( 4 )危機は粉飾清算の最大のチャンス

わかっちゃいるけどズルズル粉飾が積み重なっていくのはありがちなことです。

赤字にできないため処理することができず、そのまま長年経過してしまうのです。

過去、リーマンショックや東日本大震災直後において、決算が赤字となっても許される時期がありました。

今回のコロナ禍でも、もし赤字決算が許容されるならば、ぜひ財務リストラを行いましょう。

体調は顔に出る

粉飾の動機はさまざまですが、実態よりも多く利益を出すのが一般的です。「利益を出す」ことが目的なわけですから、損益計算書の数字ばかりにとらわれるものです。

ところが残念なことに複式簿記なので、そのシワ寄せは貸借対照表に出ています。

ところが、「利益が出ていればいい」「税金(法人税や消費税)の計算が正しければいい」として、貸借対照表をないがしろにしていると、ますます貸借対照表が傷んできます。実態のない売上債権や棚卸資産や固定資産の残高が膨らんでいきます。

それでも多少の罪悪感があれば救われるのですが、「粉飾は必要悪」「キレイゴト言うな」「みんなそうしている」と開き直っていると目も当てられません。その人が個人的に破綻するのは自業自得としても、その人に人生の貴重な時間を預けた従業員やその家族はたまったものではありません。

もっとも、粉飾しているのを自覚しているという点では、「「赤字にならないようにしてくれ」と会計事務所に任せてるので経理のことはよくわからない」よりはマシかもしれませんが・・・

千載一遇の機会

一方で、粉飾しているのは理解しているがなかなか清算できない会社は掃いて捨てるほどあるはずです。

なぜなかなか清算できなかったか、それは、金融機関や監督官庁などとの関係で、黒字を維持しなければならなかったり、債務超過を回避しなければならなかったことにあります。

しかし、過去、リーマンショックや東日本大震災のときは、金融機関から赤字になっても許容される状況がありました。

赤字になってもよいのであれば、粉飾により売掛金の残高になっていた金額や棚卸資産として計上していた金額といった過去の膿を一気に吐き出しして財務内容を一挙に健全化させることが可能です。

せっかくなんで負債も

負債でも、未払金や預り金で計上していても結局支払われないままに終わっていたり、逆粉飾で架空の費用を計上していた場合には、ずっと負債として残っているままだったりします。

もちろん、これらを処理するには負債(貸方)を減らす(仕訳でいえば借方)して利益を計上(仕訳でいえば貸方)するわけですが、利益を計上すれば法人税等の納税となるため、なかなかそれに踏み切れないものです。

しかも、負債(貸方)だけではなく資産(借方)のほうでも売掛金や棚卸資産の残高が膨れているということになれば、決算の時だけ資産と負債を相殺してしまうこともあります。一般的に相殺というと、当事者が同一だったり性質が同一だった場合に可能なわけですが、ただただ膨らんだ不良資産と不良負債を決算の時だけ「縮める」ために相殺するのです。翌期の期首に相殺を取り消すようなことを長年繰り返したりします。

で、ところが赤字になってもよいということならば、不良資産を損失処理できるわけですから、あわせて不良負債も利益処理することになります。

負債の利益処理ができれば、それだけ損失処理する「枠」も広がることになります。

清算の前提

売掛金や棚卸資産といった資産にせよ、未払金や預り金といった負債にせよ、まずは清算処理する金額(残高)がいつどのような会計処理によって発生したかを特定する必要があります。

粉飾の処理をすることはある意味簡単ですが、後々これを後始末するときに「これが粉飾でした」と積極的に証明することはなかなか容易ではありません

一見矛盾していますが、「粉飾していても経理処理はキチンとしろよ」「どれだけ粉飾しているのかすぐわかるようにしておけよ」ということになります。

私は過去の粉飾ポイントを特定する業務をしばしば行っているのですが、ただ利益を出すために大きな金額をボコッと入れているだけの本当にだらしないところもあれば、粉飾の部分がわかるように処理しているところもあります。

清算もまた粉飾?

「前期損益修正損や前期損益修正益としてそれぞれ特別損失と特別利益としてそれぞれ処理します」とコメントしたのでは、なんら付加価値のない文で時間のムダとなります。

特別損失や特別利益で計上するだけなら、それこそ仕訳を入力するだけなので簡単です。

しかし、前期損益修正損の額が大きいと、金融機関からこれは何ですかと質問されるでしょうし、何より法人税の申告書に添付する勘定科目内訳書に記載しなければなりません。

このため、「前期損益修正損にせずに売上高のマイナスにしてしまう」「勘定科目内訳書を金融機関用と税務当局用で記載内容を変える」といったことも行われたりします。

粉飾を清算するのもまた粉飾というわけです。

税務調査での対応

清算のための粉飾より、実務上で考慮しなければならない重要なポイントは、「粉飾の清算で計上した損失は、果たして法人税法も費用(損金)として認められるのか」という点です。

認められない場合には、法人税の申告書での税額の計算で、会計上費用として計上したものをキャンセル(加算)したところで課税所得(法人税を課すベースとなる金額)が計算されることになります。

過去税務調査で課税処分を受けた結果からコメントさせていただきます。 ただし、これは個別の案件であり、すべての事案に妥当するものではないためご注意ください。

売掛金の場合

売掛金については、「本来は売上高として計上できないものだった」と説明できるかどうかが重要といえます。

このあたりをキチンと説明できないと、「架空売上ではなくて単純に得意先から入金していないだけでしょ?」となってしまい貸倒損失としての処理が否認されたり、「得意先に支払いを免除しただけでしょ?」となってしまい寄附金として認定されることになってしまいます。

貸倒損失となると会計上とは異なり法人税の計算上で損金として認められるには厳格な基準が求められます。いっぽう、寄附金として認定されると否認されただけで終わってしまいます。

前期損益修正損にした金額が否認されるのはしかたがないとしても、「売上高とはならないのに売上高として計上したものであり、過大な益金計上である」「かなり古い時期に計上したものについてはやむを得ないが更正が可能な過去分のものについては減額更正してほしい」に持ち込めるかどうかです。

私が関与した事案では、税務当局に対して、年度別に発生額を詳細に集計し、キチンと判例や裁決例などを引きながら、なぜこの売上を計上したのか(本来なら売上ではないこと)、なぜ今まで修正できなかったのか(対金融機関や対監督官庁などの事情)、なぜ今損失処理したのか(赤字決算を金融機関が許容した)、結果的に不健全な処理をしたことへの詫びと今後は適正な処理を申告に努める旨の申述を行いました。

その結果、過去十数年前からの売掛金の残高を一挙に前期損益修正損として処理した全額が否認(別表四で加算。そして留保ではなく流出)されましたが、「売上高」の計上時期が過去5期以後の部分については減額更正となり、さらに過去3期分については消費税も減額更正となりました。

さて、「本来は売上高として計上できないものだった」「相手方とは関係ない完全な架空の売上だった」と説明するにはどうすればよいでしょうか。

説得力があるのは相手先との関係性からの説明です。たとえば「実際に請求書は発行されていない」「同時期の別の請求については入金しているがこれについては入金していない」などが考えられます。

説得力としてやや落ちますが、内部的な処理として「イレギュラーな請求書番号を付して計上している」「債権計上伝票で計上せず振替伝票で計上している」などが考えられます。

棚卸資産の場合

いっぽう棚卸資産については、その残高がいつ計上されたのか、実際に仕入れ先や取引先に支払いを行っていたのかを明らかにする必要があります。結果的に粉飾しながらも、キチンとした経理処理を行っており残高を把握していれば、残高の信頼性はそれなりに高いと考えられます。

そして、売掛金とは異なり、実際に支払ったことによる計上額であることを証明できれば、売掛金とは異なり損失処理したものが否認される可能性は相対的に低いといえます。

千載一遇の機会を逃すと

コロナ禍の現在、もし赤字を計上できるのであれば、思い切った過去の膿を吐き出す千載一遇の機会といえます。

粉飾とは言えないまでも、モヤモヤした残高があるのならこの際一掃しましょう。

それなのに、相変わらずのインチキ決算を繰り返し財務上のリストラのチャンスをみすみす逃してしまうと、もはやこれを一掃できるほどの好業績を上げるか、バレずに(またはバレてないふりをされて)融資を受け続けるかしかありません。最悪の場合には融資金の引き上げ、融資詐欺での刑事告発などにもなりかねません。

( つづく )