( 5 )非課税売上と課税売上割合と消費税の申告

課税売上割合が低くなると、消費税の申告で支払った消費税の全額を差し引くことができなくなります(課税売上高が5億円以下で課税売上割合が95%以上の場合を除きます。)。

このため、課税売上割合の正しい算定、その前提となる非課税売上高の正しい把握は極めて重要です。

課税売上割合の落とし穴

課税売上割合は、課税期間の総売上高に占める課税売上高の割合をいいます。

課税売上割合=課税売上高 / 総売上高

課税売上高とは、課税売上高(税抜き)と免税売上高の合計額です。免税売上高とは消費税が免除される(消費税率ゼロ%)という意味です。

総売上高とは、分子(課税売上高(税抜き)+免税売上高)に非課税売上高を加えた額です。なお、不課税取引は含みません。

このため、分母の非課税売上高が大きいと、課税売上割合が低くなります。

当然のことですが、課税売上割合でミスをしないためには、その前提として、課税売上高と免税売上高と非課税売上高が正確に判定・区分できなければなりません。

さて、総売上高に占める非課税売上高の割合が大きくなり、課税売上割合が低下するとどのような問題が生じるのでしょうか

それは、消費税の申告において、売上によって預かった消費税等の額から仕入れ等によって支払った消費税等の額を全額差し引くことができない(より正確には「差し引くことができない額が増加する」)のです

差し引くことができなかった消費税等の額は、経理上は費用となり、所得税法上の必要経費または法人税法上の損金となって所得税等または法人税等を減少させるにとどまります。逆に言えば、その分しか支払った消費税等の額を回収できないということになります

そもそも売上による消費税等の額から支払った消費税等の額を全額控除できるのは例外的

本来、消費税の申告とは、売上によって預かった消費税等の額から仕入れ等によって支払った消費税等の額を差し引いて納税したり還付を受けるものですが、実は、支払った消費税が全額差し引けるのはどちらかというと例外的なものなのです。

支払った消費税が全額差し引けるのは、その事業年度の課税売上高が5億円以下で、かつ、課税売上割合が95%以上である場合に限られます

補足(そもそも免税事業者なら関係なし)

その事業年度の課税売上高が5億円超であっても、あるいは、課税売上割合が95%未満であっても、基準期間(原則として2事業年度前)および特定期間(前事業年度の上半期)の課税売上高が1,000万円以下である場合には消費税の納税義務が免除されます(免税事業者)。ただし、基準期間がない場合であっても、その事業年度開始の日の資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である法人は免税事業者とはなりません。また、特定新規設立法人に該当する場合には、基準期間がなく資本金の額または出資の金額が1,000万円未満であっても免税事業者とはなりません。

なお、上記の基準では免税事業者となる事業年度であっても、消費税課税事業者選択届出書を有効に提出していれば、納税義務者となります。

補足(簡易課税での申告なら関係なし)

消費税の納税義務者であっても、当該事業年度が簡易課税制度による申告となる場合には関係がありません。

消費税簡易課税制度選択届出書の効力が有効で基準期間(原則として2事業年度前)の課税売上高が5,000万円以下である場合には簡易課税制度による申告となるため、売上によって預かった消費税等の額から差し引かれる消費税等の額は実際の額ではなく事業ごとのみなし仕入率を乗じた額となります。

みなし仕入率を乗じた額のほうが実際に支払った消費税等の額よりも大きいことが少なくないため簡易課税制度による申告のほうが有利となりますが、設備投資等で支払った消費税等の額が大きいと簡易課税制度による申告のために消費税を多く納付せざるを得ないことがあります。

消費税簡易課税制度選択届出書の効力が有効でも、基準期間(原則として2事業年度前)の課税売上高が5,000万円超である場合には簡易課税制度による申告はできないため、一般な申告による実際に支払った消費税等の額を差し引くことになります。

課税売上割合の判定ミス

課税売上高が5億円を超える場合には、消費税の申告では支払った消費税の全額を預かった消費税から差し引くことができません。課税売上高が5億円以下であっても課税売上割合が95%未満の場合も同様です。

「95%未満」とは、94.999999・・・%も含まれます。端数を四捨五入できません。

このため、非課税売上を誤って不課税売上や(輸出)免税売上としてしまったり、非課税売上の額の集計を失念すると、課税売上割合は高く算定されてしまい、極めて「深刻」なミスによる「申告」をしてしまいます。

非課税売上高の集計ミス

受取利息は非課税売上の定番でこれのみが非課税売上高となる事業者も少なくありません。一般的に、金融業を主たる事業としていない場合には受取利息の額は僅少です。

ところが、極端な例として、起業した事業年度(年)に設備や先行投資で多額の消費税を支払っている場合で、かつ、消費税の納税義務者となっている場合(簡易課税制度が適用されないものとします)、課税売上がほとんどゼロだと、預金利息(非課税売上)によって課税売上割合が95%を大きく割り込むおそれがあります。この場合、支払った消費税等の額の少なからぬ金額が還付されないことになります

さて、一般の事業者の場合、課税売上割合を低下させる少額でない非課税売上高としては、土地の譲渡収入地代の受取り社宅家賃の受取り貸付金の利息などがあります。

なお、初歩的ですが、土地や有価証券などの譲渡については、会計的(法人税的)な発想から「譲渡益」「譲渡損」の額としがちですが、非課税売上となる額は売却価額(譲渡の対価の額)となります。

なお、初歩的ですが、土地や有価証券などの譲渡については、会計的(法人税的)な発想から「譲渡益」「譲渡損」の額としがちですが、非課税売上となる額は売却価額(譲渡の対価の額)となります。

その他の注意点

課税売上高の計算式の分母である総売上高には、国債等の現先取引債券(売現先)等の譲渡に係る売上高は含みませんが、現先取引債券(買現先)等の取引のうち売戻価額と買収価額との差額に相当する金額は、総売上高に加算します(ただし、その差額が差損となる場合には控除します)。

また、非課税売上高のうち、特定の有価証券等の対価の額は、その譲渡対価の全額ではなく、5%に相当する金額を分母に算入します。

さらに、貸付金、預金、売掛金その他の金銭債権の譲渡も、譲渡の対価の額の5%に相当する額を分母に算入します。ただし、資産の譲渡等の対価として取得した金銭債権の譲渡については分母に含めません。

支払った消費税の控除の方法

課税売上高が5億円以下の場合で、かつ、課税売上割合が95%以上の場合には、支払った消費税等の額を、売上に係る消費税等の額から全額控除することができます。

課税売上高が5億円超の場合は、たとえ、課税売上割合が95%以上であっても、支払った消費税等の額を全額控除することができません。控除できない額は、課税売上割合が低ければ低いほど大きくなります。

なお、普通預金口座を持っていないなどで受取利息(非課税売上)の額がゼロであるような特殊な場合を除き、課税売上割合が100%であることはありません。よって、課税売上高が5億円超の場合には、必ず控除することのできない消費税等の額(控除対象外消費税等)が発生します。

さて、支払った消費税等の額を全額差し引けない場合の控除方法として、個別対応方式と一括比例配分方式があります。

個別対応方式

個別対応方式は、支払った消費税を、「課税売上にのみ要する部分」「非課税売上にのみ要する部分」「課税売上と非課税売上に共通する部分」の3つに区分し、課税売上にのみ要する消費税は全額控除し、課税売上と非課税売上に共通する消費税は課税売上割合を乗じた額を控除する方法です。

ここで、「要する」であって「要した」ではありません。つまり、その年または事業年度の実際の売上に対応していなければならないわけではありません。また、保税地域から引き取る際に支払った輸入消費税は課税売上にのみ要する部分となり、全額控除できます。

このため、非課税売上にのみ要する消費税等の額(たとえば、土地の譲渡に対して支払った仲介手数料に含まれる消費税等の額や、従業員等の社宅の修繕費等に含まれる消費税等の額など)はすべて売上に係る消費税等の額から控除できません。

また、「課税売上と非課税売上に共通する部分」、すなわち、課税売上のみとも非課税売上のみともいえない部分については、課税売上割合を乗じた額のみが控除できるにとどまります。このため、課税売上割合が低ければ低いほど控除できない額が増加することになります。

一括比例配分方式

一括比例配分方式は、単純に支払った消費税に課税売上割合を乗じた額を差し引く方法です。

課税売上割合が高い場合で非課税売上のみに要する消費税等の額が大きい場合には、一括比例配分方式のほうが有利となりますが、課税売上高が低い場合で課税売上のみに要する消費税等の額が大きい場合には、個別対応方式の方が有利になります。

なお、一括比例配分方式を選択した場合には、2年間(事業年度)は継続しなければなりません。

控除できなかった消費税等の額の処理

課税売上高が5億円を超える場合や、課税売上割合が95%未満の場合には、支払った消費税等の額の全額を預かった消費税等の額から差し引くことができません。差し引くことができなかった消費税等の額を控除対象外消費税等といいます。

控除対象消費税等は、法人の場合には法人税の申告での損金、個人事業者の場合には所得税の申告での必要経費となります。

もっとも、必要経費や損金になるタイミングは、消費税の経理方法によって異なります。

税込経理方式の場合

税込経理方式では、預かったり支払ったりした消費税が本体価格とともに損益を構成することになります。このため、控除しきれなかった消費税はそのまま当年(当事業年度)の損金(必要経費)となります。

税抜経理方式の場合

税抜経理方式では、取引価格を本体価格で経理し、消費税等の額は損益を構成しません。控除対象外消費税等は、預かった消費税等(仮受消費税等)の額から差し引くことができない仮払消費税等の額を意味します。たとえば、仮受消費税等の額が100、仮払消費税等の額が80である場合には、全額控除ができる場合には、申告・納付する消費税等の額は20となるところ、実際の申告・納付の額は40であり、20が仮払消費税勘定に残っているという状態となります。

控除対象外消費税等は、まず資産(棚卸資産や固定資産)に係る部分と資産以外(費用など)に係る部分とに区分します。

資産以外に係る部分は当年(当事業年度)の費用(法人の場合には損金、個人事業者の場合には必要経費、以下同じです。)とします。

資産に係る部分についても、当年(当事業年度)の費用にできますが、「当年(当事業年度)の課税売上割合が80%未満」「固定資産の取得に係る部分」「一の資産に係る控除対象消費税額が20万円以上」のすべてに当てはまる場合には60ヶ月にわたって費用とします。なお、資産の取得価額に含めて将来の売上に対する原価(棚卸資産の場合)や減価償却費(固定資産の場合)という形で費用化してもかまいません。

なお、控除対象外消費税を、税抜経理での仮受消費税勘定と仮払消費税勘定との相殺後の額と消費税納付額との差額と混同しがちですが、まったく異なりますのでご注意ください

その他の論点

課税売上割合に準ずる割合の選択

なお、課税売上と非課税売上に共通する消費税について、課税売上割合を乗じた額では実情に即さない結果となる場合には、使用人の数または従事日数の割合、消費または使用する資産の価額、使用数量、 使用面積の割合などの合理的な基準(課税売上割合に準ずる割合)を乗じた額を控除することができます。課税売上割合に準ずる割合は、全社的に一律ではなく、事業の種類、発生する費用、事業場の単位ごとに適用することができます。

なお、たまたま土地の譲渡(非課税売上)があったことにより課税売上割合が減少した場合には、当該課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合と前課税期間の課税売上割合とのいずれか低い割合を「課税売上割合に準じた割合」として適用することができます。ただし、これが認められるのは、土地の譲渡が単発的なものであり、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間の各課税売上割合のうち最も高いものと最も低いものの差が5%以内である場合に限られます。

課税売上割合ではなはく「課税売上に準ずる割合」の適用を受けるためには、適用を受けようとする課税期間(年または事業年度)の末日までに「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出して税務署長の承認を受けなければなりません。

なお、「課税売上割合に準ずる割合」は個別対応方式にのみ適用され、一括比例配分方式に適用することはできません。

課税売上割合が著しく変動した場合の調整

取引単位の本体価格が100万円を超える固定資産(調整対象固定資産)を取得した課税期間(年または事業年度)の課税売上割合と、当該課税期間以降3年間の通算課税売上割合とを比較し、通算課税売上割合が著しく増加(減少)している場合には、3年度目の課税期間(年または事業年度)には、消費税の申告において一定の額を加算(減算)した消費税を控除します。

非課税売上となる資産の輸出

非課税売上となる資産を仕入れた際に支払った消費税は、個別対応方式では非課税売上にのみ要する消費税なので全額を控除できません。しかし、この資産を輸出して(免税取引)一定の証明がなされた場合には、支払った消費税は他の輸出免税売上の場合と同じく課税売上のみに要する消費税として全額控除することができます。

交際費等に係る控除対象消費税額の法人税申告での調整

交際費等については、その一部が法人所得の計算上損金の額に算入されません。交際費等の支払いにも消費税等の支払いがあるわけですが、控除対象外消費税等のうち、経理上費用としたもののうち交際費等に係る部分については、法人税の申告では交際費等に含めることになります。

( つづく )