譲渡制限株式を譲渡するにはどうしたらよいのか

譲渡制限株式を譲渡しようにも、上場株式のように市場で自由に売却できず、しかも、譲渡には会社に承認が必要だとすると、買主をみつけることは困難です。

会社に対して株式の譲渡を申し出たとしても、会社側の事情により譲渡ができないことがあります。

そこで、買主を立てて「譲渡承認を拒否させるための譲渡承認請求」を行い、承認を拒否した場合、会社または指定買取人が株式を買い取らせることを狙います。

譲渡したい動機

「譲渡制限株式を譲渡するにはどうしたらよいのか」の前に、そもそもどうして譲渡したいのかという動機があるはずです。

通常は、次のようなことが多いのではないでしょうか。

  • 単純に株式を資金化したい
  • 退職した(退職する)
  • お家騒動での敗北、または、経営陣や主要株主に対する嫌がらせ
  • 相続や合併等で株主になった

確認しておきたい基礎知識

株式を譲渡しようとする前に、確認しておきたい基礎知識についてコメントいたします。

会社への融資と会社への投資の違い

株式会社への融資(資金の貸付け)の場合、約定にもとづき会社から返済を受けることで資金を回収できます。

おカネを出した人は金融機関と同じく会社の債権者となります。「約定通りおカネを返してくれ」と主張することができますし、会社も約定通りおカネを返済しなければなりません。

いっぽう、株式会社への投資(株式の取得)の場合、おカネを出した人は会社の株主となります。株主が、保有する株式を、その株式を発行している会社に譲渡して金銭等を受け取る(会社が株主から自己株式を買い取る)ことは、特殊な場合を除いてありません。

少なくとも、株主からの申し出に対して、会社が応じる義務はありません。

株主と会社が合意すれば可能ですが、会社に財源(キャッシュではなく法律上の額です。)がなければなりませんし、合意したとしても株主総会の特別決議が必要になります。

よって、会社の株式を取得した(会社に出資した)場合、その会社に買い取ってもらう(出資分の払い戻しを受ける)ことは、少なくとも自由にできません。

にもかかわらず、「会社に出資してくれない?」と「おカネ貸してくれない?」と混同し、おカネは会社から返してもらえるものだと勘違いしている人も少なくありません。

非上場株式の譲渡の困難性

このように、株式の保有者(株主)は、株式を取得した資金の回収は、その株式を発行会社以外の他者に譲渡(売却)することによって行うことになります。そのため、会社法では、株式の譲渡が自由にできることを原則にしています(127条)。

証券取引所等に上場されている株式ならば、株式市場を通じて自由に売却できます。市場だけに買手は通常存在し、また価格も市場での需要と供給の関係で決定します。損失となる場合もありますが、とにかく株式を現金に換えることができます。

ところが、上場されていない株式(非上場株式)を保有する人は、市場がないだけに売ろうとするにも買手となるべき相手を見つけることは容易ではありません。

また、売買価格も市場で形成されないため、もっぱら売手と買手の交渉で決まることになります。しかし、当事者間の力関係、持っている情報の差などによって、価格が必ずしも中立的に形成されるとはかぎりません。

譲渡制限株式とは

さて、非上場株式を発行している会社の株主構成は、親族や近親者で発行済株式数の全部または相当部分を占めているのが一般的です。

非上場株式を譲渡したい人にとって、買手となる人を見つけるのは大変ですが、会社(の主要株主や経営陣)としても、株式を自由に譲渡されて、突然どこのだれだかわからない者が株主として経営に参画してくることは避けたいことになります。

そこで、株式の譲渡に一定の制限をかけることになります。具体的には、株式の譲渡について会社の承認を得なければ、その譲渡によって株式を取得した者を株主として認めないとするのです。このような株式を譲渡制限株式といいます。

株式の譲渡に制限がついているかどうか、その制限の内容はどのようなものかはその会社の登記簿謄本で確認できます。

譲渡制限株式を譲渡しようとしても、その株式を取得しようという人を見つけることは容易ではありません。

もともと、将来株式を売却するにも非上場のため資金化(投下資本の回収)が難しいことに加え、株式を取得しようとする動機が会社の経営への参画にあるとしても、一定以上の株式数(議決権割合)を取得できなければ魅力がなく、しかも譲渡について会社の承認がなければ株主となれません。

法律上は、当事者間では株式譲渡そのものは有効で、会社との関係で無効になるのですが、株主になれないリスクがあるのにおカネを出して株式を買うという人は、よほど特殊な事情がないかぎり見つからないでしょう。

なお、従業員持株会を通じて株主となっている場合には、持株会規約などにより退職の際は株式を譲渡する旨などが明記されており、このような問題は通常生じないと考えられます。

個人と会社は別

譲渡制限株式を発行する会社の株主構成は、親族や近親者で発行済株式数の全部または相当部分を占めているのが一般的です。

このような会社では、大株主が同時に会社の代表者(代表取締役)であることが一般的です。まさに所有(株主)と経営(取締役)が一致しています。

しかし、所有と経営が一致しているからといって、大株主(自然人)と会社(法人)は別の主体です。

「A氏」と「X株式会社代表取締役A氏」は、自然人と法人が異なる主体である以上、「別」なのです。 たとえ、X株式会社の株主がA氏だけで、(代表)取締役もA氏だけだったとしてもです。

また、異なる主体であるということは、財布も異なるわけです。 もちろん、どちらかがどちらかにおカネを貸し付けて、そのおカネで取引をするということもありますが、いずれにせよ、財布は別なのです。

このため、たとえば、株式を譲渡する場合のアクションも、自然人としての「A氏」に対してか、それとも、会社の代表者としての「X株式会社代表取締役A氏」に対してかによってまったく異なることになります。ここを押さえておかないと、思わぬところで足元をすくわれることになります。

買主候補が見つからないことによる株主の会社側への申し出

ついつい株式を売りたい株主目線で考えてしまいますが、株式譲渡とは相手があって成り立ちます。株式を取得する当事者の立場を検討してみましょう。

なかなか株式を買ってくれる人が見つからないと、株式を譲渡したい株主は、会社関係者に対して株式を売りたいと申し出ることになります。

ちなみに、ここでの申し出は「譲渡制限株式を売りたいんだけど、買主となってくれる人がいなさそうなので、会社の関係者の誰かが買っていただけないでしょうか?」というものであり、買主となる人が決まっていて会社にその人への株式譲渡を承認するよう請求する手続とはまったく異なりますのでご注意ください。

会社の主要株主や経営陣に対して不信感がある人は、そのような申し出は感情的に抵抗があるため、別の手段、すなわち、 「不承認となるような譲渡承認請求」をすることになります(後述)。

株主からの申し出を受けた会社側の対応

株式を譲渡したいという株主からの申し出に対して、会社がこれに応じる義務はまったくありません

応じたとしても、申し出た株主の足元を見て、不利な条件での取引を求めてくることも十分にありえます。 とりわけ、少数株主は価格を決める基礎的な情報量や専門性では大きなギャップがあり、どうしても会社のほうが有利となります。 しかも、不利な条件なのかどうか株主がよくわからないことが少なくありません。

逆に、たとえば株主が分散していてその集約に悩んでいる会社では、この申し出は「渡りに船」ということになります。

しかし、会社としても申し出に二つ返事で応じられるかというと必ずしもそうでもありません。そのネックは、議決権比率の変化による経営権のバランスの変化と資金の問題です。

株主構成の変化

譲渡制限株式を発行する会社の株主構成は、親族や近親者で発行済株式数の全部または相当部分を占めているのが一般的です。

申し出があった株式について、既存株主の誰かか、あるいは、経営陣またはその他の会社関係者(の近親者)が取得するとなると、既存株主間の持株割合が変動することになります。

株主間で潜在的に地下マグマが蠢いているような状況では、デリケートな対応となるでしょうし、会社側に恨みを抱く株主は、ここを衝くことになるでしょう。

また、買い取りには資金が必要です。既存株主等に買い取る意思はあったとしても、資金がなければ買い取ることができません。会社がその人に買取資金を貸し付けるということもありますが、それはそれでデリケートな問題となりえます。

自己株式の取得

既存株主間の持株割合が変動することを避けたい場合には、会社が買い取る、すなわち、自己株式の取得を検討することになります。

しかし、自己株式の取得には、原資の問題と手続的な問題があります。

まず、会社が自己株式を取得するためには、十分な内部留保がなければなりません(いわゆる財源規制、会社法461条1項2号)。ザックリしたイメージでは、会社の貸借対照表の純資産の部の利益剰余金の額が十分にないと、自己株式を取得することはできません。会社に実際に現金があるかどうかとは別問題です。

会社が買い取る価格の基礎となる1株当たりの価値(株価)は、貸借対照表の1株当たり純資産額ではなく、税法のルールによって算定された額によることが一般的です。税法のルールでは、会社の株主構成と申し出た株主との関係、会社の規模や経営成績などによって株価が大きく異なります。 もっとも、税法のルールによる額で買い取らなければならないわけではありません。税法のルールによる額と異なる場合、会社、株主(他の株主も含めて)に課税の問題が生じるにすぎません。

財源規制をクリアできていても、自己株式の取得には株主総会を開催して承認(特別決議)を経なければなりません。株主から株式を買い取って、会社のおカネを支払うということは、その株主に対してだけ配当をしていることにもなるため、株主総会の承認が求められるのです。

株式の譲渡の成否のゆくえ

株式を譲渡したい株主からの申し出に対して、会社自身が買い取ることになった場合には、売買価格の交渉である程度の合意ができれば、株主総会を開催して特別決議を経て株式の譲渡が行われます(会社法156条)。 なお、ある株主が会社との合意で会社に株式を譲渡できそうなときに、他の株主はそれを決議する株主総会の前に「自分の株式も加えてくれ!」と手を挙げることができます(売主追加請求権、会社法160条3項)。

いっぽう、既存株主その他の人が買い取ることになった場合には、株式を譲渡したい株主はその人へ株式の譲渡を承認するよう会社に請求することになります。譲渡制限株式の譲渡には、会社の承認が必要であるため、会社法にのっとった手続をしなければなりません。とはいえ、すでに会社側で一定の検討をしているため、何の問題もなく譲渡は承認され、株式の譲渡が行われることになります。

ただし、繰り返しになりますが、株主からの株式を譲渡したいとの申し出に対して、これを必ず実現させるべき義務は会社側にはありません。

会社が買い取ることになって、価格の交渉で折り合いがつかない場合にも、裁判所に価格決定の申立て(会社法117条、144条、193条など)をすることができません。

けっきょく、当事者間の交渉で売買価格で合意できなかった場合には、破談することになります。

株主による「譲渡承認を拒否させるための譲渡承認請求」

会社に対して、より正確には主要株主や現経営陣に対して不信感がある場合には、株式を譲渡したくても、会社側にアタマを下げることは感情的にムリなことがあります。

また、株式を譲渡したいと会社側に申し出たのに、会社側から一蹴されたり、不利な条件を突きつけられてしまい、株式譲渡を断念せざるをえないことも(多々)あります。

そこで、知り合い等を譲受人(買主)を立てて「譲渡承認を拒否させるための譲渡承認請求」を行います。

譲渡承認の請求のときに、同時に「株式譲渡を承認しない場合には、会社または買取人を指定してください」と請求するのです

会社が承認をしなかった場合、会社か、会社が指定した買取人が必ず株式を買い取ることが確定します。少なくとも株式を資金化したい株主の目的は達成されるわけです。

この方法は、先ほど申し上げた「会社との合意」の場合とは異なり、売買価格の交渉が調わない場合には、裁判所に価格決定の申立てをすることができるため、少数株主にとっては有利です。

しかし、「相手のあること」なので、思ったようにはなかなかいかないのが世の常です。株主ではどうすることもできない部分は次のとおりです。

  • (譲渡承認請求の前提として)譲渡の譲受人となってくれる人の同意
  • 会社が譲渡承認を拒否する
  • 会社または指定買取人が「1株当たり純資産額×請求株数」の額を供託する
  • 会社または指定買取人が株主に対して、買い取る旨の通知と供託を証する書面を交付する
  • 一連の手続が会社法が規定する期間中に行われる

この方法の成否は、利害対立の状況にある会社の決定や会社や指定買取人の行動に依存する不安定なものです。

とくに少数株主の場合には、「あっそう、譲渡したければどうぞ」を譲渡をあっさり承認されてしまい、まったくの空振りとなってしまうことも少なくありません。まさに「討ち死に」となります。

こうならないようにどういう戦術が必要かを検討しなければなりません。

ただただ手続論だけ説いたところで、まったくといっていいほど解決になりません。

譲受人について

株式を売りたい株主としては、自分の保有する株式を買ってくれそうな人(知り合いであることが多いです。)を譲受人として、会社に対して株式の譲渡承認を請求し、あわせて、承認をしない場合には会社または指定買取人が買い取ることを請求することになります。

譲受人を引き受けた人の心理としては、お願いされたから受けたわけで、積極的にその会社の株式を買う動機はないことが通常です。このため、株式譲渡が会社に承認されてしまうと、譲受人に金銭的負担が生じることになるため、迷惑をかけかねません。

そこで、「譲受人への譲渡承認請求をしながら、譲渡が承認されないことを願う」状況となります。

とはいえ、譲受人となる人から譲渡承認請求にあたり一定の承諾が得ていなければ、架空請求となります。

たとえば、事前にまったく承諾を得ずに敵対する大株主を譲受人にして会社に譲渡承認請求をして、譲渡承認の拒否を引き出して会社または指定買取人に買い取らせようとします。仮に請求が有効だったとしても、会社は譲渡を承認し、大株主との取引を不成立に終わらせることで、このトリッキーな売主(株主)の野望を打ち砕くことになると思われます。

<参考情報> 相続や合併等といった一般承継で株式を取得した株主に対する会社からの売渡請求

株式の譲渡について会社の承認を要するものとしていても、相続や合併といった一般承継の場合には、譲渡(特定承継)とは異なり、会社の承認なくして当然に株式が新たな株主に移転します。

このため、会社(の経営陣や支配株主)としては、相続や合併などで知らない株主が加わることは好ましくないことがあります。

そこで、一般承継によって譲渡制限株式を取得した者に対して、会社のほうが株主に株式を売り渡してくれと請求できるようにすることができます。

具体的には、まず、会社の定款に「相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨」を定めます(会社法174条)。 つぎに、株主総会で請求する株式数や請求の相手方(株主)を決議して(175条)、これらの株主に対して一般承継のあったことを知った日から1年以内に売渡しの請求をします(176条)。

注意したいのは、このケースは「株主から会社への買取請求」ではなく「会社から株主への売渡請求」であることです。

株主から会社への株式の買い取りの請求となると、通常の株主とまったく同じです。

売渡しの交渉で価格が調わない場合には、裁判所に価格決定の申立てをすることができます(177条2項)。 しかし、いっぽうで、会社は面倒になったら売渡請求をいつでも撤回することができます(176条3項)。株主のままということで、通常の株主と同じになります(ふりだしに戻ります)。

(おわり)