( 2 )具体的な仕訳例 Part1

共有不動産に係る不動産所得の会計処理について、主たる共有者で共有者全員の金額を計上しつつ、収入金額の発生と同時に他の共有者に対する債務(預り金)を、他の共有者では債権(未収金)を計上する方法をご説明いたします。

なお、借入金によって共有不動産を取得した場合の仕訳例は「第6回」をご覧ください。

また、預金口座は1人の共有者の単独名義であるものの、共有不動産の管理専用の口座であり実質共有口座として処理する(共有口座内の資金を共有として債権債務関係を発生させない)仕訳例は「第7回」をご覧ください。

なお、仕訳例は唯一絶対なものではなく、必ずこれによらなければならないものではありません。

設例

共有者(賃貸人)はAとBの2名、共有持分は50%ずつとします。

共有不動産に係る外部(賃借人や管理会社など)との取引は、すべてAの単独名義の口座で行うものとします。このAの口座はこの共有不動産に関連する専用口座ではなく、以外の入出金(給料振込やクレジットカードの口座振替など)にも利用されているものとします。

よって、共有者全員分の取引金額を計上する会計主体(主たる会計主体)はAとします。

なお、賃貸物件は居住用ではありません(事業用)。このため、賃貸料には消費税等が課されます(課税取引)。

モデル取引目次

( 1 )収入金額の計上と入金

不動産の賃貸借契約の多くは、「賃借人は前月末までに翌月分の賃料を支払う」ことになっています。いっぽう、水道光熱費等の変動部分の請求は、金額が確定した前月分または当月分の請求となります。

賃借人に対する翌月分の賃貸料収入と前月分の水道光熱費等の請求

賃借人に対する賃貸料の請求は、各共有者が共有者持分ごとに賃借人に請求するというより、共有者のひとりが共有者代表としてまとめて請求するのが一般的です。

ここでは、AがBの分も含めた翌月分の賃料11,000を請求します。このうち、Bの分は5,500となります。

あわせて、前月分の水道光熱費等440を請求します。このうち、Bの分は220となります。

(主たる共有者Aの処理)

(借) 未収賃貸料 11,000 (貸) 前受金 11,000
未収金 440 その他収入 400
仮受消費税 40
(借) その他収入 200 (貸) 預り金(B) 220
仮受消費税等 20

(他の共有者Bの処理)

(借) 未収金(A) 220 (貸) その他収入 200
仮受消費税 20

まず、未収賃貸料a/cと未収金a/cの2つを用いるのは、毎月変動しない賃貸料収入については未収賃貸料a/cで、毎月変動する水道光熱費等の請求額については未収金a/cとして分けて管理するためです。請求のタイミングの点で考えても、賃貸料の請求は翌月分、水道光熱費等の請求は前月分または当月分であるためです。

つぎに、未収賃貸料a/cと前受金a/cを両建てするのは、未収賃貸料a/cでは賃借人との取引を管理し、前受金a/cでは収益発生をコントロールするためです。つまり、未収賃貸料a/cの残高の減少は賃借人からの入金となり、前受金a/cの残高の減少は月初に行う収益(収入金額)への振り替えということになります。

そして、その他収入a/c440(うち消費税等40)のうち、共有者Bに帰属する部分220(うち消費税等20)をBに対する預り金として仕訳します。重要なのは、主たる共有者(A)がいったん共有者全員のその他収入の額を計上し、他の共有者(B)に帰属する部分をマイナスすることです

賃借人からの入金はBの分も含めてAの口座に入金するため、AとBで216ずつ計上してもわかりずらくなり、また、Aの帳簿で共有者全員の取引(単独所有だったとした場合の取引)を把握できるからです。

ここで、もっとも重要な点は、このタイミングで未収賃貸料についてはBの部分を認識することはなく、未収金についてのみBの部分を認識する理由です。これは、そもそもなぜ共有不動産の共有者の不動産所得をとらえるかという根本的な問題によります。

つまり、「共有者に対する債権債務をどう認識するか」ではなく「いかに正確に不動産所得を共有持分に分けるか」ということです。しかも、この債権債務は、法律上の債権債務ではなく、あくまでも収益や費用の帰属という点から導かれる会計上の債権債務の問題です。

とすると、会計上、他の共有者に対する(会計上の)債権債務の認識のタイミングは、主たる共有者で収益や費用が計上されるときが適切ということになります。

設例では、前月分の水道光熱費等を請求することによって損益計算上の収益(その他収入)が計上されるため、このうち他の共有者Bに帰属する部分について収益をマイナスし、Bに対する預り金を認識しています。いっぽう、未収賃貸料については翌月分の請求であり、この段階では損益計算上の収益とならないため(前受金として処理)、Bに対する預り金は認識されないのです。

なお、勘定科目ですが、他の共有者Bの持分に相当する額を「いったん預かった」ととらえれば預り金a/cになりますが、より踏み込んで、他の共有者Bに「支払うべきもの」ととらえれば未払金a/cを用いることになるでしょう。しかし、申し上げた通り、この預り金の性質は、Bに対する法律的な債務が発生したというより、会計上の収益のうちBに対する部分をマイナスした相手科目という会計的な負債というニュアンスです。本来のBに対する法律的な債務は、賃借人からAの口座にBの分も含めた額が入金したときに発生すると考えられます。これにこだわってしまうと、「損益計算である不動産所得の額を共有持分に分ける」という本来の目的から遠ざかってしまい、単にごちゃごちゃ複雑になるだけです。

賃借人からの入金

(主たる共有者Aの処理)

(借) 預金等 11,440 (貸) 未収賃貸料 11,000
未収金 440

(他の共有者Bの処理)

仕訳なし

主たる共有者Aは、他の共有者Bに帰属する翌月分の賃貸料収入5,500と、前月分の水道光熱費収入220を預かっていることから、このタイミングでAとBとの間に債権債務が発生するのが自然です。

しかし、先ほど申し上げたとおり、AとBとの債権債務は同じタイミングで認識することは同じですが、債権債務そのものが発生するタイミングは、あくまで収益や必要経費といった損益を認識するタイミングにしています。

収益を認識した水道光熱費収入についてはすでにAとBとの間の債権債務は認識されているいっぽう、まだ翌月分のために収益を認識していない賃貸料収入についてはこの段階ではなお債権債務は認識していません。

賃貸料収入の計上(翌月)

(主たる共有者Aの処理)

(借) 前受金 11,000 (貸) 賃貸料収入 10,000
仮受消費税等 1,000
(借) 賃貸料収入 5,000 (貸) 預り金(B) 5,500
仮受消費税等 500

(他の共有者Bの処理)

(借) 未収金(A) 5,500 (貸) 賃貸料収入 5,000
仮受消費税等 500

請求の段階では翌月分のため、会計上は収益に計上せずに前受金として処理していたものを、翌月になって収益に計上します。このタイミングで、賃貸料収入についてAとBとの間で債権債務が認識されることになります。

一連の取引で、AとBの債権債務は、Aのほうでは債務(預り金(B))として5,720(=5,500+220)、Bのほうでは債権(未収金(A))として5,720が計上されています。

( つづく )