( 5 )投資後のキャッシュ・フローを把握するための会計処理

不動産投資の成否の判断は、所得税を計算するルールで行われた不動産の損益によってではなく、まさにキャッシュの増減で行われなければなりません。

いっぽう、不動産所得については所得税の確定申告を行っているわけですから、その会計情報を十分に活用する必要があります。

会計情報もただ税金を正しく計算できればいいというのではなく、キャッシュ・フロー情報をつかめるような会計情報を作るようにする必要があります。

会計情報の整備の必要性

不動産投資の成否は、その不動産を売却(投下資本回収)した後で当初からどれだけおカネが増えたのかどうかに尽きるということになります。

不動産投資の成否の判断は、所得税を計算するルールで行われた不動産の損益によってではなく、まさにキャッシュの増減で行われなければなりません。

いっぽう、不動産所得については所得税の確定申告を行っているわけですから、その会計情報を十分に活用する必要があります。

そして、会計情報もただ税金を正しく計算できればいいというのではなく、キャッシュ・フロー情報をつかめるような会計情報を作るようにする必要があります。

ちょっと逆説的ですが、より正確なキャッシュ・フロー(現金収支)を把握するためには、会計情報(損益計算)はよりシビアに行う必要があります。

すべての出発点である勘定科目と補助科目の設計

一般論として、昨今の会計ソフトの進化はすさまじく、自動仕訳などどんどん効率化しています。

しかし、活用しやすい会計情報を得るためには、勘定科目体系をどう設計するかにかかっています。

〇〇ビル未収金a/c、〇〇ビル未払金a/c、〇〇ビル前受金a/c、〇〇ビル(預かり)敷金a/cなど)物件ごとに勘定科目を分けます。

さらに、それぞれの勘定科目の下位に賃借人ごとに補助科目を設けます。

なお、不動産が共有である場合には、他の共有者に対する債権債務を帳簿上で管理するために、それぞれにさらに立替金a/cや預り金a/cとその補助科目を設けます。

物件をひとつの部門として設定

複数の物件を保有している場合でも、所得税の確定申告ではすべての物件の合計額で不動産所得が計算されます。

しかし、当然のことながら、不動産の収益性やキャッシュ・フローは個々の物件ごとに異なります。

税金の計算は正しくても、物件別の損益が出せないとしたらドンブリといえます。

個々の物件をひとつの部門として処理することで、部門別損益が物件別損益になるようにします。損益だけでなく債権債務にも部門を付します。

債権勘定と債務勘定を使った仕訳を行う

いくら勘定科目体系を整備しても十分に使えなければもったいないです。

現金主義的な会計処理は行わず、必ず未収金a/cや未払金a/cといった債権債務の勘定を通すようにします。

現金預金の入出金によって損益の会計処理を行う現金主義ではなく、債権債務の勘定を通すことによって、発生主義による損益計算が自然とできるようになります。

たとえば、賃貸料はほとんどが前家賃(翌月分の家賃を当月末までに支払う)です。すると、入金した賃貸料はほとんどが翌月分の賃料であり前受金a/cで処理し、翌月1日付けで前受金a/cから賃貸料収入a/cに振り替えることになります。

仕訳は倍に増えますが、いわゆる仕訳辞書や仕訳の複製やCSVファイルからのインポートなどで労力的な負荷はほとんどないはずです。

むしろ、債権管理や債務管理ができるなど、本来的な会計帳簿の機能を発揮できるのです。

消費税の会計処理は税抜き経理方式で

消費税の処理を税抜経理方式で行うことです。

「税込経理方式では、損益が消費税込みとなるが、消費税等の額は本来は国に対する預り金でありもともと損益とは無関係だ」

そういう理論的な説明がよくなされますが、そうではなく、取引は消費税込みの金額で行われる以上、キャッシュ・フローを把握するうえで物件別で消費税の受け払いを捉えることは極めて重要です。

税抜経理方式ならば、物件ごとに預かった消費税や支払った消費税はそれぞれ仮受消費税a/cや仮払消費税a/cで帳簿上で明示されます。

また、所得税の確定申告もそうですが、消費税の確定申告もすべての物件(さらに事業所得などの消費税も含めて)の合計額をもって行います。

しかし、損益もそうですが、消費税の受け払いも個々の物件によって状況が異なります。

この点からも、税抜経理方式で会計処理を行う必要があります。

「税抜経理方式は煩雑だ」など昔の話です。会計ソフトの消費税自動仕訳により負担はほとんどありません。

費用を合理的に各物件に配分

物件別のキャッシュ・フロー情報を得るためには、物件別の損益情報を活用することが便利です。そのためにも、物件別の損益はより適切に計算されなければなりません。

各物件に共通する費用については、合理的な配分基準によって各物件に割り当てる必要があります。

その典型は、事業税です。

事業税は、前年の所得に対して課される税金です。その額は、各物件の合計額に対して課されます。そこで、事業税の額を各物件に按分させる必要があります。

この場合の按分基準は、当然ですが「前年の物件ごとの損益」となります。

固定資産税等は年税額を計上

固定資産税の額の経理処理は、まずはその全額を未払金として計上し、その後の納付は未払金a/cの借方処理とすべきです。

事業税と異なり、固定資産税は物件ごとの負担額を明確に分けることが可能です。

なぜなら、固定資産税等(固定資産税および都市計画税)については、都税事務所や市町村から送られてくる課税明細書には、土地や家屋について地番や家屋番号ごとの固定資産税(相当)額や都市計画税(相当)額が記載されているからです。

課税明細書は1円単位で表記されていますが、実際の納付額はこれらの合計額とは異なります(100円未満切り捨て)。

そこで、まず、物件ごとの固定資産税(相当)額や都市計画税(相当)額をまず1円単位で集計します。そして、この1円単位での割合を、実際の納税額(第1期分から第4期分までの合計額(全納額)に乗じます。

さて、固定資産税は1月1日現在の土地と家屋に対して賦課され(償却資産税も同様です)、納付は、分納の場合は年4回となり、最終の第4期の納期限は翌年になります。

ベタベタな現金主義的な経理処理をしていると、第4期の処理は翌年となってしまいます。「前年の第4期と今年の第1期から第3期で同じようなものじゃないか」と平然と言う専門家もいますが、税金の計算だけ正しければそれでよいという発想からのものと思われます。

(つづく)