とってもイージーな税務上の非上場株式の評価の解説

非上場株式の評価、正確には「取引相場のない株式」の評価方法につきまして、とってもイージーにご説明します。

「細かい説明などウンザリ」という方もいらっしゃるはずと信じてコメントいたします。

イメージ的に全体像をつかんでいただくことが狙いです。

一般的な解説の流れ

非上場株式(税務的には「取引相場のない株式」)についての一般的な解説本の説明の流れは次のようなものです。

  • 同族株主とそれ以外の株主の説明
  • 原則的評価方式と特例的な評価方式の説明
  • 大会社、中会社、小会社の説明
  • 類似業種比準方式と純資産価額方式の説明
  • 特例的な評価方式(配当還元方式)の説明
  • 特定の評価会社(比準要素1の会社や土地保有特定会社など)の説明
  • 特定の評価会社の評価方法の解説

思いっきり消化不良になります。

「細かい規定なんて読みたくない。細かい計算はプロがやればいい。イメージが欲しいんだよイメージが」という方もいらっしゃるはずです。

私はイメージ的に全体像をつかんでいただき、(調べようと思えば)より深く調べられるような流れをつくればと思います。

イメージ 1 全体的なイメージ

  • 相続や贈与よりも、譲渡のほうが確実に高い評価額になります。
  • 株式を取得する人が、株式の取得後に支配株主になる場合には高い評価額になります。
  • 株式を取得する人が、株式の取得後に役員でも同族関係者でもない少数株主であれば低い評価額になることがあります。
  • 会社の規模が大きいほど低い評価額になります。
  • 土地や株式を多く保有していると高い評価額になります。

イメージ 2 純資産価額方式の概要

  • 基本的な評価方式が純資産価額方式というものです。
  • 資産から負債を引いた純資産で評価します。
  • 課税時期(相続開始日、贈与日または売買日)の直近の貸借対照表をベースに行います。
  • 課税時期の直前の月次で仮決算が望ましいですが、直近の決算数値も認められます。
  • 資産や負債は必ずしも会計上の帳簿残高と一致しません。時価で評価するからです。
  • 土地や有価証券は時価で評価され、土地の評価は路線価により行います。
  • 路線価とは、相続税の課税価格を計算するためのもので、一般的な時価の80%程度とされます。

イメージ 3 類似業種比準方式の概要

  • 純資産価額方式のほかにもう一つの方式があります。
  • 類似業種比準方式といわれる方式です。
  • 基本的には、会社と業種が類似する上場会社(群)の株価に、会社と類似業種の数値との比率(比準割合)を乗じて評価します。
  • 比準割合とは、会社と類似業種上場会社(群)について、直前期の「配当」「利益(法人所得)」「(税務上の)純資産」の3要素で算出します。

イメージ 4 両方式の併用と評価額の算定

  • 評価額は、基本的に類似業種比準方式と純資産額方式を併用した額です。
  • その併用割合は、会社の業種ごとの規模(従業員数、純資産、売上高)の区分によって異なります。
  • 大会社、中会社、小会社です。
  • 大会社は類似業種比準方式のみで評価できます。
  • 中会社、小会社となるにしたがって、類似業種比準方式の併用割合が下がります(小会社は50%)。
  • 一般に、類似業種比準方式のほうが純資産価額方式より低く評価される傾向があります。
  • そこで、類似業種比準方式の評価額がより適用されるようにするのが、いわゆる「自社株対策」の定番です。
  • なお、純資産価額方式の方が低く評価される場合には、純資産価額方式のみによることができます。

イメージ 5 純資産価額方式の重要な注意点

  • 内部留保(利益剰余金)がある会社は純資産価額方式が高く評価される傾向があります。
  • 時価評価すると含み益が高額な資産のある会社は純資産価額方式が高く評価される傾向があります。
  • このため、含み益が高額な資産のある会社は、会計上は債務超過(負債の方が資産を上回って純資産がマイナス)であっても、時価評価の結果、評価上の純資産がプラスになることがあります。
  • さらに、評価上、会計上は資産として計上されないものを資産としなければならないものがあります。
  • 借地の上に建物がある場合には、借地権を評価して資産として計上します。
  • 営業権を評価して資産として計上します。過去数期の利益が大きいと多額になる可能性があります。
  • 現物出資、合併、株式交換や株式移転で著しく低い価額で受け入れた株式がある場合は評価額を加算します。
  • いっぽう、支給額が確定した(死亡)役員退職金を負債に計上したり、法人税等を計算して未納法人税等として負債に計上できます。
  • 時価評価した純資産額が帳簿ベースの純資産額との差額よりも大きい場合、その差額(評価差額)に40%を乗じた額(法人税等相当額)を差し引けます。ただし、相続や贈与の場合と異なり、譲渡の場合には差し引くことができません。

イメージ 5 類似業種比準方式の重要な注意点

  • 「配当」「利益(法人所得)」「(税務上の)純資産」の3要素は直前期の決算・申告数値を使います。
  • たとえ、3月決算の会社で評価日が3月中であっても、ほぼ1年前の直前期の数値を用います。理論はともかく、それがルールなのです。
  • 配当、所得、純資産の各要素別に算定された比準割合は単純平均するのではなく、ウエイトは1 : 3 : 1 のため、直前期の所得が大きいと高く評価されます。
  • 数年にわたって業績が悪いと、3要素のうち2またはすべてがゼロになる場合(比準要素1または比準要素ゼロ)、その会社規模にかかわらず類似業種比準方式を併用できず、純資産価額方式のみで評価しなければなりません。
  • 開業3年未満の会社は、その会社規模にかかわらず類似業種比準方式を併用できず、純資産価額方式のみで評価しなければなりません。

イメージ 5 相続や贈与でなく譲渡の場合の注意点

  • 大会社として区分されたとしても、小会社として評価しなければなりません。
  • つまり、類似業種比準方式と純資産価額方式の併用は50%ずつとなります。
  • しかも、純資産価額の資産(土地や有価証券)の時価評価については、評価日の取引価格で評価します。路線価をベースにするなら80%を除した額とします。
  • とどめは、相続や贈与では帳簿の額と時価評価した額の差額(評価差額)に対して40%を乗じた額(法人税等相当額)を差し引くことができたのに、それができません。
  • このため、相続や贈与のときの評価額に比べて(少なからず)高い評価額となります。
  • なお、譲渡において、当事者の双方または一方に法人がいる場合、この方法で計算した額が事実上の「税務上の時価」となり、これより高かったり安かったりすると課税上の問題(寄附金や受贈益や給与課税)が発生します。
  • この点、「税務上の時価」で取引しなければならないと考えている方が多数いらっしゃいますが、税金を払えばいいだけの話なのです。

イメージ 6 配当還元価額

  • 株式を取得する人が、株式の取得後に役員でも同族関係者でもない少数株主であれば、配当還元価額によります。
  • 過去の配当実績に基づいて計算しますが、配当がゼロの場合には25,000円になります。
  • 配当還元価額よりも、原則的な評価額の方が低かったら配当還元価額によらないこともできます。

(おわり)