( 7 )共有不動産を借入金で取得した場合の処理 Part2

共有不動産の専用の預金口座があり、そこから不動産賃貸に関する入出金が行われている場合、この口座は共有者の1名の名義であっても、不動産が共有であることから実質的には共有名義の口座といえます。

そこで、実質共有口座について、名義人以外の共有者に帰属する部分の取引についてバーチャルな科目を設けて計上する方法をご説明いたします。

実質共有口座とは

共有不動産の場合、その収入金額や必要経費について、必ずしも各共有者が共有割合に基づいて受取り、あるいは、支払うわけではありません。ある共有者が全共有者分の合計額を受け取ったり、支払ったりすることが一般的と思われます。

そして、この入金や出金をつかさどる預金口座が、その共有不動産専用の口座である場合があります。複数の共有不動産を保有している場合には、各不動産ごとにそれぞれの口座があることもあります。

この預金口座の名義人は必ずしも共有名義ではなく、共有者の1名の単独名義であることもあります。

しかし、不動産が共有だとすると、そこから発生する収入金額や必要経費等についても共有割合によって各共有者に帰属するものといえます。

ということは、預金口座が単独名義であっても、口座の残高のみならず、その口座の入出金はことごとく共有割合によって各共有者に割り振ることができる、すなわち、預金口座は実質的に共有口座といえます。

各共有者の帳簿の役割

共有不動産に係る会計処理について、共有者のうち1名を主たる共有者として帳簿を作り、他の共有者については主たる共有者の帳簿上で算定された取引(金額)をそのままトレースして帳簿を作り込みます。

  • 共有者のうち1名を主たる共有者とする
  • 主たる共有者の帳簿には共有者全員分の額(単独所有相当額)を計上する
  • 主たる共有者の帳簿上で不動産所得を共有割合で各共有者に割り振る
  • 他の共有者について、主たる共有者の帳簿で算定した取引および取引金額を忠実に計上する

主たる共有者の帳簿では、共有者全員分の取引金額で計上することで対外的な取引の管理と検証可能性を確保し、不動産所得を各共有者に共有割合で割り振り他の共有者との債権債務を調整することにあります。

また、他の共有者の帳簿は主たる共有者の帳簿で算定された額を忠実に反映させることにあります。

実質共有口座に係る会計処理の概要

第2回以降でご説明した部分と異なる点を踏まえて申し上げます。

実質共有口座の設定

共有不動産であっても、その収入金額や必要経費について、必ずしも各共有者が共有割合に基づいて受取り、あるいは、支払うわけではなく、ある共有者が全共有者分の合計額を受け取ったり、支払ったりすることが一般的です。

ということは、共有不動産の賃借人からの賃貸料の入金や、管理会社等に対する手数料の支払いなどがすべて専用の預金口座で行われる場合、その入出金すべてが共有割合によって各共有者に帰するものといえます。

さて、これを帳簿としてどう反映させるかですが、取引はすべて各共有者ごとということになれば、すべての取引をバラバラにするということになり、とくに預金口座の入出金というもっとも検証可能にしなければならない取引が金額がバラバラになっているのでは、なんのための帳簿かということになってしまいます。

そこで、実質共有口座については、名義人(共有者のうち1人)の預金口座を1つの補助科目とし、他の共有者分の補助科目を作ります(「預金(○分」など)。

預金取引の仕訳と同じ仕訳のなかで、他の共有者分(取引金額に共有割合を乗じた額)を貸借反対で仕訳を追加します。 つまり、実質共有口座(「預金等」)に入金(出金)があれば、他の共有者分とした「預金等(○分)」はその共有割合分だけ出金(入金)したものとして仕訳を入れます。

実質共有口座の残高と他の共有者の残高の関係

実質共有口座の資金の動きのうち、他の共有者分の額の仕訳は貸借逆に仕訳することから、他の共有者分の科目(「預金等(○分)は常にマイナスの残高になります。

これは何を意味しているのかといいますと、主たる共有者の名義である「預金等」それ自体は通帳と同じく共有者全員分の残高となっていますが、他の共有者の「預金等(○分)」の残高はマイナス残高となっています。ふたつを合せて見れば、自己の共有分のみの残高となります。

たとえば、共有者2名(共有割合1/2ずつ)の場合、預金等a/c(主たる共有者の単独名義、共有者全体の額)の残高が100だとすると、「預金等(○分)」の残高はマイナス50となるはずです。この結果、主たる共有者の実質的な残高が50となるのです。

設例

以下の例では、共有者はAとBの2名、共有持分は50%ずつとし、共有者全員分の取引金額を計上する主たる共有者をAとし、他の共有者をBとします。

モデル取引目次

( 1 )収入金額(賃貸料収入)

不動産の賃貸借契約の多くは、「賃借人は前月末までに翌月分の賃借料を支払う」ことになっています。だとすると、前受金を用いることがより正確です。

賃借人に対する翌月分の賃貸料の請求

(主たる共有者Aの処理)

(借) 未収賃貸料 11,000 (貸) 前受金 11,000

(他の共有者Bの処理)

仕訳なし

賃借人からの入金

賃借人から共有分全員分11,000の振込みがあったとします。

(主たる共有者Aの処理)

(借) 預金等 11,000 (貸) 未収賃貸料 11,000
(借) 預り金(B) 5,500 (貸) 預金等(B分) 5,500

(他の共有者Bの処理)

(借) 預金等(B分) 5,500 (貸) 前受金 5,500

まず、主たる共有者A名義の口座に賃借人から11,000の入金の処理を行います。

同時に、入金した11,000のうちBに帰属する部分5,500について、預金等a/cの補助科目(「預金等(B分)」)を用いて、預金等a/cと貸借逆の仕訳を入れます。この場合の相手科目(借方)は「預り金(B)」とします。

この結果、預金等a/c全体では、通帳そのままの動き(11,000増)とBに帰属する部分の(5,500減)との合計でAに帰属する部分(5,500)のみの増加(5,500増)になります。

なお、預り金(B)については、この段階では赤残(借方残)の先行計上となりますが、翌月1日に収益を計上するときに解消します(下記参照)。

ところで、「共有だというのなら「預り金」ではなくて「未収賃貸料」が正しいのでは?」という疑問があると思います。つまり、実質共有口座で各共有者が各共有者ごとに取引するというのならば、各残高は各共有者に帰属する部分となるべきで、Aの未収賃貸料は5,500、Bの未収賃貸料は5,500、Aの前受金は5,500、Bの前受金は5,500ではないかということです。

ここでまたしても重要なのは帳簿の役割です。ここで重要なのが主たる共有者と他の共有者の帳簿の役割です。主たる共有者の帳簿では、共有者全員分の取引金額で計上することで対外的な取引の管理と検証可能性を確保し、不動産所得を各共有者に共有割合で割り振り他の共有者との債権債務を調整することにあります。また、他の共有者の帳簿は主たる共有者の帳簿で算定された額を忠実に反映させることにあります。

そのため、外部の相手方と取引する科目については、主たる共有者の帳簿上は共有者全員分の額で計上し、他の共有者の部分は相殺せずに別の科目を使うことにします。債権債務の消し込みの場面でも、他の共有者の部分を相殺して主たる共有者の部分のみの額となると、外部の相手方からの入出金の時に差額が生じこれが他の共有者との債権債務になりますが、「不動産所得を各共有者に共有割合で適切に割り振る」ためには、債権債務の発生時期は外部の相手方との決済の時ではなく他の共有者への収入金額や必要経費の割り振りの時のほうがより正確で効率的です(少なくとも私の場合)。

主たる共有者Aの帳簿上は「預り金(B)」で処理されていますが、他の共有者の帳簿上はその実質から「前受金」として計上します。

不動産収入の計上

(主たる共有者Aの処理)

(借) 前受金 11,000 (貸) 賃貸料収入 10,000
仮受消費税等 1,000
(借) 賃貸料収入 5,000 (貸) 預り金(B) 5,500
仮受消費税等 500

(他の共有者Bの処理)

(借) 前受金 5,500 (貸) 賃貸料収入 5,000
仮受消費税等 500

主たる共有者Aは、まず共有者全員の額11,000を計上し、このうち、他の共有者Bに帰属する部分5,500をマイナス処理します。

収入金額をマイナスした相手科目(貸方)は、「前受金」ではなく「預り金(B)」です。その理由は、外部の相手方と取引する科目は、主たる共有者の帳簿上は共有者全員分の額で計上し、他の共有者の部分は相殺せず別の科目を使うためです。

Bに対する預り金は、前受金の入金時に赤残として先行計上している(上記参照)ため、この計上でゼロとなります。

つまり、AとBの債権債務関係は解消することになります。

( 2 )必要経費(一般)

共有不動産に係る必要経費についても、各共有者が共有割合に基づいて相手先にバラバラに支払うのではなく、ある共有者が共有者全員分の額を支払うことが一般的と思われます。

そこで、主たる共有者Aの帳簿でも、外部との取引は共有者全員分の額を計上し、他の共有者Bに帰属する部分をマイナス処理します。

必要経費の未払計上

(主たる共有者Aの処理)

(借) 必要経費 5,000 (貸) 未払金 5,500
仮払消費税等 500
(借) 立替金(B) 2,750 (貸) 必要経費 2,500
仮払消費税等 250

主たる共有者Aが共有者全員分の額5,500を計上し、他の共有者Bに帰属する部分2,750をマイナス処理します。

必要経費をマイナスした相手科目(借方)は、「未払金」ではなく「立替金(B)」です。その理由は、外部の相手方と取引する科目は、主たる共有者の帳簿上は共有者全員分の額で計上し、他の共有者の部分は相殺せず別の科目を使うためです。

(他の共有者Bの処理)

(借) 必要経費 2,500 (貸) 未払金 2,750
仮払消費税等 250

主たる共有者Aの帳簿上は「立替金(B)」で処理されていますが、他の共有者の帳簿上はその実質から「未払金」として計上します。

必要経費の支払い

(主たる共有者Aの処理)

(借) 未払金 5,500 (貸) 預金等 5,500
(借) 預金等(B分) 2,750 (貸) 立替金(B) 2,750

(他の共有者Bの処理)

(借) 未払金 2,750 (貸) 預金等(B分) 2,750

共有者A名義の口座から共有者全員分の5,500を相手方に支払います。よって、Aの未払金5,500はこれでゼロとなります。

同時に、出金した5,500のうちBに帰属する部分2,750について、預金等a/cの補助科目(「預金等(B分)」)を用いて、預金等a/cと貸借逆の仕訳を入れます。この場合の相手科目(貸方)は「立替金(B)」とします。 この結果、Bに対する立替金は精算され、AB間の債権債務関係は解消します。

この結果、預金等a/c全体では、通帳そのままの動き(5,500減)とBに帰属する部分の(2,750増)との合計でAに帰属する部分(2,750)のみの減少(2,750減)になります。

よって、Bの未払金2,750はこれでゼロとなります。

( 3 )単独名義の借入金を、各共有者が共有割合で借入れ、実質共有口座から返済しているものとした処理

共有不動産を借入金によって取得し、その借入金は共有者のうち1人が単独名義で金融機関から借りたものであった場合、その共有者と他の共有者との間に債権債務関係(金銭消費貸借)がないと、他の共有者には贈与税が課されるリスクが高いです。

もっとも、金融機関が金銭消費貸借契約の締結の段階で「当該不動産は共有による取得である」「単独名義の契約は便宜的なものである」ことを明確に承知していること、返済資金はもっぱら取得した共有不動産から得られた資金(つまり共有の財産)から充てられているなどの事情がある場合には、実質的には各共有者が金融機関から共有割合分で借入れ返済していると認められる可能性はあると思われます。ただし、個々の事案により異なるので所轄税務署に必ずご確認ください

そこで、この実質を重視した仕訳例をご紹介します。

なお、共有者の1人が単独名義で金融機関から借り入れたという「形式を重視」し、金融機関との関係では債務者はその共有者のみとし、その共有者と他の共有者との間に共有持分に従った貸付金と借入金の関係があるものとした場合の仕訳例は「第6回」をご覧ください。

借入時

不動産の取得価額と借入額はともに100,000とします。

(金融機関から単独名義で借り入れた共有(予定)者Aの処理)

(借) 預金等 100,000 (貸) 借入金 50,000
預金等(B) 50,000

(他の共有(予定)者Bの処理)

(借) 預金等(B分) 50,000 (貸) 借入金 50,000

主たる共有者Aが単独名義で借り入れた100,000について、「口座は実質共有口座である」「借入金は単独名義だが実質は各共有者が借入れたものである」として、実質的に共有者が共有割合によって金融機関から50,000ずつ借り入れたという処理をします。

他の共有(予定)者は金融機関等との間で実質的な債務者として、共有割合による借入金を計上します。

不動産取得の未払計上

(主たる共有者Aの処理)

(借) 土地建物等 100,000 (貸) 未払金 100,000
(借) 立替金(B) 50,000 (貸) 土地建物等 50,000

(他の共有者Bの処理)

(借) 土地建物等 50,000 (貸) 未払金 50,000

各共有者が共有割合によって金融機関から借入れた資金で、共有割合分の不動産をそれぞれ取得するものとしたのに、いったん土地建物等の共有者全員分の額100,000を計上するのは、主たる共有者の帳簿では共有者全員分の額を計上するという原則に従ったものです。

また、土地建物等をマイナスした相手科目(借方)は、未払金a/cではなく立替金(B)a/cとします。その理由は、外部の相手方と取引する科目は、主たる共有者の帳簿上は共有者全員分の額で計上し、他の共有者の部分は相殺せず別の科目を使うためです。

主たる共有者Aの帳簿上は「立替金(B)」で処理されていますが、他の共有者の帳簿上はその実質から「未払金」として計上します。

不動産取得資金の支払い

(主たる共有者Aの処理)

(借) 未払金 100,000 (貸) 預金等 100,000
(借) 預金等(B) 50,000 (貸) 立替金(B) 50,000

(他の共有者Bの処理)

(借) 未払金 50,000 (貸) 預金等(B分) 50,000

共有者A名義の口座から共有者全員分の100,000を相手方に支払います。よって、Aの未払金100,000はこれでゼロとなります。

同時に、出金した100,000のうちBに帰属する部分50,000について、預金a/cの補助科目(「預金等(B分)」)を用いて、預金等a/cと貸借逆の仕訳を入れます。この場合の相手科目(貸方)は「立替金(B)」とします。 この結果、Bに対する立替金は精算され、債権債務関係は解消します。

この結果、預金等a/c全体では、通帳そのままの動き(100,000減)とBに帰属する部分(50,000増)との合計でAに帰属する部分(50,000)のみの減少(50,000減)になります。

金融機関への借入金返済

ある月の金融機関からの口座引き落としは1,200であり、その内訳は元本返済1,000、支払利息が200だったとします。

(主たる共有者Aの処理)

(借) 借入金 500 (貸) 預金等 1,200
預金等(B分) 500
支払利息 200
(借) 預金等(B分) 100 (貸) 支払利息 100

(他の共有者Bの処理)

(借) 借入金 500 (貸) 預金等(B分) 600
支払利息 100

各共有者が共有割合によって金融機関から借入れているものとしているため、各共有者がそれぞれ金融機関に元本を返済し、共有割合による利息を支払っているものとして処理します。

各共有者がそれぞれ金融機関に元本を返済し、共有割合による利息を支払っているものとして処理します。よって、AとBとの間の債権債務関係はありません。

( 4 )敷金の処理

( 1 )敷金受入れ

賃借人から受け入れた敷金は共有者全員分の6,000とします。

(主たる共有者Aの処理)

(借) 預金等 6,000 (貸) 敷金保証金 6,000
(借) 敷金保証金 3,000 (貸) 預金等(B分) 3,000

(他の共有者Bの処理)

(借) 預金等(B分) 3,000 (貸) 敷金保証金 3,000

( 2 )敷金返還

賃貸借終了によって敷金の返還が生じます。このとき原状回復費(清掃代など)がつきものです。通常の場合は、原状回復費は賃借人が負担するため、賃貸人は原状回復費を差し引いて(相殺して)敷金を返還します。

賃貸借終了に伴う原状回復費が1,500あり、全額賃借人の負担とするものとします(賃貸人がいったん立替払い)。共有者全員(AとB)が預かっている敷金は6,000なので、1,500を差し引いた4,500を賃借人に返金します。

2名合計の仕訳は次のとおりです。

(借) 仮払金 1,500 (貸) 預金等 1,500
(借) 敷金 6,000 (貸) 仮払金 1,500
未払金 4,500
(借) 未払金 4,500 (貸) 預金等 4,500

(主たる共有者Aの処理)

賃借人負担の原状回復費を主たる共有者Aが全額支払い、また、敷金の返還もAが行ったとします。

(借) 仮払金 1,500 (貸) 預金等 1,500
(借) 預金等(B分) 750 (貸) 仮払金 750
(借) 敷金保証金 3,000 (貸) 未払金 2,250
仮払金 750
(借) 未払金 2,250 (貸) 預金等 4,500
立替金(B) 2,250
(借) 預金等(B分) 2,250 (貸) 立替金(B) 2,250

(他の共有者Bの処理)

(借) 仮払金 750 (貸) 預金等(B分) 750
(借) 敷金保証金 3,000 (貸) 未払金 2,250
仮払金 750
(借) 未払金 2,250 (貸) 預金等(B分) 2,250

まず、Aが原状回復費1,500を支払った段階ではBが負担する分750を立て替えているため立替金を計上します。つぎに、敷金6,000のうちAに帰属する分3,000から原状回復費750を差し引いた2,250がAが賃借人に返還する額となります。

いっぽう、賃借人が返還を受ける額は、敷金6,000から原状回復費1,500を差し引いた4,500です。これをAが支払うと、Bが負担する分2,250を立て替えていることになります。

ただし、実質共有口座を使用しているために、AとBとの債権債務関係はすべて精算されることになります。

( 3 )敷金返還を要しなくなった場合

契約内容等により、敷金の一部または全部の返還を要しなくなった場合には、実際の返還のタイミングではなく、返還を要しなくなったタイミングで収益を計上します。

共有者全員として考えると次のとおりです。

(借) 敷金保証金 6,000 (貸) 未払金 4,000
その他の収入 2,000

AとBはそれぞれ次の処理をします。

(借) 敷金保証金 3,000 (貸) 未払金 2,000
その他の収入 1,000

そして、敷金の返還を実質共有口座から行った場合の処理は次のとおりです。

(主たる共有者Aの処理)

(借) 未払金 2,000 (貸) 預金等 4,000
立替金(B) 2,000
(借) 預金等(B分) 2,000 (貸) 立替金(B) 2,000

(他の共有者Bの処理)

(借) 未払金 2,000 (貸) 預金等(B分) 2,000

( 5 )実質共有口座に係る資金の預け入れと引き出し

共有者による実質共有口座への入金

実質共有口座の資金は、すべての共有者の共有であり、共有割合に従って各共有者に帰属します。

実質共有口座に資金を入金した場合、この資金を共有割合に従って各共有者が行えば、共有者間で債権債務関係は生じません。

ところが、共有割合でない場合には、共有者間で債権債務関係が生じることになります。

(入金した共有者Aの処理)

(借) 預金等 10,000 (貸) A固有口座 10,000
(借) 未収金(B) 5,000 (貸) 預金等(B分) 5,000

(入金していない共有者Bの処理)

(借) 預金等(B分) 5,000 (貸) 未払金(A) 5,000

共有者Aが自身の固有口座から実質共有口座に10,000を入金すると、本来ならばAとBで共有持分割合に従って5,000ずつ同時に入金すべきところをAが独自に入金したことになり、ここに、Bに対して5,000の立替(未収)が発生します。

会計処理は、入金した10,000のうちBに帰属する部分5,000について、預金等a/cの補助科目(「預金等(B分)」)を用いて、預金等a/cと貸借逆の仕訳を入れます。この場合の相手科目(借方)は未収金(B)a/cとします。

この結果、預金等a/c全体では、通帳そのままの動き(10,000増)とBに帰属する部分の(5,000減)との合計でAに帰属する部分(5,000)のみの増加(5,000増)になります。

いっぽう、Bについては、Aが入金した10,000のうち、Bの共有割合による部分5,000を未払金(A)a/cとします。

共有者による実質共有口座からの出金

実質共有口座の資金は、すべての共有者の共有であり、共有割合に従って各共有者に帰属します。

実質共有口座から資金を引き出した場合、この資金を共有割合に従って各共有者が受け取れば、共有者間で債権債務関係は生じません。

ところが、共有割合でない場合には、共有者間で債権債務関係が生じることになります。

(出金した共有者Aの処理)

(借) A固有口座 10,000 (貸) 預金等 10,000
(借) 預金等(B分) 5,000 (貸) 未払金(B) 5,000

(出金していない共有者Bの処理)

(借) 未収金(A) 5,000 (貸) 預金等(B分) 5,000

共有者Aが実質共有口座から10,000を出金すると、本来ならば共有持分割合に従って5,000ずつ同時にそれぞれの口座に入金すべきところをAが全額自身の口座に入金したため、ここに、Bに対して5,000の未払いが発生します。

会計処理は、出金した10,000のうちBに帰属する部分5,000について、預金等a/cの補助科目(「預金等(B分)」)を用いて、預金等a/cと貸借逆の仕訳を入れます。この場合の相手科目(借方)は未払金(B)a/cとします。

この結果、預金等a/c全体では、通帳そのままの動き(10,000減)とBに帰属する部分の(5,000増)との合計でAに帰属する部分(5,000)のみの減少(5,000減)になります。

いっぽう、Bについては、Aが出金した10,000のうち、Bの共有割合による部分5,000を未収金(A)a/cとします。

( 6 )共有割合のチェック

実質共有口座としての会計処理をした場合、通常の取引において共有者間での債権債務はほぼ発生しないことになります。なぜなら、他の共有者分の入出金について「預金等(○分)」という科目を使って常時精算を行っているからです。

しかし、損益計算書上の不動産所得が他の共有者にうまく配分されているかの検証は行わなければなりません。

その歪みは、まさに「預金等(○分)」に集約されます。

実質共有口座のうち「預金等(○分)」の残高は、他の共有者の共有割合の額(マイナス残高)となっていなければなりません。たとえば、共有者2名(共有割合1/2ずつ)の場合、預金等a/c(主たる共有者の単独名義、共有者全体の額)の残高が100だとすると、「預金等(○分)」の残高はマイナス50となるはずです。この結果、主たる共有者の実質的な残高が50となるのです。

共有割合の計算が間違えると、共有者全体の「預金等」の残高と他の共有者分「預金等(○分)」の残高が共有割合と異なることになります。

合計残高試算表でチェック

会計ソフトの合計残高試算表を選択し、一定の期間の試算表を画面でチェックします。

合計残高試算表の構成は、左から「前期残高」「借方(合計)」「貸方(合計)」「残高」となっています。

損益計算書は「前期繰越(残高)」はゼロです。そして、右端の「残高」は主たる共有者の残高です。

さて、主たる共有者の帳簿入力は、収入金額にしても必要経費にしても、まずは共有者全体の額を計上し、そこから他の共有者に帰属する部分をマイナス処理しています。

ということは、収入金額については、貸方(合計)に共有者全体の額が、借方(合計)に他の共有者に帰属する部分の額が、そして差額としての残高が主たる共有者の残高となります。

また、必要経費については、借方(合計)に共有者全体の額が、貸方(合計)に他の共有者に帰属する部分の額が、そして差額としての残高が主たる共有者の残高となります。

つまり、共有者が2名で、かつ、共有割合が50%ずつだとすると、収入金額については、借方(合計)の額(他の共有者)と残高(主たる共有者)がほぼ一致し、また、必要経費については、貸方(合計)の額(他の共有者)と残高(主たる共有者)がほぼ一致することになります。

大幅なズレが生じている場合

合計残高試算表上でチェックしたところ、共有割合とあまりに違っている場合にはどう調整していけばよいでしょうか。

まず、どこが違っているのかを特定する必要があります。

補助科目にブレイクダウンしてチェックしましょう。

実は、勘定科目全体でみるとそこそこ妥当であっても、補助科目で見るととんでもなくアベコベになっていることがあります。主な原因は、仕訳で補助科目の入力が誤っている場合です。補助科目を入力していなかったり、異なる補助科目で仕訳してしまったことなどがあります。

特定の仕訳だけが問題のときもあれば、ダメな仕訳が数ヶ月コピーして使いまわしていたために差が大きくなっていることもあります。

絞り込めないときは、合計残高試算表の集計範囲を6ヶ月から5ヶ月、4ヶ月と短くしていくと、イレギュラーな残高がほぼ正常になる月になります。この変化が生じる月にイレギュラーな仕訳があるはずです。

配分の計算を誤ったのか、勘定科目(補助科目)を間違えたのか、理由はさまざまですが、適切に修正します。なお、その仕訳を翌月以降複写して利用していた場合には、翌月分以降のすべての仕訳を修正することになります。

( 7 )端数調整

詳細については、「共有者間やグループ会社間での取引額配分と端数調整 」をご覧ください。

補助科目を見る

勘定科目ではあたかも端数調整されているように見えても、その内訳である補助科目ではそこそこの差額が生じていることが少なくありません。毎月同じ数値を共有割合で按分したとき、各月で1円の差額が生じれば、1年間では12円の差額となります。

税込金額から合わせる

税抜経理方式の場合であっても、まずは税込金額から調整します。なぜなら、外部との取引が消費税込みの税込金額で行われる以上、これを共有割合に割り振るのも税込金額であるべきだからです。

差額をゼロか1円にする

共有者が2人で共有割合は50%ずつの場合、共有者全員分の額(の合計)が偶数のときは、共有者ごとに割り振れば確実に同じ金額になるように調整します。

また、共有者全員分の額(の合計)が奇数のときは、どちらかの共有者が1円多くなり、どちらかの共有者が1円少なくなるように調整します。そして、ある勘定科目に補助科目が2つあり、共有者全員分の額(の合計)がどちらも奇数の場合には、ある補助科目についてはある共有者が1円多くなるように、もうひとつの補助科目についてはもうひとりの共有者が1円多くなるように調整すれば、勘定科目全体の差額はゼロになります。

具体的には、取引金額が奇数のものについて、どちらかの共有者を1円多くするように調整します。取引金額が偶数のものについてはそもそも端数が生じないので、よほど全体とのバランス上調整せざるをえない場合をのぞいて調整は行いません。

補助科目→勘定科目→収入金額(必要経費)の順で整える

各補助科目の調整が終わったら、補助科目相互間での調整を行います。

たとえば、共有者が2人で共有割合は50%ずつの場合、ある勘定科目について差額が2円だったとします。その補助科目をチェックすると、一方の共有者が1円多い補助科目が3つ、他方の共有者が1円多い補助科目が1つだったとします。この場合には、いずれかの補助科目について、1円の端数を寄せる共有者を入れ替えます。そうしますと、各共有者がどちらも2つ補助科目が多い(少ない)ことになり、その勘定科目の差額がなくなります。

もっとも、勘定科目での共有者全員の額が奇数の場合には、そもそも端数をゼロにできません。この場合には、収入金額や必要経費という大きなグループのなかで、奇数になっている勘定科目間で端数を調整します。

税抜金額でも同様の調整

税込金額での調整を終えたら、つづいて税抜金額の調整となります。なぜなら、税抜経理方式の場合、不動産所得の算定はまさに税抜金額で行われるからです。

ここでの調整は、会計ソフトが自動的に本体価格と消費税等に区分しているのを手修正する作業です。

税込金額での作業と同様に、各補助科目の補助元帳について、共有割合で配分すると端数が生じうる取引金額について修正します。

補助科目での調整が終わったら、その上位である勘定科目について補助科目相互間での端数調整を行い、さらに調整した各勘定科目について、収入金額や必要経費という大きなグループのなかで調整を行います。

最終的な調整は、消費税の納付差額(申告納税額と消費税勘定の相殺額との差額)で完結したりすることもあります。

( 8 )共有者間の債権債務の確定と精算

実質共有口座としての会計処理をした場合、通常の取引については共有者が共有持分に従って入出金をしているため、共有者間で債権債務は生じません。

債権債務が生じるのは、ある共有者が実質共有口座に送金を行った場合や、実質共有口座からある共有者に送金を行った場合です。この場合には、送金額と振込手数料を共有割合にした額が債権債務となります。

他の共有者との債権残高(未収金a/c)と債務残高(未払金a/c)が相互に一致してるかどうかを確かめます。科目がバラバラだったり、補助科目設定が異なっていることもあります。

これを相殺して、最終的に他の共有者に対する債権債務の残高が確定することになります。

しかし、債権債務の相殺による精算だけではなく、各共有者間で実際に資金を移動して精算することをオススメします。贈与税リスクを避け、当局とのトラブルを防止するうえでも有効です。

実務上は、数ヶ月ごと、あるいは、11月までの債権債務の残高について、共有者間で資金の移動を行って債権債務の精算を行うとよいと思われます。実際は決算時に端数調整などを行うため微妙に数値は異なることになりますが、最終的にはその誤差と12月に発生した債権債務のみが決算(青色申告書の貸借対照表)に載ることになります。

Aの未収金残高(Bの未払金残高)よりもAの未払金残高(Bの未収金残高)が大きく、AからBに送金する場合

(主たる共有者Aの処理)

まずは、「未収金(B)」と「未払金(B)」を精算します。

(借) 未払金(B) XXXX (貸) 未収金(B) XXXX

そして、差額の「未払金(B)」の残高を他の共有者Bに送金します。

(借) 未払金(B) XX (貸) A固有口座 XX

(他の共有者Bの処理)

まずは、「未収金(A)」と「未払金(A)」を精算します。

(借) 未払金(A) XXXX (貸) 未収金(A) XXXX

そして、差額の「未収金(A)」の残高を主たる共有者Aから送金を受けます。

(借) B固有口座 XX (貸) 未収金(A) XX

( おわり )