( 1 )株式の類型と譲渡の効力

譲渡制限株式の承認手続やその効果云々の前に、そもそも譲渡する「株式」とは何なのかについて検討します。

株式の譲渡で重要なのは、その株式の類型です。「株券発行会社における株式」「振替制度の対象となる株式」および「株券発行会社でない会社において振替制度の対象とならない株式」の3つに分けられます。

このうち、振替制度の対象となる株式は、譲渡制限がなく自由に譲渡される株式です。このため、本テーマである譲渡制限株式とは対極をなすものと考えられるため、解説等は最小限にとどめます。

株式の譲渡における株式の類型

株式会社の株主は、その有する株式を譲渡することができます(会社法127条)。

ここで、株式の譲渡とは、契約によって株式を他人に移転することをいいます。

株式には大きく分けて二つの権利、自益権(配当請求権や株式買取請求権などの株式のもつ経済的利益の享受を受け取る権利)と共益権(会社経営参加する権利)がありますが、この双方が譲渡人(売主)から譲受人(買主)に移転することになります。

株式の譲渡における「譲渡」には、売買のほか、贈与、交換、代物弁済などによる譲渡も含まれます。ただし、相続、合併等による一般承継による株式の移転は含まれないものとされます。

株式の譲渡との関係で、株式は3つの類型に分けることができます。

  • 株券発行会社における株式
  • 振替制度の対象となる株式
  • 株券発行会社でない会社において、振替制度の対象とならない株式

株券発行会社における株式

株券とは、株式すなわち株主としての地位を表章する有価証券です。

株券発行会社とは、会社が発行するすべての株式について株券を発行する旨を定款で定めた会社をいいます。株券発行会社が発行する株式が株券発行会社における株式です。

現行の会社法は株券を発行しないことが原則で、定款の定めにより株券発行会社となり、株券を発行することができます。 ちなみに、会社法施行(平成18年5月1日)以前の旧商法時代は、株券発行会社が原則で定款の定めにより株券を発行しないとすることができました。

振替制度の対象となる株式

株式の振替制度とは、平成21年から導入された主として上場株式の移転するため制度で、「社債、株式等の振替に関する法律」に規定されています。

振替制度の対象となる株式は、金融商品取引所に上場されている株式、上場する予定の株式のうち一定の要件を満たすもの、日本証券業協会によりフェニックス銘柄に指定されている株式で一定の要件を満たすものです。

振替制度の対象となる株式には、株券は発行されません(株券不発行会社)。

株式の上場に備えて株式を振替制度に移行させる場合、株券発行会社だった場合には、振替制度移行後は株券不発行会社になります。

株券発行会社でない会社において、振替制度の対象とならない株式

会社法施行(平成18年5月1日)後に設立される株式会社は、株券を発行しないことが原則であるため、株券発行会社でない会社であることが一般的です。

このような会社の株式の譲渡では、株券がないために、当事者間や会社や第三者に対して譲渡があったことをどう主張するかが重要となります。

株式の類型ごとの譲渡の効力

株式の譲渡で重要なのは、譲渡する当事者間での効力の問題(何をもって株式を譲渡した(譲り受けた)といえるのか)と、株式の譲渡があったと主張するためには何が必要なのかという問題です。

とくに、株券発行会社における株式の譲渡は、株式のみならずそれを表章する株券の問題がからむため、会社にとっても株主(譲渡人)にとっても極めて重要なものとなります。

株券を発行しているのか否かが、譲渡制限株式の譲渡に関して、譲渡人(議決権制限会社)にとっても、会社(譲渡制限株主)にとっても、いろいろな戦略のなかで影響することになります。

株券発行会社における株式

(譲渡の効力の発生)

当事者間(譲渡人と譲受人)の意思表示と株券の交付(会社法128条1項)

(会社以外の第三者に対する対抗要件)

株券の交付(会社法128条1項)

(会社に対する対抗要件)

株式取得者(譲受人)の氏名・名称と住所の株主名簿への記載・記録(会社法130条2項)

振替制度の対象となる株式

(譲渡の効力の発生)

譲受人の振替口座への記載・記録(社債、株式等の振替に関する法律140条、132条)

(会社以外の第三者に対する対抗要件)

譲受人の振替口座への記載・記録(社債、株式等の振替に関する法律140条、132条)

(会社に対する対抗要件)

基準日株式(会社法124条1項)の権利行使については株主名簿の名義書換え(会社法130条2項)、少数株主権等(社債、株式等の振替に関する法律147条4項)の権利行使については、振替口座への記載・記録(社債、株式等の振替に関する法律154条)

株券発行会社でない会社において振替制度の対象とならない株式

(譲渡の効力の発生)

当事者間(譲渡人と譲受人)の意思表示

(会社以外の第三者に対する対抗要件)

株式取得者(譲受人)の氏名・名称と住所の株主名簿への記載・記録(会社法130条2項)

(会社に対する対抗要件)

株式取得者(譲受人)の氏名・名称と住所の株主名簿への記載・記録(会社法130条2項)

なお、株主は、会社に対して株主名簿に記載・記録された事項を証明した書面の交付、あるいは、電磁式記録の提供を請求することができます(会社法122条、会社法施行規則225条1項2号)が、株券発行会社でない会社の株式で振替制度の対象とならない株式は、株券等によって自己が株主であるとの証明手段がないことから、将来会社との紛争が生じた場合に備えて書面等を会社から入手することになります。

株主名簿の効力

株主名簿は、株主とその持株等に関する事項を記載・記録するために、株式会社に作成が義務付けられた帳簿です(会社法121条)。

株式の譲渡は、株主名簿の名義書換えがなければ会社に対抗できません(会社法130条)。

会社は、名義書換え請求が行われないかぎり、株主名簿上の株主を株主として取り扱えばよいことになっています(株主名簿の確定的効力)。その者が真の株主でなかった場合でも、会社がそれにつき悪意・重過失がないかぎり免責されます(株主名簿の免責的効力)。

会社が株主に対して通知・催告をするときは、株主名簿上の株主の住所に宛てて発すれば足り(会社法126条1項)、通常その到達すべきであった時に到達したものとみなされます(会社法126条2項)。

いっぽう、株主名簿に記載・記録された株主が会社に対して権利行使する場合、その都度自己の権利を証明する必要はありません(株主名簿の資格授与効力)。ただし、会社は、名簿に記載・記録された株主が無権利者であることを証明すれば、その者の権利行使を拒絶できます。

株主名簿の名義書換えの方法

株主名簿の名義書換えの効力は、名義書換え請求を受理した日に発生します。

株式の譲渡の場合は、株主が株式を取得した日(会社法121条3号)として、株主名簿の名義書換えが行われた日が株主名簿に記載・記録されます。名義書換えが行われた日とは、会社が名義書換請求を受理した日を意味し、実際に株主名簿に記載・記録がされる日は後日であってもかまいません。

会社が株式取得者からの請求がなくても行わなければならない名義書換え

株主名簿の名義書換えは、原則として、株式を取得した者の請求によって行われます(会社法133条)が、会社みずからの行為によって株主名簿の記載・記録の内容に変更が生じた場合には、会社は株式取得者の請求を待たずに株主名簿の名義書換えを行わなければなりません(会社法132条)。

具体的には、株式を発行した場合(会社法132条1項1号)、当該株式会社の株式(自己株式)を取得した場合(同2号)および自己株式を処分した場合(同3号)、株式併合あるいは株式分割の場合(会社法132条2項、3項)です。

株券発行会社における株式の名義書換え

株式を取得した者は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載・記録することを請求することができます(会社法133条1項)。

この請求は、その取得した株式の株主として株主名簿に記載・記録された者またはその相続人その他の一般承継人と共同してしなければなりません(会社法133条2項)。

ただし、次の場合は、株式取得者が単独で請求ができます。

  • 株式取得者が株券を提示して請求した場合(会社法施行規則22条2項1号)
  • 株式取得者が株式交換により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した会社である場合(同2号)
  • 株式取得者が株式移転により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した株式会社である場合(同3号)
  • 株式取得者が所在不明株主の株式の競売による代金の全部を支払ったことを証する書面を提供して請求した場合(同4号)
  • 株式取得者が端数の処理の競売による代金の全部を支払ったことを証する書面を提供して請求した場合(同5号)

振替制度の対象となる株式の名義書換え

振替制度の対象となる株式については、株式取得者が会社に対して名義書換えを請求するのではなく、振替機関に対して申請を行い(社債、株式等の振替に関する法律132条)、これに基づいて振替口座の記載・記録が行われ、基準日等に振替機関が会社に対して総株主通知をすることで、株主名簿の名義書換えが行われます(社債、株式等の振替に関する法律151条、152条)。

振替制度となる株式の名義書換えにも、株券占有者の権利推定や善意取得の問題です。

振替口座の加入者は、自身の口座における記載・記録がされた振替株式についての権利を適法に有するものと推定されます(社債、株式等の振替に関する法律143条)。 そして、他人の口座から自分の口座に増加の記載・記録を受けた加入者は、悪意・重過失のないかぎり当該振替株式についての記載・記録に係る権利を取得(善意取得)します(社債、株式等の振替に関する法律144条)。

振替機関が、譲渡人の口座に実際の株式数を超過する数を誤って記載・記録し、超過した数が譲受人の口座に記載・記録されて善意取得され、全株主の有する振替株式総数が株式の発行数を超えることになった場合、当該振替機関は超過数の株式を取得して会社に対して権利を放棄する旨の意思表示を行う義務があります(社債、株式等の振替に関する法律145条、146条)。

株券発行会社でない会社において振替制度の対象とならない株式の名義書換え

株式を取得した者は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載・記録することを請求することができます(会社法133条1項)。

この請求は、その取得した株式の株主として株主名簿に記載・記録された者またはその相続人その他の一般承継人と共同してしなければなりません(会社法133条2項)。

ただし、次の場合は、株式取得者が単独で請求ができます。

  • 株式取得者が株主名簿上の株主に対して名義書換えの意思表示をすべきことを命ずる確定判決を証する書面等を提供して請求した場合(会社法施行規則22条1項1号)
  • 株式取得者が株主名簿上の株主に対して名義書換えの意思表示をする旨を記載した和解調書その他確定判決と同一の効力を有するを証する書面等を提供して請求した場合(同2号)
  • 株式取得者が指定買取人で、譲渡等承認請求者に対して売買代金の全部を支払ったことを証する書面等を提供して請求をした場合(同3号)
  • 株式取得者が一般承継により当該株式会社の株式を取得し、当該一般承継を証する書面等を提供して請求をしたとき(同4号)
  • 株式取得者が当該株式会社の株式を競売により取得し、当該競売により取得したことを証する書面等を提供して請求をした場合(同5号)
  • 株式取得者が株式交換により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した会社である場合(同6号)
  • 株式取得者が株式移転により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した会社である場合(同7号)
  • 株式取得者が所在不明株主の株式の競売による代金の全部を支払ったことを証する書面を提供して請求した場合(同8号)
  • 株式取得者が株券喪失登録者で、株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日以降に請求した場合(同9号)
  • 株式取得者が端数の処理の競売による代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求した場合(同10号)

なお、株券が発行されないことから、善意取得は生じません。

株主名簿の名義書換えの不当拒絶

株式取得者からの名義書換請求がなされた場合に、会社が正当な理由なく名簿書換えを遅延させれば、不当拒絶となります(会社法976条7項)。 譲渡制限株式について会社の承認を得ていない株式取得者が名義書換えを請求する(134条)場合、株式取得者が実質的権利者でないことを会社が立証する場合など、会社に名義書換えを拒絶できる正当な理由があれば不当拒絶にあたりません。

会社が名義書換えを不当に拒絶した場合、名義書換請求権者は、会社に対して損害賠償を請求できるのみならず、名義書換えなしに株主であることを主張できます。

株券発行会社における株式

株券発行会社が、正当な理由なく会社が株主名簿の名義書換えを拒絶した場合、会社は名義書換請求者(株式取得者)に対して損害賠償責任(民法709条)を負います。名義書換請求者は、名義書換えなしに株主であることを主張できます(最判昭和41.7.28)。

株券発行会社でない会社において振替制度の対象とならない株式

株券発行会社でない会社において振替制度の対象とならない株式の場合、株券がないため、会社その他の第三者に対して株式の譲渡を主張するには、株主名簿の名義書換えがなければなりません。この点で、会社から名簿書換えが不当に拒絶されると場合には不利益はより深刻なものとなります。

株券発行会社でない会社において振替制度の対象とならない株式について、正当な理由なく会社が株主名簿の名義書換えを拒絶した場合、名義書換請求者(株式取得者)は、名義書換えなしに会社に対して株主であることを主張できます。 なお、名義書換えを不当拒絶されている場合、名義書換えなくして第三者に対して対抗できるか(株主であると主張できるか)については学説上争いがあります。

名義書換え未了の株主の地位など

株式の譲渡が行われたものの、譲受人が会社に対して株主名簿の名義書換えを請求していない場合、会社は譲受人に株主としての権利を行使させることができるでしょうか。

この点につき、判例(最判昭和30.10.20)等は、株主名簿の効力に関する扱いは、集団的法律関係を画一的に処理する会社の便宜のための制度にすぎず、既に株主でないことが明らかな者に必ず権利行使を認めなければならないのは不穏当であることから、会社は、自己の危険において、譲受人に権利行使をさせることができるものと解されています。

また、株式取得者(譲受人)が、基準日までに株主名簿の名義書換えをしなかったために、剰余金の配当、株式の分割、株主割当てによる新株発行などが、株主名簿に記載・記録されている譲渡人に対して行われてしまう事態を生じる株式を失念株といいます。

この場合、配当金などが、株主名簿上の株主(譲渡人)と、名義書換えを失念した失念株主(株式取得者(譲受人))のどちらに帰属するかが問題となります。

判例は、配当金や無償交付された株式については、譲渡の当事者間では失念株主に帰属すべきとして、株主名簿上の株主(譲渡人)が受け取った配当金は不当利得として失念株主から返還請求を認めています(最判昭和37.4.20、最判平成19.3.8)。いっぽう、株主割当てによる新株発行で、譲渡人(株主名簿上の株主)が申込み・払込みを行って取得した株式については譲渡人に帰属するとして、失念株主からの返還請求を認めませんでした(最判昭和35.9.15)。

( つづく )