譲渡制限株式の売買価格をめぐる攻防

譲渡制限株式の取引価格(売買価格)は、市場がないために、基本的に当事者間の交渉によって決められることになりますが、少なくとも交渉の出発点となりタタキ台となるものが、一般に妥当とされる評価方法によって算定された株式価値です。

ところが、この株式価値の算定方法もさまざまであり、また、その評価の基礎となる情報を入手する差、評価方法それ自体を評価する能力の差によって、タタキ台の妥当性それ自体の検討さえもが公平とはいえない状況にあります。

このため、当事者間の交渉の結果決まるというよりは、売り手(または買い手)となる会社関係者の提示する売買価格をベースにして、それを買い手(売り手)が承諾するという形であることが多くなります。

このため、相手方と対等の立場で判断したり交渉ができる専門家のサポートが必要と考えられます。

( 1 )譲渡制限株式の取引の特殊性

譲渡制限株式の売買価格の決定をめぐる交渉(争い)は、主に「株式価値の算定方法の選択をめぐる争い」「株式価値の算定結果または算定プロセスをめぐる争い」「株式価値の算定結果をタタキ台にして最終的な売買価格の決定をめぐる争い」に分かれます。

( 2 )譲渡制限株式の売買交渉に影響を与えるもの

売り手側に立つか、買い手側に立つかで真逆の主張となります。

「取引をしたいのはどちらか」「取引の動機は何か」「(想定される)当事者間の信頼関係はどうか」「その株主が株主になった経緯」「その株主の株主としての支配力やこれまでの行動」「会社の経営状況」などが売買価格の交渉に影響を与えると考えられます。

( 3 )株式取得希望者側からの買取り交渉 Part1

一般的に、譲渡制限株式を取得しようとするのは、基本的には会社関係者(大株主や役員あるいはその近親者)、あるいは、会社関係者と一定の信頼関係がある者です。 株式を取得する動機のひとつが、一定の持株比率(議決権割合)を取得し、あるいは、高めることによって会社の経営権を取得、あるいは、強化することです。 このため、株式の取得希望者としては、多少高い価格であっても取得したいということになりますが、交渉では、まずは株式価値がより低く算定されるようなアプローチで算定された額をタタキ台とすることが考えられます。

( 4 )株式取得希望者側からの買取り交渉 Part2

譲渡予定株主に売買価格を提示するにあたっては、当該株主に専門的知識があるかどうかが極めて重要になりますが、それと同様に相手方(譲渡予定株主)がどの程度の議決権比率すなわち経営権を保有しているのか、あるいは、役員として経営に関与しているのかどうかによって交渉は大きく異なります。 ただ、いずれの場合も、なるべく低い価格を提示することになります。 これに対して、譲渡予定株主からは反論が考えられますので、それに対する対応が必要になります。

( 5 )譲渡希望株主側からの買取り交渉 Part1

株主が株式を売却したい動機はなんでしょう。もっとも端的な理由は投下資本の回収です。すなわち、出資した金額を再び現金化したいということです。 一般的な経済合理性からすると、出資した金額よりもいかに多くの資金として回収できるか(キャピタルゲインの最大化)、あるいは、出資した金額のうちどれだけ回収できるか(キャピタルロスの最小化)ということになります。 しかし、譲渡には会社サイドの承認が必要で、株価算定の情報を入手することは困難であるため、情報や専門性の点でかなりのハンデを負っていることになります。 そこで、会社サイドから提示された売買価格について分析検討することが重要です。

( 6 )譲渡希望株主側からの買取り交渉 Part2

会社サイドから売買価格の提示を受けた場合には、その価格の妥当性を算定根拠となる資料を入手して検討します。 提示される価格は、低くなるように評価された結果であることが多いため、丹念に分析します。 どうしても価格に納得できない場合には、譲渡を断念するほかに、会社とは無関係な第三者を株式譲渡の相手方として譲渡承認請求します。このとき、「もし承認をしない場合には、会社か会社が指定する買取人(指定買取人)が株式を買い取る旨」を併せて請求します。これにより、譲渡は確実に行われることになります。