( 3 )経理上の設定と処理

共有財産に係る取引やグループ会社間の取引では、たとえば各共有者が共有持分に応じて外部者に請求したり、請求を求めたり、共有持分に応じて入金したり出金したりするよりも、共有者またはグループ会社のひとつが外部との取引を行い、これを共有割合や一定の比率によって損益や債権債務を付け替えることが一般的ではないでしょうか。

この実情に即しつつ、端数調整を行いやすい経理上の処理の方法について提案させていただきます。

設定と処理の内容

共有財産に係る取引やグループ会社間の取引では、たとえば各共有者が共有持分に応じて外部者に請求したり、請求を求めたり、共有持分に応じて入金したり出金したりするよりも、共有者またはグループ会社のひとつが外部との取引を行い、これを共有割合や一定の比率によって損益や債権債務を付け替えることが一般的ではないでしょうか。

ところで、端数調整の最終目標は次のふたつです。

  • 配分後の合計値が比率に応じた値となり、差額は1円にとどめること
  • 比率で配分した値の合計が、配分前の数値の合計と完全に一致すること

これを踏まえると、会計データも、「配分前の数値がわかること」「端数による差額が発生している状況がつかみやすいこと」が大切と考えられます。

そのひとつの形として、次のようなものがあります。

  • ひとつの主体として対外的な取引を行った場合の取引金額が把握できるようにする。
  • 外部者との取引金額のうち他の主体に帰する部分は、損益をマイナスしつつ、他の主体に対する債権や債務として処理する。
  • 他の主体に対する債権債務の発生は、会計理論上の収益費用の発生と同じタイミングにする。
  • 配分される他の主体の経理上の取引金額は、完全に一致させる。
  • 補助科目をなるべく多くつくり、各主体の補助科目を統一させる。

処理の概要

たとえば、共有不動産で共有者2名(AおよびBで持分1/2ずつ)の処理について、Aの口座にXからの賃貸料が入金する場合の処理方法のひとつとして、次のようなものがあります。

一般的かもしれない方法

収益計上時(未収金計上時)

AがXに対する収益50(未収金50)を計上します。

BもXに対する収益50(未収金50)を計上します。

未収金回収時

その後Aに100入金したときに、AはXに対する未収金50を消し込むと同時にBに対する債務(預り金)50を計上します。

BはXに対する未収金50を消し込むと同時にAに対する債権(未収金)50に振り替えます。

上記による方法

これに対して、先ほど申し上げた処理は次のとおりです。

収益計上時(未収金計上時)

AはXに対する収益100(未収金100)を計上します。そして、このうち50を収益からマイナスしてBに対する債務(預り金)とします。

BはAに対する収益50(未収金50)を計上します。

未収金回収時

その後Aに100入金したときに、AはXに対する未収金100を消し込みます。

Bは何の処理もしません。なぜならAとBの間に取引はないからです。

解説

外部との取引金額の反映

端数調整の前提として、そもそも外部者との取引金額がいくらだったのかを把握できなければなりません。そこで、経理処理上は、実態に合わせてAが外部者Xとの取引額100を経理上反映させるようにしています。

他の主体に帰する部分の処理

外部者に対する債権・債務そしてこれに関連する収益・費用の発生と、他の主体に帰属する部分の振替については、同じ仕訳で処理することが望ましいと考えられます。比率のミスということも考えられるからです。

他の主体に帰属する部分について、損益勘定をマイナスにして処理すれば、残高試算表上でも外部者に対する費用収益の総額と、振り替えた他の主体に帰属する総額を把握することが可能です。

さらに、他の主体に対する債権債務(立替金や預り金)の発生は、現金主義、すなわち、資金の入金や出金の時が理論的とも思われます。しかし、損益を比率(持分)どおりに分けることからすると、債権債務の発生も、会計理論上の収益費用の発生時としたほうがよいと考えられます。

純理論的な考えを貫いてしまうと、資金の入出金の際にも比率で分けることとなり煩雑であるばかりでなく、損益は税抜金額で資金の入出金(外部者との債権債務の決済)は税込金額であるため、入出金の段階でも端数調整を考えなければならないからです。

外部者との取引は1対1の取引であり、あとは事実上の内部的な振替であることを考えると、損益や外部者との債権債務の発生時に、他の主体への債権債務も同時に発生させるほうが合理的と考えられます。

補助科目

補助科目を増やすことは、さまざまな経営資料を入手するのに有用であるばかりでなく、処理ミスを防ぎ、端数の差が大きく出ているポイントを把握しやすくなるため、その調整が容易になります。

そして、補助科目は債権債務の勘定科目と損益の勘定科目を統一することが望ましいです。たとえば、売掛金の補助科目A社を設定したら、売上高の補助科目にもA社を設定するのです。

消費税の会計処理を税抜経理方式にする場合、債権債務は税込金額、損益は税抜金額となります。 すでに申し上げたとおり、税込金額では端数が生じない(生じる)のに、税抜金額では端数が生じる(生じない)こともあります。そもそも端数が生じるのか、生じていたらどう差額を調整すべきなのか検討するにあたっては、債権債務の勘定科目と損益の勘定科目について、それぞれを構成する補助科目の構成を統一したほうが作業が効率的なのです。

配分される主体のデータ入力

比率によって配分される主体へのデータ入力は、対外的な取引をした主体で処理した数値、すなわち、他の主体に帰する部分を債権債務として処理した数値と完全に一致させる必要があります。

もとより、会計データの入力は可能なかぎり手入力を避けるのが基本ですが、手入力の結果ミスしてしまうと、端数処理どころではなくなります。

完全コピペを行うことをオススメします。

アプローチはさまざまですが、たとえば、入力した仕訳データをエクスポートしてその値をコピペするなどの方法が考えられます。

取引入力時の注意

会計ソフトへの取引金額の入力にあたっては、仕訳作成時の金額入力のときに「電卓機能」を使って比率を乗じて入力する方法や、エクセルで入力すべき金額を算定し、それを仕訳入力する方法があります。

ソフトの電卓機能を使ってダイレクトに入力する方法は効率的ですが、注意しなければならないのは、そもそも取引金額(税込金額)、本体価格(税抜金額)に端数が生じるところに、さらにソフトの電卓機能による端数(計算結果についての円未満の端数の処理)の問題が加わることになります。

いっぽう、Excelで入力すべき金額を算定するのは、仕訳の前段階で端数処理をシート上で行うことができ、チェックもしやすいです。 ただし、その場合には、各セルの端数処理に気をつけましょう。 セルの表示を小数点以下まで広げると、円周率のように数字が現れることがあります。これでは取引データが増えれば増えるほどこの「見えない部分の蓄積」によって合計金額がズレることになります。 「目に見える部分」と実際の金額を完全に一致させましょう。

会計ソフトへの仕訳入力における消費税については、内税入力、すなわち、税込金額を入力すると会計ソフトが本体価格相当額と消費税相当額を自動区分する方法にし、そして、自動計算される消費税等の額について、1円未満の端数処理について四捨五入として設定するのが多いのではないでしょうか。

とすると、日常発生する取引について端数による差額が生じる場合、そのまま仕訳入力を続けると、ある主体に大きい値または小さい値ばかりが集計されてしまいます。

このため、会計ソフトへの入力について、端数による差額について、ある月はこちらの主体を大きくして、別の月は小さくするような入力にして、プラスマイナスを連続させる方法も有効です。この方法によれば、合計値レベルでの差額も小さい状態で最終的な端数調整(再調整)に臨むことができます。

ただし、途中でヘタな調整はせずに、とりあえず日常処理はなりゆきに任せて入力し、最後にまとめて調整を行った方が効率的なこともあるので、取引の数や端数の差を勘案しながらの見極めが大切と考えられます。

( つづく )