( 7 )「時価」の1/2以上の低額での譲渡

時価より低い価額ですが、時価の1/2以上での譲渡(低額譲渡)を検討いたします。

目次

( 1 )個人(売主)から個人(買主)への譲渡

Aさんは、Bさんに株式を取引価額80で売却しました。この株式のAさんの取得費は90、譲渡費用は0、Aさんにとって譲渡直前の株式の時価は100、Bさんにとって譲渡後の株式の時価は100でした。

売主である個人

売主である個人には、譲渡所得に対して所得税等が課税されます。

個人が個人に対して、株式を時価の1/2未満で譲渡した場合、その譲渡収入金額が当該株式に係る取得費および譲渡費用の額の合計額に満たないとき、すなわち譲渡所得がマイナスになるときは、そのマイナス分は譲渡所得の金額の計算上、なかったものとみなされます(所得税法59条2項)。

Aさんの譲渡所得金額は、譲渡収入80、株式の取得費が90、譲渡費用が0のため、▲10となります。

譲渡時のAさんにとっての株式の「時価」は100であるため、取引価額20は「時価」の1/2以上となります。

よって、Aさんの譲渡所得金額▲10はなかったものとみなされません(▲10となります)。

買主である個人

買主である個人には株式の取得に関して所得税法の課税はありません。

もっとも、時価よりも著しく低い価額の対価で取得した場合には、贈与税が課税されます(相続税法7条)。

Bさんは「時価」100の株式を80で取得しました。時価よりも著しく低い対価の額とはいえないため、差額20に対して贈与税は課税されません。

( 2 )個人(売主)から法人(買主)への譲渡

Aさんは、X社に株式を取引価額80で売却しました。この株式のAさんの取得費は90、譲渡費用は0、Aさんにとって譲渡直前の株式の時価は100、X社にとって譲渡後の株式の時価は100でした。

売主である個人

売主である個人には、譲渡所得に対して所得税等が課税されます。

個人が法人に対して株式を時価の1/2未満で譲渡した場合、「時価」で譲渡したものとみされます(所得税法59条1項2号)。

譲渡時のAさんにとっての株式の「時価」は100であるため、取引価額80は「時価」の1/2以上となります。よって、みなし譲渡課税は発生せず、譲渡収入は90となります。

よって、Aさんの譲渡所得金額は、譲渡収入80、株式の取得費が90、譲渡費用が0のため、▲10となります。

買主である法人

理論的根拠は時価の1/2未満での譲渡の場合と同じです。

X社は「時価」100に比して低い価額80で取得しています。X社の株式の取得価額は、取得に通常要する額すなわち「時価」の100となります。「時価」と取引価額との差額20は経済的利益の供与を受けた受贈益として法人税が課税されます。

税務上のインパクトは、受贈益認定(20加算)で会計上の当期純利益から20加算となります。

( 3 )法人(売主)から個人(買主)への譲渡

X社は、Aさんに株式を取引価額80で売却しました。この株式のX社の取得価額は90、X社にとって譲渡直前の株式の時価は100、Aさんにとって譲渡後の株式の時価は100でした。

売主である法人

まず、売主である法人には、売却損益に対して法人税が課税されます。なお、法人所得の計算上、無償による資産の譲渡に係る収益の額も益金の額に算入します(法人税法22条2項)。

会計上は、X社は90で取得した株式を80で譲渡しているため、売却損が10出ています。しかし、税務上はX社は100で譲渡すべきとされ、受け取らなかった差額20は無償による資産の譲渡となります。よって、税務上は、X社は100で譲渡したことになり、売却益10となります。

つぎに、売主である法人は時価よりも低額で譲渡したことで買主である個人に経済的利益を供与したことになります。

この経済的利益の法人税法上の性格は、売主である法人を買主である個人ががどういう関係にあるかによって異なります。 買主である個人が売主である法人の役員である場合には役員給与(法人税法34条4項)、従業員の場合には従業員給与、役員でも従業員でもない場合には寄附金(法人税法37条7項、8項)となります。

このうち、役員給与については、この経済的利益の供与は定期同額給与に当たらないため法人所得の計算上損金に算入されません(法人税法34条1項)。また、寄附金の場合も、損金算入限度額を超える部分は損金に算入されません(法人税法37条1項)。

X社は、「時価」100の株式を80でAさんに譲渡しています。本来なら100を受け取るべきところ80しか受け取ってません。Aさんはそれだけ少ない支払いで済んだことになります。よって、X社はAさんに無償の経済的利益を供与しています。

この無償の経済的利益が、X社としてどのような性格を持つのかは、AさんがX社にとってどういう関係かによります。

さて、AさんがX社の従業員の場合は従業員給与となり、損金となります。しかし、AさんがX社の役員の場合は役員給与となりますが、この経済的利益は定期同額給与に該当しないため損金に算入されません。AさんがX社の役員・従業員でない場合は寄附金となり寄附金も損金算入限度額を超過した部分は、やはり損金に算入されません。

役員給与や寄附金となる経済的利益の20が全額損金に算入されないとすると、税務上のインパクトは次のとおりとなります。

AさんがX社の従業員の場合には、会計上の売却損10は売却益10に修正(20加算)、従業員給与認定(20減算)で、会計上の当期純利益へのインパクトはありません。

AさんがX社の役員の場合には、会計上の売却損10は売却益10に修正(20加算)、役員給与認定(20減算)、役員給与損金不算入(20加算)で、会計上の当期純利益に20加算となります。

AさんがX社の役員・従業員でない場合には、会計上の売却損10は売却益10に修正(80加算)、寄附金認定(80減算)、寄附金損金不算入(80加算)で、会計上の当期純利益に80加算となります。

なお、AさんがX社の役員・従業員の場合には、この経済的利益はAさんの給与所得になるため、所得税等の源泉徴収を行わなければなりません。

買主である個人

株式を「時価」よりも安く取得できたということは、無償の経済的利益があったことになります。この無償の経済的利益は、所得税等の課税対象となります(所得税法36条1項、所得税基本通達36-15(2))。

そして、所得税等の課税にあたって、この経済的利益がどの種類の所得に該当するのかは、売主である法人と買主である個人との関係によります。

まず、買主である個人が、売主である法人の役員・従業員である場合、この経済的利益は、買主である個人に給与所得として所得税等が課税されます。

つぎに、買主である個人が、売主である法人の役員・従業員でない場合、この経済的利益は、買主である個人に一時所得として所得税等が課税されます(所得税法34条、所得税基本通達34-1(5))。

AさんがX社の役員または従業員の場合には、X社からの無償の経済的利益10はAさんの給与所得として所得税等が課税されます。

AさんがX社の役員または従業員でない場合には、X社からの無償の経済的利益10はAさんの一時所得として所得税等が課税されます。

( 4 )法人(売主)から法人(買主)への譲渡

X社は、Y社に株式を取引価額80で譲渡しました。この株式のX社の取得価額は50、X社にとって譲渡直前の株式の時価は100、Y社 にとって譲渡後の株式の時価は100でした。

売主である法人

理論的根拠は時価の1/2未満での譲渡の場合と同じです。

まず、会計上は、X社は90で取得した株式を80で譲渡しているため、売却損が10出ています。しかし、税務上はX社は100で譲渡すべきとされ、受け取らなかった差額20は無償による資産の譲渡となります。よって、税務上は、X社は100で譲渡したことになり、売却益10となります。

つぎに、X社は時価よりも低額で譲渡したことでY社に経済的利益を供与したことになります。この経済的利益は寄附金となり、損金算入限度額を超過した部分は損金に算入されません。

経済的利益の80が全額損金に算入されないとすると、税務上のインパクトは次のとおりとなります。

会計上の売却損10は売却益10に修正(20加算)、寄附金認定(20減算)、寄附金損金不算入(20加算)で、会計上の当期純利益から20加算となります。

買主である法人

理論的根拠は時価の1/2未満での譲渡の場合と同じです。

Y社は「時価」100に比して低い価額80で取得しています。Y社の株式の取得価額は、取得に通常要する額すなわち「時価」の100となります。「時価」と取引価額との差額20は経済的利益の供与を受けた受贈益として法人税が課税されます。

税務上のインパクトは次のとおりとなります。受贈益認定(20加算)で、会計上の当期純利益から20加算となります。

( つづく )