( 3 )同族株主の判定

財産評価基本通達によれば、議決権の保有が少なく、経営への影響力が小さい株主が取得した株式の評価は、通常は低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)が適用されます。

「同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式」が該当します。

同族株主の単位(株主グループ)は、民法上の親族のみならず、その関係者(同族関係者)、それらに支配される会社も含まれます。

議決権比率30%以上の株主グループを構成する株主は同族株主となりますが、同50%超の株主グループがある場合には、同族株主に該当しません。

株主グループのいずれもが30%未満である場合には、「同族株主のいない会社」となります。

「株主等」「同族関係者」などの用語や親族の範囲について押さえなければなりません。

配当還元価額で評価される株式

財産評価基本通達によれば、議決権の保有が少なく、経営への影響力が小さい株主が取得した株式の評価は、通常は低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)が適用されます。

具体的には、次に該当する株主が取得した株式です(通達188)。

  • 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
  • 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員または役員となる者を除きます。)の取得した株式
  • 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式
  • 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員である者および役員となる者を除きます。)の取得した株式

実務上は、相続税の申告書や贈与税の申告書に添付する「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」第1表の1「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」で行われます。

とはいえ、「同族株主のいる会社」「中心的な同族株主」「中心的な株主」という混乱しがちな用語が出てきて、さらに同族関係者の範囲や親族の範囲など若干ややこしいです。

これらを正しく判定できなければなりませんが、すべての出発点は次のとおりです。

  • 相続もしくは遺贈または贈与で異動する株式(評価する対象の株式)とその取得者を押さえます。
  • 異動後の株主の状況で、株主と同族関係者からなる株主をグルーピングし、各グループの議決権割合を確かめます。
  • 筆頭株主グループの議決権割合で同族株主のいる会社に該当するかどうか判定します。

今回の判定

今回の判定は、上記の「同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式」です。

同族株主がいる会社で、同族株主グループに属さない株主が取得した株式は配当還元価額で評価できます。

同族株主がいる会社で、同族株主グループに属する株主が取得した株式の場合は次回で検討します。

同族株主がいない会社の場合は、第5回で検討します。

同族株主(のいる会社)とは

通達188では「同族株主のいる会社」で特例的評価方式(配当還元方式による評価額)で評価できる株式を次のように規定しています。

  • 株主の1人とその同族関係者からなる株主グループの有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上である場合、その株主とその同族関係者が同族株主となり、それ以外の株主が「同族株主以外の株主」となります。
  • 株主の1人とその同族関係者からなる株主グループの有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である場合におけるその株主およびその同族関係者だけが同族株主となり、それ以外の株主が「同族株主以外の株主」となります。

ポイントは、複数の株主グループのうち、筆頭となる株主グループが50%を超えているかどうかを確かめることです。50%超の株主グループがあれば、その株主グループに属する株主のみが同族株主となり、それ以外はたとえ30%以上の株主グループに属する株主であっても同族株主とはなりません

Aグループが30%、Bグループが30%、Cグループが30%、その他の株主が10%で、A、BおよびCの3つのグループに属する株主はすべて同族株主となります。よって、その他の10%の株主は「同族株主以外の株主」となります。

ところが、Aグループが51%、Bグループが30%、その他の株主が19%の場合は、AグループとBグループが同族株主に該当しそうですが、Aグループが50%超のため、Aグループの株主だけが同族株主となり、それ以外のBグループの株主は、その他の19%は「同族株主以外の株主」となります。

株主グループのいずれもが30%未満である場合には、「同族株主のいない会社」となります

同族関係者とは

さて、同族株主とは上記の議決権比率となる「株主の1人とその同族関係者」ですが、「同族関係者」とは何だということになります。

通達によれば、同族関係者とは「法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》に規定する特殊の関係のある個人または法人」です。

「特殊の関係のある個人」とは

法人税法施行令4条の「特殊の関係のある個人」は次のとおりです。

  • (1)株主等の親族
  • (2)株主等と内縁関係にある者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
  • (3)株主等(個人)の使用人
  • (4)上記の(1)(2)(3)の者以外の者(個人)で株主等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
  • (5)上記の(1)(2)(3)の者と生計を一にするこれらの者の親族

「株主等」とは

株主等とは、株主または合名会社、合資会社もしくは合同会社の社員その他法人の出資者をいいます(法人税法2条14号)。合名会社等やかつての有限会社では株式会社の株主に相当する名称が「社員」です。一般的な意味とは異なります。

「親族」とは

親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です(民法725条)。

まず、本人の親きょうだいの親族は次のとおりです。

  • 兄弟姉妹(2親等血族)、兄弟姉妹の配偶者(2親等姻族)、兄弟姉妹の子(甥姪、3親等血族)、甥姪の配偶者(3親等姻族)、兄弟姉妹の孫(4親等血族)、兄弟姉妹の曾孫(5親等血族)、兄弟姉妹の玄孫(6親等血族)
  • 父母(1親等血族)、父母の兄弟姉妹(叔伯父母、3親等血族)、叔伯父母の配偶者(3親等姻族)、叔伯父母の子(従兄弟姉妹、4親等血族)、叔伯父母の孫(5親等血族)、叔伯父母の曾孫(6親等血族)
  • 祖父母(2親等血族)、祖父母の兄弟姉妹(4親等血族)、祖父母の兄弟姉妹の子(祖父母の甥姪、5親等血族)、祖父母の兄弟姉妹の孫(再従兄弟姉妹、6親等血族)
  • 曾祖父母(3親等血族)、曾祖父母の兄弟姉妹(5親等血族)、曾祖父母の兄弟姉妹の子(曾祖父母の甥姪、6親等血族)
  • 高祖父母(4親等血族)、高祖父母の兄弟姉妹(6親等血族)
  • 五世の祖(5親等血族)
  • 六世の祖(6親等血族)

つぎに、本人の卑属(子や孫)は次のとおりです。

  • 子(1親等血族)、子の配偶者(1親等姻族)
  • 孫(2親等血族)、孫の配偶者(2親等姻族)
  • 曾孫(3親等血族)、曾孫の配偶者(3親等姻族)
  • 玄孫(4親等血族)
  • 五世の孫(5親等血族)
  • 六世の孫(6親等血族)

さらに、本人の配偶者の親族は次のとおりです。

  • 配偶者のみの子(1親等姻族)、配偶者の孫(2親等姻族)、配偶者の曾孫(3親等姻族)
  • 配偶者の兄弟姉妹(2親等姻族)、配偶者の兄弟姉妹の子(3親等姻族)
  • 配偶者の父母(1親等姻族)、配偶者の父母の兄弟姉妹(3親等姻族)
  • 配偶者の祖父母(2親等姻族)
  • 配偶者の曾祖父母(3親等姻族)

「株主等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの」とは

株主等から給付を受ける金銭その他の財産又は給付を受けた金銭その他の財産の運用によって生ずる収入を日常生活の資の主要部分としている者をいいます(法人税基本通達1-3-3)。

「生計を一にする」とは

相助けて日常生活の資を共通にしていることですが、必ずしも同居していることは要しません(法人税基本通達1-3-4)

「特殊の関係のある法人」とは

「特殊の関係のある法人」は次のとおりです。

  • (1)同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主等の1人が他の会社を支配している場合における当該他の会社
  • (2)同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主等の1人と(1)の会社が他の会社を支配している場合における当該他の会社
  • (3)同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主等の1人と(1)(2)の会社が他の会社を支配している場合における当該他の会社

「他の会社を支配している場合」とは

「他の会社を支配している場合」とは次のいずれかに該当する場合をいいます(法人税法施行令4条3項)。

  • (1)他の会社の発行済株式等の総数または総額の100分の50を超える数等の株式等を有する場合
  • (2)他の会社の次に掲げる議決権のいずれかにつき、その総数の100分の50を超える数を有する場合
  •  イ 事業の全部もしくは重要な部分の譲渡、解散、継続、合併、分割、株式交換、株式移転または現物出資に関する決議に係る議決権
  •  ロ 役員の選任および解任に関する決議に係る議決権
  •  ハ 役員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社が供与する財産上の利益に関する事項についての決議に係る議決権
  •  ニ 剰余金の配当または利益の配当に関する決議に係る議決権
  • (3)他の会社の株主等(合名会社、合資会社または合同会社の社員に限ります。)の総数の半数を超える数を占める場合

個人または法人との間で当該個人または法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者がある場合には、当該者が有する議決権は当該個人または法人が有するものとみなし、かつ、当該個人または法人(当該議決権に係る会社の株主等であるものを除きます。)は当該議決権に係る会社の株主等であるものとみなして上記の株式数や議決権数を算定します(法人税法施行令4条6項)。

同一の個人または法人(人格のない社団等を含みます。)と特殊の関係のある2以上の会社が、判定会社株主等である場合には、その2以上の会社は、相互に特殊の関係のある会社であるものとみなされます(法人税法施行令4条4項)。

役員とは、法人税法施行令71条1項1号、2号及び4号に掲げる者をいい、具体的には、代表取締役、代表執行役、代表理事および清算人(以上1号)、副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員(以上2号)、取締役(指名委員会等設置会社の取締役および監査等委員である取締役に限ります。)、会計参与および監査役ならびに監事(以上4号)をいいます。

自己株式を保有している場合など

同族株主かどうかの判定における議決権割合の算定にあたっては、次の点に注意します。

株式評価の対象となる会社(評価対象会社)が自己株式を有する場合は、自己株式には議決権がないことから、自己株式に係る議決権はゼロとして計算した議決権の数をもって議決権総数とします(財産評価基本通達188-3)。この場合は、発行済株式総数と議決権総数に乖離が生じます。

評価対象会社が発行する株式のうち会社法308条1項により議決権を有しないこととされる会社があるときは、その会社の有する評価対象会社の株式の議決権の数はゼロとして計算した議決権の数をもって議決権総数とします(財産評価基本通達188-4)。

評価対象会社が会社法108条1項により種類の異なる株式(種類株式)を発行している場合は、種類株式のうち株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権の数を含めたところで議決権総数とします(財産評価基本通達188-5)。

混乱する原因

混乱するのが、法人税法の「同族会社」とゴチャゴチャになってしまうことです。

法人税法での同族会社とは、会社の株主等の3人以下ならびにこれらと特殊の関係のある個人および法人がその会社の発行済株式総数の100分の50を超える数の株式を有する場合におけるその会社をいいます(法人税法2条10号)。

財産評価基本通達の同族株主(のいる会社)が株主グループの議決権割合で判定するのとは異なります。

ところが、株主グループの判定にあたり、同族関係者の範囲を法人税施行令4条に規定する特殊の関係のある個人または法人としているため混乱してしまいがちになります。

( つづく )