( 7 )従業員単位の労務費の算定(法定福利費)

高精度な労務費原価計算のもうひとつの中心となる、従業員の労務費の算定とワークシートの作成についてコメントいたします。

今回は従業員単位での法定福利費の算定についてコメントいたします。

従業員単位での労務費の算定

高精度の労務費原価計算とは、労務費の各要素(給料、賞与、社会保険料など)を部門等の合計額ではなく従業員等一人一人で収集し、労務費の業務への区分も、従業員等一人一人で行うものです。

従業員単位の原価計算結果を集計して、全社的な金額を把握するのです。

さて、高精度でなくとも、まともな労務費原価計算を行うためには、期間中に発生した労務費をもれなく計算対象にしなければなりません。

通常、原価計算は月単位で行いますが、その場合は月初日から月末日までの労務費を収集しなければなりません。

今回は、法定福利費についてコメントいたします。

法定福利費の計上

労務費については、一定期間中(主として月間)に発生したものをもれなく集計しなければなりませんが、それは給料にとどまりません。これに付随する法定福利費も計上しなければなりません。

法定福利費には、健康保険料、厚生年金保険料、労働保険料(労災保険料や雇用保険料)などがあります。

  • 健康保険料会社負担額
  • 介護保険料会社負担額
  • 厚生年金保険料会社負担額
  • こども・子育て拠出金(全額会社負担)
  • 厚生年金基金掛金会社負担額(標準掛金、加算掛金、事務費掛金など)
  • 労災保険料
  • 雇用保険料会社負担額
  • 一般拠出金

さて、社会保険料や労働保険料は、基本的に全社の合計金額で申告したり納付をします。

もちろん、それは従業員一人一人の給料等の額を合計した結果によるものですが、一般的な労務費原価計算では、法定福利費の額も何となく給料総額の比率だとかユルい基準で配賦していることが多く見られます。そのくせ、給料については、異常なほど細かく計算していたりするものです。

本稿の高精度な労務費原価計算では、労務費を従業員単位で算定します。

さて、個々の従業員単位で法定福利費を計算するためには、社会保険料や労働保険料の計算のルールを理解していなければなりません。

従業員単位での法定福利費(社会保険料)の算定

社会保険料の算定ルール

社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料等)の特徴は、「毎月の給料等によってではなく標準報酬月額によって算定すること」「ひと月遅れていることから期間対応を間違いやすいこと」です。

まず、月々の社会保険料の額は、毎月の給料等の額をベースに計算するのではなく、標準報酬月額によって行います。

標準報酬月額とは、4月から6月までの3ヶ月の給料(に加えて通勤交通費その他いわゆる現物給与も含みます。)の平均額から決定され、この標準報酬月額の等級に応じて、9月から翌年8月までの各従業員の社会保険料の金額が決まります。

このため、毎月の残業代などの増減によって社会保険料の額が変わらないのです。

もっとも、昇給や降給などの固定的な手当の増減によって2等級以上の変動すると、社会保険料の金額が変更されます(随時改定)。

もうひとつ注意しなければならないこと、それは、社会保険料の期間帰属です。

たとえば、3月分の社会保険料について納入告知書が送付されてくるのは4月の後半で、その納付期限は4月末日です。

これに合わせ、給料からの天引きも、3月分の社会保険料を4月分の給料から行うことがむしろ一般的です。

つまり、天引きした額や納入告知書に従って社会保険料(法定福利費)を算定しようとしても、それは3月分ということになり、期間対応がされず、まともな原価計算結果にならないことになります。

また、先ほどの随時改定の要件を満たしても実際に標準報酬月額が変更されるタイミングはズレがあり(増減後4ヶ月目から)、3ヶ月間は低い標準報酬月額が適用されます。このため、随時改定が生じるときは、社会保険料が増減するタイミングを誤らないようにしなければなりません。

ところで、社会保険料は、賞与に対してもかかります。ただし、賞与については標準報酬月額ではなく実際の支給額(の千円未満を切り捨てた額(標準賞与額))に料率を乗じた額となります。

賞与に係る社会保険料は支払った会社が年金事務所に申告し、それに基づいて標準賞与額の通知が来て翌月下旬に納入告知書と納付書が来ます。

なお、支給1回につき150万円が上限となります。また、年4回以上支給される賞与は、給料と同じく標準報酬月額に含めます。

従業員単位での給料に係る法定福利費(社会保険料)の算定方法

社会保険料の額は毎月の給料等の額ではなく、標準報酬月額に料率を乗じたものです。

そのため、従業員単位で月々の社会保険料の額を算定するためには、まず、従業員単位での標準報酬月額リストをワークシート上に作る必要があります。

次に、期間対応に注意します。実際の流れは、3月分の社会保険料の納入告知書は4月下旬に送られてきます。しかし、3月分の原価計算の計算対象はあくまでも3月分の社会保険料です。つまり、まだ納入告知書を受け取っていない段階で従業員単位で料率(会社負担分)を乗じて法定福利費を算定します。ボーッとしていると、3月分の原価計算なのに4月分の法定福利費を集計しかねません。

いっぽう、先ほど述べた随時改定では、固定的賃金の増減があってから4ヶ月後から標準報酬月額が変わります。つまり、固定的賃金が増減した月から社会保険料が増減するわけではありません。ここを誤ると、過大に法定福利費を計上してしまいかねません。

なお、40歳未満の従業員については、40歳になると介護保険料が発生するため、それも反映されるようなワークシートにします。

実際の給料支給額ではなく標準報酬月額によって算定するため、別途のワークシートが必要になりますが、(月次)決算による概算額の計上に影響されることはありません。

従業員単位での賞与に係る法定福利費(社会保険料)の算定方法

賞与に係る社会保険料の法定福利費の計算は、基本的には賞与支給額を千円未満で切り捨てた額に料率を乗じればよいため、法定福利費の額そのものは比較的容易に算定できます。

ただし、1回の支給について150万円が上限のため、IF関数を入れておかないと150万円を超えた部分にまで法定福利費を計算してしまうことになります。

確定した賞与額が決定した場合は、法定福利費を計算し、賞与の額とともに賞与支給対象期間に配分します、

そして、賞与で悩ましいのは、(月次)決算の関係で賞与対象期間にわたって概算額に基づいて原価計算を行って会計上も反映させようとする場合です。

この場合は、各月に配分される賞与概算額についての法定福利費を算定し、原価計算に取り込まなければなりません。

注意すべきは、各月に配分された賞与概算額に料率を乗じるのではなく、あくまで支給予定の賞与見込み額に料率を乗じた法定福利費(概算額)を各月に配分することです。それでないと、150万円を超える見込みの賞与も、支給対象期間に分けた額に料率を乗じると、過大に法定福利費が算定されてしまいます。

会計上反映する場合の注意事項

従業員単位で法定福利費を計算し集計し、これに基づいて原価計算をすれば、より精度の高い計算結果が得られることになります、

とくに、ともすれば月遅れになりがちな社会保険料に係る法定福利費をキチンと期間対応させて原価計算をしています。

ここで確認したいのは、会計上も社会保険料をキチンと計上しているのかということです。

原価計算の結果を会計処理する場合、まずは一般的な給料や賞与や法定福利費の仕訳計上があり、ここから原価計算の仕訳を入れていくほうが仕訳的なストーリーがわかりやすく、第三者の検証も容易と考えられます。

それなのに、原価計算のほうは正確に法定福利費を反映させているのに、もともとの会計のほうが月遅れで法定福利費を計上しているのはおかしなことになります。

期間中に発生した労務費をもれなく取り込んで原価計算をし、その結果を会計上も反映させようとするのなら、その前提に、会計のほうでも期間中に発生した労務費をもれなく取り込んでおかなければなりません。

従業員単位での法定福利費(労働保険料)の算定

労働保険料の算定ルール

労働保険料は、4月1日から翌年3月31日までの期間について年1回の確定申告により最終的な保険料は確定します。いっぽう、納付する保険料は概算額を年1回もしくは年3回で前払納付し、確定申告で概算保険料との差額の精算を行います。

原価計算にあたり概算保険料を期間配分しても意味がありません。なぜなら、概算保険料は前年の実績等にもとづいた「概算額」でしかないためです。

労働保険料(労災保険料や雇用保険料や一般拠出金)については、標準報酬月額ではなく、実際の給料等によって算定することになります。労働保険の申告も、個々の従業員の実際の給料(および通勤交通費や現物給与など)を集計して確定保険料の額を算定します。

従業員単位での給料に係る法定福利費(労働保険料)の算定方法

労働保険料の額は毎月の実際の「賃金」の額に料率を乗じて算定します。

ただし、「賃金」とは、実際の給料のみならず、通勤交通費その他の現物給与の額も含まれます。

そのため、従業員単位で月々の労働保険料の額を算定するためには、まず、従業員単位での「賃金」(給料+通勤交通費)のリストをワークシート上に作る必要があります。

ところで、(月次)決算の精度あるいは決算スケジュールの関係で、給料の概算額で原価計算を行うことがあります。

この場合は、給料の概算額をベースにして労働保険料(の概算額)を算定することになります。この場合注意するのは、給料の概算額が月の10日分に相当するものであったら、「賃金」に含まれる通勤交通費もまた月の10日分として算定します。

従業員単位での賞与に係る法定福利費(社会保険料)の算定方法

賞与にもまた労働保険料はかかります。

確定した賞与額が決定した場合は、法定福利費(会社負担額)を計算し、賞与の額とともに賞与支給対象期間に配分します、

そして、賞与で悩ましいのは、(月次)決算の関係で賞与対象期間にわたって概算額に基づいて原価計算を行って会計上も反映させようとする場合です。

この場合は、各月に配分される賞与概算額についての法定福利費(会社負担額)を算定し、原価計算に取り込まなければなりません。

会計上反映する場合の注意事項

ここで確認したいのは、会計上も労働保険料をキチンと計上しているのかということです。

労働保険料の会計処理はいくつかありますが、実際の賃金から算定される法定福利費(会社負担額)をそもそも会計上反映していなければ、原価計算だけマトモではおかしなことになります。

( つづく )