( 3 )個人による株式の譲渡に対する課税

所得税法は、所得を10種類に分け、それぞれの所得ごとに所得金額の計算方法を規定しています。株式の譲渡による売却損益は、譲渡所得に該当します。ただし、有価証券の譲渡を営利を目的にして継続的に行っている場合には、譲渡所得ではなく事業所得もしくは雑所得となります(所得税法33条2項、所得税基本通達23~35共-11)。以下は、株式の譲渡は譲渡所得になる個人を前提にコメントいたします。

個人が株式を譲渡した場合、譲渡所得に対して所得税等が課税されます。譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から当該株式の取得費および譲渡に要した費用を控除して算定します(所得税法33条3項)。

目次

( 1 )個人が法人に対して「時価」より低額で譲渡する場合

個人が法人に対して株式を時価の1/2未満(所得税法施行令169条)で譲渡した場合には、時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得の計算における譲渡収入金額は、売主との取引価額ではなく「時価」となります。これが「みなし譲渡課税(所得税法59条1項2号)」です。

売主である個人が、買主に対して株式を取引価額40で譲渡したとします。当該株式を取得した価額が50、譲渡に要した費用が10だったとすると、譲渡所得は、譲渡収入金額40、取得費50と譲渡費用10で差引▲20となります。

譲渡の取引価額は40でしたが、譲渡時の(売主である個人にとっての)「時価」は100だったします。

買主が法人である場合は、法人に対して時価の1/2未満で譲渡するとみなし譲渡課税が適用されます。譲渡所得金額の計算上、譲渡収入は取引価額の40ではなく「時価」100、取得費50と譲渡費用10で差引40となります。

法人へ贈与した場合にも、売却価額がゼロとして譲渡したことになりますから、法人に対して時価の1/2未満で譲渡したことと同じですから、やはりみなし譲渡課税が適用されます(所得税法59条1項1号)。

このみなし譲渡課税は法人に譲渡したときにのみ適用され、個人に譲渡したときは適用されません

法人への売却価額が時価の1/2以上であった場合には、みなし譲渡課税は適用されませんが、当該法人が売主である個人との関係で同族会社であり、時価未満で譲渡したことによって所得税の負担を不当に減少させたと税務署長が認めた場合(同族会社等の行為または計算の否認)には、時価で譲渡したものとされます(所得税基本通達59-3、所得税法157条)。

みなし譲渡課税が適用される場合の「時価」

みなし譲渡課税が適用される場合の「時価」とは、いわゆる「所得税法上の時価」といわれるものです。具体的には、「相続税法上の時価」に一定の調整を加えた額です。

注意したいのは、この場合に売主である個人に適用される「時価」は、売主である個人が、譲渡直前の状況で譲渡対象株式の発行法人にとってどのような地位だったかによって(大きく)異なります。

まして、「所得税法上の時価」は、「相続税法上の時価」よりも(少なからず)時価が高く算定されます。具体的には、発行法人が保有する資産について土地等や有価証券は譲渡時の取引価格(土地等は路線価からの修正で0.8を除した額、上場有価証券は譲渡日の最終価格)で評価し、含み益等に対する法人税等相当額の控除(38%)はなく、そして、売主である個人が譲渡直前に発行法人の中心的な同族株主に該当する場合には「小会社」で評価することになります。

売主である個人が、譲渡直前において、当該株式の発行法人にとって同族株主に該当する場合には、一般的には「時価」が大きくなり(とくに上記のとおり中心的な同族株主に該当する場合)、同族株主以外の株主に該当する場合には、「時価」は小さくなります。

譲渡直前において、売主である個人が同族株主以外の株主であれば「時価」は小さくなるため、みなし譲渡課税が適用される時価の1/2未満の額もそれだけハードルが下がります。逆に、売主である個人が同族株主であれば「時価」は大きくなるため、みなし譲渡課税が適用されるリスクが高まります。

( 2 )個人が個人に対して「時価」より低額で譲渡する場合

個人が個人に対して株式を時価の1/2未満で譲渡した場合には、法人に譲渡した場合と異なり、みなし譲渡課税は適用されません。よって、譲渡所得金額の計算にあたり、譲渡収入の額は実際の取引価額となります

ただし、時価の1/2未満である取引価額が、譲渡した株式に係る取得費および譲渡費用の額の合計額に満たないとき、つまり譲渡所得がマイナスになるときは、そのマイナスになる額は譲渡所得の金額の計算上、なかったものとみなされます(所得税法59条2項)。つまり、時価よりも著しく低額で譲渡した譲渡損失を他の株式に係る譲渡所得と通算できないことになります。

売主である個人が、買主である個人に対して、株式を取引価額40で譲渡したとします。売主である個人が当該株式を取得した価額が90、譲渡に要した費用が10だったとすると、譲渡所得は、譲渡収入金額40、取得費90と譲渡費用10で差引でマイナス60(譲渡損失)となります。この損失は別の株式等に係る譲渡所得と通算(相殺)できます。

譲渡の取引価額は40でしたが、譲渡時の(売主である個人にとっての)「時価」は100だった場合、買主である個人に対して時価の1/2未満で譲渡したことになり、60の譲渡損失はなかったものとみなされます。

( 3 )個人が法人に対して「時価」より高額で譲渡する場合

先ほども申し上げたとおり、所得税法は所得を10種類に分けて所得の種類ごとに所得金額の算定方法を規定しています。そして、 個人が株式を譲渡した場合は、一般的には譲渡所得となります。

さて、売主である個人が、買主である法人に対して、たとえば、譲渡時の「時価」が100の株式を150で譲渡したとします。この場合、本来100を受け取るべきところ150も受け取っています。

つまり、株式を「時価」より高く譲渡した場合、その取引価額のなかには「時価」を超えた部分が含まれています。すなわち、取引価額は「譲渡の対価としての性格をもつ部分」と「そうでない部分」からなります(上場株式の場合につき東京高裁平成26年5月19日判決、原審は東京地裁平成25年9月27日判決)。 この「時価」を超えた部分は、買主である法人から取引価額とは別の利益を得たことになります。

上記の例で行くと、譲渡所得の計算にあたり譲渡収入金額となるのは、譲渡の対価としての性格を持つ部分、すなわち譲渡時の「時価」である100となります。そして、譲渡時の「時価」100を超えて買主たる法人から受け取った50については、譲渡の対価としての性格を持たない部分として、譲渡所得とは別の所得として所得税等が課税されます。

そして、この利益が所得税法上のどの所得に該当するのかは、買主である法人と売主である個人との関係によります。

まず、売主である個人が買主である法人の役員・従業員である場合、「時価」を超過した50は譲渡の対価としての性格を持たない部分として、売主である法人から経済的利益を供与されたことになります。すなわち、この経済的利益は給与所得として課税されます。なお、買主である法人は、源泉徴収義務者として、買主である個人の給与所得について所得税・復興特別所得税の源泉徴収を行います。

つぎに、売主である個人が買主である法人の役員・従業員でない場合でも、経済的利益を供与したことになります。もっとも、売主である個人は買主である法人の役員・従業員とは関係ないため、この経済的利益は一時所得として課税されます(所得税法34条、所得税基本通達34-1(5))。

以上から、買主である法人に対して株式を譲渡時の「時価」より高い価額で譲渡した場合、取引価額のうち、譲渡の対価としての性格を持つ部分、すなわち、株式の「時価」までの額が譲渡所得として、譲渡の対価としての性格を持たない部分、すなわち、株式の「時価」を超える額は、給与所得(売主である個人が買主である個人の役員・従業員等である場合)または一時所得(役員・従業員等でない場合)となります

( 4 )個人が個人に対して「時価」より高額で譲渡する場合

先ほども申し上げたとおり、所得税法は所得を10種類に分けて所得の種類ごとに所得金額の算定方法を規定しています。そして、 個人が株式を譲渡した場合は、一般的には譲渡所得となります。

さて、売主である個人が、買主である個人に対して、たとえば、「時価」100の株式を150で譲渡したとします。この場合、本来100を受け取るべきところ150も受け取っています。

つまり、株式を「時価」より高く譲渡した場合、その取引価額のなかには「時価」を超えた部分が含まれています。すなわち、取引価額は「譲渡の対価としての性格をもつ部分」と「そうでない部分」からなります((上場株式の場合につき東京高裁平成26年5月19日判決、原審は東京地裁平成25年9月27日判決)。 この「時価」を超えた部分は、買主である個人から取引価額とは別の利益を得たことになります。

この利益は買主が個人であることから贈与税の課税対象となります。

有償取引かつ双務取引の典型である株式の売買に対して、無償取引かつ片務取引の典型である贈与そしてこれに対する贈与税というのは違和感がありますが、「時価」を超えた部分については、もはや対価性がなく、実質的な贈与があったものととらえているものと考えられます。

よって、買主である個人に対して株式を「時価」より高い価額で譲渡した場合、譲渡所得の金額の計算における譲渡収入金額は「時価」として所得税等が課税され、「時価」を超える部分は贈与税が課税されます

「時価」100の株式を150で譲渡した場合、譲渡所得の収入金額を構成するのは「時価」までの100、「時価」を超える50については、買主である個人から金銭の贈与を受けたものとして贈与税が課税されることになります。

( つづく )