( 1 )粉飾決算の本当のオソろしさ

「粉飾決算を見破る方法」的なものは反吐が出るほどあふれていますが、それはそれとして、粉飾決算された財務状況をどう正常化していくかについてはあまりないように思われます。

その前に、粉飾決算のオソろしさについて確認したいと思います。

粉飾決算のオソろしいところ、それは、粉飾決算がバレることだけではありません。粉飾していない「すっぴん」がわからなくなってしまうこと、そして、「お化粧」を落としたくても落とせない(落ちにくい)、または(経理上)落としても(税務上)落とせないことです。

粉飾決算のネラい

粉飾決算の大きなネラい、それは「規範から外れて損益を調整する」ことにあります。

損益、すなわち利益または損失とは、絶え間なく続く経営活動を一定の期間で区切り(事業年度や会計期間)、その期間中における経営成績を経理上で数値化したものです。

その経営成績については、「このくらいの数値になってほしい」というイメージがあります。その理由は、予算であったり、対外的に宣言(公表)していたり、金融機関などの利害関係者から求められていたりなどさまざまです。

現実の経営活動で、その数値に近づけられるのであれば何の問題もありません。リアルな営業活動、購買活動や原価低減活動が行われ、これらについて一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して経理処理を行い、その結果としてイメージに近い数値となればよいのです。

しかし、世の中はうまくいくばかりではありません。

事実に基づき、規範に従って「普通」にやっていたのではイメージに及ばない場合、「お化粧」を行うことがあります。

現実とは異なる経営活動を作出したり、経理上のルールを逸脱するなどによって、経理上の数字を調整するのです。

そして、「お化粧」したことがバレないように細心の調整が行われます。財務分析されて過去の会計期間との比較が行われた場合を想定した調整などは典型的といえます。

貸借対照表の重要性

粉飾決算の主なネラいは損益の調整、すなわち、会計上の利益を大きくすることにあります。

利益は収益から費用・損失を差し引いて算出されます。よって、利益を増やすには、「収益を増やす」「費用・損失を減らす」またはこれらの両方を行うということになります。

よって、粉飾のエネルギーはもっぱら損益計算書の調整に注がれます。

ところで、現代の簿記会計は「複式簿記」によって行われています。

複式簿記から、「一定期間」の経営成績(損益計算書)と、「一定時点」の財政状態(貸借対照表)が作り出されます。「期間」すなわちフローを表す損益計算書、「一定時点」すなわちストックを表す貸借対照表です。

決算作業は、つい損益計算(書)だけを重視しがちですが、「期末の貸借対照表が適正かどうか」という視点が必要です。

貸借対照表は、「一定時点」の財政状態、つまり、会計期間末日の資産と負債および純資産の状況を表すものです。絶え間なく続く経営活動を一定の期間で区切った断面です。

貸借対照表は、単純に会計期間末日に預金や在庫や固定資産や有価証券などがどれだけあるかを示すだけではありません。「翌期以降に収益や費用になるもの」が反映されるのです。

「この取引は来期(以降)の収益だ」となれば、貸借対照表に前受収益として計上され、「この取引は来期(以降)の費用だ」となれば、前払費用などとして計上されるのです。

「この取引は当期の損益となるのかどうか」という収益費用の期間帰属についての検討を通じて、貸借対照表のみならず損益計算書にも良い影響を及ぼすのです。

ところが、当期の損益、というか、過去の損益の比較や財務比率の数値だけを気にして決算作業を行うと、収益や費用の期間帰属を適正化するという意識が希薄になります。まして、粉飾という麻薬にどっぷり依存したり、あるいは、損益だけしか関心がない場合、貸借対照表はどうでもよくなりがちです。

つまり、損益の調整によって生じるユガみは、貸借対照表をムシバんでいきます。

実は、粉飾しているのかしていないのかがバレやすいのは、損益計算書よりも貸借対照表なのです。

粉飾の末路

粉飾決算でオソろしいのは、それがバレることだけではありません。

「すっぴんがわからない」、「お化粧を落としたくても落とせない」ことにあるのです。

「すっぴん」がわからない

粉飾に粉飾を重ねると、どこまでが素顔でどこまでがお化粧なのかがわからなくなります。

危険なのは、あまりにお化粧をしすぎて「自分のすっぴんがわからない」「怖くて見ることができない」域に達してしまうことです。

諸事情で粉飾しなければならないとしても、それはそれとして、「すっぴん」すなわち経営状況の実態はどうなのかを把握しておくことは極めて重要です。それによって、万が一最悪の事態に至ったときに利害関係者そして自分自身を守ることになるのです。

「お化粧」は落としにくい

「お化粧」がバレないよう策を弄すれば弄するほど、粉飾スキームが大掛かりなものであればあるほど、末節的な調整ばかりにエネルギーを注いでしまい、大きなところであっさりと「穴」が見つかり、そしていったん崩れるとドミノ状態で行きつくところまで行ってしまうものです。

ただ、バレるよりも深刻なのは、お化粧を落としたくても落とせないことにあります。

つまり、過去に行った粉飾のために現実の経営成績が侵食されてしまうのです。

粉飾を精算するには、お化粧を落としても余りあるだけのリアルな利益がなければなりません。それが十分でないと、結局翌期以降にお化粧を持ち越してしまうのです。

お化粧を落とすどころか、新たな粉飾によって補わざるをえないことが少なくありません。

どんどんと抜け出せない深みにはまっていくのです。

落としたお化粧こそがリスク

粉飾決算をすることに罪悪感を感じなくなると、「銀行も黒字決算にしておけば担当者が困らなくて済むじゃないか」「税務署だって赤字でなくて黒字で利益が出て税金納めてるわけだし文句ないだろ」ということで、「どこが悪いんだ」という、あたかももっともらしい理屈が導き出されます。

なるほど、多く利益を出して、本来なら納めなくてもよい法人税を納めているのであれば、税務当局も文句はつけられないとも考えられます。

しかし、粉飾で財務内容にはユガみが生じています。将来のどこかで粉飾によって膨らました利益を精算しなければならなくなります。

そのとき、過去に粉飾で計上した収益をマイナスしなければなりません。これは、利益のマイナス、ひいては法人所得のマイナスとなります。

経理上は簡単なことですが、このマイナス(収益のマイナスまたは損失の計上)が、法人税の計算でも損金(または益金のマイナス)となるのかどうか、これがもっともリスクのあることなのです。

具体的には、粉飾で計上した収益は、貸借対照表で資産(売掛金や未収金)となって計上され、また、粉飾で計上しなかった費用・損失は、やはり貸借対照表上で資産(棚卸資産や固定資産(建設仮勘定やソフトウェア仮勘定)や繰延資産)となって計上されています。

これらを経理上落としたとき、その費用・損失について、「なんでこのタイミングなの?」というのが明確にできないと、損金として認められない可能性が高まります。

とはいえ、考えようによっては、粉飾を精算できるということは、それだけのリアルな利益が出てはじめてできることであり、それができないままということは、これからも不健全な決算書類を作り続けざるをえないということになります。

( つづく )