ストーリーで押さえる譲渡制限株式の譲渡

譲渡制限株式の譲渡承認請求の手続についてストーリー形式でご説明いたします。

実際の条文は、会社法136条から145条、会社法施行規則24条から26条となります。

株式の譲渡について会社の承認が得られなくても、当事者間の取引じたいは有効ですが、会社との関係は無効であり、株主や持株比率については従前のままとなります。

株式譲渡の承認の請求にあたって、承認が得られないときは会社か会社の指定した買取人が買い取る旨を明らかにすると、会社あるいは買取人は株式を買い取らなければなりません。この場合の売買価格は当事者間の協議で決めますが、裁判所に売買価格の決定を申し立てることもできます。

実際の譲渡のプロセス

実際の実務では、会社法上の手続を行う前に、売り手と買い手の交渉が行われて合意をしてから会社への譲渡承認の請求が行われるというのが一般的です。会社から譲渡承認が得られないと想定される場合や当事者間で売買価格等について折り合いが付かない場合などには、株式譲渡取引それ自体が流れてしまい、譲渡承認請求も行われないことも少なくありません。

( 1 )会社への承認請求

公開会社でない株式会社A社の株主であるXさんは、その保有するA社の譲渡制限株式をYさんに譲渡しようとする場合、Xさんは、A社に対して、Yさんがその株式を取得することについて承認をするか否かの決定をするよう請求します。

Xさんは請求にあたって「Xさんが譲渡しようとする譲渡制限株式の数」「Yさんの氏名」「A社が承認をしない旨の決定をする場合に、A社またはA社が指定する買取人(指定買取人)がその株式を買い取ることを請求するときはその旨」を明らかにしなければなりません。

Xさんがその保有するA社の譲渡制限株式をYさんにすでに譲渡している場合、Yさんも、A社に対して、Yさんがその株式を取得することについて承認をするか否かの決定をするよう請求できます。この場合、YさんはXさんと共同で請求を行います。

Yさんも請求にあたって「Yさんが取得した譲渡制限株式の数」「Yさんの氏名」「A社が承認をしない旨の決定をする場合に、A社またはA社が指定する買取人(指定買取人)がその株式を買い取ることを請求するときはその旨」を明らかにしなければなりません。

( 2 )承認するか否かの決定と通知

A社がXさん(またはYさん)からの株式譲渡の承認請求に対して承認をするか否かの決定をするには、取締役会の決議によらなければなりません。なお、A社が取締役会を設置していない場合には株主総会の決議により、また、定款に別段の定めがある場合にはこれによります。

A社は株式譲渡の承認をするか否かの決定をしたときは、請求したXさん(またはYさん)に対し、決定の内容を通知しなければなりません。

A社がXさんとYさんとの株式譲渡を承認した場合、XさんはYさんとの間の株式譲渡取引は会社との関係でも有効となります。Yさんはその後A社に株主名簿の名義書換を申請します。

A社が株式譲渡の承認をしない決定をしてその通知をした場合、Xさん(またはYさん)が承認の請求にあたって「A社が承認をしない旨の決定をする場合に、A社またはA社が指定する買取人(指定買取人)がその株式を買い取ること」を請求していないと、株式の譲渡の承認が得られないことに確定します。

その場合、XさんとまたはYさんとのA社株式の売買取引は有効ですが、A社との関係では無効であり、A社の株主はXさんのままということになります。

A社が承認の請求の日から2週間以内(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間内)にXさん(またはYさん)に通知しなかった場合には、株式譲渡は承認されたものとみなされます。ただし、当事者間で別段の定めがあった場合にはこのかぎりではありません。

( 3 )会社が株式譲渡を承認しない場合

A社がXさん(またはYさん)からの請求を承認しない決定をした場合、Xさん(またはYさん)が「A社が承認をしない旨の決定をする場合に、A社またはA社が指定する買取人(指定買取人)がその株式を買い取ることを請求する」旨を明らかにしていたときは、A社は、請求の対象となった株式をA社が会社として買い取るか、または、指定買取人を指定しなければなりません。

株式会社による買取り(自己株式の取得)

A社がXさん(またはYさん)からの請求を承認しない決定をした場合、A社は、請求の対象となった株式の全部または一部についてA社が会社として株式を買い取ることを株主総会で決議により決定します。

なお、A社が会社として株式を買い取ることは自己株式の取得となります。自己株式の取得にはいわゆる財源規制があり、一定の剰余金がないと自己株式を取得することはできため、この場合は指定買取人を指定するほかありません。

A社は、会社として対象となっている株式を買い取ることを株主総会で決議したときは、この決定をXさん(またはYさん)に通知しなければなりません。この際に、A社は1株当たり純資産額に対象となった株式数を乗じた額を本店の所在地の供託所に供託し、供託を証する書面をXさん(またはYさん)に交付しなければなりません。なお、Xさん(またはYさん)は、この通知を受けた後は、A社の承諾を得た場合にかぎって、譲渡承認の請求を撤回できます。

A社が株券を発行する会社である場合には、供託を証する書面の交付を受けたXさん(またはYさん)は、当該交付を受けた日から1週間以内に、対象となっている株式の株券をA社の本店の所在地の供託所に供託し、A社に対し遅滞なく供託をした旨を通知しなければなりません。 Xさん(またはYさん)が期限内に株券を供託しなかった場合には、A社は株式の売買契約を解除できます。

指定買取人による買取り

A社は、みずから株式を買い取るほかに、請求の対象となった株式の全部または一部を買い取る者(指定買取人)としてBさんを取締役会の決議で指定することができます。なお、A社が取締役会を設置していない場合には株主総会の決議により、また、定款に別段の定めがある場合にはこれによります。

買受人として指定されたBさんは「買取人として指定を受けた旨」「買い取る株式の数」をXさん(またはYさん)に通知しなければなりません。その際には、Bさんは1株当たり純資産額に対象となった株式数を乗じた額をA社の本店の所在地の供託所に供託し、供託を証する書面をXさんまたはYさんに交付しなければなりません。なお、Xさん(またはYさん)は、この通知を受けた後は、Bさんの承諾を得た場合にかぎって、譲渡承認の請求を撤回できます。

A社が株券を発行する会社である場合には、供託を証する書面の交付を受けたXさん(またはYさん)は、当該交付を受けた日から1週間以内に、対象となっている株式の株券をA社の本店の所在地の供託所に供託し、Bさんに対し遅滞なく供託をした旨を通知しなければなりません。 Xさん(またはYさん)が期限内に株券を供託しなかった場合には、Bさんは株式の売買契約を解除できます。

( 4 )売買価格の決定

会社が株式譲渡を承認した場合

会社が株式譲渡を承認した場合には、売買価格はXさんとYさんとの協議により決定され、その協議の期間や売買価格の決定について会社法上の規定はありません。

会社が株式譲渡を承認せず、買い取りの請求もない場合

会社が株式譲渡を承認せず、しかも、Xさん(またはYさん)が承認の請求にあたって「A社が承認をしない旨の決定をする場合に、A社またはA社が指定する買取人(指定買取人)がその株式を買い取ること」を請求していないと、株式の譲渡の承認が得られないことに確定します。ただし、株式の譲渡取引それ自体は無効とはなりません。この場合の売買価格は、XさんとYさんとの協議により決定され、その協議の期間や売買価格の決定について会社法上の規定はありません。

会社が株式譲渡を承認せず会社が買い取る場合

A社からA社が株式を買い取る旨の通知があった場合には、A社とXさん(またはYさん)との協議で売買価格を定めます。

  • 上記の通知の日から20日以内に協議が調った場合には、協議で定まった額が売買価格となります。
  • 上記の通知の日から20日以内に、両当事者は裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます。この申立てがあったときは、裁判所が定めた額が売買価格となります。
  • 上記の通知の日から20日以内に協議が調わず、裁判所への申立てもない場合には1株当たり純資産額に対象となる株式数を乗じた額が売買価格となります。

A社は、Xさん(またはYさん)に株式を買い取る通知をするにあたり、1株当たり純資産額に対象となる株式数を乗じた額を本店所在地の供託所に供託しているので、この供託した金額を限度として、売買代金の全部または一部を支払ったものとみなされます。

会社が株式譲渡を承認せず指定買取人が買い取る場合

BさんからBさんが株式を買い取る旨の通知があった場合には、BさんとXさん(またはYさん)との協議で売買価格を定めます。

  • 上記の通知の日から20日以内に協議が調った場合には、協議で定まった額が売買価格となります。
  • 上記の通知の日から20日以内に、両当事者は裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます。この申立てがあったときは、裁判所が定めた額が売買価格となります。
  • 上記の通知の日から20日以内に協議が調わず、裁判所への申立てもない場合には1株当たり純資産額に対象となる株式数を乗じた額が売買価格となります。

Bさんは、Xさん(またはYさん)に株式を買い取る通知をするにあたり、1株当たり純資産額に対象となる株式数を乗じた額をA社の本店所在地の供託所に供託しているので、この供託した金額を限度として、売買代金の全部または一部を支払ったものとみなされます。

(おわり)