売掛金勘定を2つにして管理する

売掛金勘定は売上高の計上と売上代金の回収という役割がありますが、実務上は、売上高を請求金額で計上して、回収(入金)に伴う消し込みを容易にしています。しかし、請求の締日の関係や、工事進行基準など請求とはまったく異なる基準で売上高を計上していると、回収(入金等)の際の帳簿上の消し込みなどが困難になります。

教科書的な売上高(売掛金)計上による不都合

典型的なビジネスフローとしては、財貨の引き渡しまたは役務の提供などが行われ、そして、請求をし、回収するという流れです。

いっぽう、本来の売掛金a/c は、売上高の計上によって残高が増加し、売上代金の入金によって残高が減少します。

しかし、売掛金a/c に、得意先別の補助科目を設け、債権管理としての役割を持たせようとすると、売掛金a/c の増加は、会計上の売上高の計上ではなく、請求金額で計上することが少なくありません。

なぜなら、一般に公正妥当と認められる理論的な売上高の計上基準に従って売上高(売掛金)を計上しても、必ずしも売上高の計上と請求金額は一致しないからです。典型的なのは、決算日は末日なのに請求の締日が20日である場合や、いわゆる進行基準により売上高を計上している場合です。

この場合、売上計上金額と請求金額は紐付かないことになり、さらに、請求金額と回収金額のタイミングが一致しない場合には、帳簿上の売掛金残高の内容を帳簿上チェックすることはなかなか困難となります。

「請求基準」による売上高(売掛金)計上の許容性

さて、請求という行為、すなわち請求書の発行は、手付け金あるいは前受金としての請求もありますが、財貨の引き渡しやサービスの提供という一般的な収益を認識できる会計事実が完了したともいえます。

そこで、このため、少なくとも期中においては売上高の計上を「請求書発行基準」で行う実務がひろく行われています。

請求書の発行が会計上の売上高として売掛金勘定の増加項目になるということは、売掛金勘定の減少すなわち消込みにもよい影響を与えます。得意先は請求書を基に支払いを行いますが、回収(入金等)での会計処理をする際に、請求書の金額がそのまま売掛金勘定の増加項目になっているため、いつの請求書に対して回収(入金等)があったのかを帳簿上でチェックできます。請求と回収(入金等)の関係が容易に把握できるため、得意先が振込手数料相当額が差し引かれて入金した場合でも差し引かれた手数料の額の把握やその調整が容易にできるのです。

このため、売掛金a/c に得意先別の補助元帳を設定し、売掛金a/c を「請求 = 売上計上」で増加させ、回収(入金等)によって減少させる方法は、少なくとも売掛金a/c を整然と記帳するにはもっとも合理的な方法です。

このとき、売掛金a/c の残高の意味するところは、未回収残高となります。

ただし、請求モレや請求保留の場合には、たちまち売上高の計上モレが起こることになります。また、請求のタイミングが遅いと、事業年度中の売上高をすべて取り込めず、やはり売上計上モレとなります。

締め後売上高の計上

「請求 = 売上計上」方式は合理的な方法ですが、もし請求の締日が末日締めでない場合が問題となります。

たとえば、得意先への請求の締めが毎月20日である場合には、理論に忠実であろうとするならば、あるいは、少なくとも月次決算の精度を高めようとするならば、毎月21日から月末日までのいわゆる締め後の売上高を計上すべきです。

  • 当月初に前月21日から前月末までの売上高を取り消す(当月末でも可)
  • 20日付で前月21日から当月20日までの請求書に基づいて売上高を計上する
  • 月次決算として当月21日から当月末までの売上高を計上する
  • 翌月初に当月当月21日から当月末までの売上高を取り消す(翌月末でも可)

この方法ならば、売上高の計上は請求の締日にかかわらず月間ベースでキチンと計上できます。

ただし、そもそも月次決算が厳密でなくてもかまわない場合や、月末の売上高は毎月ほぼ一定している場合には、少なくとも月次ベースで締め後の売上高を計上する必要はなく、決算月の締め後売上を計上すれば足りると思われます。

この締め後売上高は、通常仕訳として1本で計上することと、毎月コロコロ洗い替えのような処理を行えばよいだけなので、あまり面倒なことになりません。

請求基準との決別と混乱

ところが、売上高の計上をより厳格にしようとすると、請求書によるのではなく、まさにモノの出荷やサービスの提供という本来の収益認識基準で計上することになります。

その後、請求のときにあらためて売上高を計上すると二重に売上高が計上されるため、請求書の金額で売上高を計上することはありません。

すると、売掛金a/c は請求書の金額で計上されていないので、売掛金勘定(得意先元帳)での回収(入金等)の消込みが困難になります。「こことこことこことここを足すと請求書の額になります」「こことこことここを足すと入金額になります」ということになり、元帳上でパズルが始まってしまうことになります。

まして、売上高を工事進行基準で計上したりするときは、売上(の金額)の計上は請求書(の金額)とまったく無関係であるため、売掛金勘定上で請求額の消込みを行うことはほぼ不可能となります。

未請求売掛金と請求売掛金

そこで、売掛金勘定を、売上計上のための売掛金勘定(たとえば「未請求売掛金a/c」)と請求額計上と回収(入金)のための売掛金勘定「請求売掛金a/c」のふたつに分けるのです

売上高の計上

(借) 未請求売掛金 22,000 (貸) 売上高 20,000
仮受消費税 2,000

売上高は請求書発行の有無にとらわれず、採用する収益認識基準に従って計上します。なお、消費税はここで計上します。

売上高の計上により、未請求売掛金a/cの残高は22,000となります。

請求書の発行と未請求売掛金a/cと売掛金a/cの動き

(借) 請求売掛金 11,000 (貸) 未請求売掛金 11,000

請求した金額11,000を請求売掛金a/cに計上します。このとき、減少させるのは未請求売掛金a/cです。未請求売掛金a/cを減少(貸方処理)させて、請求売掛金a/cに振り替え(借方処理)します。

これにより、未請求売掛金a/cの残高は11,000となります。この残高の意味するところは、売上を計上しているが請求していない金額です。

いっぽう、請求売掛金a/cの残高は11,000となります。この残高の意味するところは、請求しているがまだ回収していない金額です。

請求金額の入金

(借) 現預金 5,500 (貸) 請求売掛金 5,500

一般的な場合と同じ処理です。請求売掛金a/cの残高は5,500となります。

未請求売掛金a/cの残高は、未請求の残高を表します。そして、請求売掛金a/cの残高は未回収の残高を表します。そして、未請求売掛金a/cの残高と請求売掛金a/cの残高の合計額がまさに売掛金勘定の残高ということになります。

このように、ふたつの売掛金勘定によって、未請求売掛金a/cで、請求の締日や請求書によらず本来の基準で売上高を計上し、従前からの請求とその回収(入金等)の処理を請求売掛金a/cでコントロールできます。

買掛金や未払金にも対応可能

この売掛金勘定二分論は、仕入先からの請求や給料などで締め日が月末でない場合にも応用することができます

もっとも、たとえば月次決算などで、売上高は締め後の金額を把握してキチンとひと月分の額が計上されているのに、仕入や給与やその他の費用が手つかずのままだと、やはり歪んでいるということになるでしょう。

(おわり)