( 2 )期中現金主義

期中現金主義とは、(現金取引でないにもかかわらず)期中の取引を売掛金勘定、買掛金勘定、未払金勘定を使わずに入金時に売上を計上し、支払時に仕入高や経費を計上する方法です。

「何のために月次決算を行うのか」「月次決算を経営上どのように評価するのか」はそれぞれ異なりますが、少なくとも期中現金主義で作られた月次損益計算書を用いてそのまま経営判断や経営評価に利用するのはリスクがあると思われます。

期中現金主義

期中現金主義とは、次のような処理をいうものとします。

  • 現金取引でないにもかかわらず、期中は現金や預金の入金をもって売上高とし、支出をもって原価または経費または損失とする。
  • 期末に、売掛金a/c や買掛金a/c の残高について「棚卸洗い替え」を行う。

期中取引

期中取引では、売掛金a/c や買掛金a/c などは一切使いません。

普通預金口座に先月分の売上代金が入金した

(借) 普通預金 9,800 (貸) 売上高 9,800

先月分の仕入代金を振り込んだ

(借) 仕入高 5,000 (貸) 普通預金 5,200
支払手数料 200

期末決算時

前期末の売掛金を戻し入れ、当期末の売掛金残高を計上します。

前期末(期首)の売掛金残高は 2,000 だった

(借) 売上高 2,000 (貸) 売掛金 2,000

決算日後に入金した売上代金は 3,000 だった

(借) 売掛金 3,000 (貸) 売上高 3,000

前期末の買掛金残高を戻し入れ、当期末の買掛金残高を計上します。

前期末(期首)の買掛金残高は 1,000 だった

(借) 買掛金 1,000 (貸) 仕入高 2,000

期末の買掛金残高は 1,500 だった

(借) 仕入高 1,500 (貸) 買掛金 1,500

期中現金主義の問題点

  • 受取手形や支払手形での取引がある場合に、手形代金の入金や出金の時に売上高や仕入高を計上すると、もはや財務情報としてほとんど信頼性のないものになってしまいます。
  • 入金時に売上高が、支払時に仕入高やその他の費用が計上されるため、一般的な収益計上基準(発生時、役務提供時、完成時、出荷時、引渡し時、先方検収時など)や費用計上基準(発生時、債務確定時など)よりもタイミングが遅れます。とくに、月末が金融機関の休日に当たる場合や年末年始については、著しく損益が不安定なものになります。
  • 振込手数料が差し引かれて入金した場合、売上高が過小計上されることになります。
  • 期末の事実上の売掛金の「棚卸」については、決算日以降税務申告書作成時までの入金額を計上することが多いと思われますが、この期間中に入金していない分の計上がモレる可能性があります。
  • 入金は前受金の入金で売上によるものではないのに、売上高として処理してしまう可能性があります。
  • 支払いをしていない買掛金や未払金を簡単に簿外処理できるため、都合よく買掛金や未払金の残高を計上して簡単に粉飾決算ができます。
  • 支払時に固定資産の計上を行い、このタイミングで減価償却を開始すると、実際の事業の用に供したタイミングより遅くなったり、分割購入の時は分割支払いごとに別個の固定資産として計上してしまったり、前渡しなのに固定資産計上して減価償却を開始してしまったりします。

期中現金主義が許容されると考えられる場合

収益計上や費用計上のタイミングは妥当でないとしても、以下の場合には、期中現金主義でも概ね許容されると思われます。

  • もともと収益も費用も現金取引である
  • 月次決算によって経営判断をしていない
  • 月次決算は必要ない
  • 手形取引を行っていない
  • 得意先からの入金サイトが1ヶ月程度であり、仕入先等への支払サイトも1ヶ月程度である
  • 滞留している売掛金もなく、支払いが遅延している買掛金や未払金もない
  • 前渡金の支払いや前受金の入金がない

期中現金主義のほうが望ましい場合

取引が頻繁に発生し、かつ、売上計上と入金のタイミングにほとんどズレがなく、金額的にも重要性がない場合には、場合(数日など)にはむしろ期中現金主義のほうが事務処理上は効率的といえます。

長くても1週間程度で入金してしまうものについてまで、すべての売上について売掛金勘定を通したほうがよいとは思えません。

会社の活動をなんでもかんでも会計ソフトに取り込んで、会計ソフトによって管理する必要はないと思います。Excelで管理したほうが視認性や編集の自由度の点ではるかに有用だと思います。

この場合には、決算日以降に入金した分について、売掛金として売上計上することを忘れないようにします。

逆に、支払いのほうでは、たとえば、電話料金、水道料金、電気料金なども、金額の大きさや全体に与える影響を考えて、期中現金主義にするかどうかを判断することになります(期末も現金主義であることも少なくありません)。

期中現金主義からの脱却

期中現金主義から脱却していこうとする場合には、次のような方法が考えられます。

期首から変更する場合

それまで、入金のときの相手科目を収益に、出金のときの相手科目を費用にしていたものをすべて(下記の「期中現金主義のほうが望ましい取引」を除きます。)売掛金や買掛金や未払金といった債権・債務勘定にします。

これに先立って、会計ソフトの勘定科目でもそれに対応します。すなわち、売掛金a/c については、得意先別の補助科目を設定します。同様に買掛金や未払金なども支払先別の補助科目を設定します。前期末では補助科目が存在しなかったため、新たに設定した補助科目に残高を入れ替える特別な仕訳を入れます。

(借) 売掛金(A社) 1,500 (貸) 売掛金 3,000
売掛金(B社) 1,000
売掛金(C社) 500
(借) 買掛金 1,500 (貸) 買掛金(X社) 800
買掛金(Y社) 500
買掛金(Z社) 200

では、売上取引を例にします。

これまでの処理(入金の相手科目は収益(売上高)としていた)

(借) 普通預金 9,800 (貸) 売上高 9,800

これからの処理

まず、この入金に対応する請求額を確認します。請求額は 10,000 だったとします。とすると、振込手数料を差し引かれて入金したと考えられます。

(借) 普通預金 9,800 (貸) 売掛金 10,000
支払手数料 200

期首まもない入金は前期末の決算で計上した売掛金の入金であることが多いです。もし、すべての得意先についての回収サイトが請求後1ヶ月であるとすれば、期首月で前期末の売掛金残高はゼロになっているはずです。もし残高が残っていたら、滞留している売掛金があるか、前期末の売掛金の「棚卸」が過大だったことになります(つまり、売上過大計上)。もし、残高がマイナスだったら、得意先の過入金か、前期末の売掛金の「棚卸」が過小だったことになります(つまり、売上計上モレ)。この場合、税務申告の修正申告や金額の大きさによっては過年度遡及処理を行うことになります。

その後は、毎月、得意先への請求額をどんどん計上していきます。

(借) 売掛金(A社) 2,000 (貸) 売上高 2,000
売掛金(B社) 5,000 売上高 5,000
売掛金(C社) 3,000 売上高 3,000

期中から変更する場合

もし、期首からの仕訳をすべて直接変更できるのであれば、入出金時に収益や費用で処理した仕訳をすべて売掛金や買掛金や未払金に変更します。

それができない場合には、特定の月以降の入出金時の仕訳はすべて相手勘定を債権債務(売掛金や買掛金)に変更します。そして、その入金の前提となる請求額は通常その特定の月以前に得意先に通知しているものなので、本来ならば特定の月以前の仕訳とすべきですが、それができない場合には、売掛金の計上と同時に行います。

(借) 売掛金(A社) 10,000 (貸) 売上高 10,000
普通預金 9,800 売掛金(A社) 10,000
支払手数料 200

そして、特定の月以前の入金については、前期末に計上した売掛金に対する入金も「期中現金主義」のために売上高として処理されています。これでは、前期にすでに売掛金として売上計上したものを二重に売上高として計上していることになります。そこで、この部分の入金ひとつひとつについて修正仕訳を入れます。

当初の処理

(借) 普通預金 9,800 (貸) 売上高 9,800

あるべき処理

(借) 普通預金 9,800 (貸) 売掛金(A社) 10,000
支払手数料 200

実際に入力する修正仕訳

(借) 売上高 9,800 (貸) 売掛金(A社) 10,000
支払手数料 200

その後、期首から特定の月までの入金についてその基礎となる請求額を確認し、前期末の売掛金の未計上分がなかったか、期首以降の売上計上にモレがないか(つまり入金がないことを意味します。)を確認します。

期中現金主義がなくならない背景

1990年代前半で、もっぱら会計事務所サイドの業務効率化のために、仕訳の数を少なくするために現金主義での会計処理を行っているのであればともかく、会計ソフトが発達し、仕訳のアップロードや仕訳の複製が容易にできる現代にあって、いまだに期中現金主義で仕訳というのは、専門家(あるいは専門家の補助者)のセンスを疑われてもしかたないといえます。

( つづく )