( 6 )設備投資計画と減価償却

将来の計画を策定して作り上げる方法と、過去の実績から想定される予測値から作り上げる方法があります。

設備投資額はまさに現金の流出なのでフリー・キャッシュ・フローを減少させる効果があります。いっぽう、これに係る減価償却費は、会計上、現金流出によって得た設備を耐用年数にわたって費用化するもので、現金支出を伴わない費用です。減価償却費によって利益(課税所得)を減少させることにより法人税等の負担が減少させます。よって、減価償却費はフリー・キャッシュ・フローを増加させる効果があります。

減価償却費は、各予測事業年度の予測損益計算書に反映されます。よって、減価償却費をどれだけ発生させるか、つまり、減価償却の基礎となる固定資産を事業の用に供したタイミングがいつか、その前提として、その固定資産に係る設備投資をいつのタイミングで行うかによって、予測損益計算書の損益状況はかなり変化することになります。

あらためましてフリー・キャッシュ・フローの算定要素

フリー・キャッシュ・フローとは、企業が事業や投資によって生み出した税引後のキャッシュ・フローをいいます。以下の式で計算します。

フリー・キャッシュ・フロー=NOPLAT+減価償却費−設備投資額±運転資本増減額

このうちNOPLATは(税引後営業利益)は、予測損益計算書で計算するものです。設備投資額と運転資本増減額が予測貸借対照表と関連します。もっとも、設備投資に係る減価償却費は予測損益計算書を通じてNOPLATの値に影響を与えます。

設備投資額はまさに現金の流出なのでフリー・キャッシュ・フローを減少させる効果があります。いっぽう、これに係る減価償却費は、会計上、この現金流出による設備投資額を耐用年数にわたって費用化するもので、現金支出を伴わない費用であり、また、この費用により利益(課税所得)を減少させることにより法人税等の負担も減少させます。よって、減価償却費はフリー・キャッシュ・フローを増加させる効果があります。

設備投資と減価償却の関係

キャッシュ・フローの流れからすると、投資の目的となるハードやソフトの稼働までのキャッシュ流出は、会計上は資産(建設仮勘定やソフトウェア仮勘定)となり、基本的に一時に費用として処理するのではなく、減価償却によって耐用年数にわたって費用化されます。ただし、少額の設備投資については、法人税法の規定に従い会計上も一時に費用処理されるのが一般的です。そして、ハードやソフトの稼働後の維持管理に係るキャッシュ流出は、会計上も原則として費用処理されます。ただし、いわゆる資本的支出に該当する部分は費用計上は認められません。

さて、投資された設備の取得価額は、事業の用に供した時点から減価償却によって費用化されます。その根拠は、適正な期間損益計算のための費用配分の原則や費用収益対応の原則にあるとされます。各事業年度の減価償却費は、取得価額、減価償却の方法と耐用年数で決定されます。理論的には、減価償却は各企業がその固定資産の利用状況等に照らして行われるべきものです。

いっぽう、法人税法は、課税の公平性や画一化のため減価償却の方法を定めており、固定資産(減価償却資産)の種類ごとに耐用年数(法定耐用年数)を定めています。このため、企業がいかに合理的な減価償却費を計上しても、法人税法上は償却限度額までが損金(税務上認められる費用)として認められるにとどまります。

このため、実務上は、恣意性の排除も含めた自主的な耐用年数を見積もる困難さや計算経済性の観点から、法定耐用年数を適用していることも少なくありません。

企業が(法人税法上とは異なる独自に)行った減価償却費のうち法人税法上損金として認められない部分は、法人税申告書上で(加算)調整されます。会計上の要請から資産除去債務を織り込んで取得価額としている場合には、除去債務相当部分に係る減価償却費は法人税法上は認められないことになります。

すると、会計上の税引前当期純利益と法人税法上の課税所得には乖離が生じるため、課税所得を基礎に算出された法人税等の額は会計上の税引前当期純利益とのバランスが悪くなります。つまり、費用の一部が法人税法上は損金として認められないため、会計上の税引前利益に単純に実効税率を乗じたよりも法人税等の額が大きくなります。

なお、固定資産の償却終了後の残存価額が同じであれば、企業独自の減価償却と法人税法上の減価償却は償却スピードの違いだけということになります。ということは、会計上と税務上のズレは、いずれ解消することになります(期間差異、一時差異)。そこで、このズレが生じている期間に、会計上の税引前当期純利益と法人税等の額とのバランスを調整するのが税効果会計です。

少々(かなり)脱線しますが、同じく会計上は費用でも法人税法上その一部または全部が損金として認められないものとして交際費がありますが、交際費は将来的に解消されるものではなく(永久差異)、税効果会計の対象とはならないのです。

減価償却費と法人税等

キャッシュ・フロー算定のための事業計画を作成しようという場合、その基礎となるのはNOPLATは(税引後営業利益)です。通常は減価償却費は営業損益を構成するため、減価償却費は営業利益に一定の影響を及ぼします。また、NOPLATは「税引後」の営業利益です。

事業計画のうち、既存の固定資産等の減価償却費については、減価償却ソフトなどによって、各予測事業年度における各期の減価償却費を容易に算定することができます。どうしても不確実にして不透明な将来損益ですが、既存の借入金の返済計画(と支払利息)とともに、そうとう精度の高い予測ができるものなので、確実に反映させたいところです。

さて、事業計画上、減価償却費の計上が企業独自の方法によるものであると、各予測事業年度で計上した減価償却費のうち一部は法人税法上は損金として認められません。また、NOPLATは「税引後」の営業利益であるため、先に述べたとおり、事業計画上の営業利益に実効税率を乗じた額よりも法人税等の額は大きいことになります。

事業計画の税引前当期純利益に実効税率を乗じる簡便な方法を採用する書籍も少なくありません。しかし、予測損益計算書のところで、法人税等の額をなるべく正確に算定することの重要性について申し上げましたが、少なくとも営業損益レベルで明らかに税務調整を行う部分についてはこれを織り込んだところで実効税率を乗じることが望ましいと思われます。

これは、フリー・キャッシュ・フローの重要な算定要素である「税引後」営業利益(NOPLAT)をより適正化するばかりでなく、予測貸借対照表の未払法人税等の額の精度を高めます。未払法人税等は流動負債のため、これまたフリー・キャッシュ・フローの重要な算定要素である「運転資本の増減額」にも影響を与えます。さらに、翌予測事業年度の予定納税額などの精度が高まることによって(事業税等の前期末未納額と当期予定(中間)納税額の損金算入)、年間の法人税額の額の適正化と予測貸借対照表の未払法人税等の額の精度を高め、それがさらに翌予測事業年度の・・・という好循環の連鎖が生じるのです。

「細かく検討したところであんまり結果は変わらず大勢に影響ないんだから非効率的な作業だね」ではなく、「なるべく細かく検討したところたまたま結果的に大差ありませんでした」「その後計画に変更があってもそれなりに追従できます」「効率性は労働生産性などである程度解消できます」です。

私も、人件費等のもろもろの預り金、法人税等の計算にあたっての所得税や復興特別所得税や住民税利子割、消費税などについては、フリー・キャッシュ・フローに重大な影響を与えない場合には無視しています。

フリー・キャッシュ・フロー算定のための設備投資計画

まず、事業計画のうち、予測損益(予測損益計算書)が機関決定を受けているなどもろもろの事情で「枠がはめられている」場合、すなわち、予測利益などが変更不能、あるいは、許容される範囲が限定的な場合には、予測損益計算書の減価償却費と設備投資計画(とその減価償却計画)との整合性を検討します。

万が一、そこに矛盾が生じている場合には、計画の修正が可能か、可能でなければなんらかの形で調整を行う(減価償却のタイミングを変更するなど)ことになります。

変更がフリーハンドで可能であれば、どのタイミングで設備投資を行い、また、どの程度の額の設備投資を行うかを検討します。設備投資額はその予測事業年度のフリー・キャッシュ・フローを減少させます。そして、設備投資額に係る減価償却費は予測損益計算書の営業利益を減少させます(ただし、フリー・キャッシュ・フローの計算上は加算され、減価償却費に係る法人税等節約額だけフリー・キャッシュ・フローを増加させます。)。

設備投資のタイミングについては、予測損益の推移との整合性をつけて、懐疑的・批判的分析に対応できるようにします。設備投資の額についても、その額の妥当性について同様に懐疑的・批判的分析に対応できるようにします。

調整のためのヒントのようなもの

いろいろな調整を試みたが八方塞がりの場合には次のような点を検討してみるとよいことがあるかもしれません。

  • 設備投資に係る減価償却を予測事業年度の期首に行うか、期末に行うか、それとも期央に行うかによって、減価償却費が大きく変わることになります。
  • 設備投資と減価償却開始までに「建設仮勘定やソフトウェア仮勘定として計上している期間」や「事業の用に供するための試運転や調整等の期間」を設けることによって減価償却発生額をコントロールできます。
  • つい事業計画では忘れがちですが、設備投資のための支出が先行してその後に減価償却が始まるとは限りません。固定資産の取得と事業の用に供用(減価償却開始)のあとで、この取得に係る未払金の支払があることは多々生じているはずです。よって、減価償却が先行し、設備のキャッシュ流出はその後ということも可能です。未払金として計上して期をまたぐことも考えられます。
  • 設備投資に係るキャッシュの流出は、全額一括して支払うよりも、数度にわたって支払いを行うことが少なくありません。

( つづく )