( 7 )物件別不動産キャッシュ・フローの相続税対策への応用

相続税対策として不動産賃貸を行っている場合、土地の場合には、路線価が上昇すればその土地の相続税の評価額が上昇し、いっぽう、借入金を返済すればどんどん残高は減っていきます。

たとえば年末や路線価発表された月の末日を基準にして、土地と家屋の相続税評価額と借入金残高とのバランスをチェックすることが重要です。

さらに、将来のバランスをシミュレーションすることによって、新たな対策を打つタイミングや物件を売却するタイミングをイメージすることが可能になります。

いわゆる不動産による相続税対策の解説

一般的な相続税対策では、「現金が不動産に交換されたために相続税の財産評価上は評価額が落ちたから相続税対策になる」「借入金で不動産を取得すると相続税の財産評価上は債務超過になるから相続税対策になる」と説明されます。

土地の相続税評価

相続税法(財産評価基本通達)のルールにおける土地の評価は、路線価によって評価するのが一般的です。 土地(宅地等)の評価で用いられる路線価とは、国税庁が路線すなわち道に付した1㎡あたりの値段です。路線価は毎年1月1日を基準にして7月頃に公表されます。 評価の対象となる土地(宅地等)が路線に接している場合、接している路線の路線価にその土地等の地積を乗じた値が相続税評価額です。土地等の形状や複数の路線に接している場合などそれぞれルールがあります。

さて、路線価は通常の取引価額(時価)の80%を基準にしています。つまり、100の現金を持っているとその相続税評価額は100ですが、100の現金で土地を取得した(現金を土地に替えた)場合、その土地の購入額100が通常の取引価額であれば、その土地の相続税評価額は80になるということです。すなわち、相続税評価という点だけでみると、現金を土地に替えただけで100から80になると説明されます。

もし、通常の取引価額が70の土地を100で取得した場合、その土地の相続税評価額は56(=70×80%)となります。すると、現金を土地に替えただけで100から56になると説明されます。

貸家建付地の場合の減額

しかも、貸家に供している家屋のある土地は、貸家建付地としてさらに減額されます。そうでない土地(自用地)から減額されるのは「自用地×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」の額です。

その土地の借地権割合は路線価図で知ることができます。国税庁サイトのトップページの下のほうに「路線価図」があるのでクリックしてください。そして、年分と地域(都道府県)を選択すると、「財産評価基準書目次」という画面になります。そこの「路線価図」をクリックして、住所から該当する路線価図を見つけます。

また、借家権割合は「財産評価基準書目次」を下にスクロールしていただきますと「借家権割合」が出ます。

賃貸割合は、賃貸される独立した床面積の合計値のうち、評価時点(相続時など)で実際に賃貸されている床面積の割合です。

たとえば、その土地の借地権割合が70%、借家権割合が30%、賃貸割合が100%(満室)と仮定しますと、自用地よりも21%減額されることになります。先ほど申し上げたとおり、もともと自用地そのものが時価の80%ですから、貸家建付地は時価の63.2%となる計算になります。つまり、貸家の用に供する家屋を100で取得すると、相続税評価上は最小値63.2で評価されることになります。

家屋(貸家)の相続税評価

相続税法(財産評価基本通達)のルールにおける家屋(建物)の評価は、固定資産税評価額によって評価します。

家屋の評価で用いられる固定資産税評価額は、実際の購入価格とは一致しません。都税事務所や市区町村等がいろいろな基準に基づいて算定します。固定資産税評価額は固定資産税の納付書と同封される課税明細書に記載されています。

家屋の相続税評価額は固定資産税評価額によりますが、貸家の用に供されている家屋はさらに30%減額されます。

さて、相続税は、相続人等が被相続人から相続または遺贈(遺言)により取得した財産等について貸されますが、その財産等の集計にあたっては、預金や土地などのプラスの財産から借入金などのマイナスの財産(債務)を控除します。

上記のとおり、現金を土地などに交換すると、相続税評価上は評価額が下がります。また、借入金をして土地等を取得、たとえば、100を借り入れて100の不動産を取得した場合、不動産の相続税評価額は100より低くなりますから、ここだけに着目すると相続税評価上は債務超過となります。

これが、不動産、とくに賃貸不動産による相続税対策として説明される根幹の部分です。

では「相続税とは財産の移転によって流出するコストのひとつにすぎない」ととらえてみましょう。

現金や預金を持っているだけではコストはかかりません(維持費ゼロ)。ところが、土地を取得すると登記費用(登録免許税や司法書士報酬)、不動産取得税がかかります。「こんなにかかるのか」と驚くこともあります。また、保有していると維持費(固定資産税)がかかります。

現金や預金の価値は、通貨価値が極端に変わらないかぎりその金額(額面)どおりの評価ですが(定期預金の既経過利子は除きます)、土地等については路線価が上昇すると相続税評価額も高くなります。

いっぽう、借入金によって不動産を取得した場合、どんどん借入金の残高は減っていきます。

「借金して不動産買ってよかったですね」のはずが、取得コストや保有コストはかかるうえに、路線価が上昇して評価額が借入金残高を超えてしまうと、何もしなかったほうがよかったのではないか?ということもありえるのです。

定期的な財産と債務のバランスの確認の必要性

不動産業者や金融機関からすると、売ったり貸したりすれば(少なくとも担当者的には)それで終了ですが、買って借りた側は、それで終了というわけにはいきません。

現金や預貯金ではまさに硬貨や紙幣に記載されている額(定期預金等の場合には既経過利子が加わります。)ですが、土地の場合には、路線価が上昇すればその土地の価額が上昇します。いっぽう、借入金を返済すればどんどん残高は減っていきます。

そこで、一定時点、たとえば年末や路線価発表された月の末日を基準にして、土地と家屋の相続税評価額と借入金残高を比較します。正の財産である土地と家屋の相続税評価額と負の財産である借入金残高のどちらがどのくらい大きいのかを把握します。

将来予測の方法

重要なのは、その時点での状況だけでなく、将来を予測することです。

土地の相続税評価額については、過去数年の路線価の状況やその時の経済状況からの予測を基にしてシミュレーションを行います。 家屋の相続税評価額については、固定資産税の価格の評価替え(3年に1回)を踏まえながらシミュレーションを行います。 借入金残高については、返済予定表で判明します。

ここで忘れがちなのが、将来の不動産所得その他の所得から得られるキャッシュの純増分です。純増というのは、将来の不動産所得以外の所得から所得税等と住民税を差し引いた額もキャッシュの増加分となります。

(不動産)所得と(不動産)キャッシュ・フローについては異なることについてはすでに申し上げました。 ここでの将来キャッシュの純増の予測は、将来の不動産キャッシュ・フローの純増となりますが、その将来の不動産キャッシュ・フローの算定の基礎となるのが将来の不動産所得の数値です。

この場合、将来予測をする基礎となる不動産所得の額については、前回の物件別不動産キャッシュ・フローの算定で見た「経常的な収支」をベースにしつつ、「非経常的な収支」を織り込みます

具体的には、空室のリスクによる賃貸料収入の減少や、修繕費や設備投資額の増加を合理的に予測していきます。 なお、空室のリスクは賃貸割合の減少を通じて貸家建付地としての評価減の額が小さくなることを意味するだけでなく、現実の不動産収支にも悪影響を及ぼします。

ある程度合理的かつ正確に予測できるのは、借入金利子の額、(少なくとも既存資産に係る)減価償却費の額です。また、賃借人(テナント)との賃貸借契約状況から、その更新料収入などもある程度予測することができます。 そして、最後に、生活費その他で費消する金額を予測します。ただひたすら稼いでいるだけではありません。生活やレジャーのための支出があります。その合理的な金額を差し引いたところでキャッシュの純増を織り込んでいきます。

以上のように、将来において、正の財産である土地と家屋の相続税評価額および所得から得られるキャッシュ純増額と、負の財産(債務)である借入金残高のバランスの推移を予測します。

これによって、あらたな対策を講じるとしたらどのタイミングか、あるいは、不動産の売却のタイミングなどをイメージすることが可能となります。

いわゆる不動産による相続税対策の解説

一般的な相続税対策では、「現金が不動産に交換されたために相続税の財産評価上は評価額が落ちたから相続税対策になる」「借入金で不動産を取得すると相続税の財産評価上は債務超過になるから相続税対策になる」と説明されます。

土地の相続税評価

相続税法(財産評価基本通達)のルールにおける土地の評価は、路線価によって評価するのが一般的です。 土地(宅地等)の評価で用いられる路線価とは、国税庁が路線すなわち道に付した1㎡あたりの値段です。路線価は毎年1月1日を基準にして7月頃に公表されます。 評価の対象となる土地(宅地等)が路線に接している場合、接している路線の路線価にその土地等の地積を乗じた値が相続税評価額です。土地等の形状や複数の路線に接している場合などそれぞれルールがあります。

さて、路線価は通常の取引価額(時価)の80%を基準にしています。つまり、100の現金を持っているとその相続税評価額は100ですが、100の現金で土地を取得した(現金を土地に替えた)場合、その土地の購入額100が通常の取引価額であれば、その土地の相続税評価額は80になるということです。すなわち、相続税評価という点だけでみると、現金を土地に替えただけで100から80になると説明されます。

もし、通常の取引価額が70の土地を100で取得した場合、その土地の相続税評価額は56(=70×80%)となります。すると、現金を土地に替えただけで100から56になると説明されます。

貸家建付地の場合の減額

しかも、貸家に供している家屋のある土地は、貸家建付地としてさらに減額されます。そうでない土地(自用地)から減額されるのは「自用地×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」の額です。

その土地の借地権割合は路線価図で知ることができます。国税庁サイトのトップページの下のほうに「路線価図」があるのでクリックしてください。そして、年分と地域(都道府県)を選択すると、「財産評価基準書目次」という画面になります。そこの「路線価図」をクリックして、住所から該当する路線価図を見つけます。

また、借家権割合は「財産評価基準書目次」を下にスクロールしていただきますと「借家権割合」が出ます。

賃貸割合は、賃貸される独立した床面積の合計値のうち、評価時点(相続時など)で実際に賃貸されている床面積の割合です。

たとえば、その土地の借地権割合が70%、借家権割合が30%、賃貸割合が100%(満室)と仮定しますと、自用地よりも21%減額されることになります。先ほど申し上げたとおり、もともと自用地そのものが時価の80%ですから、貸家建付地は時価の63.2%となる計算になります。つまり、貸家の用に供する家屋を100で取得すると、相続税評価上は最小値63.2で評価されることになります。

家屋(貸家)の相続税評価

相続税法(財産評価基本通達)のルールにおける家屋(建物)の評価は、固定資産税評価額によって評価します。

家屋の評価で用いられる固定資産税評価額は、実際の購入価格とは一致しません。都税事務所や市区町村等がいろいろな基準に基づいて算定します。固定資産税評価額は固定資産税の納付書と同封される課税明細書に記載されています。

家屋の相続税評価額は固定資産税評価額によりますが、貸家の用に供されている家屋はさらに30%減額されます。

さて、相続税は、相続人等が被相続人から相続または遺贈(遺言)により取得した財産等について貸されますが、その財産等の集計にあたっては、預金や土地などのプラスの財産から借入金などのマイナスの財産(債務)を控除します。

上記のとおり、現金を土地などに交換すると、相続税評価上は評価額が下がります。また、借入金をして土地等を取得、たとえば、100を借り入れて100の不動産を取得した場合、不動産の相続税評価額は100より低くなりますから、ここだけに着目すると相続税評価上は債務超過となります。

これが、不動産、とくに賃貸不動産による相続税対策として説明される根幹の部分です。

では「相続税とは財産の移転によって流出するコストのひとつにすぎない」ととらえてみましょう。

現金や預金を持っているだけではコストはかかりません(維持費ゼロ)。ところが、土地を取得すると登記費用(登録免許税や司法書士報酬)、不動産取得税がかかります。「こんなにかかるのか」と驚くこともあります。また、保有していると維持費(固定資産税)がかかります。

現金や預金の価値は、通貨価値が極端に変わらないかぎりその金額(額面)どおりの評価ですが(定期預金の既経過利子は除きます)、土地等については路線価が上昇すると相続税評価額も高くなります。

いっぽう、借入金によって不動産を取得した場合、どんどん借入金の残高は減っていきます。

「借金して不動産買ってよかったですね」のはずが、取得コストや保有コストはかかるうえに、路線価が上昇して評価額が借入金残高を超えてしまうと、何もしなかったほうがよかったのではないか?ということもありえるのです。

定期的な財産と債務のバランスの確認の必要性

不動産業者や金融機関からすると、売ったり貸したりすれば(少なくとも担当者的には)それで終了ですが、買って借りた側は、それで終了というわけにはいきません。

現金や預貯金ではまさに硬貨や紙幣に記載されている額(定期預金等の場合には既経過利子が加わります。)ですが、土地の場合には、路線価が上昇すればその土地の価額が上昇します。いっぽう、借入金を返済すればどんどん残高は減っていきます。

そこで、一定時点、たとえば年末や路線価発表された月の末日を基準にして、土地と家屋の相続税評価額と借入金残高を比較します。正の財産である土地と家屋の相続税評価額と負の財産である借入金残高のどちらがどのくらい大きいのかを把握します。

将来予測の方法

重要なのは、その時点での状況だけでなく、将来を予測することです。

土地の相続税評価額については、過去数年の路線価の状況やその時の経済状況からの予測を基にしてシミュレーションを行います。 家屋の相続税評価額については、固定資産税の価格の評価替え(3年に1回)を踏まえながらシミュレーションを行います。 借入金残高については、返済予定表で判明します。

ここで忘れがちなのが、将来の不動産所得その他の所得から得られるキャッシュの純増分です。純増というのは、将来の不動産所得以外の所得から所得税等と住民税を差し引いた額もキャッシュの増加分となります。

(不動産)所得と(不動産)キャッシュ・フローについては異なることについてはすでに申し上げました。 ここでの将来キャッシュの純増の予測は、将来の不動産キャッシュ・フローの純増となりますが、その将来の不動産キャッシュ・フローの算定の基礎となるのが将来の不動産所得の数値です。

この場合、将来予測をする基礎となる不動産所得の額については、前回の物件別不動産キャッシュ・フローの算定で見た「経常的な収支」をベースにしつつ、「非経常的な収支」を織り込みます

具体的には、空室のリスクによる賃貸料収入の減少や、修繕費や設備投資額の増加を合理的に予測していきます。 なお、空室のリスクは賃貸割合の減少を通じて貸家建付地としての評価減の額が小さくなることを意味するだけでなく、現実の不動産収支にも悪影響を及ぼします。

ある程度合理的かつ正確に予測できるのは、借入金利子の額、(少なくとも既存資産に係る)減価償却費の額です。また、賃借人(テナント)との賃貸借契約状況から、その更新料収入などもある程度予測することができます。 そして、最後に、生活費その他で費消する金額を予測します。ただひたすら稼いでいるだけではありません。生活やレジャーのための支出があります。その合理的な金額を差し引いたところでキャッシュの純増を織り込んでいきます。

以上のように、将来において、正の財産である土地と家屋の相続税評価額および所得から得られるキャッシュ純増額と、負の財産(債務)である借入金残高のバランスの推移を予測します。

これによって、あらたな対策を講じるとしたらどのタイミングか、あるいは、不動産の売却のタイミングなどをイメージすることが可能となります。

(おわり)