( 8 )従業員単位の労務費原価計算

従業員等ごとの労務費のワークシートと従業員等ごとの作業時間のワークシートから、従業員等ごとの原価計算を行います。

金額を分割する場合の端数処理、原価計算による配賦計算による端数の処理についてもコメントいたします。

原価計算をするためのシート

精度の高い労務費原価計算のためのワークシートは基本的に次の3種類となります。

  • 従業員等別の月間労務費データ
  • 従業員等別の月間業務(作業)時間データ
  • 従業員等別の原価計算データ

もちろん、最終的にはこの3種類で計算をするわけですが、そもそもこの3つのワークシートを作り上げる前段階で相当数のワークシートが必要になります。

従業員等別の月間労務費データ

一般的に原価計算期間は月初日から月末日までと考えられます。原価計算期間など自由に決めていいはずなのですが、情報を会計に反映させなければならないことを考えると、計算経済性からも会計期間と一致させるべきことになります。

さて、ここでは原価計算期間(月初日から月末日まで)と給料の締め日が異なる場合を想定します。ここでは20日締めとします。すなわち、給料の計算期間は前月21日から当月20日までとなります。

原価計算期間(月初日から月末日まで)と給料の締め日が異なる場合を想定します。ここでは20日締めとします。すなわち、給料の計算期間は前月21日から当月20日までとなります。

さて、何度も申し上げているとおり、マトモな原価計算をするためには、こむずかしい理論の前に期間中に発生したコストをキチンと把握・集計することが第一歩です。

すると、原価計算期間と給料計算期間のタイミングを合わせるためには、「前月21日から前月末日」「今月1日から今月

また、月次決算は精度はできるだけ高いレベルながらスケジュールは非常に厳しい状況で、原価計算結果を会計処理で取り込んでいくものとします。

従業員等別の給料データ

基本となる給料については、3つに分割されます。

  • 前月21日から前月末日までの給料額(確定)
  • 当月1日から当月20日までの給料額(確定)
  • 当月21日から当月末日までの給料額(概算)

月次決算のスケジュールがタイトである場合、当月21日から当月末日に対応する部分は概算額として計算します。

逆に、前月の月次決算において概算額を計上した前月21日から前月末日に対応する部分は金額が確定していますので、確定額に置き換えることになります。

そして、これら3つの期間と一致するような法定福利費の額を算定し取り込みます。

  • 前月21日から前月末日までの給料額に係る法定福利費(労働保険料)(暫定)
  • 当月1日から当月20日までの給料額に係る法定福利費(労働保険料)(暫定)
  • 当月21日から当月末日までの給料額に係る法定福利費(労働保険料)(暫定)
  • 前月21日から前月末日までの給料額に係る法定福利費(社会保険料)(暫定)
  • 当月1日から当月20日までの給料額に係る法定福利費(社会保険料)(暫定)
  • 当月21日から当月末日までの給料額に係る法定福利費(社会保険料)(暫定)

まず、労働保険料については、従業員等単位での「賃金」(給料+通勤費その他の現物給与)を計算するワークシートを作り、これを基に計算します。「賃金」に含まれる給料以外のもの(典型的なものは通勤費)も給料データの分割(「前月21日から前月末日」「当月1日から当月20日」「当月21日から当月末日」)に合わせて分割します。

従業員単位の「賃金」のデータに料率を乗じることで、従業員単位の労災保険料や雇用保険料や一般拠出金(会社負担分すなわち法定福利費)が算出されます。

ところで労働保険料の申告は各月の実際賃金の合計となるため、毎月の実績額(確定額)と申告の額は基本的に一致します。ただし、法人税法上は、労働保険料の確定申告で申告金額が確定しないかぎり、暫定値となります。

次に社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料など)は、従業員等単位での標準報酬月額を把握するワークシートを作り、これを基に算定します。

個々の従業員単位の標準報酬月額は年次更新により決まり、毎月の実績額とは異なりますが、新入社員や随時更新などが生じる場合には、標準報酬月額の増減のタイミングと一致させるようにします。

また、標準報酬月額はあくまで「月額」であることから、給料データの分割(「前月21日から前月末日」「当月1日から当月20日」「当月21日から当月末日」)に合わせて分割します。

従業員単位の「標準報酬月額」のデータに料率を乗じることで、従業員単位の社会保険料(会社負担分すなわち法定福利費)が算出されます。

ところで、標準報酬月額や料率が変わらないかぎり、社会保険料の額は確定値となりますが、計算期間に対応する納入告知書が到達していないため(前月分の納入告知書は当月20日以降)、会計上および税務上は暫定値となります。

従業員等別の賞与データ

賞与も最終的には次のデータとなります。

  • 賞与額(確定)
  • 賞与額に係る法定福利費(社会保険料)(確定)
  • 賞与額に係る法定福利費(労働保険料)(確定)

さて、賞与は一定の支給対象期間に対して支給されることが一般的のため、原価計算上は、確定額を支給対象期間に遡及的に配分しなければなりません。

いっぽう、会計上は、支給対象期間中の賞与見込額(とこれに対応する法定福利費)を計上していなければなりません。

そのため、実務上は、「確定した賞与額を支給対象期間に遡及して配分する」よりも、「賞与見込額を算定し、これを支給対象期間に配分する」「賞与額が確定した段階で、見込額を確定額に置き換える」作業となります。

  • 賞与見込額(概算)
  • 賞与見込額に係る法定福利費(社会保険料)(概算)
  • 賞与見込額に係る法定福利費(労働保険料)(概算)

まず、賞与見込額(全額)を算定し、これを支給対象期間に按分します。これに係る法定福利費も同じです。

若干面倒なのは、賞与見込額を月ごとに配分するだけでなく、給料データの分割(「前月21日から前月末日」「当月1日から当月20日」「当月21日から当月末日」)に合わせて分割します。それに合わせて法定福利費も分割します。

  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の前月21日から前月末日までの額(概算)
  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の当月1日から当月20日までの額(概算)
  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の当月21日から当月末日までの額(概算)
  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の前月21日から前月末日までの額に係る法定福利費(労働保険料)(概算)
  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の当月1日から当月20日までの額に係る法定福利費(労働保険料)(概算)
  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の当月21日から当月末日までの額に係る法定福利費(労働保険料)(概算)
  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の前月21日から前月末日までの額に係る法定福利費(社会保険料)(概算)
  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の当月1日から当月20日までの額に係る法定福利費(社会保険料)(概算)
  • 賞与見込額を支給期間に按分した場合の当月21日から当月末日までの額に係る法定福利費(社会保険料)(概算)

最終的な確定額が決まり支給されたときは、それまでの概算額をすべて置き換えます。

  • 賞与(確定)
  • 賞与に係る法定福利費(社会保険料)(暫定)
  • 賞与に係る法定福利費(労働保険料)(暫定)

社会保険料の額は確定値と一致しますが納入告知書の到達していないため、また、労働保険料の額は確定値と一致しますが確定申告(労働保険料)をしていないため、会計上および税務上は暫定となります。

従業員等別の退職給付費用データ

  • 前月21日から前月末日までの退職給付費用
  • 当月1日から当月20日までの退職給付費用
  • 当月21日から当月末日までの退職給付費用

退職給付費用の額も月ベースではありますが、給料の締め日に合わせて区分します。金額が確定なのか概算(暫定)なのかはそれぞれの事情により異なります。

(ポイント)すべてのワークシートで従業員等の順序を完全に一致させておく

すべてのワークシートで従業員等の順序を完全に一致させておく必要があります。

作業時間のシートの時間データを乗じて従業員一人一人の原価を算定するため、すべてのシートの従業員等の順序を完全に一致さえておかなければなりません。

入社、退職、異動などで変動が出たり、または、賞与を支給していない従業員等がいたりすると、計算過程でどんでもないズレが生じます。

ワークシートの従業員等の列の隣に数列挿入し、別のシートの従業員等情報をコピペし、その隣の列にIF関数を入れてチェックする方法などがあります。

(ポイント)金額の分割したり按分した場合の端数調整に注意する

原価計算期間と給料の締め日とを合わせるために(原価計算の基本中の基本)、給料額を3つのシートに3分割しています。それに合わせるべく、法定福利費や賞与(およびその法定福利費)、退職給付費用も3つに分割しています。

また、賞与については、概算額も確定額も、賞与支給期間にわたって按分しています。

分割や按分の際に注意しなければならないのは、端数処理です。

金額を分割すると、必ず円未満の端数が生じます。セルに出てこないからといって円未満の端数が残ったままにするのは論外です。

かといって、四捨五入にせよ切り捨てにせよ円未満の端数を処理すると、今度は、調整後の数値を合計すると分割前の金額と一致しないことがあります。

そのため、端数処理をしたことを示すワークシートを作成しておくのが検証用に丁寧です。

(ポイント)ワークシートはまとめないで集計用のワークシートを使う

ワークシートは大量になりますが、あえてひとつにはしないことをおススメします。

それぞれのワークシートでの計算結果に基づいて仕訳を行い、暫定値は確定値が入った段階で仕訳を洗い替えるのです。

別途に各ワークシートの計算結果を引っ張ってくる集計用のワークシートを作ればよいだけです。

従業員等別の月間業務(作業)時間データ

ワークシートの様式は、タテに従業員等を並べ、ヨコに集計対象の業務における作業時間を展開するようにします。

従業員等の順番が労務費の各ワークシートと完全に一致するようにします(上記参照)

ヨコに集計対象の業務における作業時間を展開するようすると、一般的に作業時間の合計は、一番右の列になりますが、作業時間の合計を返すセルは、従業員等の氏名に近いセル、つまり、左に配置すべきです。

従業員等別の原価計算データ

原価計算データを作成します。

従業員等別の月間労務費データでは、タテに従業員等が並び、その横の列に各ワークシートの数値があります。

いっぽう、従業員等別の月間業務(作業)時間データのフォーマットは、タテに従業員等が並び、ヨコに集計対象となる業務が並ぶようになっています。そして、作業時間合計は、従業員等の氏名が入力されているセルのすぐ右のセルに配置されています(上記参照)。

原価計算は、労務費を作業時間によって各業務に按分する作業です。

よって、原価計算のためのワークシートでは、そこをわかりやすくするために、左から「従業員等の氏名」「算定対象とする労務費」「期間中の作業時間合計」と並べ、その後に各業務に係る原価が配賦されるフォーマットにします。

配賦計算の方法(計算の最後で円未満の端数調整)

配賦にあたっては、第一段階として、各従業員について、当月の給料や賞与(概算額)や法定福利費(概算額)を当月の労働時間で除する「賃率の計算」と、第二段階として、これを各作業内容の時間を乗じて配賦するというふたつの計算があります。

私の場合には、第一段階(途中計算)では端数処理は行わず、第二段階(配賦計算)の計算結果で端数調整しています。

なぜなら、もし作業内容(そして作業時間)に変更があったときに、変更前に第一段階で端数処理をしていると、再び端数処理をしなければならなくなってしまいます。配賦された金額の端数処理がなされていればよいわけですから、途中はなりゆきに任せて端数処理はしないほうがベターだと思います。

そこで、第二段階すなわち、実際の配賦金額を決める段階で計算式に端数処理を入れます。 これにより、最終的な配賦金額の端数は生じなくなります。

配賦前の労務費との整合性の調整

配賦された金額は円未満の端数はゼロになりますが、それぞれの項目ごとに、切り捨てや切り上げや四捨五入による端数処理が行われます。この端数処理のために、配賦された金額の合計額が、配賦前の金額と一致しなくなります。

そこで、この端数をどう処理するかが問題となります。

結論的には、重要性のない業務で加減算することになります。

それぞれの業務も、その重要性に差があります。とくに、当期の費用とはならず資産計上が求められる作業内容については期間損益に重要な影響を与えますが、実質的には会計上の表示科目の違いにすぎないようなものもあります。

まず、列を2つ挿入します。1つ目の列のセルは、各業務を合計した額を表示するセルです。2つ目の列のセルは、この1つ目の列のセルと配賦前の労務費の額との差額を返すセルです。この2つ目の列のセルにより、配賦計算によって端数が生じていることが簡単に判明します。

次に、2つ目の列のセルに出ている端数を、それほど重要でない業務に含めるのです。

計算結果を集計するワークシート

原価計算シートは、労務費の各ワークシートごとに存在します。

それぞれの計算結果を一覧でチェックできるワークシートを作ります。

原価計算された各業務ごとの労務費がそのままリンクで飛んでくるようにします。

( つづく )