在庫持つと税金かかる?売上と売上原価と利益と税金と経営の関係

経営的には、収益を獲得するために仕入れたり生産したり提供した資金がすべて、しかも、早期に回収できることが極めて重要です。つまり、商品や製品の売れ残りや売上代金が回収不能になるのを最小限にとどめることが重要です。

「その期間中に仕入れたり生産したり提供したコストのすべてが売上高から費用(売上原価)として差し引かれるはず」という誤解によって、「売れ残ると在庫になって税金がかかる」という発想が生まれます。

(基礎知識)経営と損益計算書と貸借対照表との関係

そもそも経営は途切れることなく続いていますが、その経営の状況を知るために、そしてこれを報告するために、一定の時点で区切りを入れ(決算日)、その区切りと区切りの間の期間(事業年度)で財務書類を作成することになります。事業年度の中でも一定の期間(半期(6ヶ月)、四半期(3ヶ月)、月次(1ヶ月))に区切ることもあります。

さて、損益計算書(PL)とは、 一定期間(1年、6ヶ月、四半期、月次)の間の経営成績(どれだけ利益が出たのか)を表します。 いっぽう、貸借対照表(BS)とは、 一定時点(上記の一定期間の末日)の財政状態(どれだけ資産がありどれだけ負債があるのか)を表します。

イメージ的には、絶え間なく続く経営を、一定の間隔で切った断面が貸借対照表、断面と断面の間が損益計算書ということになります。

売上高と売上原価と売上総利益の関係について

一般的な損益計算書は次のような様式となっています。

  • 売上高
    売上原価
    売上総利益
    販売費及び一般管理費
    営業利益
    営業外収益
    営業外費用
    経常利益
    特別利益
    特別損失
    税引前当期純利益
    法人税等
    当期純利益

このうち、売上高と売上原価と売上総利益(粗利益または粗利(アラリ))との関係で重要なのは次の点です。

  • その期間中に仕入や製造に要した金額の全額がただちにその期間の費用(売上原価)になるわけではありません。
  • 売上原価となる金額はその期間中に売上高に対応する金額にとどまります。
  • 売上原価とならなかった金額は、原則として在庫となり、翌期以降に売り上げた時点で費用になります。

事例と損益計算書

ある期に、商品を全部売り切ろうとして100個、単価80円(8,000円)で仕入れたとします。そして、仕入れた商品を1個120円で販売したところ、その期間中に売れたのは60個(7,200円)にとどまったとします。

イメージ的には、この期間の損益は次のようになりそうです。

売上高 7,200
売上原価 8,000
売上総利益 ▲ 800

「8,000円で仕入れたのに売れたのは7,200円だったのだから、800の損失が出た」

しかし、このイメージは間違いです。

これでは「一定期間にどれだけ仕入れてどれだけ売上げたのか」を表しているだけです。

損益計算書とは「一定期間にどれだけもうかったのか」を表すものです。一定期間にどれだけもうかったのか、つまり、一定期間の利益を正しく表すには、収益(売上高など)と費用(売上原価など)とがキチンと対応していなければならないのです。

つまり、売上原価として費用になるのは、売上げたモノやサービスと直接関連する部分だけなのです。

これを会計学的には「費用収益対応の原則」といいます。

この例では、収益すなわち売上げた商品は60個ですから、この60個の売上に直接関連する部分が売上原価になるのです。

このため、損益計算書では、売上げた60個(販売単価120円で7,200円)に対する費用(売上原価)は60個分(仕入単価80円で4,800円)となります。

売上高 7,200
売上原価 4,800
売上総利益 2,400

検算してみましょう。 仕入単価は1個80円、販売単価は1個120円です。よって、1個当たり利益は40円です。 販売数量が60個ですから、利益は2,400円となります。

損益計算書の内容の検討

さて、この期間中の仕入高は100個8,000円なのに、損益計算書で費用になったのは4,800円でした。その理由は、売れ残った40個(3,200円)にあります。では、これはどうなるのでしょうか。

経理上のみならず、現実も40個は売れ残りとして存在しているはずです。

つまり、在庫です。

損益計算書を少しわかりやすくしましょう。

売上高 7,200
売上原価 4,800
(内訳)
当期商品仕入高 8,000
期末商品棚卸高 ▲ 3,200
売上総利益 2,400

損益計算書では、仕入8,000円のうち費用(売上原価)となるのは、売上げた60個(7,200円)に対応する部分(4,800円)にとどまります。このため、売れ残った40個(3,200円)は在庫(棚卸資産)となります。

では、在庫はいつ費用になるのかというと、基本的に(後述)、翌期以降に販売されたときです。

そして、この在庫40個(3,200円)は貸借対照表(期間末日の財政状態を表します。)で、資産(棚卸資産)として計上されます。

(参考)翌期の処理

ここで、翌期に、40個のうち15個が売れたとします。新たな仕入れはなかったものとします。

損益計算書では、売上げた15個(販売単価120円で1,800円)に対する費用(売上原価)は15個分(仕入単価80円で1,200円)となります。

売上高 1,800
売上原価 1,200
売上総利益 600

よりわかりやすくすれば次のとおりです。

売上高 1,800
売上原価 1,200
(内訳)
期首商品棚卸高 3,200
当期商品仕入高 0
期末商品棚卸高 ▲ 2,000
売上総利益 600

このため、売れ残った25個(2,000円)は在庫(棚卸資産)となります。

では、在庫はいつ費用になるのかというと、やはり翌期以降に販売されたときです。

そして、この在庫25個(2,000円)は貸借対照表(期間末日の財政状態を表します。)で、資産(棚卸資産)として計上されます。

疑問と不満

もっともらしい不満としては次のようなものがあります。

  • 全部売り切ってやろうと思って100個仕入れたのに、売れ残ってしまったのだから赤字のはずなのに、なんで利益が2,400円なのか納得できない。
  • しかも、利益には税金(所得税や法人税)がかかるというのだからなおさら腹が立つ。
  • 仕入れたのは8,000円なのに、なんで4,800円しか費用にならないのかがよくわからない。

この理由は、まさに在庫の金額(3,200円)によるものです。

では、どう考えればよいのでしょうか。どうすればよかったのでしょうか。

在庫はもう売らないのだから価値はゼロだ

まず、 期末に売れ残った在庫は、これ以降は販売できないのだから価値はゼロだという考え方です。

この場合には、損益計算書は、最初のイメージどおり次のようになりそうです。

売上高 7,200
売上原価 8,000
売上総利益 ▲ 800

わかりやすくすれば次のとおりです。

売上高 7,200
売上原価 8,000
(内訳)
当期商品仕入高 8,000
期末商品棚卸高 0
売上総利益 ▲ 800

しかし、これでは、正しくありません。

なぜなら、これでは、売上高7,200に対する売上原価は8,000ということになり、あたかも仕入金額よりも安い金額で販売したかのようになっているからです。

そこで、次のようにします。

売上高 7,200
売上原価 4,800
(内訳)
当期商品仕入高 8,000
他勘定振替高 ▲ 3,200
売上総利益 2,400
商品評価損 3,200
税引前当期純利益 ▲ 800

この形式ですと、売上原価は、あくまで売上高7,200に対応する4,800となり、売上総利益は2,400となります。そうするために、商品の価値がゼロになったという損失(商品評価損)を、売上総利益の区分ではなく、別の区分で行います(他勘定振替)。

税務当局とのトラブル

しかし、税務当局との間にトラブルが起きるリスクがあります。

それは、当局の「在庫の価値はゼロではない」というものです。

モデルチェンジ等で販売を終了したとしても、食品等で消費期限などがあったとしても、週刊誌等ですでに店頭に並ぶことはないとしても、修理部品等として分解や解体すれば販売できたり、バックナンバー等で販売していたり、自分(自社)で費消できる可能性がゼロでないのなら、在庫の価値はありますよねというものです。

廃棄せずに現実に存在しているという事実が、その可能性がゼロでないということですよね」という理屈です。

そこで、 「在庫があるから、利益が出てしまって余計に税金を取られるんだ」 「それならどんどん廃棄して期末の在庫はほとんどゼロにしてしまえ」 という考え方になります。

在庫廃棄と利益調整

そこで、期末が近づいてきたら、在庫について来期以降の販売を予測し、残すべき在庫数量以外は廃棄することになります。

このことは、そのまま利益調整となります。なぜなら、期末の在庫金額が減少させればさせるほど利益は減少し、期末の在庫金額が増加させればさせるほど利益は増加するからです。

重要なのは、廃棄は期末日前にやることです。 期末日以降に廃棄したのに期末日前に廃棄したことにすると粉飾決算となります。なぜなら、期末日には在庫があるからです。

先ほどの例で考えてみましょう。

(ケース1)

ある期に、商品を全部売り切ろうとして100個、単価80円(8,000円)で仕入れたとします。そして、仕入れた商品を1個120円で販売したところ、その期間中に売れたのは60個(7,200円)にとどまったとします。

そして、期末に、「40個が売れ残ってしまったけれど、今後売れるのは半分だろう」ということで、20個(1,600円)は廃棄処分したとします。

売上高 7,200
売上原価 4,800
売上総利益 2,400
商品廃棄損 1,600
税引前当期純利益 800

わかりやすくすれば次のとおりです。

売上高 7,200
売上原価 4,800
(内訳)
当期商品仕入高 8,000
他勘定振替高 ▲ 1,600
期末商品棚卸高 ▲ 1,600
売上総利益 2,400
商品廃棄損 1,600
税引前当期純利益 800

(ケース2)

ある期に、商品を全部売り切ろうとして100個、単価80円(8,000円)で仕入れたとします。そして、仕入れた商品を1個120円で販売したところ、その期間中に売れたのは60個(7,200円)にとどまったとします。

そして、期末に、「40個が売れ残ってしまったけれど、今後売れるのは10個だろう」ということで、30個(2,400円)は廃棄処分したとします。

売上高 7,200
売上原価 4,800
売上総利益 2,400
商品廃棄損 2,400
税引前当期純利益 0

わかりやすくすれば次のとおりです。

売上高 7,200
売上原価 4,800
(内訳)
当期商品仕入高 8,000
他勘定振替高 ▲ 2,400
期末商品棚卸高 ▲ 800
売上総利益 2,400
商品廃棄損 2,400
税引前当期純利益 0

(ケース3)

ある期に、商品を全部売り切ろうとして100個、単価80円(8,000円)で仕入れたとします。そして、仕入れた商品を1個120円で販売したところ、その期間中に売れたのは60個(7,200円)にとどまったとします。

そして、期末に、「40個が売れ残ってしまったけれど、今後売れるのは5個だろう」ということで、35個(2,800円)は廃棄処分し、在庫は5個(400円)とします。

売上高 7,200
売上原価 4,800
売上総利益 2,400
商品廃棄損 2,800
税引前当期純利益 ▲ 400

わかりやすくすれば次のとおりです。

売上高 7,200
売上原価 4,800
(内訳)
当期商品仕入高 8,000
他勘定振替高 ▲ 2,800
期末商品棚卸高 ▲ 400
売上総利益 2,400
商品廃棄損 2,800
税引前当期純利益 ▲ 400

経営面からの考察

1個80円のものを100個仕入れると8,000円の資金流出となります。いっぽう、これを1個120円ですべて売れば12,000円の資金流入となります。差額で4,000円のキャッシュを獲得します。

この資金流出と資金流入とのタイミングのズレが短ければ短いほど、経営的には望ましいことになります。

いっぽう、仕入れたものが売れていない、つまり、在庫となっている場合には、この仕入れに係る資金を売上によって回収できていないことになります。まして、仕入れ資金を有利子負債で調達している場合、在庫が売れなければ売れないほど資金繰りへの影響はさらに悪くなります。

「在庫持っているということは利息を払ってるんだ」というのはそういう意味です。

それでも販売することができれば、1個当たり40円のキャッシュを得ることができます。仕入単価を上回る販売単価を設定して販売したわけですから、利益が出るのは当然であり、それに対して税金が発生するのはこれまた当然です。税金による資金流出があったとしても、6割強(実効税率を40%弱とした場合)は手元に資金が残るわけです。

しかし、廃棄してしまうと、これに係る仕入資金の回収を放棄したことになり、まさにおカネをドブに捨てたことになります。

いっぽうで、売れる見通しのない在庫をいつまでも廃棄しないと、その廃棄損失の発生による利益の減少を通じた税金の減少(節約)の機会を逸していることになります。

大量調達や大量生産は単位当たりコストは下がるため、それだけ低い販売単価でも利益を生み出せます。ただし、ある程度以上の量を販売しないと在庫負担による財務内容の悪化をもたらします。

他の事業がうまくいっているとなかなか見えてきませんが、仕入量や生産量の問題なのか、単位あたりコストの問題なのか、販売単価の設定の問題なのか、販売予測の問題なのか、現実の市場の問題なのか、事前および事後の分析を的確にし、機動的な在庫戦略が必要と考えられます。

(おわり)