非上場株式の所得税法上の価額(時価)についてのまとめ

個人が非上場株式を譲渡する場合の税務上の価額(時価)については、実務上は所得税基本通達59-6による所得税法上の時価によっています。

この方法は、個人が相続や贈与で取引所の相場のない株式を取得したときの相続税や贈与税の課税金額の計算(財産評価基本通達による方法)を一部修正して適用するものです。

重要なのは、株式を譲渡した個人が譲渡直前に同族株主以外の株主等(財産評価基本通達178ただし書)に該当するのかどうかの判定(配当還元方式評価が可能かどうか)、つづいて、譲渡した個人が譲渡直前に中心的な同族株主に該当するかどうかの判定(3つの修正が必要かどうか)です。

ついつい、評価対象会社の会社区分(大会社か中会社か小会社か)や評価方式(類似業種比準方式か純資産価額方式か)を先に検討してしまい混乱しがちです。

目次

( 1 )非上場株式の譲渡における取引価額(時価)と、税務上のルールの関係

株式の時価とは、正常な取引において形成された価格、すなわち、客観的な交換価値とされます。

上場株式等は大量かつ反復継続的に取引が行われており、多数の取引を通じて一定の取引価額が形成され、そのような取引価額は、市場原理を通じることによって、当事者間の主観的事情に左右されず、当該株式の客観的交換価値を正当に反映した価額であると考えられています。

いっぽう、非上場株式は、上場株式等のように大量かつ反復継続的に取引が行われることが予定されていません。このため、取引価額の形成も取引当事者間の主観的事情に左右されやすく、当該株式の客観的価値を必ずしも正当に反映している価額とは限りません。このため、仮に取引事例が存在するとしても、その数が少数にとどまる場合には、取引当事者間の主観的事情に影響されたものでないことをうかがわせる特段の事情がない限り、当該取引価額は客観的交換価値を正当に反映した価額とはいえないと考えられています。

逆に、取引価額の形成が、純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた価額であれば、取引当事者間の主観的事情に影響されたものでない特段の事情があると考えられるため、合理的なものとして税務上も是認されると考えられています。

当事者間の取引価額の交渉ではなく、課税処分にあたり財産の客観的交換価値を評価する場合、これを個別に評価しようとすると、評価方法や基礎資料の選択などにより異なった評価額が生じるために納税者間の公平が図れないおそれがあるだけでなく、課税当局の事務負担が重くなり迅速な課税処理が困難となります。

そこで、財産評価の一般的基準が定められ、これに定められた評価方法によって画一的に評価する方法が採用されています。このような扱いは、租税負担の実質的公平を実現することができ、租税平等主義にかなうとされます。そして、課税当局の徴税コストの削減ばかりでなく、納税者にとっても課税の予測可能性という点で有益といえます。

( 2 )所得税法上の時価の根拠規定

所得税法上の時価が問題となるのは、所得税法59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に該当する譲渡の場合です。

所得税法59条は、個人が贈与等など時価より低い価額で譲渡を行った場合の規定です。

この場合に適用される時価が「所得税法上の時価」であり、その算定方法は、所得税基本通達59-6に規定されています。

第59条 贈与等の場合の譲渡所得等の特例

  • 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
  • 一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
  • 二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
  • 2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第2号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。

( 3 )所得税法上の時価が適用される取引

所得税法上の時価が適用される、個人にみなし譲渡課税が適用されるのはどのような取引でしょうか。

所得税法59条では次のように規定されています。

個人(相続人)が限定承認による相続または遺贈で取得した場合

まず、個人(相続人)が限定承認による相続または遺贈で取得した場合、所得税法上は、個人(被相続人)が個人(相続人)に譲渡したという構成を取ります。

このとき、被相続人である個人は、この譲渡所得について確定申告をして納税することになりますが、すでに亡くなっているため、相続人がすることになります(準確定申告、所得税法125条)。この譲渡所得の収入金額が、相続開始時の時価とみなされるのです。なお、この確定申告による所得税等の納付額は、相続財産の債務となります(相続税法13条)。

なお、限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をするというものです(民法922条)。

以上から、限定承認による相続または遺贈があった場合には、被相続人が相続人に対して「譲渡の時における価額」で譲渡したものとみなされます。つまり、被相続人の所得税の準確定申告における譲渡所得金額の計算上、収入金額は譲渡の時の時価、すなわち、所得税法上の時価となります。

法人に対して、贈与もしくは遺贈または著しく低額の対価で譲渡した場合

次に、個人(売主)が、法人(買主)に対して贈与・遺贈または著しく低額の対価で譲渡した場合にみなし譲渡課税が適用されます。

ポイントは、「法人に対して譲渡した」場合で適用され、個人に対して著しく低額の対価で譲渡した場合にはみなし譲渡課税は適用されません。

贈与または遺贈は無償での譲渡となりますが、「著しく低額の対価」とは何なのかが問題となります。

「著しく低額の対価」については、法人税施行令169条で「譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額」と規定されています。

以上から、法人に対して、(無償も含めて)「譲渡の時における価額」の1/2未満で譲渡した場合には、「譲渡の時における価額」で譲渡したものとみなされます。つまり、譲渡所得金額の計算上、収入金額は譲渡の時の時価、すなわち、所得税法上の時価となります。

個人に対して、著しく低額の対価で譲渡した場合で、譲渡所得がマイナスとなる場合

個人が個人に対して株式を著しく低い対価(時価の1/2未満)で譲渡した場合には、法人に譲渡した場合と異なり、みなし譲渡課税は適用されません。よって、譲渡所得金額の計算にあたり、譲渡収入の額は実際の取引価額となります。

ただし、時価の1/2未満である取引価額が、譲渡した株式に係る取得費および譲渡費用の額の合計額に満たないとき、つまり譲渡所得がマイナスになるときは、そのマイナスになる額は譲渡所得の金額の計算上、なかったものとみなされます。

つまり、時価よりも著しく低額で譲渡した譲渡損失を他の株式に係る譲渡所得と通算できないことになります。

株主(個人)が株式の発行法人に対して株式を著しく低額の対価で譲渡した場合

株主(個人)が、株式の発行法人に対して著しく低額の対価(時価の1/2未満)で譲渡した場合もみなし譲渡課税が適用されます。

株主が株式の発行法人に対して株式を譲渡するということは、発行法人からみれば自己株式の取得ということになります。

この場合、著しく低額の対価に当たるかどうかの判定は、発行法人が自己株式を取得した時における時価に対して、株主に交付された金銭等の額が、著しく低い価額の対価であるかどうかにより行います。

なお、株主が発行法人から受け取る金銭等の額は譲渡所得の収入金額となりますが、みなし配当(後述)に該当する部分は配当所得となるため、みなし配当の額を差し引いた部分が譲渡所得の収入金額となります。

根拠となる条文は次のとおりです。

租税特別措置法第37条の10 一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例

  • 第1項、第2項 略
  • 3 一般株式等を有する居住者又は国内に恒久的施設を有する非居住者が、当該一般株式等につき交付を受ける次に掲げる金額(所得税法第25条第1項の規定に該当する部分の金額を除く。次条第3項において同じ。)及び政令で定める事由により当該一般株式等につき交付を受ける政令で定める金額は、一般株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなして、同法及びこの章の規定を適用する。
  • 一、二、三 略
  • 四 法人の株主等がその法人の自己の株式又は出資の取得(金融商品取引所(金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所をいう。次条第2項において同じ。)の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び所得税法第57条の4第3項第1号から第3号までに掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額
  • 以下略

租税特別措置法関係通達37の10-27 法人が自己の株式又は出資を個人から取得する場合の所得税法第59条の適用

  • 法人がその株主等から措置法第37条の10第3項第4号の規定に該当する自己の株式又は出資の取得を行う場合において、その株主等が個人であるときには、同項の規定により、当該株主等が交付を受ける金銭等(みなし配当額を除く。)は株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされるが、この場合における所得税法第59条第1項第2号の規定の適用については、次による。
  • (1)同号の規定に該当するかどうかの判定
  • 法人が当該自己の株式又は出資を取得した時における当該自己の株式又は出資の価額(以下この項において「当該自己株式等の時価」という。)に対して、当該株主等に交付された金銭等の額が、同号に規定する著しく低い価額の対価であるかどうかにより判定する。
  • (2) 同号の規定に該当する場合の株式等に係る譲渡所得等の収入金額とされる金額
  • 当該自己株式等の時価に相当する金額から、みなし配当額に相当する金額を控除した金額による。
  • (注)「当該自己株式等の時価」は、所基通59-6により算定するものとする。

( 4 )所得税法上の時価の算定

所得税法上の時価の算定の基準となる規定が所得税基本通達59-6です。

ざっくり申し上げますと、所得税法上の時価の算定は、個人が相続または贈与によって非上場株式を取得した場合の課税金額を算定するルールを修正した方法によっても行うことができるというものです。

所得税基本通達59-6 株式等を贈与等した場合の「その時における価額」

法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23~35共-9に準じて算定した価額による。

この場合、23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した価額とする。

  • (1)財産評価基本通達178、188、188-6、189-2、189-3及び189-4中「取得した株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と、同通達185、189-2、189-3及び189-4中「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と、同通達188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替えるほか、読み替えた後の同通達185ただし書、189-2、189-3又は189-4において株式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通達188の(1)から(4)までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
  • (2)当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
  • (3)当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。
  • (4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

所得税基本通達59-6の位置づけとは

所得税基本通達59-6は「第1編 居住者の納税義務 第1章 課税標準及びその計算並びに所得控除」の「第1節 各種所得の金額の計算 第5款 資産の譲渡に関する総収入金額並びに必要経費及び取得費の計算の特例」のところに位置しています。

この規定は、一定の事由による有価証券の移転があった場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により有価証券の譲渡があったとみなすという、いわゆる「みなし譲渡課税」を規定した所得税法59条の「その時における価額」の算定についてのものです。

さて、通達59-6によれば、「「その時における価額」とは、23~35共-9に準じて算定した価額による。」とあります。そこで、所得税基本通達23~35共-9を見てみましょう。

所得税基本通達23~35共-9 株式等を取得する権利の価額

令第84条第1号から第4号までに掲げる権利の行使の日又は同条第5号に掲げる権利に基づく払込み又は給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日。以下この項において「権利行使日等」という。)における同条本文の株式の価額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。

  • (1)これらの権利の行使により取得する株式が金融商品取引所に上場されている場合  当該株式につき金融商品取引法第130条《総取引高、価格等の通知等》の規定により公表された最終の価格(同条の規定により公表された最終の価格がない場合は公表された最終の気配相場の価格とし、同日に最終の価格又は最終の気配相場の価格のいずれもない場合には、同日前の同日に最も近い日における最終の価格又は最終の気配相場の価格とする。)による。なお、2以上の金融商品取引所に同一の区分に属する価格があるときは、当該価格が最も高い金融商品取引所の価格とする。
  • (2)これらの権利の行使により取得する新株(当該権利の行使があったことにより発行された株式をいう。以下この(2)及び(3)において同じ。)に係る旧株が金融商品取引所に上場されている場合において、当該新株が上場されていないとき  当該旧株の最終の価格を基準として当該新株につき合理的に計算した価額とする。
  • (3)(1)の株式及び(2)の新株に係る旧株が金融商品取引所に上場されていない場合において、当該株式又は当該旧株につき気配相場の価格があるとき  (1)又は(2)の最終の価格を気配相場の価格と読み替えて(1)又は(2)により求めた価額とする。
  • (4)(1)から(3)までに掲げる場合以外の場合  次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる価額とする。
  • イ 売買実例のあるもの 最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額
  • ロ 公開途上にある株式(金融商品取引所が株式の上場を承認したことを明らかにした日から上場の日の前日までのその株式及び日本証券業協会が株式を登録銘柄として登録することを明らかにした日から登録の日の前日までのその株式)で、当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出し(以下この項において「公募等」という。)が行われるもの(イに該当するものを除く。) 金融商品取引所又は日本証券業協会の内規によって行われるブックビルディング方式又は競争入札方式のいずれかの方式により決定される公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額
  • ハ 売買実例のないものでその株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの 当該価額に比準して推定した価額
  • ニ イからハまでに該当しないもの 権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

なお、同通達の冒頭の「令84条」とは、所得税法施行令84条です。所得税法施行令84条は、所得金額の計算の基礎となる収入金額について、収入金額を構成する金銭以外の権利その他経済的な利益の価額は、当該権利を取得する時における価額と規定する所得税法36条2項について、一定の株式等を取得する権利の価額の算定について規定したものです。

財産評価基本通達による方法(相続税法上の時価の算定方法)を修正して算定できる株式の範囲

まず、所得税基本通達59-6によれば、「譲渡所得の基因となる資産が株式である場合の」となっており、株式の範囲について制限をしていません。しかも、「株式」には、株主または投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含みます。)および新株予約権の割当てを受ける権利が含まれます。

このことから、所得税基本通達59-6の対象となる株式の範囲は、上場株式も含めすべての株式となります。

つぎに、みなし譲渡課税(所得税法59条1項)が適用される場合の譲渡所得の収入金額となる「その時における価額」は、所得税基本通達23~35共-9に準じて算定するとしています。 そして、所得税基本通達23~35共-9は、上記のとおり、株式の種類ごとに価額を定めています。

このうち、通達23~35共-9の(4)ニ に定める株式については、「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」の算定を、原則として財産評価基本通達に一定の修正を加えた方法によって行うことを規定しています。

ここで、通達23~35共-9の(4)ニ の株式とは、同通達の(1)にも(2)にも(3)にも該当せず、しかも、(4)のなかでもイにもロにもハにも該当しない株式です。

つまり、金融商品取引所に上場((1)および(2))されておらず、気配相場の価格((3))もない株式で、売買実例((4)イ)もなく、公開途上にある株式で公募または売出しが行われて(同ロ)おらず、当該株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額(同ハ)がない株式です。

( 5 )財産評価基本通達による算定方法の修正

所得税基本通達59-6は、上場有価証券等以外の株式の法人税法上の時価の算定について、財産評価基本通達に一定の修正をした方法を規定しています。

これは、財産評価基本通達が個人が相続または贈与によって取引相場のない株式を取得した場合の相続税や贈与税の課税金額を算定するためのものであるため、財産評価基本通達をそのまま適用するのではなく、一定の修正をすることになっています。

逆にいえば、一定の修正を要するものを除けば、財産評価基本通達どおりに所得税法上の時価を算定することになります。

財産評価基本通達は、相続税や贈与税の算定のための評価方法であり、相続税や贈与税は、被相続人や贈与者から財産や経済的利益を取得した個人に対してかかります。

所得税が「財産を売った(手放した)者」に対して適用されるのに対して、相続税や贈与税は「財産を取得した者」に対して適用されるのですが、まずここを理解しないと混乱してしまいます。

さらに、財産評価基本通達による時価の算定というと、「大会社」「中会社」「小会社」に当たるかとか「類似業種比準価額」「純資産価額」の算定方法ばかりに汲々としてしまう人も少なくないように思われます。

財産評価基本通達での取引相場のない株式の出発点は、「同族株主以外の株主等が取得したのか否か」という判定です。財産評価基本通達178ただし書です。ここを誤解してはなりません。

しかも、法人税法で「同族会社」「同族関係者」という概念があるために混乱しがちです。ここは財産評価基本通達を吟味するシチュエーションです。

つまり、非上場株式の発行法人にとって同族株主以外の株主等に該当すれば「配当還元価額」が所得税法上の時価となるのです。

なお、所得税基本通達59-6(1)は、「株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること」と明記しています。

修正(1)中心的な同族株主に該当する場合には小会社で評価

所得税基本通達59-6(2)によれば、「当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例による」としています。

まず、「財産評価基本通達179の例により算定する場合」というのは、ウラを返せば「財産評価基本通達179の例により算定しない場合」があるということです。

財産評価基本通達179のタイトルは「取引相場のない株式の評価の原則」であり、「前項(同通達178)による区分された大会社、中会社及び小会社の株式の価額は、それぞれ次による」として、3つの会社ごとの評価方法が示されています。

では、その前項である通達178を見てみますと、「取引相場のない株式の価額は、評価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」という。)が次の表の大会社、中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて、それぞれ次項の定めによって評価する。ただし、同族株主以外の株主等が取得した株式又は特定の評価会社の株式の価額は、それぞれ188《同族株主以外の株主等が取得した株式》又は189《特定の評価会社の株式》の定めによって評価する。」とあります。

「財産評価基本通達179の例により算定」しない場合とは、通達178の但書に求められそうです。すなわち、同族株主以外の株主等が取得した株式は通達188で、特定の評価会社の株式の価額は通達189で評価されるため、通達179では算定しません。

同族株主以外の株主等が取得した株式は、配当還元方式による価額となります(通達188-2)。

また、特定の評価会社(比準要素数1の会社、株式保有特定会社、土地保有特定会社、課税時期において開業後の経過年数が3年未満の会社や比準要素0の会社(開業後3年未満の会社等)開業前または休業中の会社または清算中の会社に該当する場合にも、通達179は適用されません。

よって、以降はさしあたり「通達179の例」すなわち原則的評価方式で評価することを前提に展開します。

原則的評価方式とは、会社の規模に応じて「大会社」「中会社」または「小会社」に区分し、それぞれ所定の方法で評価します。この会社の規模は、業種(卸売業、小売業・サービス業、それ以外の業の3つ)ごとに、直前期末の総資産価額(帳簿価額)、直前期末以前1年間の取引金額(売上高)および従業員数で判定します。

重要なのは、この会社の区分に、株主構成とはまったく無関係だということです。

会社区分の違いは、ズバリ、類似業種比準価額(通達180)の斟酌率(同通達180(注)(2))と、類似業種比準価額(通達180)と1株当たりの純資産価額(通達185)の併用割合に影響を与えます。会社区分が取引相場のない株式の相続や事業承継対策として重要なのはこのためです。

類似業種比準価額は、評価対象会社と類似する業種について1株当たり配当金額、年利益金額(税務上の所得)および純資産価額(ここでの純資産価額は法人税申告書別表五(一)の額)の3つの比準要素について割合(比準割合)を出し、これに類似業種の株価を乗じ、さらに会社規模ごとの斟酌率を乗じて計算されます。

1株当たりの純資産価額は、基本的に資産から負債を控除した額を発行済株式数で除して計算されます。しかし、会計上の貸借対照表のそれとはまったく異なります。まず、純資産価額の算定の対象となる資産または負債が会計と異なるばかりでなく、価額は財産評価基本通達によって評価された価額(時価)となります(さらに下記のとおり一部修正されます。)。

「大会社」は類似業種比準価額のみで評価します。類似業種比準価額の計算では最後に流動性ディスカウント的な斟酌率を乗じるのですが、大会社は70%を乗じます。ただし、納税義務者の選択により1株当たりの純資産価額で評価できます。つまり、1株当たりの純資産価額の方が類似業種比準価額よりも小さければ、1株当たりの純資産価額を選択することが可能です。

「中会社」は類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額を併用し、総資産価額と従業員数によって類似業種比準価額の併用割合が90%から60%となります。中会社で類似業種比準価額の計算で乗じる斟酌率は60%です。ただし、納税義務者の選択により1株当たりの純資産価額で評価できます。つまり、1株当たりの純資産価額の方が類似業種比準価額よりも小さければ、1株当たりの純資産価額を選択することが可能です。

「小会社」は1株当たりの純資産価額のみで評価します。ただし、納税義務者の選択により類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額の併用割合が50%ずつとして計算した金額によって評価することができます。

つまり、株式を譲渡した者が、譲渡直前で中心的な同族株主に該当して「小会社」で評価しなければならない場合でも、類似業種比準価額を50%使うことはできるのです。

逆に、株式を譲渡した者が同族株主以外の株主に該当せずに配当還元方式での評価とならなくても、譲渡直前で中心的な同族株主に該当しない場合には、当該株式の発行法人が「大会社」「中会社」に該当すれば、それぞれの方法で評価できるのです。

修正(2)土地等や上場有価証券を譲渡時の時価で評価

個人が相続や贈与によって土地および土地の上に存する権利(借地権など、以下「土地等」といいます。)や上場有価証券を取得した場合、相続税や贈与税の課税金額を算定する場合のこれらの財産は、土地等については原則として路線価方式または倍率方式を基礎として評価し、上場有価証券については、課税時期(相続や贈与で取得した日)の最終価格、課税時期の月の毎日の最終価格の平均額および課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額、課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額のうち最も低い価額で評価します。

これらの財産の評価の方法は、取得した取引所の相場のない株式を発行する会社が土地等や上場有価証券を資産として保有していても基本的に同様ですが、課税時期前3年以内に当該会社が取得・新築した土地等ならびに家屋およびその附属設備または構築物については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価します。ただし、これらの資産の帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額で評価できます。

さて、所得税法上の時価を算定する場合には、所得税基本通達59-6(3)による修正が入ります。

まず、土地等については、取得時期にかかわらずすべての土地等について「事業年度終了時の価額」で評価します。通達9-1-4が法人が保有する非上場株式について事業年度終了時に評価減を行う場合の規定のため、「事業年度終了時」となっていますが、株式の譲渡の場合には、「事業年度終了時」は「株式譲渡時」に読み替えることになります。

「通常の取引価額」と「(事業年度終了時の)価額」を実質的に同じととらえると、路線価は実際の時価(通常の取引価額)の80%とされているため、路線価方式による土地等の評価額は「通常の取引価額」の80%ということになるため、実務上は、路線価方式によって算定した価額に0.8を除した額をもって「通常の取引価額」としていることも少なくありません。

いっぽう、上場有価証券は、「株式譲渡日の最終価格」で評価することになります。

土地等と上場有価証券以外は、法人税基本通達9-1-14は財産評価基本通達の算定の修正を求めていません。たとえば、家屋については固定資産税評価額で評価します(財産評価基本通達89)ただし、課税時期前3年以内に取得・新築した家屋については、譲渡日における通常の取引価額に相当する金額によって評価します(同通達185)。

これらの修正により、財産評価基本通達どおりの計算よりも明らかに土地等や上場有価証券の評価額は増えることになり、1株当たりの純資産価額も大きくなります。しかし、もっと恐ろしいのは、土地等や上場有価証券の評価額の増大によって、財産評価基本通達179の例が適用できない土地保有特定会社や株式保有特定会社に該当してしまうことです(通達189)。

土地保有特定会社や株式保有特定会社は、土地や株式の時価ベースの価額が総資産に占める割合が一定以上になると該当しますが、これらの特定会社に該当すると1株当たり純資産価額のみで評価しなければならず、類似業種比準価額を併用する余地はまったくなくなってしまうのです(通達189-3、189-4)。

(修正3)評価差額に対する法人税等相当額を控除しない

財産評価基本通達の原則的な方法でも、取引相場のない株式を発行する会社について、保有する資産のなかに取引相場のない株式がある場合、この資産の一部である取引相場のない株式の1株当たり純資産価額の計算では評価差額(時価ベースの評価による含み益等)に対する法人税等相当額は控除しないのですが(通達186-3(注))、最終的な1株当たり純資産価額の算定にあたっては評価差額に対する法人税等相当額(税率は38%)は控除します(通達186-2)。

所得税基本通達59-6(4)では、所得税法上の時価の場合には、取引相場のない株式の発行会社の最終的な1株当たり純資産価額の計算で法人税等相当額の控除は行わないため、1株当たり純資産額は、原則的な算定結果よりもさらに大きくなります。

( 6 )相続税ソフトで株価計算をする場合の注意

専門家は、取引相場のない株式の評価もソフトで行うことが多いのですが、所得税法上の時価への修正の場合、評価差額に対する法人税等相当額を上書き処理でゼロにしたり、「小会社」評価に修正ということで、つい単純に類似業種比準価額と1株当たり純資産価額の併用割合を調整して終わらせそうですが、類似業種比準価額の計算で最後に乗ずる斟酌率も会社規模によって異なります。小会社の斟酌率は50%です。簡単に損害賠償事案になりそうなのでくれぐれも注意しましょう。

(おわり)