過去の仕訳を直接上書き修正するのはいけないことか

仕訳の作成や入力には慎重を期すべきで、月次の締め(月次決算)も慎重であるべきです。しかし、月が進んでみてはじめて誤りが発見されたりすることは少なくありません。遡及訂正仕訳が禁じられていることで、修正仕訳がごちゃごちゃして結果として正しい数値とならなかったら本末転倒です。

また、仕訳それ自体には誤りはなかったとしても、期中の取引量や事業活動の変更によって、勘定科目を変えたいとか補助科目を設けて管理したい状況となったときに、期首から変更したいという動機も少なくありません。

このような場合、月次決算を外部の第三者に報告し、外部の第三者がこれによって何らかの意思決定を行っているような事情はなく、それをすることにより有害な状況が生じない場合であるならば、遡及して仕訳を直接(上書き)修正することは有用と考えられます。

直接上書き修正はそんなに有害か

ここで直接上書き修正とは、期中において、現在入力中の月よりも以前の月について、仕訳の修正、訂正あるいは追加などの必要性が生じたときに、現在入力中の月でその修正等について仕訳を入れるのではなく、以前の月の仕訳を直接訂正したり、訂正したり、以前の月の仕訳として追加する場合のその仕訳をいうものとします。

会計ソフト等によっては、月次決算を確定させないと翌月の処理ができないものがあります。逆に、いったん月次決算を確定させてしまうと、遡って仕訳を修正することができないのです。

その理由は、仕訳の修正や訂正あるいは追加を遡及して行うことは、利益調整や不正につながるからとされるようです。

しかし、直接上書き修正をしなくても、利益調整をやろうという意思があれば、直接上書き修正をできないようにしようが関係ありません。単に選択肢が減るだけです。

途切れなく事業活動を行う企業等が、事業年度という期間を区切り、その期間の活動(経営成績)を表すのが損益計算書であり、その区切りの端(期首)と端(期末)で切ったときの断面(財政状態)を表すのが貸借対照表です。

その二つの区切りの中で、その中に取り込むべきものを取り込まなかったり取り込むべきでないものを取り込むのは利益調整にほかなりませんが、そのような事情がなく、また不順な意思もないのに、直接上書き修正は利益調整になるからよくないと決めつけるのはいかがなものかと思います。

次に、直接上書き修正がないことと正しい処理、正しい数値であることは無関係・・・とは言えないまでも直接関連してはいないと思われます。

たしかに、仕訳の作成や入力には慎重を期すべきで、月次の締め(月次決算)も慎重であるべきです。しかし、月が進んでみてはじめて誤りが発見されたりすることは少なくありません。遡及訂正仕訳が禁じられていることで、修正仕訳がごちゃごちゃして結果として正しい数値とならなかったら本末転倒です。

いわゆる正規の簿記の原則は、秩序性・網羅性・検証可能性といわれます。このうち、検証可能性とは数値の裏付けとなる根拠資料が存在することですが、この検証可能性とは、たとえば数年経過した後でも思い出せたり、何より担当者本人とは異なる者でも検証できることが重要と考えられます。 修正仕訳にあふれていると、もはや帳簿はパズルの様相となって第三者の検証が困難になるばかりか、仕訳を起票した担当者本人も説明不可能になることもあります。このことは、正規の簿記でいう秩序性にも悪影響を与えるでしょう。

さらに、(経理)担当者の不正を見抜けないということもありますが、これは経営チェック体制の問題であって、直接上書き修正がどうのこうのとは必ずしも直接関係しないと思われます。

企業が現実に行う取引のうち、企業の資産・負債・純資産・費用・収益を増減させる簿記的取引を仕訳という形にするわけで、仕訳の前提となる現実の簿記的取引を仮装したり隠ぺいすれば不正にほかなりません。ただし、基礎となる取引そのものは同じで、過去に入力した仕訳を直接修正したり追加することで、最終的な成果物である財務諸表がより有用になるとすれば、メリットのほうが大きいと思われます。

直接上書きが有用と思われる場合

損益に影響を与えない変更

  • 期中で取引量が増加したり事業形態が変更されたときに、期首に遡って勘定科目を変えたり、補助科目を新設したほうが管理しやすい場合
  • 部門処理の誤りが発見されたり、期中に部門が統廃合された場合で、期首に遡ったほうが有用な情報が得られると判断される場合

このほかに、仕訳の摘要欄に修正が必要と思われる場合もあると思われます。

損益に影響を与えるが直接上書き修正の方が有用な変更

  • 消費税取引の判定で誤りがあったために仕訳の修正が必要となったり、仕訳の入力上のミスがあったために仕訳の修正が必要となった場合
  • ゼロベースで何もない状態からとりあえず仕訳を暫定的に入力し、その後で仕訳を直接変更しながら帳簿を作り上げていこうとする場合

なお、消費税取引の修正について、直接上書き修正を行わない場合の修正仕訳については、 こちら をご覧ください。

ゼロベースから帳簿を作り上げていかなければならないとき、とりあえず暫定的に仕訳を入力し、その後で仕訳を直接修正していくほうが事務作業が迅速で効率的なことが少なくありません。遡及修正ができないということになると、最初の段階でちゃんとした仕訳処理をしなければならないため、科目名や消費税の判断でタイムロスをしてしまいます。

直接上書き修正が許されない場合

直接上書き修正の有用性について申し上げましたが、今度は一気に逆の立場で、直接上書き修正が許されない場合を申し上げます。

たとえば、月次決算の結果が外部の第三者(金融機関など)に定期的に報告され、その内容が、第三者の何らかの行動に影響を与えているとすれば、安易な直接上書き修正は許されないと思います。

また、経理作業が膨大で、個々の作業の分業が進んでいる状況では、各人の判断で遡及仕訳が行われてしまうと統制上の問題が生じるため、やはり直接上書き修正は許されないと思われます。

このような場合では、直接上書き修正は許されず、通常の修正仕訳が必要となります。

なお、この対策として、正規の会計帳簿では修正仕訳で対応しつつ、オフラインで、すなわち、正規の会計帳簿とは別で「期首から遡及修正したとしたらこのような数値となるなず」のデータを作成し、そのデータ結果で正規の会計帳簿の数値の妥当性を検証するというような方法もありえます。このオフラインのデータは、「正しい処理を期首からしたらどうなるか」という「あるべき数値」を確認するためのものであって、(正規の会計帳簿が不当なものであることを前提とした)二重帳簿であるとの批判はあたらないと思われます。

(おわり)