( 2 )事案と各裁判の概要

アートネイチャー株式代表訴訟事件の全体像をつかむために、事実関係を時系列的に紹介し、また第1審および抗告審でどのような争いや結論があったのかその概要をまとめました。

この事件は、取締役の責任を追及する株主代表訴訟であり、自己株式処分または新株発行時の価額が不公正に低い価額の場合に取締役に対する損害賠償が発生するかが最終的な争いですが、この争点については割愛し、その前提としての株価(そしてその算定方法)の妥当性について分析・検討をするものです。

事案の経過

  • 平成14年6月28日
  • 株式会社アートネイチャー(以下「AN社」といいます。)定時株主総会で、代表取締役X(被告)から、株式数40,000株、取得価額の総額60,000千円を限度として自己株式を取得する旨を特別決議により可決
  • 平成14年10月17日
  • Xより自己株式の取得(33,217株、1株1,500円)完了
  • 平成15年10月16日
  • 取締役会で、自己株式を処分する旨決議(Xに対して33,217株、1株1,500円)
  • 平成15年11月6日
  • 臨時株主総会で、自己株式処分に係る議案を特別決議にて可決
  • 平成15年11月7日
  • X、自己株式処分に係る代金を払い込み完了
  • 平成16年2月19日
  • 取締役会で、第三者割当の方法により新株発行を行う旨決議(割当は代表取締役X、取締役Y、同Zほか計7名、普通株式40,000株、1株1,500円)
  • 平成16年3月8日
  • 臨時株主総会で、第三者割当による新株発行に係る議案を特別決議にて可決
  • 平成16年3月24日
  • Xらの新株割当に係る払込み完了
  • 平成17年6月8日
  • 原告株主による、本件自己株式処分と本件新株発行は著しく不公正な価額により行われたものだとして、旧商法266条及び280条の11に基づく責任追及の訴えを提起するよう求める書面が監査役に到達
  • 平成17年8月1日
  • AN社は、本件自己株式処分と本件新株発行は著しく不公正な価額により行われたものとは認められないとして、提訴請求に係る訴えを提起しない旨通知
  • 平成19年10月1日
  • 原告、本件訴えを提起

株式評価額についての争いの概要

自己株式の処分、新株発行ともに、AN社の平成16年3月期中に行われています。

AN社は、自己株式の処分にあたり、Aに株式価値の算定を依頼し、その結果(1株1,500円)に基づいて取締役会の承認と株主総会の承認を得ています。

その約4ヶ月後の新株発行についても、自己株式処分の際のAの算定結果(1株1,500円)に基づいて取締役会の承認と株主総会の承認を得ています。

第1審

  • 原告株主は、Bによる算定結果(自己株式処分、新株発行いずれも1株32,254円)に基づいて損害賠償請求
  • 被告Xらは、Aに加え、CとDの算定結果(Aと同じ1株1,500円)で補強
  • 裁判所は、自己株式処分についてはA、C、Dの評価結果と同じ判断(1株1,500円)をし原告の請求を棄却、新株発行についてはA、B、C、Dのいずれの評価結果も採用せず、Cの算定方法を修正し独自に算定(1株7,897円)して、1株7,000円は下らないとして原告の訴えを一部認容

抗告審

  • 第1審原告株主は、Bによる再算定(自己株式1株25,940円、新株発行1株36,211円)を依頼し、あらためて損害賠償請求
  • 第1審被告Xらは、新株発行につき第一審判決の評価方法で減額修正し(0円)、また、Eの算定結果(1株1,102円)も主張
  • 裁判所は、両者の請求を棄却し、結論として第1審判決を維持

上告審

  • 自己株式処分、新株発行での1株1,500円は特に有利なる発行価額に当たらないと判決

株式価値算定についての本事案の特殊性

非上場株式の株価の算定ですが、本事案に特殊な事情としては次の点があります。

  • 自己株式処分は約1年前に取得した自己株式の処分であること(株数、価額とも同一)
  • 自己株式処分と新株発行は4ヶ月弱で時間的に近接していること
  • 業績は最悪期を脱しつつある時期(数年後には株式上場)
  • 自己株式の処分等の当時、一定の実現可能性のある事業計画が存在していないこと
  • ネットアセット・アプローチによる時価純資産法による評価額は大幅なマイナスであること

( つづく )