利費のマイナスとします。すると、あたかもうまく相殺が行われ自動調整されたような形で会社負担分のみが会社の費用となるかのようになります。

( 2 )従業員等負担分を預り金として処理する方法

従業員等負担分は預り金a/c を使い、保険料支払い時に預り金a/c を取り崩すという最もポピュラーな処理です。

給料発生時

(借) 給料 XXX (貸) 預金等 X
預り金 X

給料発生時

(借) 法定福利費 X (貸) 預金等 XX
預り金 X

以下では、こちらの方法をベースにしてコメントさせていただきます。

月ズレの問題

問題は、法定福利費の発生のタイミングです。

社会保険料は、当月分を翌月分に納付します。このため、一般的には、当月分に係る保険料等の従業員負担分はその翌月分の給料から差し引くというのがモデルになっています。

(例1)従業員から預かる保険料は前月分である場合

3月分の給料発生

(借) 給料(3月確定) 100 (貸) 未払金その他 85
預り金(2月分) 15

2月分社会保険料の納入告知額の通知書の到達と未払額計上

(借) 法定福利費(2月分) 16 (貸) 未払金(2月分) 31
預り金(2月分) 15

2月分社会保険料の納入告知額の通知書の到達と未払額計上

(借) 未払金その他 85 (貸) 預金等 85

2月分社会保険料の納付(3月末)

(借) 未払金(2月分) 31 (貸) 預金等 31

精算された科目を消去して仕訳をまとめますと次の通りとなります。

(借) 給料(3月確定) 100 (貸) 預金 116
法定福利費(2月分) 16

ここで問題となるのは、発生した給料は3月分なのに、法定福利費(社会保険料の会社負担分)は2月分となって、期間対応ができていません。

(例2)従業員から預かる保険料は当月分である場合

2月分の社会保険料の従業員預かり分は上記と同じく15は2月分とし、3月分の従業員預かり分は17とします。

3月分の給料発生

(借) 給料(3月確定) 105 (貸) 未払金その他 88
預り金(3月分) 17

2月分社会保険料の納入告知額の通知書の到達と未払額計上

(借) 法定福利費(2月分) 16 (貸) 未払金(2月分) 31
預り金(2月分) 15

3月分給料支払い

(借) 未払金その他 88 (貸) 預金等 88

2月分社会保険料の納付(3月末)

(借) 未払金(2月分) 31 (貸) 預金等 31

一連の仕訳をまとめますと次のとおりです。

(借) 給料(3月確定) 105 (貸) 預金 119
法定福利費(2月分) 16
預り金(2月分) 15 預り金(3月分) 17

(例1)との違いは、3月分の社会保険料の従業員等負担額(17)を3月分の給料から差し引いていることです。

さて、この例では、すでに2月分の給料の発生の仕訳において貸方に2月分の預り金15を計上していることが想定され、2月月次での預り金a/c の残高に15が計上されていることになります。

(借) 給料(2月確定) XXX (貸) 未払金その他 XX
預り金(2月分) 15

とすると、一連の仕訳のうち、借方の預り金(2月分)の計上によって、2月末の残高は精算され、3月分の残高が残るということになります。

しかし、先の例と同様に、法定福利費となる社会保険料の会社負担分は2月分が計上されていることには変わりありません。

決算時における未払法定福利費の計上

上記のふたつの例でいくと、社会保険料の会社負担分(法定福利費として計上)は1月遅れで計上されていることになります。

そこで、3月決算の場合、決算仕訳として3月分の社会保険料について未払計上します。

なぜなら、決算整理中に3月分の納入告知は到達し、3月分の保険料の額が確定しているからです。

(借) 法定福利費(3月) 35 (貸) 未払金(3月分) 35

期間対応を重視して、2月分までしか計上されていない3月分の社会保険料を未払計上したのは望ましいことといえます。

また、3月分の社会保険料の会社負担分(法定福利費)を計上したことで、課税所得が減少したことになります。

しかし、この仕訳のみで終わってしまうと、従業員等負担分までが費用となっています。

次の仕訳を入れなければなりません。

(借) 法定福利費(3月分) 18 (貸) 未払金(3月分) 35
預り金(3月分) 17

この仕訳により、決算時の貸借対照表は、社会保険料の従業員等負担分(預り金)の残高はゼロになり、3月分の社会保険料が未払金として計上されることになります。

概算計上の必要性

これまで見てきたとおり、社会保険料の計上は、会社負担分すなわち法定福利費の計上が1月遅れとなってしまいます。

最大の問題は、前月分の社会保険料に係る納入告知書が月の後半に送達されることが多いため、通常の月次決算に間に合わないという点です。

給料と法定福利費の発生にズレが生じるということは、原価計算を通じて当期純利益にも影響を及ぼします。

社会保険料の会社負担分は給料の1割以上に相当するため無視できない金額と考えられます。

また、賞与にも社会保険料はかかることから、この社会保険料についても期間対応した会計処理が求められます。

その意味では、概算額、というより、納入告知書の到達を待つまでもなく正確な会社負担額を計上することが、より適正な期間損益計算を可能にするものと考えられます。

よく、原価計算で細かい配賦基準や時間管理でその精度をアピールしている場合がありますが、社会保険が思いっきり月ズレになっていて失笑を禁じえないことがあります。お化粧の前に洗顔が大事だと思います。

( つづく )