配偶者控除や扶養控除の誤りに気付いたときの確定申告

過失か重過失はさておき、年末調整で勤務先に申告した配偶者や扶養家族の所得金額よりも、実際の所得が大きかった場合、本人は配偶者控除(または配偶者特別控除)や扶養控除をしてしまっているため、結果的に所得控除額が過大で課税所得金額が過少となり、結果として納めた税金が不足していることになります。

誤りに気づいた場合には、早めに確定申告を行って不足税額を納付すべきです。

放置すると、勤務先に税務署から通知が来ることになります。

所得税(および復興特別所得税)と住民税の計算の概要

所得税および復興特別所得税、さらに住民税の額は、給与や事業や不動産などの所得金額から、基礎控除や配偶者控除や扶養控除などの所得控除額を差し引いた課税所得金額に税率を乗じて算定されます。

所得税の計算は、所得をその種類によって10種類に区分することから始まります。そのうちの一つが会社等との雇用契約により受け取った給料による所得(給与所得)です。年金を受け取った場合の所得は雑所得(年金等)となります。個人事業主としての所得は事業所得もしくは雑所得となります。

それぞれの所得は、おおむね収入から必要経費を差し引くことによって計算されます。つまり、収入=所得ではありません。

所得の額=収入金額-必要経費の額

給料所得にも実は必要経費があります。「給与所得控除額」というものです。「給与所得控除額」は、国が定めた給与所得者の必要経費といわれるものです。

給与収入と給与所得の差額を「給与所得控除額」といいます。「給与所得控除額」とは、国が定めた給与所得者の必要経費といえます。

給与収入-給与所得控除額=給与所得の関係です。

年末調整時に、勤務先に対して「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」と「給与所得者の配偶者等控除申告書」「給与所得者の保険料控除申告書」を提出するのは遅くとも12月上旬であると思われます。

さて、配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除が適用されるかどうかは、本人、配偶者、扶養家族のその年の1月1日から12月31日までの所得の金額(年間所得)によります。ところが、勤務先に配偶者等控除申告書を提出するまでに、配偶者や扶養家族の年間所得は確定していないため、それぞれの「年間所得の見積額」を記載して提出します。

さて、過失か重過失はさておき、年末調整で勤務先に申告した配偶者や扶養家族の所得金額よりも、実際の所得が大きかった場合、本人は配偶者控除(または配偶者特別控除)や扶養控除をしてしまっているため、結果的に所得控除額が過大で課税所得金額が過少となり、結果として納めた税金が不足していることになります。

配偶者控除

「配偶者控除の額は、配偶者が専業主婦(夫)で所得がなければ当然に、パートやアルバイトの所得があっても給料収入が年間103万円未満のならば一律38万円」というのが長期間適用されてきました。配偶者控除を受けようとする本人がどんなに高所得であってでもです。

このため、配偶者控除を受けられるかどうかは、もっぱら「配偶者の所得の金額がいくらか」だけが関心事でした。

ところが、平成30年分からは、配偶者控除を受けようとする本人の所得の額によって、配偶者控除が受けられなかったり、控除額が減ることになりました。

このため、平成30年分の年末調整から登場した「給与所得者の配偶者控除等申告書」には、配偶者のみならず本人の見積所得も記載することになりました。

合計所得金額とは?

配偶者控除の適用が受けられるかどうかは、配偶者の所得金額のみならず、配偶者控除の適用を受けようとする本人の所得金額の大きさにもよります。ところで、配偶者や本人の所得金額は、正確には「合計所得金額」です。

ここで、合計所得金額とは何でしょうか。

まず、年末調整を受ける勤務先の所得(給与所得)だけではありません。他でアルバイトした所得(給与所得)も合計します。

さらに、副業による所得や不動産賃貸による所得や株式などの譲渡による所得などもすべて合計した金額です。所得と損失の通算をする前の額で、もちろん、基礎控除や生命保険料控除などの所得控除をする前の額です。

補足の意味で若干解説いたしますと、所得税の計算は、所得を数種類に分け(このうちのひとつが給与所得です)、それぞれの種類ごとに所得金額を計算しこれを合計した額から、所得控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除など)の金額を差し引いた課税所得金額に税率を乗じます(総合課税)。いっぽう、合計しないで独自に税額を計算するものもあります(分離課税。土地家屋株式を譲渡した所得など)。ざっくり申し上げると、合計所得金額とは、これらの所得の金額をすべて合計した金額です。

国税庁のサイトによれば、『「合計所得金額」とは、純損失、雑損失、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失及び特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除を適用する前の総所得金額、特別控除前の分離課税の長(短)期譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、山林所得金額、退職所得金額の合計額をいいます。』とあります。なんだかわかんないですよね。

なお、後学のためになるかどうかわかりませんが、合計所得金額のほかに「総所得金額等」という用語があります。

国税庁のサイトによれば、『「総所得金額等」とは、純損失、雑損失、その他各種損失の繰越控除後の総所得金額、特別控除前の分離課税の長(短)期譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、上場株式等に係る配当所得の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、山林所得金額及び退職所得金額の合計額をいいます。』とあります。

「合計所得金額」が各種の繰越控除を適用する前、「総所得金額等」が各種の繰越控除を適用した後の総所得金額です。

収入と所得の違い

給与収入と給与所得の差額を「給与所得控除額」といいます。「給与所得控除額」とは、国が定めた給与所得者の必要経費といわれるものです。

給与収入−給与所得控除額=給与所得の関係です。

実は、「給与所得の源泉徴収票」に給与所得の額が記載されています。「給与所得控除後の額」の欄の金額です。

「給与所得の源泉徴収票」に「給与所得控除後の額」の欄に金額が記載されていない場合には、年末調整がされていないことを意味します。摘要欄にも「年調なし」と記載されます。

話を元に戻しまして、配偶者の所得が給与所得のみである場合、合計所得が38万円以下とは「給与収入103万円以下」を意味します。

配偶者特別控除

「給与所得の源泉徴収票」の中段「控除対象配偶者の有無等」の右側の「配偶者特別控除の額」の欄に金額が記載されていたら、配偶者特別控除が適用されています。

配偶者の合計所得が38万円以下ならば、配偶者控除が適用されますが、38万円を超えてしまうと配偶者控除は受けることができず、一定額までは所得の大きさに応じた配偶者特別控除が適用されます。

配偶者の合計所得と配偶者特別控除の額は次のとおりです。

  • 38万円超40万円未満・・・38万円
  • 40万円以上45万円未満・・・36万円
  • 45万円以上50万円未満・・・31万円
  • 50万円以上55万円未満・・・26万円
  • 55万円以上60万円未満・・・21万円
  • 60万円以上65万円未満・・・16万円
  • 65万円以上70万円未満・・・11万円
  • 70万円以上75万円未満・・・6万円
  • 75万円以上76万円未満・・・3万円
  • 76万円以上・・・0円

配偶者が給与所得のみである場合の給与収入では次のとおりです。

  • 103万円超105万円未満・・・38万円
  • 105万円以上110万円未満・・・36万円
  • 110万円以上115万円未満・・・31万円
  • 115万円以上120万円未満・・・26万円
  • 120万円以上125万円未満・・・21万円
  • 125万円以上130万円未満・・・16万円
  • 130万円以上135万円未満・・・11万円
  • 135万円以上140万円未満・・・6万円
  • 140万円以上141万円未満・・・3万円
  • 141万円以上・・・0円

扶養控除

「給与所得の源泉徴収票」の中段「配偶者特別控除の額」の右側の「控除対象扶養親族の数(配偶者を除く。)」に、扶養控除が適用されている人数が記載されていたら、扶養控除が適用されています。

扶養親族の合計所得が38万円以下(給与収入のみである場合には給与収入103万円以下)ならば、扶養控除が受けられますが、38万円(給与所得のみの場合には給与収入103万円)を超えてしまうと、扶養控除は受けられません。

配偶者控除や扶養控除の誤りに気付いたときの確定申告

年が明けて配偶者や他の扶養親族の所得が判明して、年末調整のときの申告が結果として誤っていたと判明したら早めに確定申告を行って税金を納付すべきです。

もっとも、夫婦間や親子間にはさまざまな事情があるため、必ずしも配偶者や扶養親族の所得の状況を正確に把握するということは困難なことも考えられます。

誤りの発覚と顛末

年末調整後と住民税の決定

勤務先は1月末までにご本人の居住する市区町村に、前年中に支払った給与について「給与支払報告書」を提出します。「給与支払報告書」の内容は「源泉徴収票」と同じ内容です。給与支払報告書は、年末調整したかしないかにかかわらず、転職や退職をした(前)勤務先にかかわらず提出することになっています

その後、ご本人が確定申告を行う場合には、3月15日までに行い、その結果、ご本人の前年の所得金額が確定します。所得税の確定申告は住民税の確定申告も兼ねるため、その情報は居住する市区町村にも伝達されます。

居住する市区町村は、ご本人の前年の所得金額に基づいて住民税の計算を行い、勤務先に「今年は毎月この金額を給料から天引き(特別徴収)してください」と通知します。

誤りの「発覚」

いっぽう、配偶者や他の扶養親族の勤務先も、居住する市区町村に対して、前年の給与の支払いにつき、源泉徴収票の情報とほぼ同じ「給与支払報告書」を提出します。市区町村はこれに基づいて、配偶者や他の扶養親族の住民税の計算を行います。

さて、配偶者や他の扶養家族は、少なくとも住民票上は同居していることから、住民税の計算の時、あるいは事後的に、ご本人の前年の年末調整(または確定申告)での配偶者控除(または配偶者特別控除)や扶養控除の状況と、配偶者や扶養家族の所得とを照合します。

ここで誤りが「発覚」します。

税務署から勤務先への通知

確定申告の場合には、「税務署から市区町村へ」の流れですが、この場合には「市区町村から税務署へ」の流れとなります。

そして、本人の勤務先に「この従業員の配偶者控除(配偶者特別控除、扶養控除)が間違っているので、年末調整し直して、不足している税額を納税してください」と通知が来ます。

なぜ本人ではなく勤務先に来るのでしょうか。それは、勤務先は従業員に支払う給料について所得税等を源泉徴収して納付する義務を負っているからです(源泉徴収義務者)。

そこで、勤務先が不足している所得税の額を計算して先に税務署に納税し、その額を本人から徴収するのです。

ちなみに、税務署はこの通知で、誤りがあった従業員について、過去数年分も調べて不足している税額があったら納付するよう求めています。

勤務先から指摘され、不足した所得税額を徴収された段階ではじめて誤りに気付くこともあります。いずれにしても、税務署から勤務先への通知は(申告)所得税の納期限である3月15日から相当期間経過してからなので、不納付加算税や延滞税が課されることがあります

勤務先で「ネガティブな材料」とされないためにも、誤りに気付いた場合には早めに自ら確定申告をして納税することをオススメします。

(おわり)