( 6 )粉飾特定のための帳簿精査のあらまし

粉飾ポイントを具体的に発見し特定する帳簿精査についてコメントいたします。

私の場合、仕訳データ(仕訳日記帳)をソフトからエクスポートし、補助科目ごとの合計残高試算表の月次推移で着眼点を見いだし、直前期末の貸借対照表残高のその後の動きを調査することころから出発しています。

調査の概要

会社を売りたいんだけど粉飾がありそうで「でも会計事務所に任せっきりでどこを粉飾しているのかよくわからない」などの理由で、粉飾ポイントを具体的に発見し特定する業務をしばしば行っています。

私の場合、比率分析だとか前期比較とかそんなお行儀のよいことではなく、会計データを入手してガッツリチェックしています。

さて、前回では、決算書によって会社や会計事務所のセンスがわかるため、正しいか正しくないかのチェックの前にまずは決算書のセンスを見極めることについてコメントいたしました。

では、実際の帳簿精査についてコメントいたします。

私のやり方のポイントは次のとおりです。

  • 「補助科目ベースの合計残高試算表」から着眼点を得る
  • 調査は「仕訳データ(仕訳日記帳)」で行う
  • 決算書の貸借対照表残高の翌期の状況の検証から出発する

以下、コメントさせていただきます。

データの収集

使用している会計ソフトが市販の汎用ソフトであればデータをそのまま利用することができますが、独自の会計ソフトやシステムを使っている場合には、その現場でしか調査が行えないうえに、ソフトの操作に慣れるまで時間のロスが生じます。 このような場合は、現場では最低限の確認作業を行いながら、データを抽出して現場以外でも調査が可能なようにします。

ここで重要なのは、直前の事業年度の情報を取ればいいのではなく、決算日以後(現事業年度)の情報も入手しておくことです。おかしな処理は決算日以後の状況で明らかになるからです。

データの整合性の確認

私の場合は、汎用会計ソフトのデータを入手した場合、あるいは、独自の会計ソフト等の場合は現場のPCでソフトを立ち上げた場合、まず画面上で合計残高試算表を開くことにしています。

通常は合計残高試算表を開く期間を指定できるのですが、まずは期首から期末までの期間を指定します。

そして、合計残高試算表の各勘定科目の数値と税務申告書添付の決算書の金額とが一致していることを確認します。基本的に合っているに決まっているのですが、ここからスタートするのがすべての始まりです。

合計残高試算表の入手

続いて会計ソフトからデータを抽出(正確にはExcelファイルやCSVファイルにエクスポート)します。

私は、まず次のデータをエクスポートしています。独自の会計ソフトやシステムを使用している場合は必須ですが、汎用会計ソフト上でチェックできる場合であっても、この作業は行っています。

  • 合計残高試算表(期首から期末)
  • 合計残高試算表(「期首から決算整理仕訳前」と「決算整理仕訳のみ」)
  • 合計残高試算表(期首月から期末月まで12個)

合計残高試算表は、選択した期間中の会計取引(仕訳)の借方合計額と貸方合計額が表示され選択期間での残高を表しています。簿記の試験でもおなじみですが実務でも非常に重要です。

たとえば、期中の任意の月の単月の合計残高試算表を見れば、たとえば「売掛金a/cや買掛金a/cはまったく使わない現金主義で会計取引を行っているんだな」「月次では減価償却費は計上していないんだな」ということで月次決算はマトモじゃないなと見当がつきます。

単月(月次)ごとにデータを収集するのは、ある月は計上される金額が大きいなどの異常点を把握して「調査のアタリ」を付けやすくするためです。

また、決算整理仕訳が入る前と入った後の合計残高試算表を入手できれば、決算整理仕訳でどんな動きがあったのか見当をつけることができます。決算整理仕訳が入る前・・・これこそまさに簿記の試験でおなじみの「決算整理前残高試算表」です。

仕訳データ(仕訳日記帳)の入手

帳簿をチェックというと、総勘定元帳や補助元帳をチェックするのが一般的です。しかし、総勘定元帳では、仕訳が1行と複数行のようなものであった場合に、相手科目が「複合」などなってしまうため、結局仕訳に戻らなければなりません(この点、総勘定元帳でもチェックできるように1行仕訳しかしない会計事務所もあるようですが失笑を禁じ得ません。)。また、総勘定元帳より補助元帳の情報のほうが断然わかりやすいものの、情報が膨大になってしまいます。

何より、汎用会計ソフトであればソフト上でチェックできますが、独自の会計ソフト等では現場でなければ検証できませんし、ソフトの操作に慣れなければなりません。

また、仕訳データならば、複数の科目について相手勘定が何かなどを同時に検証することができるため、ある意味でソフト上で調査するよりも便利です。

以上の理由で、仕訳データを利用しています。

仕訳データは1ヶ月ごとしか抽出できないこともあります。この場合は最低12個のファイルとなりますが、なるべく少ないシート数にまとめます。これが調査の基礎データとなります。

さて、仕訳日記帳のデータのフォーマットは会計ソフトや会計システムによってさまざまです。 データのフォーマットのクセを迅速に把握します。 とくに消費税の税込額と税抜本体価格との関係性についてよく確認します。

具体的に行うのが、合計残高試算表との照合です。

期首から期末までの全期間をカバーした合計残高試算表です。「期首の残高」「借方」「貸方」「期末残高」となります。ある勘定科目について借方(合計)の額と仕訳データでその科目の借方にフィルターをかけた額が一致していることを確認します。

一致するのは当然ですから確認するのはそこではなく、仕訳データのどの行が税込金額と税抜金額(本体価格)なのかを確かめるのです。

とくに、独自の会計ソフト等を使用している場合は、少なくとも決算書の数値と合計残高試算表の数値と仕訳データの数値の整合性を確認できるまでは現場を離れません。

補助科目ベースの合計残高試算表の入手

さらに入手しなければならないのは、補助科目別の合計残高試算表です。

銀行勘定にしても売掛金勘定にしても買掛金勘定にしても、さらには損益計算書の勘定科目であっても、ほぼすべての事業所が勘定科目に補助科目を設定しています。補助科目を付しているあらゆる勘定科目について、補助科目ベースでの合計残高試算表をエクスポートします。

  • 補助科目ごとの合計残高試算表(期首から期末)
  • 補助科目ごとの合計残高試算表(「期首から決算整理仕訳前」と「決算整理仕訳のみ」)
  • 補助科目ごとの合計残高試算表(期首月から期末月まで12個)

単月(月次)ごとの(勘定科目ベースの)合計残高試算表により、ある月は計上される金額が大きいなどの異常点を把握して「調査のアタリ」を付けることができますが、補助科目ベースの情報により、さらに絞り込むことができます。

そして、入手したデータを加工して月次推移を作成しています。

ところで、ある勘定科目(売掛金など)で帳簿上での補助科目の残高がそのまま税務当局や金融機関提出の勘定科目内訳書と一致しないことがあります。金額僅少のためまとめて表示したとかではありません。

実は帳簿上の科目の内訳と税務当局や金融機関に提出した内訳が異なることだけで、何か都合のよくないことがあるんだろうなという見当をつけます。

会計処理のクセをつかむ

データを集めたら、期中や決算でどのような仕訳をしているかをチェックします。

仕訳の切り方や計上のタイミングなど、会社(あるいは会計事務所)によってそれぞれクセがあります。

ひとつの方法しか知らないでずっとキャリアを重ねてしまうとアタマが凝り固まってしまい強い違和感を感じることもあるかもしれませんが、相手の土俵でも適応していけるかどうかも重要なビジネススキルなので、クセに迅速に慣れることが必要です。

また、質問は最小限にとどめてできるかぎりデータだけから状況を把握できることも極めて重要です。

作成担当者はたいてい非協力的ですし、協力的であっても貴重な時間を浪費させ迷惑をかけるだけでなく、自分の時間も浪費してしまいます。与えられた情報から推理力を働かせて疑問点を解消していけるかどうかが大切で、そのためには結局普段の仕事に対する姿勢と場数ということになります。この点では自動車の運転経験と同じかもしれません。運転しなければゴールド免許は当たり前ですがつまるところ時間が経っただけですし、何十年であっても漫然と運転していたのではそれなりの経験にしかならないということです。

会計処理の確認のポイントは、売上高を計上するときの相手科目は何か、仕入や費用を計上するときの相手科目は何かを確認することです。

ちゃんと売掛金a/cや未収入金a/c、あるいは買掛金a/cや未払金a/cを使っているところもあれば、期中ではこれらの科目は一切使わず、もっぱら入金や支払いのときに現預金勘定の相手科目として売上高や仕入高や費用などを計上し、決算整理で「売掛金残高や買掛金残高の棚卸し」を行って計上する期中現金主義会計をしているところも少なくありません。

これについては、月次の合計残高試算表でも売掛金a/cや買掛金a/cの動きがまったくないことですぐに判断できます。

売上高や仕入や費用の相手科目が通常と異なる場合は、おかしな処理をしているかもしれないと見当をつけます。

決算残高のその後を確認

経営活動は絶えず続いていますが、これを2つの時点で区切り、時点と時点との間の期間の経営状況・経営成績を示すのが損益計算書で、区切った時点の切り口の断面を示すのが貸借対照表です。

私は損益計算書はあまり重視しません。前期比較して大きく異なるポイントに関心を持つことはあっても、結局、2つの時点で区切られた期間の中味だけを見ているにすぎません。せいぜい、表示区分(売上原価(製造原価)か販売費及び一般管理費か営業外費用か特別損失か)や科目の表示についてのチェックとなります。

目的が「決算書類が会計基準に準拠しているかどうか」であればともかく、目的が違うだけに、お行儀のよいことだけやっているヒマはありません。

さて、粉飾を行っている会社の圧倒的多数が売上高とか利益とかの損益項目に集中しているため、そのシワ寄せは貸借対照表にきます。やはり複式簿記はよくできています。税金の計算が合っていれば貸借対照表(の表示)など正直どうでもいいというスタンスの会計事務所もあるかもしれません。

調査対象となる事業年度の会計データだけではなく「その後の会計データ」を入手するのは、貸借対照表で計上された各勘定科目の残高がその後どうなったかを調べるためです

ここで有用なのは補助科目別の残高試算表です。

売掛金a/cや未収入金a/cの場合、借方に計上された額(その相手科目(貸方)はたいてい売上高)は、たいていの場合翌月から翌々月に貸方に計上されます(たいてい入金による回収)。 買掛金a/cや未払金a/cの場合、貸方に計上された額(その相手科目(借方)は仕入はじめ様々な費用科目)は、たいていの場合翌月から翌々月に借方に計上されます(たいてい出金による支払い)。

期中は現金主義会計をしている場合、期中は売掛金a/cの動きはまったくないわけですから、勘定科目内訳書に記載された残高がその後に入金されているかを仕訳データから丁寧に検証することになります。たいていは決算月から翌々月くらいまでに入金しているわけですが、入金していない場合は、おかしな残高かもしれないと見当をつけます。

おかしいと思っても、すぐに断定することは禁物で、入念に入念に調べを進めてそれでもおかしい場合に質問しています。

売掛金や未収入金

汎用会計ソフト上で調査ができる場合にはソフトのなかでできますが、それができない場合には、補助科目ベースの合計残高試算表の月次推移のシートを作成し、これを手がかりにして仕訳データで調査を行います。

売掛金の補助科目はたいてい得意先ごとになっています。得意先ごとの借方と貸方と残高が各月ごとに出てきます。 ここの動きを見て、直前期の決算月の残高がどのようになっているかを把握します。

たとえば3月決算の場合は、3月末残高(決算書の残高)が4月や5月や6月で残高が減少しているどうかです。通常の取引による借方(売上計上)と貸方(回収計上)もあるわけですが、それにしても明らかにおかしい場合は、そこがアヤしいと見当をつけます。

そして、回収がおかしいと思ったらここではじめて決算日前の状況を確認します。すると、たいがい決算月に大きな借方金額があったりします。 売上高が計上されたか、あるいは、別の勘定科目や補助科目から何らかの理由で付け替えられたわけですが、いずれにしても仕訳データで確認できます。

過去1年間にまったく解消されていない残高がある場合には、前期以前からおかしな残高があるため、さらに前の期へ前の期へと調査していきます。

買掛金や未払金

まず、仕訳データによって、仕入や費用の計上をどのようにしているのかを確認します。

粉飾は、必ずしもおかしな売上高を計上するだけではありません。仕入や費用の計上を抜くこともあります。

期中にキチンと買掛金a/cや未払金a/cを使って経理をしているのに、3月分の計上がなかったり、4月や5月に仕入や費用の相手科目が買掛金a/cや未払金a/cを使わずに現預金勘定で処理されている場合には、「計上もれ」あるいは「意図的に抜いた」かもしれないと見当をつけます。

期中では買掛金a/cや未払金a/cは一切使わず、期末になってから「買掛金残高や未払金残高の棚卸し」を行って計上する期中現金主義会計をしているところも少なくありません。 この場合、たとえば仕入や費用について翌月支払いの場合には、決算月(3月とします)の仕入や費用は、期中現金主義会計では決算整理で計上しないかぎり計上されません。 決算月が3月の場合、支払いは4月か5月までには行うため、3月分に対応する仕入や費用が前期の決算で買掛金残高や未払金残高として取り込まれていたかを確認します。

先行計上と戻しの対応

もろもろの事情で、まだ売上高として計上できないタイミングなのに売上高を計上することがあります。まだモノの引渡しやサービスの提供が終わっていないのに、あるいは、先方の検収が取れていないのに、さらには注文書を取っただけで何もしていないのに、売上高が足りないということで売上高を計上するのです。売上高を計上すると同時に売上原価も追加計上することになります。

本来ならば翌期に売上が計上されるところを前倒しで計上するため、売上に対する原価はまだ確定していない(仕入れたり作業をしていないため先方の請求書もなく確定していない)ため見積りで計上することもあります。

まず、このような先行して売上と原価を計上した仕訳を特定します。

たいていは、なんらかの合計額をまとめたものが1本の仕訳で計上されているものです。

「この内訳は何ですか?」と質問できれば苦労しないわけですが、ここは補助科目ベースの合計残高試算表などを手がかりにして特定していきます。糸口は必ずあるので突破口を見つけて試行錯誤をしながら特定していきます。あらためて仕訳計上のクセを確認していくと一挙に解決できることもあります。ただ、仕訳そのものの計上金額が間違っていることもあるので目くじら立てすぎる必要もありません。

このような先行計上の場合は、架空と異なり正規のビジネス(支払いと入金)は行われているはずなので、決算日以後の入金や出金を確認します。会計のルール上で先行したかどうかのお話であって、ビジネスそのものがリアルに行われているかどうかの確認が重要です。

粉飾をしている場合、決算月の翌月(期首の月)に「粉飾処理の戻し」があることもありますが、実際は粉飾処理は決算作業をしているときに行うため、決算作業が終わった5月や6月や7月に行われることもあるため、3月決算の場合は8月くらいまでは見たいところです。翌期の期末の決算整理仕訳で戻されることもありますが、この場合には、期中の段階で売掛金a/cや買掛金a/cの双方でおかしな動きがあるものです。

さて、このような先行計上した場合には、かならずそれが翌期に戻しの仕訳が入っているかどうかを必ず確認します。

洗い替えで反対仕訳が切られていればよいのですが、翌期に実際の費用が入ってきたりすると差額補充的な仕訳が切られていたりするとやっかいなことになります。仕訳を入力した人は、その後まったくの第三者にチェックされることになるとは思っていなかったでしょう。

この戻しがうまく行われていないと、けっきょくおかしな残高が残ったり、おかしな費用処理や収益処理が行われているものです。

棚卸資産や市場販売目的のソフトウェア

棚卸資産や市場販売目的のソフトウェアは、売掛金と並んで、損益計算書の項目ばかりにとらわれているとシワ寄せが来ている部分です。

ひどい場合は、売掛金a/cだと目立つので棚卸資産やソフトウェアにしてしまうというものもあります。

いずれにしても仕訳データを見れば確認できます。

棚卸資産の残高や市場販売目的のソフトウェアの計上額が、前期末との増減額がぴったり1,000万円だったり、残高そのものが2,000万円とかピッタリした額の場合、まずマトモな原価計算は行っていないと見当をつけます。

金融機関などは「内訳は何ですか?」と聞いてそれで終わってしまうこともあるようですがそれは甘すぎで、「どのような計算をして1,000万円が出てきたのですか?」と質問しなければなりません。

つまり、「いついつどこそこに支払ったもののうちのこれだけを棚卸資産として計上した」のが特定できないと、これを損失として処理するのは簡単ですが、これを法人税の計算で損金となるかどうかの証明が厳しくなります。インチキもちゃんとやらないといけません。

まとめ

帳簿の精査についてその概要を簡単にコメントいたしました。

当然のことですが、これはあくまでデータを見ただけであり、たとえば銀行の通帳やオリジナルの取引履歴を見ているわけではありません。これらが架空だとすべてが空虚なものとなります。

調査の目的のレベルにより、調査の精度を上げるならば、銀行の取引履歴をすべて入手するなどが必要となるでしょう。

( つづく )