( 5 )土地建物一括取得の際の区分の検討 Part2

買主が法人である事案で、売買契約書に記載されている土地と建物の対価がその客観的な価値と比較して著しく不合理である場合には、合理的な基準によって区分すべきという判例について検討します。

この事案は、当事者間で売買金額や土地と建物の対価の区分について合理的な協議が行われておらず、売買金額も土地の時価相当額よりも低い金額となっています(ただし、売買金額そのものについては課税庁と争いなし)。

判決では、土地と建物の対価の区分の合理的な基準として、固定資産税評価額の比率による按分法によらず、建物の価額を積極的に算定して残額を土地の価額とする直説法を採用しています。

売買契約書において土地と建物の対価が明らかになっているときの判例の考え方

土地と建物の対価の区分については、売買契約書等において土地の対価と建物の対価が明示されていない場合には固定資産税評価額による按分が妥当という採決例や判例が出ています。

では、売買契約書で土地の対価と建物の対価(と消費税等)が明記されている場合、課税庁や裁判所はどのようなスタンスを採っているでしょうか。

上告中で判決確定が確認できておりませんが、東京高裁平成24年(行コ)第25号所得税更正及び加算税賦課決定一部取消等請求控訴事件(平成24年5月31日判決)と、その原審である千葉地裁平成21年(行ウ)第41号所得税更正及び加算税賦課決定一部取消等請求事件(平成23年12月9日判決)があります。

原審で、被告(国)は、売買契約書で土地と建物等の売買代金のそれぞれが区分して明記されていれば、当該金額が建物の取得価格となるとしています。また、売買契約書に建物価格は明記されていなくても消費税等の額は記載されている場合には、消費税等の額から建物等の価格を算出した額がが同建物の取得価格になるとしています。判決も、所得税法施行令126条の「当該資産の購入代価」とは実際の売買代金額を採用すべきであるとしています。

控訴審の判決も、購入の代価とは、文理上、売買契約の当事者が合意し、購入者が実際にその資産の対価として支払うことになった金額をいうことが明らかだとしています。 そして、売買契約の当事者が契約書において合意した売買価額を明示した場合には、それとは異なる金額が実際には合意された金額であったことが控訴人によって主張・立証されたなど特段の事情のない限り、そこに記載された金額をもって購入の代価とするのが合理的とし、売買契約書に記載されている消費税の額を税率で割り返すことによって算出した額についても同様としています。

売買契約書に記載された土地と建物の対価の区分が合理的でないとして更正された事案

もっとも、当事者間の売買契約書に記載された金額であっても、土地と建物の区分が著しく不合理であるときは、課税の公平の見地から認められないことになります。

この点、売主が個人で買主が法人の土地と建物の一括売買取引での土地と建物の対価の区分が不合理である場合について、那覇地裁平成19年(行ウ)第15号法人税更正処分等取消請求事件(平成20年8月6日判決)があります。

法人税法施行令54条1項1号によれば、購入した減価償却資産の取得価額は「当該資産の購入の代価」と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額となります。

判決によれば、土地と建物が一括して売買されたときの売買契約書において定められた土地と建物それぞれの価額がその客観的な価値と比較して著しく不合理である場合には、法人所得の計算上、建物の取得価額を基礎に計算され損金の額に算入される減価償却費を操作できることになり、これが租税負担の公平の原則に反することは明らかであるとしています。

よって、このような場合には、合理的な基準により算定される土地価額と建物価額の割付額をもって、「当該資産の購入の代価」と解するのが相当であるとしています。

売買契約書に記載された対価の合理性

本事件における土地と建物の一括売買は2件あります。判決では、これらの点から、どちらの売買についても、契約書に記載された土地と建物への代金額の割付額をそのまま当該資産の購入の代価として認めることはできないものとしました。

なお、裁判では、どちらの売買も代金総額そのものについては争いはなく、不合理ではないとされています。

売買A

取引総額が約124百万円であり、売買契約書による内訳は土地が65百万円で建物が約59百万円です。

売買が行われた当時のこの物件の土地の固定資産税評価額は約211百万円(これを0.7で除すると約301百万円)、路線価を基礎にした評価額が約174百万円(これを0.8で除すると約218百万円)、近隣土地の公示価格を基礎にした価額が約202百万円でした。 なお、建物については一部が未登記であるため、固定資産税評価額が存在しません。

取引総額そのものが、土地の時価の参考情報からしても著しく低いばかりでなく、対象となった建物は、売買時には電力供給が停止しており、現に賃貸の用に供されているなどの収益物件ではありません。

以上からすると、土地の購入代価は著しく低く、建物の購入代価は著しく高いといえます。

売買価格の形成については、売主は契約の際に総額で売れればよいとして土地と建物の値段について考えたことはなく、甲契約書に記載されている土地と建物の値段及びその算定根拠についてはわからないと裁判で申述しています。買主も、契約に際して建物の内部を確認していないなど、当事者間で一定の経済合理的に価格を決定していなかったとされます。

売買B

取引総額が60百万円であり、売買契約書による内訳は土地が36百万円で建物が24百万円です。

売買が行われた当時の土地の固定資産税評価額は約82百万円(これを0.7で除すると約117百万円)で、取引総額そのものが土地の時価の参考情報からしても著しく低いばかりでなく、対象となった建物は、売買時には売主は居住していたものの相当老朽化していました。

対象家屋の固定資産税評価額が約1.6百万円であり、取引総額60百万円を固定資産税評価額で按分すると、土地が約59百万円、建物が約1百万円となります。

売買価格の形成について、売主によれば、土地と建物の金額は前もって売買契約書に書かれており、当事者間の協議で決めたものではないと申述しています。当事者間で一定の経済合理的に価格を決定していなかったものとされました。

採用された合理的な基準

判決では、本件における建物の取得価額の決定について、被告(国)が採用した直説法を合理的な基準としました。 直説法とは、取得時の標準的な建築価額等が客観的に求めやすい建物の対価の額を算出し、当該価額を土地及び建物の合計取得額から控除した残額を土地の取得価額とするものです。

判決では、本件における直接法を採用したことについての合理性については以下の点を挙げています。

  • 売買Aの建物の一部が未登記で固定資産評価額が判明しない
  • 売買Aも売買Bも土地の固定資産税評価額は土地と建物の売買金額を超えているため、固定資産税評価額等に依拠して算出する方法は採り得ず、土地の合理的な価額を算出して差引き計算することもできない
  • 近隣の類似取引事例も見当たらず、これをを参考に算出することもできない

判決から考えられるもの

判決では、売買Aも売買Bも直接法により建物の取得価額を算定し、これを売買金額から控除した額を土地の取得価額としました。しかし、売買Aでは建物の一部が未登記であり固定資産税評価額が存在しなかったものの、売買Bについては土地と建物の双方の固定資産税評価額が存在するため、少なくとも売買Bについては、土地と建物の対価の区分の基準として固定資産税評価額の比率を用いることも可能だったはずです。しかし、売買Bについても直接法によったのは、固定資産税評価額の比による基準よりも直説法のほうが妥当だという積極的な理由よりも、売買Aと同様の基準を用いることを優先したと思われます。

もっとも、判決文にもありますが、売買Bも売買Aと同様に、売買金額が土地の固定資産税評価額よりも小さいために固定資産税評価額の比率による基準を採用しなかったとも考えられます。

興味深いのは、買主は法人であり、売買価格からして少なくとも土地部分でも時価より安く取得したのは明らかであるのに、低廉取得の認定が行われていないばかりでなく、「本件各契約において定められた本件各土地建物の代金総額については争いがなく、不合理であるともいえない」(判決)とされている点です。

個別的な特殊事情が多いことから、本判決のみから「固定資産税評価額の比率による按分法よりも直説法の方が妥当である」「買主が法人であっても土地の時価より低廉な取得で寄附金認定は行われない」「土地の時価より安く一括取得すれば按分法は採用されない」と考えるのはややリスクがあると思われます。

ただ、土地と建物の内訳はともかく、少なくとも取引価格そのものについては認められていることから、「購入代価」は当事者間で決定された額であるという原則論どおりとも考えられます(法人買主が低廉取得と認定されるかどうかは別問題)。とはいえ、本件では当事者間で売買価格や土地と建物の対価の区分について経済合理性に従った協議はなかったとされており、まずは真摯な交渉によって売買価格や土地と建物への対価の区分が行われることがトラブルを避けるうえで重要と思われます。

( つづく )