( 5 )法人税申告用データベースの作成

法人税申告用データベースとは、会計データベースと税務データベースをドッキングさせたものです。

それは、会計データベースで算定された会計上の減価償却費を、税務データベースに転記することによって、会計上の減価償却費と税務上の償却限度額との差額(償却超過額、償却不足額)を固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)で計算させるものです。

会計データベースの完成

決算にあたって、あらためて会計データベースの計算を行います。

最終的には、何の計算式も入っていない単純な1枚のワークシートだけで、フィルターや集計によって、さまざまなデータを集計し、また、チェックができるということが大切です。

期中の動きのチェック

期中の動きについては、あらためて整理しましょう。

  • 期中に取得した固定資産
  • 期中に減少(売却、除却、減損)した固定資産
  • 期中に転用した固定資産
  • 期中に部門変更した固定資産

部分除却や、減損処理、資産除却債務相当額については、期首残高あるいは取得時からひとつの資産を2つ以上に分割しておきます。

当期償却額の計算のチェック

会社独自の減価償却を行うため固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)上で計算が行えない場合には、エクセルなどでの計算が正しく行われているかを再確認します。とくに、1円未満の端数処理が適切に行われているかどうかをチェックしましょう。

会社の減価償却の方法を法人税法の規定による償却方法で行う場合には、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)にデータを読み込ませて計算させます。 この場合、ソフトによっては、期中減少処理については、いったんデータを読み込ませたあとでソフト上で処理を行う必要がある場合があります。

いずれにしても、処理が終わってからエクセル等にデータを落として、期中増減分を検算するとよいでしょう。

部門が振り替わったときなど、ソフトの設定によっては、振替前の部門や振替後の部門に全額が割り当てられてしまう場合がありますのでチェックしましょう。また、エクセル等で計算する場合、双方で端数が調整されてしまい、部門間振替がない場合の額よりも2円少なくなってしまってしまうことがあります。

当期償却額の集計額のチェック

そして、データベースで計算された「当期償却額」が、会計上計上された減価償却費と一致しているか確認します。販売費及び一般管理費の「減価償却費」と製造費用の「減価償却費」だけでなく、他の表示項目で計上されている場合にはそれも含めて確認します。

たとえば、減損損失を計上した場合、データベース上ではすべて「当期償却額」としていても、減損前までの通常の償却費と減損損失は使用する勘定科目が異なります。

このためには、エクセル上で列を挿入し、当期償却費がどんな勘定科目で仕訳されているかを入力することによって、フィルター処理でサッと確認することができます。

修正仕訳

万が一、すでに会計処理した金額と違いがあった場合には、適切に修正しましょう。

この場合の会計処理は、正しい額との差額を計上する「差額補充法」ではなく、当初の仕訳を全額修正する「洗替法」によるべきです。

そして、洗替法でも、貸借をひっくり返す反対仕訳よりも、金額をマイナスにする仕訳の方がよいと思われます。

また、オリジナルの仕訳ではキチンと処理したはずの消費税の処理が、このテの仕訳で消費税の自動計算にいたずらされてしまうことがありますのでご注意ください。

税務データベースの仕込み

つづいて、税務データベースを作成します。

税務データベースは、必ず固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)で作成します。

ソフトに読み込ませるデータの項目は、法人税の申告で選択した減価償却方法(別段の選択をしなければ、建物以外の有形固定資産は定率法です。)とし、耐用年数は法定耐用年数を使用します。

そして、絶対に間違ってはならないのは、期首簿価には税務上の簿価をもってくることです。つまり、「会計上の期首簿価+償却超過額」です。期首で償却不足額がでている場合には、そのまま会計上の期首簿価を使用することにご注意ください。

会計上の簿価を入力して読み込ませても、もちろん数字は出てきますが、まったく意味のない数値となります。とにかくご注意ください。

会計上は費用処理したため、会計データベースでは固定資産となっていないものの、税務上は固定資産としなければならないものについてもモレのないようにします。

会計データベースと税務データベースを並べる

さて、ここで、両データベースを並べます。要は、資産の数が異なるため行がズレているものを補正します。

なぜわざわざ並べなければならないのでしょうか。それは、法人税申告データベースを作成するときに、一発でコピー&ペーストできるからです。

私のアナログなやり方をご紹介します。

  • (数が少ない)会計データベースのワークシートに、税務データベースのワークシートを張り付けます。
  • 税務データベースのデータを資産番号、資産名、取得時期、取得価額を除いて非表示にします。表示データを少なくすることで、データをすべて切り取るときに右スクロールする手間が省けるからです。
  • 数列を新たに挿入し、セルに数式を入れます。資産名どうしを比較するIF関数を入れて一致したらOKのように設定します。同時に取得価額どうしを比較する引き算を入れます。資産名を比較するのは、取得価額が同じものが何行も続くことがあるからです。IF関数は半角と全角の違いでもOKにならないので、ここで統一しましょう。
  • 会計データベースと税務データベースの資産が一致している場合には、OKと 0 が最後まで続くことになりますが、そんなことは通常ありません。ズレが生じた行があるとその下はすべてズレています。
  • このときに、一致するだけ行を挿入します。すると、税務データベースのデータもその分間隔が空いてしまうので、データ全体を選択して上に詰めます。ここで、先ほどの非表示にしたのが効いてきます。データ全体の選択はマウスではなく、シフトと矢印キーで行いましょう。
  • 一番最後まで到達したら、会計データベースと税務データベースは無事並んだことになります。

法人税申告用データベースの作成

すでにさんざん申し上げておりますが、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)では、他のソフトと同様に、テキスト形式やCSV形式のデータをそのまま読み込ませることができます。

そして、標準設定として、ある項目について「空欄」すなわち数値等を何も入力しない場合には、ソフトで標準に設定された方法で計算を行います。

たとえば、「事業供用日」の項目を空欄にすれば「事業供用日は(資産)取得日と同一だ」として処理されます。

とくに重要なのは、「当期償却額」すなわち各資産について会計上計上した減価償却費の額の欄を空欄にすると、「償却限度額」すなわち各資産の当事業年度における損金となる償却費の最高額が「当期償却額」となることです。

つまり、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)は、各資産の減価償却費の額について、税務上損金として認められる償却限度額が会計上の減価償却費となるように設定されているのです。

逆にいえば、固定資産管理ソフト(減価償却ソフト)にデータを読み込ませるときに、「当期償却額」の欄に、あらかじめ会計データベースで計算した償却額を入力すれば、償却限度額はソフトのほうで自動計算するので、結果的に、各資産について償却超過額や償却不足額が出てくるのです。

微調整

会計データベースでは固定資産となっていないが税務上は固定資産としなければならないものについては、その取得時のデータベースでは「当期償却額」を取得価額と同額にします。すなわち、取得価額を全額減価償却したものとします。これにより、会計上は全額費用処理したことと同じになります。なお、この処理をすると、会計データベースとこの金額だけ差異が生じます。ただし、この差異の原因はここだとサッと説明できれば十分です。

資産除却債務に係る取得価額については(データベース上は本来の取得価額とは分離してあたかも2つの資産のようになっています。)、ソフトで自動計算されてしまう償却限度額をゼロにします。これによって、会計上で計上する減価償却費はすべて損金の額に算入されないことになります。

( おわり )