( 4 )具体的な仕訳例 Part3

共有不動産に係る不動産所得の会計処理について、共有者間で生じた債権債務を精算する方法をご説明いたします。

なお、仕訳例は唯一絶対なものではなく、必ずこれによらなければならないものではありません。

設例

共有者(賃貸人)はAとBの2名、共有持分は50%ずつとします。

共有不動産に係る外部(賃借人や管理会社など)との取引は、すべてAの単独名義の口座で行うものとします。このAの口座はこの共有不動産に関連する専用口座ではなく、以外の入出金(給料振込やクレジットカードの口座振替など)にも利用されているものとします。

よって、共有者全員分の取引金額を計上する会計主体(主たる会計主体)はAとします。

なお、賃貸物件は居住用ではありません(事業用)。このため、賃貸料には消費税等が課されます(課税取引)。

モデル取引目次

( 5 )共有割合のチェック

主たる共有者の会計単位で、ある程度の仕訳を入力した段階で、不動産所得が他の共有者にうまく配分されているかを検証します。

理想は1ヶ月分の取引の入力が終わった後です。

なぜなら、不動産所得の会計処理は、ほぼ取引が定型化しているため、あとは前月の仕訳を複製して、金額だけを変えればよいことがほとんどです。 ということは、最初の月の仕訳が正確かどうかをチェックすることは極めて重要です。これを怠ると、その取引については各月すべての仕訳を修正せざるを得ないこともあります。

合計残高試算表でチェック

会計ソフトの合計残高試算表を選択し、一定の期間の試算表を画面でチェックします。

合計残高試算表の構成は、左から「前期残高」「借方(合計)」「貸方(合計)」「残高」となっています。

損益計算書は「前期繰越(残高)」はゼロです。そして、右端の「残高」は主たる共有者の残高です。

さて、主たる共有者の帳簿入力は、収入金額にしても必要経費にしても、まずは共有者全体の額を計上し、そこから他の共有者に帰属する部分をマイナス処理しています。

ということは、収入金額については、貸方(合計)に共有者全体の額が、借方(合計)に他の共有者に帰属する部分の額が、そして差額としての残高が主たる共有者の残高となります。

また、必要経費については、借方(合計)に共有者全体の額が、貸方(合計)に他の共有者に帰属する部分の額が、そして差額としての残高が主たる共有者の残高となります。

つまり、共有者が2名で、かつ、共有割合が50%ずつだとすると、収入金額については、借方(合計)の額(他の共有者)と残高(主たる共有者)がほぼ一致し、また、必要経費については、貸方(合計)の額(他の共有者)と残高(主たる共有者)がほぼ一致することになります。ただし、必要経費のうち、各共有者ごとに計上する減価償却費や固定資産税についてはそうなりません。

大幅なズレが生じている場合

合計残高試算表上でチェックしたところ、共有割合とあまりに違っている場合にはどう調整していけばよいでしょうか。

まず、どこが違っているのかを特定する必要があります。

補助科目にブレイクダウンしてチェックしましょう。

実は、勘定科目全体でみるとそこそこ妥当であっても、補助科目で見るととんでもなくアベコベになっていることがあります。主な原因は、仕訳で補助科目の入力が誤っている場合です。補助科目を入力していなかったり、異なる補助科目で仕訳してしまったことなどがあります。

特定の仕訳だけが問題のときもあれば、ダメな仕訳が数ヶ月コピーして使いまわしていたために差が大きくなっていることもあります。

絞り込めないときは、合計残高試算表の集計範囲を6ヶ月から5ヶ月、4ヶ月と短くしていくと、イレギュラーな残高がほぼ正常になる月になります。この変化が生じる月にイレギュラーな仕訳があるはずです。

配分の計算を誤ったのか、勘定科目(補助科目)を間違えたのか、理由はさまざまですが、適切に修正します。なお、その仕訳を翌月以降複写して利用していた場合には、翌月分以降のすべての仕訳を修正することになります。

( 6 )端数調整

詳細については、「共有者間やグループ会社間での取引額配分と端数調整 」をご覧ください。

補助科目を見る

勘定科目ではあたかも端数調整されているように見えても、その内訳である補助科目では大きく差が生じていることが少なくありません。

税込金額から合わせる

税抜経理方式の場合であっても、まずは税込金額から調整します。なぜなら、外部との取引が消費税込みの税込金額で行われる以上、これを共有割合に割り振るのも税込金額であるべきだからです。

差額をゼロか1円にする

共有者が2人で共有割合は50%ずつの場合、共有者全員分の額(の合計)が偶数のときは、共有者ごとに割り振れば確実に同じ金額になるように調整します。

また、共有者全員分の額(の合計)が奇数のときは、どちらかの共有者が1円多くなり、どちらかの共有者が1円少なくなるように調整します。そして、ある勘定科目に補助科目が2つあり、共有者全員分の額(の合計)がどちらも奇数の場合には、ある補助科目についてはある共有者が1円多くなるように、もうひとつの補助科目についてはもうひとりの共有者が1円多くなるように調整すれば、勘定科目全体の差額はゼロになります。

具体的には、取引金額が奇数のものについて、どちらかの共有者を1円多くするように調整します。取引金額が偶数のものについてはそもそも端数が生じないので、よほど全体とのバランス上調整せざるをえない場合をのぞいて調整は行いません。

補助科目→勘定科目→収入金額(必要経費)の順で整える

各補助科目の調整が終わったら、補助科目相互間での調整を行います。

たとえば、共有者が2人で共有割合は50%ずつの場合、ある勘定科目について差額が2円だったとします。その補助科目をチェックすると、一方の共有者が1円多い補助科目が3つ、他方の共有者が1円多い補助科目が1つだったとします。この場合には、いずれかの補助科目について、1円の端数を寄せる共有者を入れ替えます。そうしますと、各共有者がどちらも2つ補助科目が多い(少ない)ことになり、その勘定科目の差額がなくなります。

もっとも、勘定科目での共有者全員の額が奇数の場合には、そもそも端数をゼロにできません。この場合には、収入金額や必要経費という大きなグループのなかで、奇数になっている勘定科目間で端数を調整します。

税抜金額でも同様の調整

税込金額での調整を終えたら、つづいて税抜金額の調整となります。なぜなら、税抜経理方式の場合、不動産所得の算定はまさに税抜金額で行われるからです。

ここでの調整は、会計ソフトが自動的に本体価格と消費税等に区分しているのを手修正する作業です。

税込金額での作業と同様に、各補助科目の補助元帳について、共有割合で配分すると端数が生じうる取引金額について修正します。

補助科目での調整が終わったら、その上位である勘定科目について補助科目相互間での端数調整を行い、さらに調整した各勘定科目について、収入金額や必要経費という大きなグループのなかで調整を行います。

最終的な調整は、消費税の納付差額(申告納税額と消費税勘定の相殺額との差額)で完結したりすることもあります。

( 7 )共有者間の債権債務の確定と精算

他の共有者との債権(未収金a/c、立替金a/cなどの残高)と債務(未払金a/c、預り金a/cの残高)が相互に一致してるかどうかを確かめます。科目がバラバラだったり、補助科目設定が異なっていることもあります。

これを相殺して、最終的に他の共有者に対する債権債務の残高が確定することになります。

しかし、債権債務の相殺による精算だけではなく、各共有者間で実際に資金を移動して精算することをオススメします。贈与税リスクを避け、当局とのトラブルを防止するうえでも有効です。

実務上は、数ヶ月ごと、あるいは、11月までの債権債務の残高について、共有者間で資金の移動を行って債権債務の精算を行うとよいと思われます。実際は決算時に端数調整などを行うため微妙に数値は異なることになりますが、最終的にはその誤差と12月に発生した債権債務のみが決算(青色申告書の貸借対照表)に載ることになります。

(例)主たる共有者の他の共有者に対する預り金の支払い(他の共有者の主たる共有者からの未収金の受取り)

不動産賃貸が黒字で設備投資などがないとすると、収入金額による他の共有者への預り金のほうが、必要経費による他の共有者への立替金よりも大きくなります。

この場合は、他の共有者に資金を移動して預り金を精算することになります。

主たる共有者Aの処理

まずは、「立替金(B)」と「預り金(B)」を精算します。

(借) 預り金(B) XXXX (貸) 立替金(B) XXXX

そして、差額の「預り金(B)」の残高を他の共有者Bに送金します。

(借) 預り金(B) XX (貸) 預金等 XX

他の共有者Bの処理

まずは、「未収金(A)」と「未払金(A)」を精算します。

(借) 未払金(A) XXXX (貸) 未収金(A) XXXX

そして、差額の「未収金(A)」の残高を主たる共有者Aから送金を受けます。

(借) 預金等 XX (貸) 未収金(A) XX

( つづく )