( 1 )そもそも月次決算は必要か

そもそも月次決算を経営判断に利用しない場合には、月次決算は必要ないのかもしれません。

月次決算を作成したとしても、その精度が著しく低いものであったり、決算時に損益が(想定外に)劇的に変動する場合には有用とはいえません。

このような月次決算をベースにして各種財務比率を算定して経営診断(のようなもの)をしても、これらの諸数値はほとんど意味がなく、誤った印象を与え、誤った経営判断をするリスクがあります。

月次決算の必要性

会社として月次決算の必要性を感じない、あるいは、月次決算を利用しないというのであれば、「月次決算など必要ない。本決算で十分だ」となります。だとすると、月次決算は作る必要性のないものです。

しかし、会社として月次決算の必要性を理解し、月次決算の状況によって経営上の判断を行おうとする場合には、少なくとも経営上の判断を誤らない程度の月次決算を行わなければなりません。また、少なくとも決算日の前にある程度の決算数値の予測がないと、なんらかの決算対策や納税資金の手当てができないことになります。

いっぽう、会社に対して融資を行っている金融機関等(会社にとっては債権者)から月次決算の内容の報告を求められている場合には、月次決算を行わなければなりません。 この場合、金融機関等は、月次決算によって融資の回収可能性を確認しているため、月次決算といえども、本決算ほどの厳格さまでは要しないまでも、少なくとも一般に公正妥当と認められる会計基準によって月次決算が行われると期待しているものと考えられます。

ところが、精度の低い月次決算をベースにして各種財務比率を算定して経営診断(のようなもの)をしても、これらの諸数値はほとんど意味がなく、誤った印象を与え、誤った経営判断をするリスクがあります。

そこで、有用とはいえない月次決算について検討してみたいと思います。

期中の月次決算の精度が著しく低い場合

「期中現金主義」を行っている場合

主たる取引が現金取引でないにもかかわらず、期中は現金や預金の入金をもって売上高とし、支出をもって原価または経費または損失として処理を行い、期末に、売掛金や買掛金の「棚卸洗い替え」を行う方法をいいます。

この方法は、小規模の企業で行われていることが多いのですが、入金時や出金時で収益と費用を計上するため、通常の収益と費用の計上基準よりもタイミングが遅れるため、月次の損益は意味をなさないことになります。しかも、決算時における売掛金や買掛金の計上がモレてしまう可能性もあります。

月次で売上に対する原価を把握していない(月次棚卸を行っていない)場合

棚卸を決算時にしか行わない場合、期中は棚卸資産勘定の動きがまったくないことになります。これにより、月ごとの売上高と売上原価は対応せず、もっぱら仕入高の大きさや製造費用の大きさに依存し、月次ごとの粗利益率は大きくブレが生じることになり、月次損益もほとんど意味のないものとなってしまいます。

また、月末に棚卸を行っていても、試供品や見本品などのサンプルの提供が多い場合、このサンプル額の大きさによって粗利益率がブレることになります。つまり、試供品等を提供した場合、これ係る在庫金額は、売上原価ではなく販売費及び一般管理費となりますが、この試供品等の在庫金額を販売費及び一般管理費に振り替えずに月末棚卸高を計上すると、売上原価の中に試供品等の在庫金額が混入してしまい、その分だけ売上原価が過大となり、粗利益率が減少することになります。

なお、この試供品等の在庫金額の問題は、月次決算にかぎらず、本決算でも同様の問題が生じます。

期末の決算処理で損益が激変する場合

有用とはいえない月次決算の典型的なパターンが、月次決算をやっているはずなのに、本決算(年次決算)になると「想定外に」損益が激変してしまうことです。「いったい月次決算は何だったのか」という場合です。

本決算時にいきなり減価償却費が全額計上される場合

月次決算の段階では減価償却費はまったく計上されず、期末になって減価償却費の全額を計上する場合には、黒字が赤字に変わってしまうほどの影響が出ることがあります。

また、期中の固定資産の売却や除却を行った場合に、これらの固定資産に係る減価償却費を入れることによって、売却損益が大幅に変動する可能性があります。

そこで、「法人税法上の減価償却費は個々の固定資産についてその事業年度で認めれる限度額までが損金となる」という規定を悪用して、減価償却費を過小計上(ゼロ計上では目立つため)して利益額を調整することが行われます。

仮払金や仮受金などの仮勘定で処理していたものを本勘定に振り替える場合

想定外の収益や費用が発生する可能性があります。

しかし、期中に仮払金や仮受金で処理しておくことがただちに悪というわけではありません。

ある取引について、その段階での経理的な判断ができないものについて費用や収益として処理してしまうと、そのまま埋没してしまい、決算時にあらためて検討することを失念してしまいがちです。決算時にあらためて検討するために、あえて仮勘定で処理しておくことも有効なのです。

ソフトウェア開発会社でソフトウェア原価計算や固定資産計上を期末にいきなり行う場合

ソフトウェア開発会社で、自社の従業員がソフトウェア開発に携わっている場合、新製品に係る原価計算やソフトウェア固定資産に該当する部分の原価計算が期末に一括して行う場合、期中はなんら処理をしていないと単なる人件費として費用計上されたままとなっているため、期末に急激に利益が発生する可能性があります。

労働集約的なサービス業の仕掛人件費の計上を期末にいきなり行う場合

労働集約的なサービス業でも、月をまたがるプロジェクトに参加しており、このプロジェクトの収益の計上基準が期間でない場合(プロジェクト終了時など)、やはりこのプロジェクトに係る人件費は期中は単なる人件費として費用計上されたままとなっているため、やはり期末に急激に利益が発生する可能性があります。

税込経理方式で消費税を経理している場合の消費税額

消費税について、収益や費用の額に含めて経理する税込経理方式の場合、消費税の納付額は費用となります。

通常なら、月次決算の段階で消費税の納付額は潜在的に発生しているわけですが、これを認識しない場合、いきなり決算時に費用が発生することになります。

もっとも、もろもろの事情で月次決算ベースであえて処理はせず、帳簿外で「激変する額」をイメージすることもすくなくありません。ただし、その場合でも、それなりの精度で把握していないと、決算に想定外の調整が必要ということになると、やはり本質的には変わらないということになります。

( つづく )