( 7 )消費税申告を意識した固定資産売却の仕訳

固定資産売却の仕訳は簿記検定でもおなじみなものですが、消費税申告を意識した仕訳となるとなかなかうまくいかないものです。

単純に固定資産売却損益を消費税取引として仕訳しても、実際の消費税は損益ではなく売却金額に対するものだからです。すると、消費税の申告にあたり会計システム(ソフト)から消費税取引を集計しようとすると差が生じ、調整が必要になります。

そこで、そのような調整が要らない消費税申告を意識した固定資産売却の仕訳をご紹介します。

消費税申告での会計システム上での消費税取引チェック

お勉強としての会計と、実務としての経理は大きく異なるわけですが、その際たるものが消費税の処理です。

日常の経理実務では、仕訳の対象となる個々の会計事実について、その消費税法上の取引(課税、非課税、不課税など)を適切に区分し、仕訳に反映させています。

この点、現在の会計システム(ソフト)では、個々の仕訳ごとに税込みの取引額について、本体価格相当額と消費税等相当額を自動的に区分してくれます。

そして、消費税の申告にあたっては、個々の仕訳をチェックします。 そのチェックで重要な手がかりとなるのが、会計システム(ソフト)から抽出される消費税取引の集計額です。勘定科目ごとに、課税、非課税、不課税などの消費税取引ごとの金額が集計されるのです。

消費税取引の集計額と、消費税勘定との照合

消費税取引のチェックとして、課税売上や課税仕入れとして集計された額に消費税率を乗じた額と、仮受消費税等a/cの残高や仮払消費税等a/cの残高がほぼ一致することを確認し、その後に個々の取引の中味をあらためて検証することになります。

もっとも、消費税等が自動的に区分される仕訳のみを行っている場合にはシステムがおかしくないかぎりほぼ一致します。重要なのは、課税売上や課税仕入れとして集計された額に消費税率を乗じた額と、仮受消費税等a/cの残高や仮払消費税等a/cの残高が大きく異なる場合は、その原因を追究し、修正すべきところは修正することです。

このとき、差額の原因となった仕訳を特定できることが大切ですが、税務調査等で「これとこれとこれを合計するとほぼ一致します」「ここからこれを引いてこれを足すとほぼ一致します」という説明よりも、会計システム(ソフト)から消費税取引の集計を行った結果と、消費税勘定の残高がほぼ一致しているほうがわかりやすいですし、説得力があり、何よりミスが少ないのです。

最初から課税売上や課税仕入れとして集計された額に消費税率を乗じた額と仮受消費税等a/cの残高や仮払消費税等a/cの残高がほぼ一致するような仕訳を目指すべきです。

おなじみの固定資産売却の仕訳

取得価額12,000、期首減価償却累計額8,000の車両運搬具を期中に5,500で売却したとします。売却時までの減価償却費は500とします。

簿記〇級では、固定資産売却の仕訳は次のようになります。

(借) 現預金 5,500 (貸) 車両運搬具 12,000
減価償却累計額 8,000 固定資産売却益 2,000
減価償却費 500

初心者の方ですと、複数行の仕訳になったとたんについていけないわけですが(私もそうでした)、仕訳の基本は貸借が必ず一致することです。

借方と貸方、貸方と借方はプラマイ(プラスとマイナス)が逆です。貸方の車両運搬具の12,000から借方の減価償却累計額8,000と減価償却費500を引いた額3,500は仕訳に直接出てきませんが、売却時の車両運搬具の簿価ということになります。

簿価3,500を5,500で売却したわけですから、固定資産売却益は2,000となります。

しかし、このように固定資産売却益を積極的に計算するのもアリですが、仕訳は貸借一致させなければならないですし、会計ソフトでも入力できません。借方の現預金5,500、減価償却累計額8,000、減価償却費500の合計13,900、貸方は車両運搬具12,000ですから、貸借一致させるには「貸方に2,000」を加える必要があります。貸方ということは「固定資産売却益」となります(借方の場合には「固定資産売却損」)。

消費税を反映する仕訳

さて、上記の仕訳は、簿記〇級だけに消費税を無視したものです。国内で車両を売却した場合には消費税の課税取引となります。つまり、売却額5,500のなかには消費税率10%とすると500の消費税等の額が含まれている、つまり売却額5,500は税込み額ということです。

簿記検定の試験会場でないとしたら、会計ソフトには消費税取引を反映させなければなりません。

税込経理方式

(借) 現預金 5,500 (貸) 車両運搬具 12,000
減価償却累計額 8,000 固定資産売却益(課税) 2,000
減価償却費 500

貸方の固定資産売却益に「課税」区分を入れています。しかし、このまま会計ソフトの情報からそのまま消費税の申告をすると誤りとなります。

会計ソフトでは、「課税」となっている2,000が税込みの課税売上高と判断します。つまり、181(=2,000×10/110)が課税売上に係る消費税等の額となるのです。

売却額は5,500ですから、課税売上高は税込み5,500で、これに係る消費税等の額は500なのです。

消費税を度外視したお勉強レベルでは正しいのですが、実務では消費税を無視できないため、この仕訳ではちょっと実務的でないということになります。

そこで次のように2段階の仕訳をします。最終的には1つの仕訳とします。

(借) 現預金 5,500 (貸) 固定資産売却益(課税) 5,500
(借) 減価償却累計額 8,000 (貸) 車両運搬具 12,000
減価償却費 500
固定資産売却益(対象外) 3,500

まず、1行目の仕訳で、売却額5,500の相手科目を固定資産売却益a/cとし、5,500を課税取引として仕訳します。これにより会計ソフト上では5,500が税込みの課税売上高と判断します。つまり、500(=5,500×10/110)が課税売上に係る消費税等の額となり、実際の額と一致します。

次に、2行目の仕訳では、固定資産の減少の仕訳です。貸方に取得価額12,000、借方に減価償却累計額8,000と減価償却費500を計上すると、貸借差額は3,500となります。この額は売却時の簿価を意味しています。

最終的な固定資産売却益は貸方5,500、借方3,500の差額として、貸方2,000となります。

ポイントは、この貸借差額の勘定科目を固定資産売却益a/cとし、しかも、課税区分を「消費税対象外」とすることです。 いったん売却額で課税取引として計上し会計ソフトの消費税計算を適正化して、その後で消費税対象外の取引として固定資産売却額の額を調整するのです。

税抜経理方式

まず、簿記検定的な仕訳を切ります。消費税は会計ソフトが自動計算するものとします。

なお、税抜経理方式の場合、固定資産の取得価額も税抜本体価格になるため、本来、税込経理方式とは異なる額になるべきですが、簡便化のため税込経理方式と同じものとします。

(借) 現預金 5,500 (貸) 車両運搬具 12,000
減価償却累計額 8,000 固定資産売却益(課税) 1,819
減価償却費 500 仮受消費税等 181

実際には、なんも考えずに固定資産売却益を貸借差額として2,000と入力しているはずです。固定資産売却益a/cの科目としての消費税設定のデフォルトは課税売上としていれば、2,000と入力していれば勝手に固定資産売却益1,819と仮受消費税等181に区分されます。

しかし、このまま会計ソフトの情報からそのまま消費税の申告をすると誤りとなります。売却額は5,500ですから、課税売上高は税込み5,500で、これに係る消費税等の額は500なのです。

それだけでなく損益も誤っています。税込み5,500ということは税抜き5,000で売却ということになります。売却時の簿価は3,500ですから、正確な固定資産売却益は1,500でなければならないのです。

そこで、仮受消費税等の額は500と分かっていることから、次のような仕訳を切ります。

(借) 現預金 5,500 (貸) 車両運搬具 12,000
減価償却累計額 8,000 固定資産売却益(課税) 1,500
減価償却費 500 仮受消費税等 500

仮受消費税等の額を500とするために、固定資産売却益a/cは「課税」としつつ消費税等は自動的に計算されないようにして(「別記」などとします)、別に仮受消費税等a/cで500を入力したり、あるいはトリッキーですが、固定資産売却益a/cに1,500を入力することで自動的に計算される仮受消費税等の額136と、別に仮受消費税等a/cで364を入力した合計額をもって500とするなどが考えられます。

しかし、消費税の申告にあたって課税売上高として集計される額は税抜き1,364(=1,500-136)であり、これに対する仮受消費税等の額は500となりバランスが悪くなります。「その原因は固定資産売却額だ」と特定して、消費税の申告で課税売上高を税抜き1,760ではなく5,000とすれば問題ありませんが、こちゃこちゃせずに済ませたい場合には次のような仕訳とします。

(借) 現預金 5,500 (貸) 固定資産売却益(課税) 5,000
仮受消費税等 500
(借) 減価償却累計額 8,000 (貸) 車両運搬具 12,000
減価償却費 500
固定資産売却益(対象外) 3,500

まず、1行目の仕訳で、売却額5,500の相手科目を固定資産売却益a/cとし、5,500を課税取引として仕訳します。すると、会計ソフトは5,500から仮受消費税等の額500を自動計算して区分してくれます。

次に、2行目の仕訳では、固定資産の減少の仕訳です。貸方に取得価額12,000、借方に減価償却累計額8,000と減価償却費500を計上すると、貸借差額は3,500となります。この額は売却時の簿価を意味しています。

ポイントは、この貸借差額の勘定科目を固定資産売却益a/cとし、しかも、課税区分を「消費税対象外」とすることです。 いったん売却額で課税取引として計上し会計ソフトの消費税計算を適正化して、その後で消費税対象外の取引として固定資産売却額の額を調整するのです。

最終的な固定資産売却益は貸方5,000、借方3,500の差額として、貸方1,500となります。

消費税の申告にあたって課税売上高として集計される額は税抜き5,000であり(借方の3,500は消費税対象外としているため反映されません)、これに対する仮受消費税等の額は500となり一致します。会計ソフトから集計された課税売上高をそのまま消費税の申告書に転記すればよいのです。

「ソフト上は1,819になっているので、これをマイナスして5,000を加算します」とかごちゃごちゃした説明など要らないのです。

(応用)土地と家屋の売却

期中に、土地と建物を売却したとします。当該土地の取得価額は100,000、建物の取得価額50,000、期首減価償却累計額15,000、売却時までの減価償却費は500です(つまり、売却時の建物の簿価は34,500)。

売却額は142,000で、内訳は土地が120,000、建物が22,000です。

まず、予備知識として必要なのは、土地の売却は消費税法上の非課税取引、建物の売却は課税取引ということです。つまり、建物の売却額22,000には消費税率10%の場合2,000が含まれていることになります。

そして、土地の売却益は、20,000(=120,000-100,000)となり、建物の売却損は、税込経理方式の場合には12,500(=22,000-(50,000-15,000-500))、税抜経理方式の場合には14,500(=20,000-(50,000-15,000-500)となります。

税込経理方式

(借) 現預金 142,000 (貸) 固定資産売却益(非課税) 120,000
固定資産売却損(課税) 22,000
(借) 固定資産売却益(対象外) 100,000 (貸) 土地 100,000
(借) 減価償却累計額 15,000 (貸) 建物 50,000
減価償却費 500
固定資産売却損(対象外) 34,500

売却額がそのまま固定資産(土地)売却益(非課税)と(貸方の)固定資産(建物)売却損(課税)で処理されているため、会計ソフト上も実際の売却額がそのまま消費税取引額となります。

その後の土地と建物の減少による貸借差額の科目は固定資産売却益(土地)、固定資産売却損(建物)とします。ポイントは「消費税対象外」とすることです。

借方の固定資産売却損a/cの額34,500と貸方の固定資産売却損a/cの額22,000との差額は12,500となります。

税抜経理方式

(借) 現預金 142,000 (貸) 固定資産売却益(非課税) 120,000
固定資産売却損(課税) 20,000
仮受消費税等 2,000
(借) 固定資産売却益(対象外) 100,000 (貸) 土地 100,000
(借) 減価償却累計額 15,000 (貸) 建物 50,000
減価償却費 500
固定資産売却損(対象外) 34,500

まず、相手科目を固定資産売却益a/cとし、土地売却額120,000を非課税取引とし、建物売却額22,000を課税取引として仕訳します。すると、会計ソフトは22,000から仮受消費税等の額2,000を自動計算して区分してくれます。

その後の土地と建物の減少による貸借差額の科目は固定資産売却益(土地)、固定資産売却損(建物)とします。ポイントは「消費税対象外」とすることです。

借方の固定資産売却損a/cの額34,500と貸方の固定資産売却損a/cの額20,000との差額は、14,500となります。

( つづく )