ソフトウェア開発業のための高精度な労務費原価計算の方法

とかくドンブリ勘定になりがちな労務費原価計算について、従業員ごとのコストを正確に把握することによって、財務会計上の数値をより精緻化するとともに、経営管理にも利用するための方法をご説明いたします。

( 1 )高精度な労務費原価計算をするメリット

原価計算というと、「財務会計用や税務調査用にしかたなくそれなりに計算した」「前の会計監査や税務調査でも問題なかったから」という後ろ向き、消極的な場合が大半ではないでしょうか。とくに、労務費つまり人件費についてはどうしても大雑把になりがちです。

そこで、従業員ごとの労務費を算定し、それぞれの作業ごとに配分し、これを集計する労務費原価計算をすることで、会計上の処理金額について会計監査や税務調査で説得力が高まります。

また、会計目的だけではなく、会計理論を排除したところでの経営管理目的(業績評価や人事考課)にも応用することが可能です。

( 2 )残念な労務費原価計算

もともと原価計算は、もっぱら経理の目的、税金の計算のために後ろ向き、消極的にやっていることが少なくありません。

しかし、後ろ向きや消極的なのはいいとして、そもそも原価計算の体をなしていないこともあります。

( 3 )労務費原価計算の概要

高精度の労務費原価計算の前提として、一般的な労務費の原価計算の全体像と留意点について、ソフトウェア開発業を前提にコメントいたします。

( 4 )ワークシート作成とその注意点

精度の高い労務費原価計算を行うためには、従業員単位で原価を算定し、これを集計することになります。

原価計算はExcelのワークシートによって行いますが、ここでは、ワークシートの体系やワークシート作成の際の注意点などについてコメントいたします。

( 5 )従業員単位での作業データの収集と原価計算対象の特定

高精度な労務費原価計算の中心となる、従業員の業務内容と時間のデータの収集についてコメントいたします。

( 6 ) 従業員単位の労務費の算定(給料と賞与)

高精度な労務費原価計算のもうひとつの中心となる、従業員の労務費の算定とワークシートの作成についてコメントいたします。

まずは、給料と賞与です。

給料の締め日に応じたワークシートの作り方、また、月次決算の精度やスケジュールに応じて概算額を算定する場合のワークシートの作り方についてもコメントいたします。

( 7 ) 従業員単位の労務費の算定(法定福利費)

高精度な労務費原価計算のもうひとつの中心となる、従業員の労務費の算定とワークシートの作成についてコメントいたします。

今回は従業員単位での法定福利費の算定についてコメントいたします。

( 8 ) 従業員単位の労務費原価計算

従業員等ごとの労務費のワークシートと従業員等ごとの作業時間のワークシートから、従業員等ごとの原価計算を行います。

金額を分割する場合の端数処理、原価計算による配賦計算による端数の処理についてもコメントいたします。

( 9 ) 管理監督者や裁量労働制での問題点

従業員(合計)の一定の期間に発生したおける労務費(合計)を、各業務等に要した時間(合計)の比率で割り振ります。

とりわけソフトウェア開発業では、会計上の目的から業務内容を細かく分け、それが会計上の損益に著しく影響を及ぼすことから、労働時間の正確性の担保が重要になります。

また、ソフトウェア開発業では、労働法上の管理監督者や裁量労働制が適用される従業員では、労働時間と労務費との関連性が薄くなるため、月によって「時給」が変動するという問題が出てきます。

( 10 ) 「賃率変動問題」への対応策

複数の業務を行う従業員等の労働時間が大きく増減したにもかかわらず、給料は裁量労働制などによりそれほど変わらない場合、月間の労働時間の多寡や複数の業務の業務時間の比率によって、パフォーマンスが一定なのに月によって各業務の労務費が異なることになります。

そこで、「事前の雇用契約等から算定される本来適用すべき賃率」を用い、さらに、それが現実に支給されるかどうかにかかわらず、実際に従事した労働時間を乗じて各業務の労務費発生額を算定する考え方がでてきます。