( 3 )非流動性ディスカウントの可否

本稿は、合併に反対する株主が裁判所に株式買取価格の決定を申立てた場合、裁判所が価格の決定を収益還元法で行う場合に「非流動性ディスカウントは行わない」という最高裁決定(平成27年3月26日)を素材にしたものです。

最高裁の決定の中心である非流動性ディスカウントの可否について、第1審や抗告審での各当事者の主張も含めて検討します。

非流動性ディスカウントについての各当事者の主張の概要

鑑定人の主張の概要

非流動性ディスカウントとは、最小限のコストで株式を売却できないことに対するディスカウントであり、通常は非上場会社に適用されるものである。

これは、非上場会社の株式は上場会社の株式のように株式市場で容易に現金化することが困難であるためのものである。

鑑定人は実務上20%から30%の割引率を用いていることから、25%とした。

これに対する買取請求株主の批判の概要(第1審)

鑑定人は、非流動性ディスカウントとして株主価値を25%も割り引いているが、不当である。

株式買取請求権は、反対株主として株式を手放したくないにもかかわらず、それ以上不利益を被らないためには株式を手放さざるを得ない事態に追い込まれたことに対する補償措置として位置づけられる。

しかるに、市場性がないという理由だけで25%も減額されてしまうと、少数株主に投下資本を確実に回収する機会を与えて経済的に救済する制度趣旨を著しく没却するものであり相当でない。

株式市場で換価することが困難であるため非流動性ディスカウントを採用するという論理は、独立当事者間の取引では妥当するとしても、株式買取請求事例では妥当しない。 売るかどうかを買主が任意に決められる通常の取引事例とは異なり、本件で問題となっているのは、株式を手放さざるをえない事態に追い込まれた少数株主に対する補償措置だからである。

鑑定で採用されている非流動性ディスカウントは、日本公認会計士協会編の企業価値評価ガイドラインで示されている収益還元法の基本式には組み込まれていない、特別の減価要因である。

これに対する合併存続会社の反論の概要(第1審)

株式買取請求の趣旨が、反対株主に対する投下資本の回収の途を確保し、当該株主の利益を一定の範囲で保障することにあるということは認める。

しかし、ここでいう株主の利益は、あくまで組織再編行為がなかったのであれば有していたであろう経済的利益である。

組織再編行為を機に、それまでは非上場株式であり流動性がなかった株式について、その流動性を考慮することなく評価することは、むしろ反対株主に本来得ることのなかった利益を与え、その反面、他の株主に損害を与えうる結果となる。

株式買取請求制度において、反対株主に必要以上の利益を与えることは想定されてもいないし、すべきでもない。

鑑定人は、その専門的知識と経験をもって鑑定を行い、そのなかで本件株式については非流動性ディスカウントを加味してこそ株式価格が算定できるとしたのである。

株式価値の算定は、極めて高度な専門的知識と経験を必要とする判断であり、純然たる将来の予測にかかわるものであるから、裁判所が選任した鑑定人による鑑定については、当該鑑定が著しく不合理かどうかという観点からその当否を決すべきである。

鑑定は、すべての株主に共通の非流動性を考慮しつつ総合的判断として株価を算定しているのであり、これを著しく不合理であると評価することはできない。

札幌地裁の決定の概要

本件は、吸収合併という組織再編行為に反対していただけで、積極的に保有株式を売却したいという意思を有していたわけではない反対株主の株式買取価格算定の場面であり、 株式売却意思を有する者と購入意思を有する者との間における通常の売買取引における価格形成の場面とは異なる。

そのため、申立人が、売却意思はなかったにもかかわらず、市場性がないという理由でその株式が本来有する価値を割り引かれて価格が算定されることに納得のいかない思いを抱くであろうことにも一定の理解はできる。

しかし、本件で算定しなければならないのは、本件株式の有する価値ではなく、買取価格である。

それぞれの立場の者がそれぞれの価値観で抱く価値とは異なり、売手と買手との存在があってはじめて形成される価格を算定するにあたっては、たとえ、本件のように市場において売買がなされる場面ではなかったとしても、価格の付きやすさ、売れやすさということも考慮せざるをえない。

そして、本件株式が譲渡制限株式であるうえ、これを取得しても会社支配権を取得することが困難な少数株式であることを考慮すると、本件株式の買取価格を算定するにあたって、相当程度の非流動性ディスカウントを採用したことについて、不合理と評価すべき事情はない。

また、25%を採用したことについても、株式価格の算定、特に非流動性ディスカウントの比率のような判断には、極めて高度な専門的知識と経験を必要とし、だからこそ、そのような専門的知識と経験を有する者を裁判所が鑑定人として採用したことに照らすと、当該判定が明らかに著しく不合理であると認められないかぎり、これを排斥することはできないというべきである。

25%は、鑑定人が実務上20%から30%までの数値を採用していることから決めたと説明されており、鑑定人または鑑定人の有する高度な専門的知識ないし経験に基づいて決められた数値であることがうかがわれる。

少なくとも、25%の非流動性ディスカウントを採用したことを著しく不合理とみなすような事情は認められない。

買取請求株主の主張の概要(第2審)

吸収合併に反対した株主の株式買取請求権は、少数株主の財産権はく奪に対する補償措置として重要な意義を有することから、合併がなかったとしたら株主が享受していた財産的地位(株式価値)を完全に回復させる必要がある。

収益還元法を採用するかぎり、純粋に収益獲得能力から算定された価値が「公正な価格」に当たるから、非流動性ディスカウントを行うことは許されない。

札幌高裁の決定の概要

吸収合併という組織再編行為に反対しただけで、積極的に保有株式を売却したいという意思を有していたわけではない反対株主の株式買取価格の算定は、株式売却意思を有する者と購入意思を有する者との間における通常の売買取引における価格形成と異なる面がある。

このため、非上場会社について非流動性ディスカウントを行うのが通常であるというだけでは、ただちに本件においてもこれを行うべきであるとはいえない。

しかしながら、吸収合併に反対して会社からの退出を選択した株主には、吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保すべきところ、A社の株式は譲渡制限株式であって、株主数も少なく、株式の取引事例も乏しいのであるから、その換価は困難であり、このことは株式の経済的価値自体に影響を与えているというべきである。

したがって、「公正な価格」の算定に際し、株式の換価の困難性を考慮することが裁判所の合理的な裁量を超えるものということはできない。

A社の株式の換価が困難であることからすれば、買取請求株主の享受していた財産的地位は、収益獲得能力から算定された価値そのものではなく、上記換価の困難性を反映したものであるというべきである。よって、買取請求株主の主張は理由がない。

なお、東京高裁平成22年5月24日決定は、株式買取請求権が少数派の反対株主の株式を手放さざるをえない事態に追い込まれる補償措置として位置づけられることを理由に、株式価値の評価にあたって非流動性ディスカウントを行うことは相当でないと判示している。

しかし、この事案は、対象となる株式が、元来は東証1部に上場されていたこと、粉飾決算による上場廃止後に公開買付けが行われたことなど、その流動性が本件株式と大きく異なっている。 よって、上記決定の判断を本件に直ちに適用することは当を得たものとはいえない。

最高裁の決定の概要

非流動性ディスカウントは、非上場会社の株式には市場性がなく、上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものである。

収益還元法は、当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって、同評価手法には、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。

収益還元法によって算定された株式の価格について、同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは、相当でないというべきである。

私見

前提

まず、理論的ではなく実質的効果について確認しますと、非流動性ディスカウントを行えば買取価格は低くなり買手に有利となり、非流動性ディスカウントを行わなければ買取価格は高くなり売手に有利となります。

「非上場株式だから流動性がないのだから、非上場株式の評価で非流動性ディスカウントをするのは当たり前」「何パーセントにするのかがどうかがむしろ重要」という先入観があると、非流動性ディスカウントを行わないことは違和感を抱かざるをえないのかもしれません。

第1審や抗告審における決定でも、ひょっとしたらこの先入観に基づいていたのかもしれません。

また、非流動性ディスカウントを、その語句からやや外れた、評価結果が過大にならないための「評価の安全性」のための減価という面を強調すると、同じく非流動性ディスカウントを行わないことは違和感を抱かざるをえないのかもしれません。

最高裁のロジック

さて、最高裁の決定は、非流動性ディスカウントを行うべきでないとする根拠を、収益還元法による算定プロセスに含まれていないことに求めていると考えられます。

この最高裁の決定だけを都合よく抜き出せば、非上場株式の売主にとっては好都合となります。

なぜなら、「市場における取引価格との比較」を行う類似業種比準法等などのマーケット・アプローチによる評価では非流動性ディスカウントは可能でも、「市場における取引価格との比較」を行わないネットアセット・アプローチやインカム・アプローチによる評価ではおよそ非流動性ディスカウントを行うことは不可能ともいえなくもないからです。

もちろん、これに対しては「このロジックは裁判所に買取価格決定申立てを行った事案で妥当するだけで、譲渡制限株式の売買価格決定などとは異なる」という反論となります。

「取引相手を探すコストや交渉コストの追加的の発生」を根拠にする場合

いっぽう、非流動性ディスカウントを行う根拠を、非上場株式の場合には取引相場(市場)が存在しないために、取引相手を探すコストや交渉コストが追加的に発生することに求めるとどうなるでしょうか。

とくに、株式譲渡につき会社の承認を要する譲渡制限株式の場合には、譲渡が承認される取引相手を探すことはさらに困難となり、けっきょく大株主や役員の関係者が買主となり、しかも価格交渉でも立場や情報量で不利な立場に置かれます。

逆に、「取引相手を探すコストや交渉コストが追加的な発生」が観念できないときは、およそ非流動性ディスカウントは行うべきでないことになります。

つまり、株主にとって、合併に反対し、保有する株式を会社に買取りを請求するという、非自発的で受動的な状況で、かつ、買手は合併存続会社と会社法で定められている場合、「取引相手を探すコストや交渉コストが追加的な発生」していないため、非上場株式だからといって、非流動性ディスカウントを考慮する必要性はないと考えられます。

この点に関しては、いわゆる「カネボウ株式買取価格決定申立事件」の東京地裁決定(平成20年3月14日)でも、非流動性ディスカウントを行わない鑑定人の評価を合理的としています。

「本件鑑定人は、本件株式買取価格の決定においては、株式売却を意図していない少数株主が会社から離脱することを余儀なくされた場合における少数株主に対する売却を前提とする非流動性ディスカウントを考慮する必要はないこと、また、非流動性ディスカウントによる調整は客観的な根拠がなく、鑑定の客観性を担保する観点をも考慮してこれを採用しなかったことが認められる。以上のような本件鑑定人の判断は、専門的学識と経験に基づき行った判断として十分合理性がある」

もちろん、この決定も、申立人(買取請求株主)が合併に反対する前にも株式売却のための具体的な行動があった場合や、そもそも裁判所への申立てではなく通常の売買交渉の場合には、そもそも前提が異なるため、非流動性ディスカウントの適否を検討することになると考えられます。

( つづく )