( 7 )「仮払金」の後始末 Part1 不健全な仮払金

仮払金といっても、本当に厄介なのは「仮払金」「立替金」という名の実質的な貸付金です。

このような不健全な仮払金は後始末に困りますが、まずは、なぜこのような仮払金が発生してしまうのか、なぜ貸付金にできないのかについて検討します。

そもそも仮払金や立替金とは

「仮払金」「立替金」という科目が決算書に出てくるのはめずらしいことではありません。

「仮払金」はまさに「仮に払ったおカネ」のことであり、典型的なのが従業員の接待や交通費などの仮払いの未精算分です。

「立替金」は「会社以外の者が負担するものを支払った場合の未精算額」です。

いずれも、会社としては後におカネを返してもらえる権利(債権)であることから、決算書の貸借対照表では資産の部に計上されます。

さて、仮払金や立替金は通常は短期間で精算が行われるものです。

ところが、なかなか精算が行われず、残高が残り続けることもあります。

理由はさまざまです。仮払いを精算しない従業員がいい加減とか、精算を督促しない従業員がいい加減だとか、立て替え払いした相手方が支払ってこないなどです。

また、リアルな精算はキチンとできたのに、経理処理がプアなために帳簿上おかしな残高(しばしばマイナス残高)が残っている場合です。仕訳での補助科目の入力ミスが大きな原因です。

困ったといえば困ったものですが、たいていはそれほど大きな金額にはなりません。

健全でない「仮払金」

ところが、仮払金とはいっても、何年経っても精算がされないような健全でない仮払金があります。

このような「仮払い」の相手方は、たいていは会社の代表取締役や大株主(創業者)に対するものです。

要は「会社のサイフ」と「個人のサイフ」が混同していて、自分が主宰する会社のサイフから資金をどんどん引き出してしまうパターンです。

たとえば、会社の支払いについて、事前に会社からおカネをもらう仮払いではなく、先に個人のポケットマネーで出しておいて事後に会社から精算してもらうことも広く行われています。ここで、精算がルーズでたまにまとまった金額を精算ということになると、会社からの精算額のほうが大きい場合は、結局仮払金と同じことになります。これを続けていると仮払金の残高がますます増えていきます。

ただ、本当に厄介なのは「仮払金」「立替金」という名の実質的な貸付金です。

経費使用目的での仮払いとはまったく無関係の、数十万や数百万円単位で行われる出金です。

おカネにルーズというより、「会社と個人は別物」という意識が希薄なところも原因となります。

たとえ会社の代表取締役であっても、会社は自分とは別人格だということが理解できていない人は多数存在します。 会社を作るときの資本金として出資したおカネでさえ、「そのおカネは会社に貸し付けたものでいつでも返してもらえる」という信じ込んでいる人もいます。

(疑問)なぜ役員に対する給与として処理しないのか

ここで単純な疑問がわきます。

「仮払金」とかじゃなくて、いっそ役員に対する給与ってことにすればいいのになんでそうしないのか??

これは、法人税法の規定が影響しています。

法人税は、決算書の損益計算書の当期純利益の額を法人税が課される所得金額に変換したうえで税率を乗じて税額を計算します。つまり、会計上の当期純利益を税法上の所得に変換するための調整計算を行うのが法人税の申告書です。

別の言い方をすると、会計上の当期純利益をそのまま法人税の計算には使えず、いろいろと加減算することが必要ということです。たとえば、会計上は費用として認められても法人税の計算では認められない(損金不算入)ものがあります。

この点、役員に対する報酬(給与)は、会計上は通常費用として処理されますが、法人税では役員報酬が損金として認められる要件は厳格です。典型的なものが定期同額給与(法人税法34条1項1号)であり、一定の金額を一定のタイミングで支給することが必要で、臨時に支払ったもの(つまり役員賞与)は損金になりません。

これは、とくに所有(大株主)と経営(取締役)が一致する同族会社では、役員報酬を自由に決めることができるため、会社が利益が出そうだと自分に報酬を出して費用にできると利益が減って法人税の負担を減らせるのを防ぐためです。

このため、役員が個人的に資金が必要になって、いつもの役員報酬では足らず会社のおカネを引き出した場合、これを自分への給料として処理すると、会社の法人税の計算で損金にならないばかりか自分自身も所得税や住民税が課されてしまいます。

そのために、仮払金ということにしておくのです。

(疑問)なぜ「貸付金」として処理しないのか

経費使用目的での仮払いとはまったく無関係の、数十万や数百万円単位で行われる「仮払い」は、実質的には貸付金といえます。

では、なぜ「貸付金」としないのでしょうか。

金銭消費貸借契約書がないからとかそんな薄っぺらい理由ではありません。

対金融機関

金融機関から借入れを行っている場合、金融機関は役員等に対する貸付金や仮払金などを基本的に嫌います。

なぜなら、もともと金融機関は会社に対して一定の使途に使うものとして融資したはずなのに、そのおカネが役員個人に渡っていると、本人が意図していたかどうかは別として、役員は会社をダミーにして個人的におカネを借りたことになってしまうからです。

そこで、「仮払金」とか「立替金」ということにしているのです。

ただ、粉飾決算で利益を過大計上していたのがバレたりすると、最悪の場合には融資詐欺とか特別背任で刑事告発されかねません。

対課税当局

法人税法では、会社(法人)が無償または低い利率で貸付けを行った場合には適正な利息を受け取っていないとして課税されます。

具体的には、適正な利息額に足りない額が「収入に計上されていない」として認定されるのです(認定利息)。

本来、貸付金に利息を付けるかどうかは貸手と借手の契約の問題であり、無利息でも契約としては有効です。

ただし、法人税法における会社(つまり法人)はもっぱら経済合理性に従って常に収益獲得を目的とする主体です。具体的には、法人が他人と取引するときはすべて適正な時価(通常得べき対価の額、法人税法22条の2第4項)で取引したものとみなして法人の所得と法人税を計算します。

たとえ当事者間の契約で貸付金は無利息であっても、法人税の計算は「会社が他人におカネを貸し付けたら適切な利息(収入)を当然に受け取ったものとして行うことになります。

つまり、会社が「貸付金」として計上すると、会社は適正な利率による利息を収入として計上しなければならず、本人は利息を会社に支払わなければならないのです。

このため、貸借対照表上で「貸付金」と表示して適正な利息(収入)を計上していないと、税務調査をしなくても法人税の申告書と決算書だけで「貸付金の利息の計上が漏れている」と簡単にバレてしまいます。

このため、「仮払金」ということにしているのです。

悪質化

このような「仮払金」は、決算書の前期の残高と比較するとまったく変化がなかったり、残高に増減があったとしても、実際のおカネの動きはなく、他の科目への振替とか他の科目との相殺といった帳簿上の動きだけになっています。

人間というのは奇妙なもので、当初は良心の呵責のようなものがあったはずなのに、長年不健全な処理を続けているとマヒしてしまうのか、良心のカケラもなくなってしまうものです。

「仮払金」にしても、ちゃんと決算書の貸借対照表にキチンと仮払金として掲記されているならまだマシなほうで、どんどん悪質さが増してきます。

期中の処理も、仮払金(資産)として経理処理せずに、仮受金(負債)のマイナス処理したりして、仮払金a/cそのものを使わなくなってしまったりします。

たとえば・・・

  • 買掛金や未払金といった負債科目の残高と相殺してしまう
  • 別の勘定科目の残高に紛れ込ませる

まず、「仮払金」を買掛金や未払金といった負債の科目と相殺してしまいます。決算日で仕訳を行い、翌期首にその戻し処理を行うのです。帳簿を見れば一瞬にしてバレてしまうのですが、インチキ慣れしていて大胆になっています。

さらに、「仮払金」や「貸付金」の残高を貸借対照表にキチンと表示せずに、商品や製品などの棚卸資産や固定資産の勘定科目に紛れ込ませたりするのです。ひどくなると預金残高としてしまったりします。

あまりに深刻になると、もはやお手上げになります。

(補足)ふざけた財務分析

貸借対照表のひな型では、仮払金や立替金は流動資産の部となっていますし、会計ソフトのデフォルトの勘定科目の体系もそうなっています。

これは、流動資産の部に掲記されるものは、1年以内に現金化や費用化がなされるものであるところ(1年基準、いわゆる「ワンイヤールール」)、仮払金や立替金は通常短期間のうちに精算されるものだからです。

よって、いつまで経っても精算されない仮払金や立替金は、流動資産として掲記するのは適切ではありません。

これらも流動資産に含めたところで「流動比率」を算定すると、流動資産の中に流動資産でないものが含まれるため、流動比率はいい数値となります。

脱線しますが、借入金についても、本来ならば長期借入金のうち1年以内に返済する額は「1年以内返済長期借入金」などとして流動負債として掲記するところですが、固定負債として掲記されたままの決算書は多々存在します。 これらを流動負債に含めないところで「流動比率」を算定すると、流動負債の中に流動負債とすべきものが含まれていないため、流動比率はいい数値となります。

いくら「中小企業会計指針のチェックシートを入手している」とかアリバイを作っても、会社が作成した決算書からそのまま財務分析して、融資の可否の判断や企業評価をしているとしたら失笑を禁じ得ません。

会計事務所によっては、法人税や消費税の計算がキチンとできているか、そして損益計算書がキチンとできているかのみにとどまっていて、決算書の表示、とくに貸借対照表の科目の表示など税金の計算に影響しないため重視していないように思われます。

金融機関は金融機関で、会社の財務分析をするのがお仕事ではなく、おカネを貸すのがお仕事なわけで、担当者にはノルマと家族がいるわけです。

世の中なかなかキレイゴトでは済まないところもあります。

( つづく )