( 5 )同族株主のいない会社での判定

財産評価基本通達によれば、議決権の保有が少なく、経営への影響力が小さい株主が取得した株式の評価は、通常は低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)が適用されます。

「同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」「中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(会社の役員または役員となる者を除きます。)の取得した株式」が該当します。

配当還元方式で評価される株式

財産評価基本通達によれば、議決権の保有が少なく、経営への影響力が小さい株主が取得した株式の評価は、通常は低く評価されうる株価(特例的評価方式=配当還元方式による評価額)が適用されます。

具体的には、次に該当する株主が取得した株式です(通達188)。

  • 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
  • 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員または役員となる者を除きます。)の取得した株式
  • 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式
  • 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(役員である者および役員となる者を除きます。)の取得した株式

実務上は、相続税の申告書や贈与税の申告書に添付する「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」第1表の1「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」で行われます。

とはいえ、「同族株主のいる会社」「中心的な同族株主」「中心的な株主」という混乱しがちな用語が出てきて、さらに同族関係者の範囲や親族の範囲など若干ややこしいです。

これらを正しく判定できなければなりませんが、すべての出発点は次のとおりです。

  • 相続もしくは遺贈または贈与で異動する株式(評価する対象の株式)とその取得者を押さえます。
  • 異動後の株主の状況で、株主と同族関係者からなる株主をグルーピングし、各グループの議決権割合を確かめます。
  • 筆頭株主グループの議決権割合で同族株主のいる会社に該当するかどうか判定します。

今回の判定

今回の判定は、上記の「同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」と「中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(会社の役員または役員となる者を除きます。)の取得した株式」です。

  • 同族株主がいない会社と判定された場合、議決権割合が15%未満の株主グループに属する株主が取得した株式の評価は配当還元方式で評価できます。
  • 議決権割合が15%以上の株主グループがある場合、そのグループに属する株主が評価対象となる株式を取得した場合には、その株主本人について取得後の議決権割合を確かめます。
  • その株主本人の議決権割合が5%以上の場合、取得した株式の評価は配当還元方式ではなく原則的評価方式で評価します。
  • その株主本人の議決権比率が5%未満の場合、まず会社に中心的な株主がいるかどうか判定します。
  • その株主本人の議決権比率が5%未満でも、会社に中心的な株主がいない場合は、その株主が取得した株式の評価は配当還元方式ではなく原則的評価方式で評価します。
  • 会社に中心的な株主がいる場合、株式を取得した本人が中心的な株主に該当するかどうか判定します。
  • その株主本人が中心的な株主に該当する場合は、その株主が取得した株式の評価は配当還元方式ではなく原則的評価方式で評価します。
  • その株主本人が中心的な株主に該当しない場合、その株主本人が課税時期で役員か申告期限までに役員就任予定かどうかを判定します。
  • その株主本人が課税時期で役員か申告期限までに役員就任予定ならば、その株主本人が取得した株式の評価は配当還元方式ではなく原則的評価方式で評価します。
  • その株主本人が課税時期で役員でもなく役員就任予定もなければ、取得した株式の評価は配当還元方式で評価します。

同族株主のいない会社で議決権割合15%未満の株主グループに属している株主

株主の1人とその同族関係者からなる株主グループの有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上である場合、その株主とその同族関係者が同族株主となります。

株主グループのいずれも議決権比率が30%未満である場合には、「同族株主のいない会社」となります。

とはいえ、同族株主のいない会社ならば株主の取得した株式がすべて配当還元方式で評価できるわけではありません。

まず、議決権割合が15%未満の株主グループに属している株主が取得した株式は配当還元方式で評価できます。

同族株主のいない会社で議決権割合15%以上の株主グループに属している株主

通達188(4)は、同族株主のいない会社の株主のうちで、議決権割合が15%以上の株主グループに属している株主が特例的評価方式(配当還元方式による評価額)で評価できる株式を次の3つを満たした者が取得した株式と規定しています。

  • 株式取得者について、株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であること
  • 会社に中心的な株主がいること
  • 株式取得者が、課税時期において評価会社の役員(社長、理事長ならびに法人税法施行令71条1項1号、2号および4号に掲げる者)でないこと、および課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者でないこと

「課税時期」とは、財産評価基本通達が相続税または贈与税の課税金額を算定するための財産評価の規定であることから、相続もしくは遺贈または贈与のあった日です。

「法定申告期限」とは、贈与税の場合は贈与のあった日の属する年の翌年3月15日、相続税の場合は相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月を経過する日です。

なお、株式の譲渡の場合にこの通達の規定を用いる場合は、課税時期は譲渡の日となります

株式を取得した株主の議決権割合の確認

中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主で、議決権割合15%以上の株主グループに属している株主が取得した株式を配当還元方式で評価できる場合の規定です。

前提として「会社に中心的な株主がいる」「同族株主のいない会社の株主である」「株式を取得した株主は議決権割合15%以上の株主グループに属している」ことになります。

そもそも同族株主のいない会社で議決権割合が15%未満の株主グループに属する株主が取得した株式は配当還元方式で評価できるからです。

さて、同族株主のいない会社で、かつ、株式を取得した株主は議決権割合15%以上の株主グループに属していて、相続もしくは遺贈または贈与により株式を取得した者について、取得後の議決権割合が5%以上となる株主の場合は、そもそも中心的な株主に該当するかどうかとか役員(となる者)かどうかは関係なく、取得した株式を配当還元方式で評価できず、原則的評価方式で評価することになります。

よって、まずは株式を取得した者の取得後の議決権割合が5%以上かどうかを判定します。

会社に中心的な株主がいるかどうかの判定

「中心的な株主」とは、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独でその会社の議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主をいいます。

同族株主のいない会社において、議決権割合が15%以上のいずれかの株主グループのうちに中心的な株主がいない場合は、株式を取得した者の取得後の議決権割合が5%未満であっても、取得した株式を配当還元方式で評価できず、原則的評価方式で評価することになります。

役員に該当するかどうかの判定

同族株主のいない会社で、議決権割合が15%以上のいずれかの株主グループのうちに中心的な株主がいて、本人が保有する議決権比率が5%未満であっても、課税時期で役員であったり、申告期限までに就任した場合には、保有株式数は少数でも経営に関与しているため配当還元方式では評価できません。

役員とは、法人税法施行令71条1項1号、2号及び4号に掲げる者をいい、具体的には、代表取締役、代表執行役、代表理事および清算人(以上1号)、副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員(以上2号)、取締役(指名委員会等設置会社の取締役および監査等委員である取締役に限ります。)、会計参与および監査役ならびに監事(以上4号)をいいます。

以上から、同族株主のいない会社で、議決権割合が15%以上のいずれかの株主グループのうちに中心的な株主がいて、本人の議決権割合が5%未満で、役員(となる者)でなければ、その者が取得した株式は特例的評価方式(配当還元方式)で評価します。

補足

同族株主のいない会社で、取得後も議決権割合が15%未満の株主グループに属している場合、単独で取得後の議決権割合が10%以上の株主も配当還元方式で評価できます。

同族株主のいない会社で、議決権割合が15%以上の株主グループに属する株主は、取得した株式について配当還元方式で評価するにはいくつかの要件(取得後の議決権割合5%未満、中心的な株主がいる、役員ではない)が必要ですが、取得後も議決権割合が15%未満の株主グループに属している場合、単独で取得後の議決権割合が10%以上であっても配当還元方式で評価できます。

( つづく )