( 6 )まるで20日締め決算

期間損益計算を適正に行い、それに基づいて正しい経営判断を行おうとする場合には、当然ですが、その期間中に発生した損益をキチンと取り込むのがまず第一歩です。請求書ベースで取引を計上し、特段の処理を行わないと、月次決算とはいっても、実は「前月21日から当月20日まで決算」ということになります。

また、原価計算をする場合でも、配賦などを行う以前に、まずは発生した費用が締め日などによる期間的なズレを矯正しないと、算定された数値の精度も妥当とは思えません。

締め後の取引や見積金額の会計処理にあたっては、実際の取引の仕訳が反映される既存の科目とは別に、締め後の取引や見積計上額の仕訳だけが反映される勘定科目や補助科目を設定し、そこに締め後の取引や見積計上額の仕訳を入力することをオススメします。

期間損益とは

事業は絶え間なく続いています。しかし、さまざまな目的(分析、報告、課税など)のために一定の期間を区切り、その期間ごとの経営成績や財政状態を作成します。

さて、圧倒的多数の事業者にとって、事業年度の末日は、月の末日です。

この意味するところは、当然といえば当然ですが、事業年度の初日(期首)から事業年度の末日(期末)までの取引をすべて反映させるべきということです。

よって、期末日(決算日)の売上高も含めて計上しなければなりません。

請求書ベースでの売上高(売掛金)の計上

さて、圧倒的多数の事業者にとって、事業年度の末日は、月の末日ですが、売上や仕入れの請求などの締め日は、商慣習や先方との関係もあるため、必ずしも月末ではありません。

月末締めでない場合には、20日締めが多いと思われますが、15日締めなどもあります。

売上の請求が20日締めの場合には、得意先に対する請求は「前月21日から当月20日まで」の納品や役務の提供となります。

「請求書を出す」というのはごく普通に思えますが、実は相手方との関係に依存しています。相手を信用できない場合には、請求書を出す、すなわち、支払いを猶予することはありえず、現金決済のみになります。よって、請求書を出すということは、相手に一定の信用を供与していることになります。逆に、相手のほうが力があると、先方の「検収通知」すなわち「今月はこれとこれを仕入れて支払いますから(請求書を発行してください)」となります。この場合には、「出荷したら売上高を計上すべきなのか(この場合には売掛金の消込みが重要)」「先方が検収したときに売上高を計上すべきなのか(この場合には棚卸資産の管理が重要)」がポイントとなります。

そして、会計帳簿での売上高の計上を、納品ベースでは行わず、請求書ベースで計上することが多く行われています。売掛金勘定に得意先ごとの補助科目を設定して、仕訳を入力するのです。

この方法の大きなメリットは、多くの場合、入金は請求書ベースでなされるため、帳簿上での売掛金の消込みが容易になることにあります。

さて、相手先に対する請求が20日締めであるということは、相手方からの請求が20日締めであることもあります。このため、仕入等による買掛金や未払金の計上も、相手方からの請求書をベースにして計上することが多く行われています。

締め後の取引は?

たとえば、毎月20日締めで取引先に請求書を発行し、会計帳簿上での売上高の計上を請求書ベースで行っていると、3月決算だとすると、3月21日から3月31日までの売上高がモレてしまいます。

売上高は、請求書を発行したから計上するのではありません。一般に公正妥当と認められる会計基準によるところの売上があったから計上するのです。

そこで、決算処理として3月21日から3月31日までの売上高を仕訳計上することになります。

いっぽう、売上高には、これに対応する原価(売上原価)があります。

3月21日から3月31日までの売上高を計上するだけで終わってしまうと、この売上高に対する原価はゼロとなり、過大な利益となってしまいます。そこで、この売上高に対応する原価(仕入高や製造費用など)も決算処理として計上することになります。

さて、期末決算処理において、この締め後取引については、監査や税務調査での定番ということもあって売上高は厳密に計上しますが、この締め後売上高に対応する原価についてはそのタイトネスが緩くなり、さらに、販売費及び一般管理費となる取引については、たとえば電気料金などは15日締めですが、未払計上もせずに完全に現金主義によって計上されていることも少なくありません。

この販売費及び一般管理費の締め後取引を計上しないのは、法人税の申告上の理由もあると考えられます。売上原価に相当する額とは異なり、販売費及び一般管理費の未払分については、事業年度末日において債務が確定していないため、未確定部分を計上した場合には、法人税の申告においてその費用を否認(会計上の当期純利益に加算)しなければならないからです。法人税の申告でのミスを防ぐために、なるべく保守的な計上をする(あまり申告調整を行わない)ことは広く行われています。

「税務上否認されるから会計上も計上しない」というのはまったくの本末転倒です。会計上はなるべく期間損益計算をキチンとやるのが目的なわけで、それを突き詰めるとその事業年度に係る法人税の申告では認められない損益が生じるのでこの部分を調整するというのが正しい頭の動かし方だと思います。重要なのは、コストとベネフィットを考えながら、その期間損益計算を厳密さをどの程度のレベルにしますかということにあるのです。

イビツな厳密さ

とくに注意しなければならないのは、イビツな厳密さです。たとえば、厳密な基準を設けていても、それを当てはめるベースの金額がそもそも厳密さを欠いているような場合です。

仕入商品に係る締日が月末でない場合に、毎月末に実地棚卸(現物の数量カウントで月末の在庫金額を算定)を行うとすると、当月の仕入高または月末棚卸高(あるいは双方)の額が妥当でない場合があります。実地棚卸をする場合には、締め後の仕入高を取り込んでおく必要があります。

製品の原価計算の際に、その他の部分はものすごく厳密に算定しているのに、そもそも、材料の購入や電気代や水道代を締め後部分を調整して月初から月末までの額に換算していないとしたら、妥当な結果が得られるとは思えません。

ソフトウェアの人件費の原価計算の際に、月初から月末までの作業時間などについてはものすごく算定し、配賦基準も完璧なのに、配賦の基礎となる給料等について月初から月末までに対応させず、20日締めなどのままにしていると、配賦前の額がそもそも期間がズレていたら、どんなに厳密な配賦基準を適用していても妥当な結果が得られるとは思えません。

細かい配賦などをする前に、その元となる数値がそもそも期間対応しているのかという基本的な確認を先に行うのが大切かと存じます。

月次レベルでは?

繰り返しになりますが、事業年度がある月の初日(1日)からだとすると、その末日は月の末日ということになります。ということは、月次決算も各月がそのまま当てはまることになります。

すでにこの段階でオチが見えてしまっていますが、請求書ベースで売上高を計上して、特段の処理を行わないと、月次決算とはいっても、実は「前月21日から当月20日まで決算」ということになります。

さきほど申し上げたとおり、期間損益計算の厳密さは突き詰めればどこまでも突き詰める余地があります。ただ、そこまでやる必要があるのか、すなわち、そこまでして出てきた情報をうまく活用できるんですかということを踏まえることが大切です。

とりわけ、月次決算でどの程度を求めていくのかは事務量の関係もあるためなかなか難しいところです。ポイントとしては、「月次決算の数値をどの程度経営判断に利用しているのか」「月次決算とはいっても(月末とは異なる)締め日ベースの決算であることを十分認識しているかどうか」「締め日ベースの月次決算では、決算処理によって大きく数値が変動することがあることを十分認識しているかどうか」だと思われます。

概算額の処理

期間損益を月次決算も含めてより厳密さをアップしようとしても、それが面倒となる大きな原因として考えられるのが、請求書とは異なる締め後の取引や見積金額の帳簿上の処理です。

売上高にしても、仕入高やその他の費用にしても、請求書ベースで計上することは、実際の入金や支払による消込み作業が非常に容易であり、仕訳ミスの検証も行いやすいことから広く行われています。

ここで、締め後の取引を計上してしまうと、その元帳上に本来の請求書ベースの計上額とその消込みが混在してしまうため、仕訳ミスの検証が困難になり「見積り計上なんてやったためにかえっておかしなことになった」ということも多々あります。

そこで、オススメしたいのが、実際の取引の仕訳が反映される既存の科目とは別に、締め後の取引や見積計上額の仕訳だけが反映される勘定科目や補助科目を設定し、そこに締め後の取引や見積計上額の仕訳を入力するのです。

これらの仕訳は、毎月洗い替えられることになりますが、科目が分けてあれば、当月の計上モレや、翌月での洗い替えモレもすぐにチェックすることができるのです。

なお、少なくとも月次決算レベルでの計上額の仕訳については、たとえそれが消費税の課税取引であっても、消費税を考慮しない「不課税取引」または「(消費税)対象外」とすべきです。なぜなら、期間的なズレに対する見積りにまで消費税を反映させてしまうと、とくに費用(仮払消費税の計上)で請求書等に基づかない部分が消費税の申告で仮受消費税から控除されてしまうというリスクが生じるからです。このようなリスクを避ける意味でも、会計ソフトで別の科目を新設してその科目に係る消費税取引の設定を消費税対象外とすることは効果的です。

ただし、期末(決算日直前)の部分の締め後売上高を計上する場合には、月次レベルでコロコロ洗い替えで解消する仕訳とは別なので、原則として(仮受)消費税を考慮することになります。

( つづく )