( 4 )より正確な会計処理

会計上で費用計上するのはあくまで実際の給与等に基づく実額ベース(確定保険料相当額)とし、概算保険料は前払費用として計上し、前払費用は確定保険料相当額と相殺して減少させる方法をご紹介いたします。

会計上解決しなければならない課題

会計上クリアしなければならない課題は次のとおりです。

  • 概算保険料の会計処理
  • 雇用保険料被保険者(従業員等)負担分の処理
  • 確定保険料(実際発生額)の月次レベルでの反映
  • どのタイミングでの決算(月次、四半期、半期、年次)にも耐えうること

これらをすべてクリアする必要があります。そこで次の方針を採ります。

  • 保険料が分納であっても、概算保険料の全額を前払費用a/cと未払金a/cで計上する。
  • 実際の給与等で発生する労災保険料と雇用保険料法人負担分と一般拠出金を法定福利費a/cと未払費用a/cで計上する。
  • 実際の給与等で発生する雇用保険従業員等負担分は未払費用a/cを使う。
  • 前払費用a/cの残高(概算保険料)の減少は、時の経過による規則的な償却ではなく、実際の給料等の発生によって労働保険料申告で確定額となるだろう未払費用a/cの発生額との相殺による。

概算保険料の会計処理

労働保険料の申告により概算保険料の総額は確定しているため、概算保険料の全額を次のように仕訳します。

(借) 前払費用 ××× (貸) 未払金 ×××

借方の前払費用、貸方の未払金(確定額なので未払費用ではなく未払金です。)には概算保険料の全額を計上します。一見するとおかしな仕訳ですが、貸方の未払金の減少は納付時(1回~3回)となり、借方の前払費用は実際に発生した(確定)保険料によって減少するのです(詳細は後述)。

納付のときの処理は次のとおりです。

(借) 未払金 X (貸) 預金 X

この方法であれば、分納の場合に前払分と未払分を区分するなどといった難しい問題からは解放されます。

また、従業員等が大幅に増えた場合には増加保険料の申告・納付が必要ですが、これにも対応することができます。

なお、この仕訳で注意しなければならないのは、(少なくとも1回目の)概算保険料の納付額の一部には、前年度の概算保険料と確定保険料との差額が含まれていることです。この部分は、前払費用として計上してはならず、会計上も税務上も損益として処理しなければなりません。そうしないと、設備投資において、既存の設備の撤去費用に相当する額まで新規の設備の取得価額に含めてしまうことと同じになってしまいます。

雇用保険料被保険者(従業員等)負担分の処理

ポイントは、貸方の科目は、法定福利費a/c(貸方計上)でもなく、預り金a/cでもなく、未払費用a/cを用います。

(借) 給料など ××× (貸) 預金など ××
未払費用 ×

ここでの「未払費用」の意味は「暫定的あるいは見積りによって費用を計上するときの貸方科目」ということです。つまり、「確定的な費用(債務)を計上するときの貸方科目」である未払金a/cと区別しています。

未払費用a/cについては、企業会計原則の定義である経過勘定科目的な使い方がアカデミックとは思われますが、実際の実務では、「借方が費用のときは未払費用a/cを使う」のが慣行になっている企業も少なくないと思われます(もっとも、このような企業でも、期中にはあるいは社内科目的には未払費用a/cを使っても、外部公表用の決算書のための表示上の組替で買掛金a/cや未払費用a/cにするケースもあります)。

翌年3月までの概算保険料は、「概算」とはいえ「金額的に当局に納付する額は確定」しているため、貸方科目を未払費用a/cとはせずに、未払金a/cにしているのです。

「概算」労働保険料が「確定」債務で未払金a/cなのに、実際に発生した給料等から算定されている労働保険料が「暫定的あるいは見積」債務で未払費用a/cというのは、なんとなく矛盾しているようにも思えますが、いくら実際に発生した人件費から算定されたとはいえ、確定申告までは確定債務とはならないのですから、やはり「暫定的あるいは見積」債務で未払費用a/cを用いる基礎があるように思われます。

なお、未払費用の相手方は、もちろん労働局や労働基準監督署です。

当月発生労働保険料の計上

(借) 法定福利費 XXX (貸) 未払費用 XX

通常の会計処理では、費用となるのは概算保険料であり、せいぜい月次でいかに平準化して発生させるかにとどまっていました。

概算保険料ではなく、実際に発生した給料等から労働保険料(法定福利費)を計上するのです。

一見困難に思えますが、それほどでもありません。雇用保険料被保険者(従業員等)負担分については、従業員への支給時に給料から天引きしているはずです。

この場合の雇用保険料被保険者(従業員等)負担分は実際に発生した額にほかなりません。この額から逆算することで、会社負担分の法定福利費(一般拠出金、労災保険料、雇用保険料事業主(会社)負担分)が算定できるのです。

実際の給料等の発生に基づくため、労働保険料の確定申告の計算と同一なので金額の精度が高いばかりでなく、部門別や個々の従業員別にまで算定することができるため、原価計算のための有用なデータとなります。

概算保険料をどう配分するかといった本質から外れた有用でない作業から解放されます。

ここでも、貸方科目は未払費用a/cを使います。

概算保険料(前払費用)と実際保険料(未払費用)の相殺

(借) 未払費用 XXX (貸) 前払費用 XXX

これがもっともエキセントリックなところです。

概算保険料の計上は、その全額を前払費用a/cで計上しています。

前払費用a/cで計上された額をどう費用にするか、そのために、月割で規則的に償却するなどの工夫がなされてきました。また、概算保険料には会計上費用とならない(税務上も損金とならない)雇用保険料被保険者(従業員等)負担分が含まれているため、この部分は費用にせず立替金にするなどの工夫も試みられたところです。

ところで、実際の給料等が発生した時に給料等から天引きする雇用保険料従業員負担分には未払費用a/cを使いました。そして、雇用保険料被保険者(従業員等)負担分から逆算して計算した法定福利費にも未払費用a/cを使いました。

この結果、未払費用a/cの残高は、実際に発生した労働保険料(事業主(会社)負担分と被保険者(従業員等)負担分の合計)となります。

そこで、概算保険料(前払費用)と実際に発生した保険料(未払費用)を相殺するのです。

つまり、前払費用a/cの残高は、期間で償却することで減少するのではなく、実際に発生した保険料と直接相殺することで減少するのです。

このため、月ごとに実際発生した保険料(未払費用)によって前払費用の残高は減っていきます。概算保険料よりも実際の保険料が大きければ、いずれ前払費用a/cの残高はゼロとなり、未払費用に残高a/cが残ります。概算保険料のほうが大きければ前払費用a/cの残高が残ります。

何月を決算月としても、その時点での不足額や超過額がほぼ正確に表示されるのです。

決算時の処理

決算(月次、四半期、半期、年次)がどの月であっても、それほどの苦労はありません。

概算保険料を分納する場合、まだ納期が到来していない分は未払金a/cの残高となっています。そのまま未払金として表示します。

実際に発生した労働保険料は未払費用として計上し、ただちに概算保険料(前払費用)と相殺されます。少なくとも夏から秋の段階では前払費用a/cに残高があることになります。これは、そのまま前払費用として表示したり、あるいは、勘定科目の振替仕訳を入れるか表示上の組み替えで前払金などとして表示することになります。

概算保険料を上回ると未払費用a/cに残高があることになります。これは、勘定科目の振替仕訳を入れるか表示上の組み替えで未払金などとして表示することになります。未払金として表示するのは、本来的な意味(いわゆる経過勘定)としての未払費用とは異なるためです。

概算保険料の税務上の調整

概算保険料のうち、会社の費用となる部分(雇用保険料被保険者(従業員等)負担分を除いた部分)の額は、労働保険料の確定申告書を提出した日または納付した日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。

よって、決算する月に応じて税務調整と税効果処理を行います。

労働保険料の確定申告時の処理

労働保険料の確定申告直前においては、概算保険料よりも実際の給料等から算定した保険料のほうが大きければ未払費用a/cに残高があり、概算保険料のほうが大きければ前払費用a/cに残高があることになります。

月次ベースで計算し未払費用a/cで処理した実際の給料等から算定した保険料と、確定申告で算定した保険料が完全に一致している場合には次の仕訳となります。

(借) 未払費用 XX (貸) 未払金 XX
(借) 未収入金 XX (貸) 前払費用 XX

誤差が生じた場合には原因を分析し、給料等からの天引きによるものなのか、法定福利費の計上のミスによるものなのかによって、差額を適切な科目で調整します。従業員からの天引きが多すぎた場合は未収金a/c、少なかった場合には未払金a/c、法定福利費の計上については法定福利費a/cを用います。

そして、確定申告では当年分の概算保険料を計上します。

(借) 前払費用 XXX (貸) 未払金 XXX

確定保険料の税務上の調整

労働保険料の確定申告により、概算保険料に不足額が生じた場合の不足額(のうち雇用保険料被保険者(従業員等)負担分を除く額)については、「確定申告書を提出した日」または「納付した日」の属する事業年度の損金の額に算入されます。

ただし、事業年度終了の日以前に終了した保険年度について生じた不足額については、労働保険料の確定申告書を提出した日前でも損金の額に算入することができます。つまり、3月決算、4月決算、5月決算の場合でも、保険年度(前年4月1日から3月31日まで)は終了しているため、不足額を損金に算入することができます。

また、労働保険料の確定申告により、概算保険料に超過額が生じた場合の超過額(のうち雇用保険料被保険者(従業員等)負担分を除く額)については、「労働保険料の確定申告書を提出した日」の属する事業年度の益金の額に算入されます。

つまり、3月決算、4月決算、5月決算、6月決算の場合、保険年度(前年4月1日から3月31日まで)の超過額を会計上は雑収入(または法定福利費のマイナス)で処理しても、法人税法上益金の額に算入されるのは労働保険料の確定申告書を提出した日の属する事業年度のため、7月に確定申告書を提出した場合には減算処理を行います。

( つづく )