( 4 )予測損益計算書の作成 Part1

フリー・キャッシュ・フロー算定のための予測損益計算書は、フリー・キャッシュ・フローの重要な算定要素が「税引後営業利益」であることから、営業損益項目を検証することと、法人税等の額を計算経済性を考慮しながら可能な限り厳密に計算します。このことは、各予測事業年度末における未払法人税等の額の精緻化を通じて、フリー・キャッシュ・フローの算定要素である「運転資本の増減額」の精度を高めます。

フリー・キャッシュ・フロー算定のための予測損益計算書の構成

  • 売上高
  • 売上原価(償却費を除く)
  • 減価償却費(非現金支出費用)
  • 売上総利益
  • 販売費及び一般管理費(償却費を除く)
  • 減価償却費(非現金支出費用)
  • 営業利益
  • 受取利息
  • 受取配当金
  • その他営業外収益
  • 支払利息
  • その他の営業外費用
  • 経常利益
  • 特別利益
  • 特別損失
  • 税引前営業利益
  • 法人税等
  • 当期純利益

減価償却費については、フリー・キャッシュ・フローの算定要素として重要な「非現金支出費用」であるため独立した行としています。より厳密に考えますと、棚卸資産に含まれる減価償却費相当額を考慮すべきかどうか検討することになります。

また、シミュレーション上に重要な影響を与えるものについては適宜独立した行を設定しています。 たとえば、減価償却費については、既存の固定資産の減価償却費を計上する行と、予測事業年度中の設備投資に係る減価償却費を計上する行を2行建てにしています。支払利息についても、現在の借入金の支払利息を計上する行と、予測事業年度中の新規借入金に係る支払利息を計上する行を2行建てにしています。

営業利益はともかく、売上総利益、経常利益、税引前当期利益、法人税等、当期純利益は、本来ならフリー・キャッシュ・フローとは無関係なものですが、事業計画において、これらの数値が諸般の事情で動かすことができず、ボトルネックとなっているときに、シミュレーション上のなりゆきの数値とのズレを把握するためのものです。この場合には、このズレを調整するための行を挿入し、その調整額の動向をチェックできるようにします。

法人税等の算定

法人税等の算定については、詳細に行えばキリがないため、計算経済性を勘案することになります。最低限に押さえたほうがよいと思われる点について申し上げます。

課税所得の計算

予測損益計算書の税引前利益から出発して、税務調整項目を加減算して課税所得を算出します。税務調整項目をどこまで考慮するかは事業計画の内容や調整項目の重要性(内容や金額)によりますが、事業税(外形標準課税)及び地方法人特別税、繰越欠損金については法人税等に重要な影響を与えるので、ワークシート上に反映できるようにします。その他、過去の法人税申告書等から税務調整の状況を把握し、交際費や法定とは異なる減価償却費、受取配当金の益金不算入額なども事業計画の精度に応じて適宜ワークシートに取り込みます。

計算項目

計算する税目は、法人税、地方法人税、事業税(外形標準課税の場合には、付加価値割(報酬給与、純支払利子、純支払賃借料)及び資本割)、地方法人特別税、法人税割(都民税、道府県民税、市区町民税)、均等割です。

各税目について、予測貸借対照表の負債の部に掲記される期末未払法人税等の額を算定します。このうち、事業税と地方法人特別税の期末未払分は、翌期に損金算入されることになるので、税務調整項目とします。また、すべての税目について、次期の予定納税額をワークシートで計算します。これにより、次期以降の期末未払法人税等の額の精度を向上させるとともに、同じタイミングで損金算入となる事業税の予定納税額を把握します。

受取利息や受取配当金に係る源泉所得税や復興特別所得税の控除や、外形標準課税での付加価値割(報酬給与や純支払利子、純支払賃借料)などについても、その金額の大きさや事業計画の精度や計算経済性に応じて判断します。

事業計画上で従業員数が変化したり、資金調達で増資を行う場合には、均等割や資本割に影響を及ぼすため可能な限り反映させます。

中小法人の場合の課税所得が一定額未満の場合の軽減税率(法人税、事業税所得割)、東京都の場合などの超過税率が適用される場合、所得金額は少ない場合の事業税の軽減税率、法人税額が少ない場合の外形標準課税を除く各税目の予定納税はこれを数式で反映させます。

なお、課税標準は千円未満切り捨て、税額は百円未満切り捨てなど、実際の税額算定に忠実にしています。

営業利益の内容の吟味

フリー・キャッシュ・フローのもっとも重要な算定要素がNOPLAT(税引後営業利益)です。営業利益の範囲、すなわち、「どこからどこまでが営業利益か」がポイントになります。基本的には会計上の営業利益を出発点とすることになりますが、内容をよく検討すべきだと思われます。

そこで、フリー・キャッシュ・フロー算定のための予測損益計算書の作成にあたっては、営業損益項目(売上高、売上原価、販売費及び一般管理費)の内容を吟味し、営業外損益と思われるものや逆に営業外損益のなかに営業損益項目のものがないかどうか検討します。

たとえば、営業外収益で処理している不動産賃貸料収入があるとします。この賃貸料収入に係る租税公課等については販売費及び一般管理費費で処理されていることも少なくありません。この場合には、収益と費用が営業損益をまたいでしまっています。この場合、事業用収入とするのであれば、事業価値等を算定するための事業計画では、営業外収入から売上高に組み替えることになるでしょうし、事業用収入としないのであれば、販売費及び一般管理費に含まれる営業外収益に係る費用を営業外費用に組み替えることが望ましいことになります。

企業価値とは事業価値の額に非事業資産(余剰現預金、余剰投資有価証券など)を加えたものですが、この事業用資産と非事業用資産の区分もまた、営業損益項目とするかどうかの判断、または、なにがしかの合理的な理由づけに影響を与えると思われます。たとえば、非事業資産のうち遊休固定資産に係る租税公課等は営業損益項目を構成してもよいのかという考え方もあると思われます。

このほかにも、会計上は営業外損益として処理されてきたもののうち、実質的には営業損益を構成するものがないか、あるいは、その逆がないかどうかを検討することになります。いずれにしても、会計上の営業損益と異なる場合には、異なることにつき説得的な理由づけをする必要があると思われます。

鋭い方はもうお気づきかと存じますが、「価値を高めたい」という意思が働くと、営業損益の構成要素を拡大したいという方向へ、「価値を低めたい」という意思が働くと、営業損益の構成要素を縮小したいという方向へいくのではないでしょうか。いずれにしても、財務会計といいますか制度会計上の営業損益項目と異なる場合には一定の合理的説明が必要と思われます。もっとも、そもそも価値の評価という異なる次元のお話であって財務会計に過度に縛られる必要性はあるのかという考え方もあるかもしれません。

( つづく )