( 1 )共有不動産の会計処理のポイント

共有不動産の不動産所得は、最終的には共有者全員分の金額(単独所有相当額)を共有持分割合で各共有者に配分することです。

その基本は、共有者のうち1名を主たる共有者として、この主たる共有者を会計単位とする帳簿の中で他の共有者への配分を調整することにあります。

共有不動産に係る不動産所得の算定の最終目標

共有不動産に係る不動産所得の算定は、不動産所得を各共有者に共有割合に従って割り振る、すなわち、各共有者の不動産所得の合計額が、単独所有と仮定した場合の不動産所得と完全に一致することに尽きます。

たとえば、単独所有なら不動産所得は100なのに、各共有者の不動産所得を合計したら101や99になってはいけません。合計して100にならなければなりません。ところが、実際は整数で配分するため、必ず端数が生じます。そこで、どう端数を調整するのかということが重要となります。

そのために、どんな会計単位を設定し、どう会計処理をするかということになります。

もっと重要なこと

不動産所得を各共有者に共有割合に従って割り振る・・・たしかに、所得税の確定申告や消費税の確定申告はこれでクリアできます。

しかし、不動産を取得するとき、賃貸料収入が入ったとき、賃貸管理のために支払いをしたとき、すべて共有者が共有割合に基づいて受取りまたは支払いをしているでしょうか。

それはありえないといえましょう。

だとしたら、必ず共有者間で債権債務があるはずなのです。

これをしっかり計算することは、共有者間での贈与税がどうだとか相続税がどうだというのもありますが、それもそれで重要かもしれませんが・・・

本当に必要なとき、それは共有者間であつれきが生じたときなのです。

会計処理の概要

共有不動産に係る会計処理について、共有者のうち1名を主たる共有者として帳簿を作り、他の共有者については主たる共有者の帳簿上で算定された取引(金額)をそのままトレースして帳簿を作り込みます。

(ポイント1)共有者のうち1名を主たる共有者とする

共有不動産の場合、その収入金額や必要経費について、必ずしも各共有者が共有割合に基づいて受取り、あるいは、支払うわけではありません。ある共有者が共有者全員分の額を受け取ったり、支払ったりすることが一般的と思われます。

取引の相手方からすると、各共有者に対してそれぞれ受取り(請求)をしたり、支払いをしたりすることは実務上効率的現実的とはいえないため、共有者の代表に対して支払いを受け、あるいは、支払いをすることになります。

そこで、帳簿作成上も、共有者のうち1名を主たる共有者とし、共有者全員の金額を管理します。

誰を主たる共有者とするかについては、共有者分も含めた賃貸料が入金する者とするのが実務上はベターと考えられます。

(ポイント2)主たる共有者の帳簿には共有者全員分の額(単独所有相当額)を計上する

共有者のいずれか1名を主たる共有者とし、主たる共有者の帳簿に共有者全員分の額で計上し、同時に別の共有者に帰属する部分をマイナス計上します。

たとえば、AとBの共有割合が1/2の不動産について、賃貸料収入(税込み)が110だったとします。メインの会計単位(Aとします。)では賃貸料収入100と仮受消費税等10を計上します。この中にはBに帰属する部分(賃貸料収入50と仮受消費税等5)が含まれているため、計上する仕訳で、同時に、賃貸料収入50と仮受消費税等5のマイナスを計上します。つまり、AはBの分も受け取ったということで預り金55が発生します。

(借) 預金等 110 (貸) 賃貸料収入 100
賃貸料収入 50 仮受消費税等 10
仮受消費税等 5 預り金 55

次に、管理手数料が55(税込み)だったとします。Aは支払手数料50と仮払消費税等5を計上します。この中にはBに帰属する部分(支払手数料25と仮払消費税等2)が含まれているため、計上する仕訳で、同時に、支払手数料25と仮払消費税等2のマイナスを計上します。つまり、AはBの分も支払ったということで立替金27が発生します。

(借) 支払手数料 50 (貸) 預金等 55
仮払消費税等 5 支払手数料 25
立替金 27 仮払消費税等 2

主たる共有者の帳簿で共有者全員分の額を計上することの最大のメリットは、収入や必要経費について全体像を帳簿上で把握することにあります。このため、共有者間での配分で不可避的に生じる端数処理(調整)も、この方法によれば比較的容易にできます。なぜなら、ここで端数処理した取引金額をそのまま他の共有者の帳簿の仕訳に流用することができるからです。

対外的な請求関係や入出金については、共有者全員分の額(単独所有相当額)をベースに行われれるのが一般的ですが、これを各共有者ごとに共有割合でバラバラに計上すると、共有者ごとの決済(入出金)もバラバラに計上せざるをえないことになります。これでは全体像を帳簿でつかむことができないため、第三者による事後的な検証が相当困難になります。検証が困難だということは、ミスも発見しにくいことになります。

このため、主たる共有者に共有者全員分の合計額と他の共有者への債権債務を計上することで、対外的な取引についての計上や検証が容易になり、さらに、各共有者への配分額の妥当性のチェックも帳簿上で行うことができます。

ところで、上記の例では、Bに帰属する部分(支払手数料25と仮払消費税等2)が含まれているため、計上する仕訳で、同時に、支払手数料25と仮払消費税等2のマイナスを計上し、AはBの分も支払ったということで立替金27を計上しています。この、共有者分への配分額は共有割合で計算すると割り切れたり割り切れないことが多々あります。例えば、賃料の場合など毎月一定の場合でも、共有者2人(1/2ずつ)では年間で12円の差が出ることがあります。最終的には完全に1/2ずつにするためには、年の途中で端数を付すのを他の共有者にするなどの細かい調整が必要です。

(ポイント3)主たる共有者の帳簿上で不動産所得を共有割合で各共有者に割り振る

最終目標は、共有不動産に係る不動産所得を各共有者に対して共有持分で配分することにあります。

主たる共有者の帳簿上では、共有者全員分の合計額と他の共有者に帰属する分をマイナスした額が計上されています。また、これに伴って他の共有者に対する債権債務も計上されています。

ところで、取引金額を共有割合に基づいて各共有者分に割り振る場合に不可避的に発生するのが端数です。これをどう調整するかがもっとも重要です。最終的には、各共有者ごとの不動産所得の金額の割合が、共有持分に完全に一致するようにします。

税込金額ベースと税抜金額ベースで調整するため、かなり細かいマニアックな作業が求められます。

その詳細については、「共有者間やグループ会社間での取引額配分と端数調整 」をご覧ください。

(ポイント4)各共有者間の債権債務の状況を明らかにする

共有不動産に係る不動産所得を各共有者に対して共有持分で配分することは、間接的に各共有者間の債権債務関係を明らかにすることになります。

各共有者間の債権債務を明らかにすることは、贈与税リスクや遺産の額の算定にも有用であるばかりでなく、共有者間の債権債務の精算にも有用です。

(ポイント5)他の共有者の帳簿を、主たる共有者の帳簿で算定した取引および取引金額を忠実に計上する

主たる共有者の帳簿上で、他の共有者の不動産所得についてもほぼ算定することはできます。

しかし、それはある意味で「机上(画面上)のお話」であって、実際に他の共有者を独立の会計単位として帳簿を作らなければなりません。

主たる共有者の帳簿で計上した他の共有者に対する収入金額や必要経費のマイナス(他の共有者に対する債務や債権)について、他の共有者の帳簿で忠実に反映させます。

実務的には、主たる共有者の帳簿から仕訳日記帳をソフトファイルでダウンロードし、これをコピペ等やソフトにアップロードすることによって行います。

数字の手打ちはケアレスミスが避けられず、また、仕訳量が膨大になると、ミス(エラー)が出ている箇所を特定するのもエネルギーがかかります。数字の手打ちだけは可能な限り避けましょう。

( つづく )