( 5 )予測損益計算書の作成 Part2

将来の計画を策定して作り上げる方法と、過去の実績から想定される予測値から作り上げる方法があります。

過去の実績から想定される予測値を出す場合には、まずは過去の実績の分析から始め、将来の損益予測を「過去の実績から想定したなりゆき」で行います。 流れとして、まずは「なりゆき」の状況を把握し、そのうえで、「意思」を付け加えるか否か、付け加えるとしてどの程度かの検討をするのが順序的にはよいのかなと思われます。

既存の固定資産の減価償却費や既存の借入金の支払利息については、予定値を入れることになるため、それ以外の項目について検討することになります。

余裕があれば、予測貸借対照表の残高も考え、年次の予測損益計算書を四半期または月次に分割すべきかも考えます。

売上高

売上高については、たとえば製造業であれば販売数量や販売単価の予測に加えて、新製品投入や生産計画も考慮に入れながら将来の予測を立てることになります。

ここでは、売上高について過去の推移から将来のデータを予測する方法を検討します。私は、Excelのグラフ機能で売上高と各費用項目との関係の近似曲線を選択し、その近似曲線の式によって、将来の売上高を試算しています。

部門や事業部別の売上高が把握できるためには、それぞれについて試算することになります。

  • ある列に事業年度(過去数年間と予測事業年度数年分)を入力し、その右の列に過去の事業年度の売上高を入力します。予測事業年度は空欄です。
  • 範囲を囲んで右クリック、グラフを選びます。
  • グラフの形式は「折れ線」を選びます。
  • 「OK」をクリックするとグラフが出てきます。ここで、グラフの右横の「+」マーク(グラフ要素)をクリックし、「近似曲線」のところにマウスを当てると右サイドにマークが出てきますのでこれをクリックすると、「線形」「指数」「線形予測」「2区間の移動平均」「その他のオプション」が出ます。
  • 「その他のオプション」をクリックすると「近似曲線の書式設定」が出ます。項目の一番下の「グラフにR-2乗値を表示する」のボックスにチェックマークを入れます。すると、グラフ(たぶん最初は線形近似)にR-2= 0.980などの値が表示されます。R-2乗値とは、近似曲線の予想値が実際のデータにどの程度近いかを示す値です。R-2乗値が1に近づくほど、近似曲線の精度が高くなります。
  • そして、指数近似、線形近似、対数近似、多項式近似、累乗近似を選択しながら、R-2がもっとも1に近い近似を選択し、「グラフに数式を表示する」を選択します。
  • グラフに数式が表示されたら、グラフ上の数式をクリックします。すると、「ラベル・オプション」と「文字のオプション」が出てきます。
  • ラベル・オプションの下に4種類のイラストが出ていますが、一番右の縦棒(ラベル・オプション)をクリックすると表示形式の変更になります。カテゴリを「標準」から「ユーザー設定」にし、「表示形式コード」の「G⁄標準」を消して「0」を16個入力し、右の「追加」をクリックします。そうすると、数式で「1E」などとなっていたものが、細かく表示されます。
  • この数式をシートのどこかのセルにコピー&ペーストします。さらに、数式の数値の部分をどこかのセルにコピーします(私は数式を数回コピペした後に、必要以外の部分を削除しています。)。
  • ある列に1、2、3・・と数字を下に入れます。その右隣のセルに、Xを1、2、3・・のときのYの値を関数で求めます。なお、隣の列にROUND関数を入れて、1円未満の端数はゼロとします
  • これにより、近似した関数による過去の数値から将来の数値を算定できます。

線形近似曲線は、単純な線形の関係を持つデータに適した直線で、対象が一定の割合で増加または減少していることを示します。 対数近似曲線は、データの変化率が急速に増加または減少した後、横ばい状態になる場合に適しています。 多項式近似曲線は、データが変動する場合に適した曲線です。 累乗近似曲線は、特定の率で増加する計測値を比較するデータセットをグラフにする場合に最適な曲線です。 指数近似曲線は、データ値の増加または減少の割合がしだいに大きくなる場合に最適な曲線です。

なお、移動平均近似曲線は過去のデータのパターンや傾向をより明確に把握したいときに適していますが、R-2乗値や数式が表示されないため、将来の数値を算出することができません。

近似曲線を選択する際に、R-2乗値がいちばん1に近くても採用できないことがあります。たとえば、ずっと売上高が下降基調のときに、いったん震災で落ち込んだあとに若干持ち直した場合です。このとき、多項式近似を用いると、直近の持ち直しがものすごいV字回復となり、予測事業年度が凄まじい売上高の上昇率となり非現実的になることがあります。

ただし、注意しなければならないのは、過去の実績から将来を予測したことが絶対であるはずはありません。 しょせん、過去は過去、将来は将来です。「恣意性を可能な限り排除して作りました」程度にしかならないのかもしれません。

売上原価

販売計画がある場合には、売上原価について妥当性を検討します。たとえば、製造業の場合には、売上原価よりも、製造費用と在庫で捉えた方がより精度が上がると思われます。製造業の場合には、販売単価と販売数量で売上高が決まりますが、そのコストとなる売上原価について、その数量や製造コストに矛盾がないかどうかも検討します。

これとは別に、過去の実績から予測する方法があります。「売上高と売上原価の関係を近似曲線分析して将来を予測する」方法や「過去の事業年度の売上原価率から想定する」方法などがあります。

「売上高と売上原価の関係を近似曲線分析して将来を予測する」には、上記の売上高の場合と同じですが、次のような変更をしています。

  • ある列に事業年度(過去数年間と予測事業年度数年分)を入力し、その右の列に過去の事業年度の売上高を入力し、さらにその右の列に売上原価を入力します。予測事業年度は空欄です。
  • グラフは「散布図」を用います。
  • 上記のように予測された予測事業年度の売上高を近似曲線の算式にあてはめて、各事業年度の売上高に対する売上原価を算定します。

将来事業年度の売上原価(率)については、将来にわたる原価削減効果も加味することもできますし、基準となる過去の事業年度の売上原価率を採用するにあたっても、「直近の事業年度の売上原価率」を用いるか「直近の数事業年度の売上原価率の平均値」を用いるかによっても異なる結果となります。

販売費及び一般管理費

まず、減価償却費等については、既存の資産の減価償却予定額と、予測事業年度中の設備投資計画から計上します。

過去実績の分析にあたっては、対前期比率や対売上高比率でデータを出します。ただし、費用の中には、売上高とは必ずしも比例的関係にないものも少なくありません。人件費、広告宣伝費、研究開発費、租税公課、保険料、賃借料などです。 また、売上高ではなく、他の費用項目と一定の比例的関係にあるものもあります。たとえば給与に対する法定福利費や福利厚生費などです。

性質が同じものについてグルーピングします。たとえば、賃借料など売上高とは比例関係にない固定費を除いた費用をグルーピングして売上高を近似曲線分析するという方法が考えられます。また、グルーピングにあたっては、売上高との(比例的)関係の類似性ばかりではなく、予測貸借対照表の未払金残高などの予測に資するようにします。たとえば、いつも口座振替で行われている費用については、未払金残高は存在しませんので別個にするとよいと思われます。別個にしないと、予測貸借対照表の未払金残高の予測で、そもそも口座振替で未払金を構成しないはずの費用が混入してしまうことになります。

事務所移転や増設が予定されている場合には、移転前後での賃借料の増減を織り込むことになります。

営業外損益、特別損益など

フリー・キャッシュ・フローがNOPLAT(税引後営業利益)から出発するため、営業外損益や特別損益はあまり重要な要素とななりませんが、(予測貸借対照表の)運転資本の増減額を通じてフリー・キャッシュ・フローに影響を与えることになります。

営業外損益のうちにフリー・キャッシュ・フロー算定上は営業利益とすべきものがあるかどうかの検討をします。既存の借入金の支払利息は返済予定表から予定額を計上することになります。

特別損失には事業所移転や設備取替などの場合の特別損失(原状回復費用や取り壊し費用や売却損益など)も織り込みます。

予測損益計算書をさらに分割するかどうか

基本的には、予測損益計算書は年次ベースで作成します。損益計算書はフローなので、事業年度の期間損益を表しています。

いっぽう、予測貸借対照表も年次ベースで作成しますが、貸借対照表はストックなので、各事業年度末の財政状態を表します。そして、貸借対照表の各項目の残高も、基本的には期末月付近の取引に係る部分の売掛金や買掛金、未払金であるのが一般的です。

ここで、右肩上がりの予測損益計算書をイメージすると、「右肩上がりは事業年度中も同じだ」とすると、期首月よりも期末月のほうが売上高や費用は多いと考えられます。とすれば、これを予測貸借対照表の各項目の残高に反映させるほうがより予測値の精度が上がると考えられます。

このように、年次ベースの損益を予測できたなら、事業年度を四半期または月次で分割して(フリー・キャッシュ・フローの算定を意識した)予測損益計算書を作成すべきかどうか検討します。

これが可能になると、予測損益計算書も売上高の期中の季節的変動なども織り込むことができ、予測貸借対照表も四半期ベースや月次ベースとなり、年次で行う場合の「売掛金残高は予測事業年度の年間売上高の何%」よりも精度が高まります。また、資金ショートと資金調達のタイミングもより正確になり、新規借入金に伴う借入金利息の計上もより適正になります。そして、現預金残高に含まれる非事業用資産である余剰現預金残高もより正確となります。このあたりが意外に企業価値や株式価値に重要な影響を与えたりするのです。

ただ、現実問題として、このような月次に分割などは「もろもろ事情により制約があって数字を動かせない」「予測残高についての仮定があまりにもムリがある」という場合の調整項目という性格が強いと思われます。

ところで、事業価値や企業価値、株式価値の算定にあたり、割引率で割り引いた(ディスカウント)数値は期末にキャッシュ・フローが発生したと仮定していますが、期央(中間決算日)で発生したとして期央調整をする方法があります。予測損益計算書や予測貸借対照表を月次ベースまで分割して細かく作成すると、この期央調整をするほうがより合理的だという考え方もあると思われます。ただし、期央調整は価値の額がより大きくなるため、どのようなポジションで価値を算定するかによって採用するかしないかの判断が異なると考えられます。

( つづく )