( 3 )裁判で争われた株価の概要

アートネイチャー株式代表訴訟事件は、複数の専門家が非上場株式の評価を行っています。

これら複数の専門家の算定方法や算定結果の概要について、第1審および抗告審でどのようなものがあったのかその概要をまとめました。

この事件は、取締役の責任を追及する株主代表訴訟であり、自己株式処分または新株発行時の価額が不公正に低い価額の場合に取締役に対する損害賠償が発生するかが最終的な争いですが、この争点については割愛し、その前提としての株価(そしてその算定方法)の妥当性について分析・検討をするものです。

自己株式処分、新株発行時の株価算定

株式会社アートネイチャー(以下「AN社」といいます。)は、平成15年10月16日の取締役会で、自己株式を処分する旨(取締役Xに対して33,217株、1株1,500円)を決議し、同年11月6日の臨時株主総会にて自己株式処分に係る議案を特別決議にて可決しています。

これにあたり、AN社はAに株価算定を依頼しています。

その後、平成16年2月19日の取締役会で、第三者割当による新株発行(割当先は取締役Xほか6名、普通株式40,000株、1株1,500円)を決議し、同年3月8日の臨時株主総会にて自己株式処分に係る議案を特別決議にて可決しています。

Aによる算定の概要

算定時期は平成15年10月中、10月31日に報告書を提出

評価基準日は、平成15年6月26日以降

当初選択した評価方法は修正簿価純資産法だったが、評価額がマイナスだったため、配当還元法を採用

算定結果は、自己株式処分、新株発行ともに1株当たり1,500円

第1審での株価算定

第1審の概要は次のとおりです。

  • 原告株主は、Bによる算定結果(自己株式処分、新株発行いずれも1株32,254円)に基づいて損害賠償請求
  • 被告Xらは、Aに加え、CとDの算定結果(Aと同じ1株1,500円)で補強
  • 裁判所は、自己株式処分についてはA、C、Dの評価結果と同じ判断(1株1,500円)をし原告の請求を棄却、新株発行についてはA、B、C、Dのいずれの評価結果も採用せず、Cの算定方法を修正し独自に算定(1株7,897円)して、1株7,000円は下らないとして原告の訴えを一部認容

Bによる算定の概要

算定時期は平成19年10月以降(第一審係属中)

評価基準日は平成15年3月31日

選択した評価方法は、収益還元法と修正簿価純資産法(折衷割合は2:1)

修正簿価純資産法の評価額はマイナスであったが、ゼロとせずマイナスのままで折衷

折衷後の額に非流動性ディスカウント30%

算定結果は、自己株式処分、新株発行ともに1株当たり32,254円

Cによる算定の概要

算定時期は平成19年10月以降(第一審係属中)

評価基準日は平成15年3月31日

採用した評価方法は取引事例法

当初の方針はDCF法と修正簿価純資産法(折衷割合は1:1)

両方法の評価額がいずれもマイナスだったため、取引事例法を採用

算定結果は、自己株式処分、新株発行ともに1株当たり1,500円

Dによる算定の概要

算定時期は平成19年10月以降(第一審係属中)

評価基準日は平成15年3月31日

採用した評価方法は取引事例法

収益還元法と修正簿価純資産法(折衷割合は1:1)

修正簿価純資産法の評価額はマイナスであったが、ゼロとせずマイナスのままで折衷

評価額がマイナスだったため、取引事例法を採用

算定結果は、自己株式処分、新株発行ともに1株当たり1,500円

東京地裁による算定の概要

算定時期は不明、なお、口頭弁論終結日平成23年12月22日

評価基準日は平成16年3月31日

採用した評価方法は、自己株式処分には取引事例法、新株発行についてはDCF法

DCF法については、Cによる評価方法を修正(評価基準日、控除する有利子負債の額、遊休資産加算)

算定結果は、自己株式処分が1株当たり1,500円、新株発行が1株当たり7,897円

抗告審での株価算定

抗告審の概要は次のとおりです。

  • 第1審原告株主は、Bによる再算定(自己株式1株25,940円、新株発行1株36,211円)を依頼し、あらためて損害賠償請求
  • 第1審被告Xらは、新株発行につき第一審判決の評価方法で減額修正し(0円)、また、Eの算定結果(1株1,102円)も主張
  • 裁判所は、両者の請求を棄却し、結論として第1審判決を維持

Bによる再算定の概要

(自己株式処分)

算定時期は平成24年3月以降(第一審判決日以降)

評価基準日は平成15年10月31日

選択した評価方法は、収益還元法とDCF法の中間値

両方法ともディスカウント30%した残額の中間値

算定結果は、自己株式処分は1株当たり25,940円

(新株発行)

算定時期は平成24年3月以降(第一審判決日以降)

評価基準日は平成16年3月8日

選択した評価方法は、収益還元法とDCF法の中間値

両方法ともディスカウント30%した残額の中間値

算定結果は、新株発行は1株当たり36,211円

被告による算定の概要

第1審では自己株式処分については被告の主張が認められたため、新株発行について算定

算定時期は平成24年3月以降(第一審判決日以降)

評価基準日は平成16年3月31日

採用した評価方法は、DCF法

DCF法については、第一審判決の評価結果を修正(余剰資金をゼロ)

算定結果は、新株発行は1株当たりゼロ円

Eによる算定の概要

算定時期は平成24年3月以降(第一審判決日以降)

評価基準日は平成16年3月31日

選択した評価方法は、時価純資産法とDCF法(折衷割合2:1と4:1の中間値)

時価純資産法の結果をゼロとし、DCF法には非流動性ディスカウント30%をして折衷

算定結果は、新株発行は1株当たり1,102円

東京高裁による算定の概要

算定時期は不明、なお、口頭弁論終結日平成24年11月7日

評価基準日は平成16年3月31日

採用した評価方法は、自己株式処分には取引事例法、新株発行についてはDCF法

DCF法については、Cによる評価方法を修正(評価基準日、控除する有利子負債の額、遊休資産加算)

算定結果は、自己株式処分が1株当たり1,500円、新株発行が1株当たり7,897円または7,113円

( つづく )