( 3 )月ズレの解消

社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料など)については、当月分に係る納入告知書の到達が一般的に翌月後半です。このため、通常は月次決算に取り込むことが困難です。

これらのことから、納入告知書による確定した社会保険料で会計処理をしようとすると、会社負担分の社会保険料(法定福利費)の発生のタイミングがひと月遅れとなってしまいます。

そこで、期間損益をより適正化したり、原価計算の精度を向上させるためには、社会保険料を概算計上する必要があります。

会計処理の概要

当月分(前月分)の社会保険料の納入告知書の通知が到達するのは翌月(当月)の後半のため、通常は月次決算に取り込むことは困難です。

そこで、会計上は当月分に対応する社会保険料を概算額を計上することになります。概算額といっても金額は正確であり、(月次)決算の締めまでに納入告知書が到達しないため債務が確定しないことによるものです(未確定額)。

概算額計上の具体的な仕訳は次のとおりです。

(借) 法定福利費(概算) XXX (貸) 未払費用(概算) XXX

この当月の仕訳は、翌月に洗い替えを行うことになります。

(借) 未払費用(概算) XXX (貸) 法定福利費(概算) XXX

金額が確定した「未払金」ではなく、概算計上を意識して「未払費用」としています。

翌月には、当月分(翌月からみると前月分)の納入告知書が到達します。概算額(未確定額)を正確に算定していれば納入告知書の確定額とまったく同一の金額となります。

法定福利費(概算額)+従業員等の負担分(預り金処理)=納入告知書の額

このため、損益のインパクトはここで差し引きでゼロとなりリセットされ、当月分の概算額(未確定額)を再び計上することになります。

事例その1

当月分の社会保険料の従業員等の負担分について、翌月分の給料等から控除する場合です。

前提(概算計上)

2月の月次決算で2月分の社会保険料会社負担分について概算額(未確定額)を計上していたものとします。

(借) 法定福利費(2月概算)
16 (貸) 未払費用(2月概算) 16

3月の処理

3月分給料額の確定と2月分の社会保険料の従業員負担分の預かり

(借) 給料(3月確定) 100 (貸) 預金等その他 85
預り金(2月分) 15

2月分社会保険料の納入告知額の通知書の到達と未払額計上

(借) 法定福利費(2月分) 16 (貸) 未払金(2月分) 31
預り金(2月分) 15

2月に計上した概算額(未確定額)の戻し

(借) 未払費用(2月概算) 16 (貸) 法定福利費(2月概算) 16

2月分社会保険料の納付

(借) 未払金(2月分) 31 (貸) 預金等 31

当月分社会保険料の概算額(未確定額)計上

(借) 法定福利費(3月概算) 18 (貸) 未払費用(3月概算) 18

コメント

3月の社会保険料に係る法定福利費は、2月に計上した2月分概算額(未確定額)が確定額と同額(16)であったために差引ゼロとなり、3月分概算額(未確定額)のみが計上されます。

負債勘定の残高としては、未払費用a/c に3月分の会社負担分の概算額(未確定額)である(18)が計上されます。

概算計上額(未確定額)と確定額との差額が生じた場合、その理由としては、「計算ミス」「内部あるいは外部とのミスコミュニケーション」「外部との手続上の問題」などが考えられます。原因を特定すべきかどうかは金額の多寡によると思われます。

事例その2

当月分の社会保険料の従業員等の負担分について、当月分の給料等から控除する場合です。

前提(概算計上)

2月の月次決算で次の処理をしていたものとします。

(借) 給料(2月確定) 100 (貸) 預金等その他 85
預り金(2月分) 15
(借) 法定福利費(2月概算)
16 (貸) 未払費用(2月概算) 16

3月の処理

3月分給料額の確定と3月分の社会保険料の従業員負担分の預かり

(借) 給料(3月確定) 100 (貸) 未払金その他 83
預り金(3月分) 17

2月分社会保険料の納入告知額の通知書の到達と未払額計上

(借) 法定福利費(2月分) 16 (貸) 未払金(2月分) 31
預り金(2月分) 15

2月に計上した概算額(未確定額)の戻し

(借) 未払費用(2月概算) 16 (貸) 法定福利費(2月概算) 16

2月分社会保険料の納付

(借) 未払金(2月分) 31 (貸) 預金等 31

当月分社会保険料の概算額(未確定額)計上

(借) 法定福利費(3月概算) 18 (貸) 未払費用(3月概算) 18

コメント

事例1と同じく、3月の社会保険料に係る法定福利費は、2月に計上した2月分概算額(未確定額)が確定額と同額(16)であったために差引ゼロとなり、3月分概算額(未確定額)のみが計上されます。

負債勘定の残高としては、未払費用a/c に3月分の会社負担分の概算額(未確定額)18が計上され、さらに、預り金a/c に3月分の従業員等負担額17が計上されることになります。

概算額(未確定額)計上のメリット

社会保険料の会社負担分について、当月分を会計上で概算額(未確定額)計上で取り込むことによって、社会保険料に係る法定福利費の額が適切に期間対応することになります。

また、上記の事例で3月が決算月で、3月分の社会保険料の納入告知書により確定額を計上することが可能な場合には概算額(未確定額)を確定額に変更すれば足ります。

事例1の場合

月次ベースで計上した概算額(未確定額)の戻し

(借) 未払費用(3月概算) 18 (貸) 法定福利費(3月概算) 18

当月分社会保険料の確定額計上(会社負担分だけを計上する場合)

(借) 法定福利費(3月) 18 (貸) 未払費用(3月) 18

当月分社会保険料の確定額計上(従業員等負担分も含めた総額を計上する場合)

(借) 法定福利費(3月) 18 (貸) 未払費用(3月) 35
預り金など 17

事例2の場合

月次ベースで計上した概算額(未確定額)の戻し

(借) 未払費用(3月概算) 18 (貸) 法定福利費(3月概算) 18

当月分社会保険料の確定額計上

(借) 法定福利費(3月) 18 (貸) 未払費用(3月) 35
預り金(3月) 17

コメント

事例1では、当月の社会保険料の従業員等負担分について、翌月の給料等から預かる処理です。このため、3月分の社会保険料の従業員等負担分を預かるのは4月分の給料からということになるため、3月分の確定分を全額計上してしまうと従業員等負担分もすべて法定福利費となってしまいます。そこで、会社負担分の確定額のみを計上するという方法がありますす。 いっぽう、貸借対照表の負債計上額を重視すれば、従業員等負担分も含めた3月分の確定額を全額計上し、従業員等負担分相当額を預り金a/c や立替金a/c で処理することで、法定福利費の金額は会社負担分のみとすることができます。もっとも、この預り金a/c や立替金a/c の額と未払金a/c の額を相殺すれば、結果として会社負担分の確定額のみを計上したことと同じになります。

事例2では、当月の社会保険料の従業員等負担分について、当月の給料等から預かる処理です。このため、確定額の全額を計上しても、3月分の従業員等負担分はすでに預り金a/c で計上されているため、これを取り崩すことで対応できます。この点で、「当月預かり方式」は優位と考えられます。

( つづく )