( 4 )減損や資産除去債務などへの対応

会計上の減価償却を、法人税法の規定とまったく同じにしていても、会計と税務が乖離せざるをえないことがあります。

ここでは、減損処理をしなければならない資産、資産除去債務相当額を加算しなければならない資産、会計上は費用処理するものの、税務上は減価償却資産としていなければならない資産について、その管理についてコメントさせていただきます。

会計帳簿ではなく、データベース上での処理

会計帳簿で重要なものの一つに「検証可能性」があります。「この計上された金額はどう算定されたのか」ということです。 固定資産関連については、固定資産台帳から出力された資料がその基礎となります。 固定資産台帳は、すべての固定資産について一律になされているため、秩序性や網羅性の点でも担保されています。 このため、固定資産台帳だけをもって、帳簿上計上された金額を実証できればそれが最善に近いということになります。

たとえば、固定資産台帳の「当期償却額」も、会計上では、売上原価になっていたり製造費用になっていたり営業外費用になってちらばっていますが、キチンと集計すればピタリ一致することを示せればよいのです。

ウラを返せば、固定資産台帳で算定・集計された金額を会計帳簿に忠実に反映させるということです。

ここで、固定資産台帳は会計帳簿そのものではありません。求められるのは、秩序性や網羅性と正確な数値の算定です。だとすると、期中に生じるイレギュラーな事案については、正確な計算のために期首から遡ってデータを変更し、その秩序性や網羅性を維持していくことが重要だと考えられます。イレギュラーな部分は台帳とは別のところで管理・計算し、「これとこれとこれを足すと(帳簿と)合います」というのは安定性という点でもリスクがあると思われます。

そこで、データ管理のひとつのヒントのようなものについてコメントさせていただきます。

減損損失

減損損失の理論的構成は割愛しますが、簿価を2つに分割し、そのうち一つを全額償却して簿価をゼロにするというイメージです。

たとえば、取得価額10,000、期首減価償却累計額4,000、期中の減損時までの償却費600のを計上した固定資産について、その50%を減損損失にするとします。この場合は、期首の段階からデータベースを2つの資産に分割してしまいます。

あくまでデータベースであり、会計帳簿とは切断されているので、いかようにでもすることができます。要は、会計帳簿で処理する正確な数値を算定するのがデータベースであり、逆に、会計帳簿の数値の内訳を正確に示せるのがデータベースなのです。

つまり、減損前ではデータベース上も普通に管理していたひとつの固定資産を、期首から遡って取得価額5,000、期首減価償却累計額2,000のふたつの固定資産について、期中で償却費を300ずつ計上していたとするのです。つまり、期首の帳簿価額は3,000(=5,000-2,000)、減損直前の帳簿価額は2,700(=3,000-2,000)が2つあることになります。

そして、減損損失を計上して、ひとつを2,700を減損損失とします。つまり、減価償却費とするのです。この結果、減損損失後は、期首簿価3,000、当期の減価償却費3,000(うち、2,700は減損損失)、期末簿価はゼロとなります。ただし、除却しているわけではないので、取得価額5,000、期末減価償却累計額5,000はそのまま残します。

いっぽう、減損されなかった部分のその後の償却費は通常どおりとなります。取得価額も分割しているため、取得価額を基礎に算定する定額法でも容易に計算ができるはずです。もし、減損後で期末までの償却費が50だとします。すると、この減損されなかった部分は、期首の帳価は3,000(=5,000-2,000)、減損までの償却費は300で、減損直前の簿価は2,700(=3,000-300)、減損後の減価償却50を計上して期末の簿価は2,650(=2,700-50)となります。

これをひとつの資産としてみると、取得価額10,000で期首減価償却累計額4,000(期首簿価は6,000)の固定資産を、期中の減損時までの償却費が600、減損損失2,700、減損後の償却費が50とすると、期末簿価は2,650(=6,000-600-2,700-50)となります。同じことになるのは当たり前と言えば当たり前ですが・・・

そして、この資産がその後減少(除却や売却)したときは、データベース上は2つの資産となっているため、2つとも同時に処理を行います。

さて、減損の対象となった資産を2つに分ける利点は、減損後の残余の部分の償却費を正確に算定するためだけではありません。

減損された部分は、税務上は過大に償却費が計上されていることになります。つまり、法人税の申告で償却超過額として固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)で自動的に計算させるため、そして、その後の事業年度でその償却超過額が徐々に認容されていくのをキチンと自動的に計算させることにあるのです。こちらのほうが実は重要なのです。

資産除去債務の取得価額算入分

新規に取得した固定資産について、資産除去債務相当額がある場合には、最初から資産を、通常の固定資産の取得価額に相当する部分と、資産除去債務の取得価額に追加する部分の2つに分割します。

既存の固定資産について、期中に資産除去債務相当額を追加する場合には、期首から資産除去債務が存在していたかのように会計データベースを調整して、この部分の期中の減価償却費の計算します。

基本的には、会計上の減価償却費はどちらもまったく同じに計算されるため、減損の場合と異なり、少なくとも会計上は2つに分ける必然性がありません。

しかし、その後の資産除去債務の見積りの変更によって、固定資産の帳簿価額自体が変動することがあります。その際に、資産を一つとして管理していると、面倒な処理となってしまいます。このため、最初から2つに分けて管理してしまえば、その後の変動があった場合でも、資産除去債務相当分の入れ替えによって対応できるからです。

2つに分けるもう一つ重要な点は、法人税の申告です。つまり、資産除去債務に係る部分の減価償却費は、法人税法上は全額損金に算入されません。その理由は、もしこれを損金の額に算入してしまうと、予測に基づく費用が損金になってしまうため、法人税法を貫く債務確定主義に反するからです。

このため、通常の取得価額となる部分と分けて考えなければならないのです。具体的には、資産除去債務に係る部分の取得価額について、税務データベース上で毎期の償却限度額をゼロと手修正するのです。これにより、この部分に関する減価償却費は常に償却超過額となります。

そして、この資産がその後減少(除却や売却)したときは、データベース上は2つの資産となっているため、2つとも同時に処理を行います。

税務上だけ管理する固定資産

会計上は費用計上したものの、税務上は固定資産として処理しなければならないものがあります。

会計上は費用として処理するため、会計データベースでは登録されませんが、税務上は固定資産として登録する必要があります。

この場合の税務データベースの登録ですが、会計上で全額費用処理をした事業年度に、費用処理した額のうち税務上は減価償却資産として取り扱われる額を取得価額とします。取得時期(償却開始時期)は費用が発生した日でよいと思います。償却方法は法人税の申告で適用される方法で、耐用年数はその資産とされる種類の法定耐用年数とします。そして、「当期償却額」を取得価額全額にします。つまり、期末簿価をゼロとします。

これにより、固定資産として登録はされているものの、取得時の事業年度で全額償却してしまったために簿価はゼロとなり、そもそも固定資産として扱わず全額費用とした会計処理と同じにするのです。

では、このようなことをしていったい何の意味があるのでしょうか。

固定資産として計上し、取得価額について取得時の事業年度で全額減価償却費として計上すると、法人税法で規定する当期の償却限度額を超過していることになり、その部分は法人税の申告書上損金の額に算入されません(償却超過額)。しかし、償却超過額は、その後の事業年度で年々認容され、法定耐用年数終了時にはゼロになります。このことを、会計の背後で捉えておく必要があるのです。背後と申し上げましたが、税効果会計を入れれば背後でもなんでもありません。

ちなみに、費用処理をした会計上の勘定科目が「減価償却費」でないことは何ら関係ありません。法人税法上は、科目の名称や表示区分は問いません。

なお、このような資産の存在により、会計データベースと税務データベースでは、合計額ベースで「取得価額」「減価償却累計額」で差異が生じることになります。しかし、この差異は必然的に生じるものであり、容易に説明がつくものです。

余談ですが、このような資産は、償却資産税の対象ともなりうるものなので、検討する必要があります。

( つづく )